国土交通省
21世紀初頭における環境自動車(グリーン自動車)の開発・普及の方向性
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1.緒論

 自動車は利便性が高く、経済活動の基盤であるとともに国民生活にとって重要な交通手段となっているが、一方で窒素酸化物(NOx)・粒子状物質(PM)排出による大気汚染、二酸化炭素(CO2)排出による地球温暖化等の環境問題を発生させる要因となっている。このような自動車起因の環境問題に対処するには、利便性と環境との調和を図ることを基本とし、自動車から排出される大気汚染物質や地球温暖化物質による環境への負荷が少ない自動車(以下「環境自動車」という。)の普及の促進や、環境負荷の少ない交通体系の構築等を進める必要がある。
 これまで自動車に係る環境対策として、自動車排出ガス規制の強化、環境自動車の開発・普及等を鋭意進めてきたところであるが、環境自動車の開発・普及を図る上では、自動車の使用形態、使用燃料の特徴・供給体制を踏まえ、21世紀初頭における開発・普及の方向性を明らかにする必要がある。

2.現状

 現在、普及の進んでいるガソリン自動車、ディーゼル自動車、液化石油ガス(LPG)自動車は、排出ガス規制の強化や、燃費基準の設定等に伴い、年々技術的な改良が加えられ、環境負荷の低減が図られてきている。
 また、大気汚染物質の排出が少ない等の特徴があることから開発が行われているハイブリッド自動車(ガソリン又はディーゼルエンジンと電気モーター等とのハイブリッド)、メタノール自動車、圧縮天然ガス(CNG)自動車、電気自動車については、税制上の優遇措置等により性能改善・普及が進められている。
 さらに、次世代の環境自動車として期待される、ジメチルエーテル(DME)自動車、燃料電池自動車、液化天然ガス(LNG)自動車等について、研究が進められている。
 また、より低公害な車両の普及を促進する「低排出ガス車認定制度」により、使用する燃料に拘わらず、認定基準を満たした自動車が、低排出ガス車として認定・公表されている。

3.21世紀初頭における展望

 水素を燃料とする燃料電池自動車は走行時点の排出ガスが水蒸気のみであり、また、高いエネルギー効率も期待できるため、将来的に最も環境負荷の少ない自動車となる可能性を有している。しかし、燃料電池によるエネルギー源とする自動車は、内燃機関を利用する自動車とは全く異なることから、解決すべき課題が多く、普及に至るにはなお時間がかかるものと考えられる。また、燃料電池自動車は乗用車等への開発・普及が期待されているが、トラック等については、現行の自動車と同等の性能を得るには燃料電池の単位体積当たりの出力、必要な補器類の大きさ等を踏まえると荷物の積載効率が悪化する懸念があることから、乗用車等の開発より後に開発が行われるのものと考えられる。
 このため、トラック等においては燃料電池自動車が普及するまでの間の21世紀初頭における環境自動車、また、乗用車等においては燃料電池自動車・内燃機関を利用する自動車を含めた21世紀初頭における環境自動車のあり方について模索し、環境自動車の効率的な開発・普及を促す観点から、自動車の使用形態、使用燃料の特徴を踏まえ、それぞれの環境自動車の特性に応じた開発・普及の方向性を示す必要がある。
 現時点では今後の技術開発の進展を完全に見極めることは困難であるが、自動車に起因する大気汚染問題や地球温暖化問題への対策として、ガソリン自動車やディーゼル自動車の排出ガス及び燃費性能の改善に加えて、ディーゼル自動車からNOx・PM排出量の少ない環境自動車に代替する等の21世紀初頭における環境自動車の開発・普及の方向性を、現在得られている知見を基にして、以下のとおりまとめた。

1.小型・中型トラック
 主に地域内の集配活動に使われる最大積載量2トン程度の小型トラックについては、主に長距離幹線輸送に使用される大型トラックに比べ、航続距離、大排気量※1を必要としない。このため、ディーゼル自動車の代替としてのガソリン自動車、普及段階にあるLPG自動車及びCNG自動車について、引き続き性能改善・普及が期待される。
 主に地域内の集配活動に使われる最大積載量4トン程度の中型トラックについては、LPG自動車等より、大排気量の自動車にも適するCNG自動車の性能改善・普及が期待される。また、拠点都市間の輸送まで視野に入れた中型トラックについては、大排気量の自動車にも適し、かつ、一定の航続距離を有すると考えられる※2DME自動車の開発が期待される。
※1:多量の貨物、多数の旅客を運送するためには、大きな出力を得ることができる大排気量のエンジンが必要である。
※2:液体状態で燃料を搭載できるDME自動車等は、気体燃料のCNG自動車より燃料搭載性に優れ、一充填当たりの航続距離を長くできる。
2.大型トラック
 主に長距離幹線輸送に使用される最大積載量10トン程度の大型トラックについては、航続距離、大排気量が必要とされる。このため、大排気量の自動車にも適し、かつ、一定の航続距離を有すると考えられるDME自動車及びLNG自動車の開発が期待される。
3.路線バス
 主に市街地を走行する乗合バス(路線バス)については、主に地域内で使われ、航続距離は必要としないが、大排気量を必要とし、また、停留所、信号等において停車・発車を頻繁に繰り返すことが多い。このため、CNG自動車や、ブレーキ時の制動エネルギーを回生して効率よくエネルギーを使用できるハイブリッド自動車の性能改善・普及が期待される。さらに、大排気量の自動車にも適すると考えられるDME自動車、市街地走行に適すると考えられる燃料電池自動車の開発が期待される。なお、路線バスは燃料供給設備をバスの車庫に集約して設置することができるため、CNG・DME等の燃料にあっても効率的な燃料供給体制を整備することができる。
4.観光・高速バス
 観光バス(主に観光地と都市を往復する観光用途のバス)・高速バス(主に高速道路を走行する路線バス)については、航続距離、大排気量を必要とする。このため、大排気量の自動車にも適し、かつ、一定の航続距離を有すると考えられるDME自動車及びLNG自動車の開発が期待される。
5.乗用車
 乗用車については、CO2排出の問題が大きいため、排出ガス低減とCO2排出の低減を同時に達成する自動車の普及が望まれる。このため、LPG自動車やCNG自動車の燃費向上や、ハイブリッド自動車の性能改善・普及、燃料電池自動車の開発が期待される。

4.その他
 環境自動車の普及に当たっては、使用燃料の量の確保、燃料供給体制の整備等の検討すべき課題が数多くあることから、燃料政策との連携も必要である。
 また、環境自動車は従来型の自動車と比較して、走行性能が同等程度であっても車両価格が高くなるという現状にあるため、普及方策を併せて検討する必要がある。
 この他、都市内交通におけるNOx・PM排出等の抑制のため、2人乗り程度の超小型自動車※3を共同利用する等自動車の新たな利用形態に適した自動車について、普及促進を図ることを検討する必要がある。

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