国土交通省
3.海洋汚染対策
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1.問題の所在とこれまでの取り組み

 MARPOL条約(海洋汚染防止条約)、ロンドン条約、OPRC条約等を国内担保するため、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(海洋汚染防止法)」が制定されている。
 同法では、海洋汚染の未然防止対策として、船舶からの油、有害液体物質、廃棄物等について、その排出等の規制、船舶の構造設備の規制、受入施設の確保等に関する基準が定められており、旗国(船舶の登録国)が船舶からの排出等の基準、船舶の構造設備基準への適合性を確保することとなっている。また、水銀等の陸上発生廃棄物を原則として禁止しているほか、船舶自体等の投棄には許可が必要とされている。
 また同法では、海洋汚染事故への対応として、@船長等による事故時の通報や応急措置の実施、船舶所有者等による防除措置の実施等の防除措置の実施に関することを定めるとともに、A各海域毎の排出油防除計画の作成、一定のタンカーに対する油防除資材の備付けや油回収船等の配備、防除措置を行う海上災害防止センターの設置等の防除体制の整備に関することが定められている。
 OPRC条約を国内担保するため、海洋汚染事故への対応に関する「国家的緊急時計画」が策定されており、関係行政機関、地方自治体等が一体となって対応するため、@防除資機材の整備等の油汚染事件への準備に関する事項、A事故対策本部等の対応体制の確立等の油汚染事件への対応に関する事項が定められている。
 海上保安庁は、防除資機材の整備等を行っているが、現在、外洋対応の大型油回収装置等の大規模油流出事故に対応するために必要な防除資機材の整備に努めているところである。運輸省は、大型浚渫兼油回収船を全国3隻体制として整備するために、新たな大型浚渫兼油回収船(新潟港に配置)の建造を行っている(平成14年度完成予定)。これにより、出動から概ね48時間で全国をカバーすることが可能となる。また、荒天下においても高粘度油に対応可能な荒天対応型大型油回収装置等の研究開発を実施しているところである。
 これらの海洋汚染事故への対応策は、ナホトカ号事故を教訓として、対応の迅速化を図るとともに、油防除体制の強化が図られているところである。また、ロシア サハリン沖の大規模海洋油田等(一部は平成11年7月から原油生産開始)に係る油流出事故等にも適切に対応できるよう防除体制の整備に努めているところである。

 海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は、昭和48年には2,460件であったものが、平成11年では589件と減少してきている。特に、油汚染の発生件数は激減している。さらに、油分、カドミウム、水銀、PCBに関する海水・海底堆積物の調査では、ここ数年同じレベルで推移しており、新しい汚染物質の負荷は認められない。
 一方、我が国周辺海域における海上漂流物については、平成11年の10海里あたりの平均目視個体数は約9.14個であり、前年より19%減少している。その内訳は発泡スチロール、ビニール類等の石油化学製品が全体の約54%(前年約85%)を占めている。また、プレジャーボート等の投棄船舶は、平成11年に1,818隻で、このうち1,332隻に対して廃船指導票の貼付による適正処理指導等を行った結果、1,208隻が処理されている。プレジャーボートの増加等に伴い毎年新たに投棄される船舶が後を絶たない状況である。また、最近、海洋への廃棄物等の不法投棄が広域に渡って横行しており、平成11年は、256件の不法投棄事件を検挙、検挙件数は年々増加傾向にある。

2.2010年における環境制約要因となるか否か

 現在、海防法の海洋汚染の未然防止対策は、基本的に有効であり、また海洋汚染事故への対応策についても、ナホトカ号事故を契機に十分に強化されているところである。しかしながら、自国船舶が条約の基準へ適合することを確保するという旗国の責任を十分に果たしていない便宜置籍国等が見受けられる現状においては、ナホトカ号のような老朽船等のサブスタンダード船による大規模海洋汚染事故の可能性がある。また、有機スズ化合物(特にTBT:トリブチルスズ)を使用した船底防汚塗料、バラスト水内の有害海洋性生物等の環境問題は、未だ有効な対策が講じられていないことから、問題がさらに深刻化することが予想される。また、廃船を含めた廃棄物の不法投棄については、廃船の適正処理体制が確立されていないこと、今後、廃棄物最終処分場の残余容量の逼迫などにより今後増加することが懸念される。
 そのため、これらの海洋汚染問題は2010年における環境制約要因となると考えられる。

3.今後の施策の方向性

 新しい環境問題に世界的(グローバル)に対応するため、次の事項について、国際海事機関(IMO)における検討に対応し条約制定、改正等を実現させて国内的に実施する必要がある。
ナホトカ号事故を教訓としたタンカーの老朽船対策として我が国から提案した、持続性油を運送する載荷重量2万〜3万トンの現存船に対しても原油タンカーと同様に原則として船齢25年でダブルハル化することを義務化すること、並びに、老朽化による船体折損事故の再発防止のため船体構造の健全性に関する PSCを実施すること及び旗国検査を強化すること。
有機スズ化合物(特にTBT:トリブチルスズ)を使用した船底防汚塗料については、2003年1月1日以降のTBT系船底防汚塗料の塗布禁止、2008年1月1日以降の船体への使用・存在の禁止すること。
船舶のバラスト水内の有害海洋性生物がバラスト水排出の際に本来生息していない海域に侵入して生態系の破壊等の悪影響を及ぼすことを防止するため、電解漕を利用した有害海洋性生物を死滅させる装置の技術開発やバラスト水排出管理の方法について規制すること。
旗国が条約上の責務を履行するための措置を確実に講じること。また、付近海域でサブスタンダード船を排除するためのアジア太平洋地域のPSC実施に関する覚書(東京MOU)に基づき、地域で協力してPSCを強化すること。さらに、MARPOL73/78条約のように条約の発効要件に旗国の数のみならずトン数の要件(例50%)を加えると、いくつかの便宜置籍国が批准しない限り条約が発効しない状況にあり、条約発効のための新しい方策を検討すること。

 UNEPの提唱により、日本海及び黄海の海洋環境を保護するため、沿岸国である日本、中国、韓国、ロシア(及び北朝鮮)が協力して取り組む北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)が策定されており、今後、NOWPAP本部   (RCU)が設置されることとなっている。大規模油汚染事故に際して迅速な事故対応に関する近隣諸国の協力体制を構築することは、油流出事故の被害を最小限にくい止める意味から重要であることから、その活動の拠点たるRCUを我が国に誘致すること等により、NOWPAP活動の充実を図る必要がある。

 廃船を含めた廃棄物の不法投棄については、広域取締りの実施など廃棄物の不法投棄事犯に対する一層の厳しい監視・取締りを実施するとともに、環境犯罪対策協議会等の設置の推進、廃棄物の適正処理の指導、原状回復に向けた情報や意見の交換を行うなど地方公共団体等との連携を強化し、行政、取締機関一体となった廃棄物の原状回復・適正処理・不法投棄防止対策のシステムを構築する必要がある。

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