国土交通省
第1章 転換を迫られる我が国の交通システム
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 (1)戦後の経済社会の姿

a. 戦後の我が国の経済社会は、産業革命以来の規格大量生産型の産業構造を前提に、欧米へのキャッチアップという明確な目標に向かって、社会全体が経済成長に邁進した社会と要約しうる。
  
b. ここにおいて、我が国では次のような条件がきわめて効果的に作用した。
 ・ 協調を重視し集団の力によって対処するという精神的風土
 ・ 勤勉で緻密な仕事を好み、また倹約を善しとする国民性
 ・ 中央集権的な強い官によるリーダーシップ
 ・ 地形的要因に起因する都市における稠密な居住形態
 ・ 若年層が多い活力ある人口構成
  
c. 以上から、終身雇用、組織的対応等を特徴とする独自の「日本的経営」が成立し、欧米の技術革新をいち早く取り入れながら、戦後の焼け野原から「東洋の奇跡」と呼ばれる驚異的な経済成長を遂げた。

○国内総生産(GDP)
1955(昭和30)年1995(平成7)年
48兆円469兆円(9.8倍)

 (2)戦後の交通システムの形成

 (1)の経済社会の状況の下で、交通システムは、次のように形成された。

a. 交通が経済発展のボトルネックとならないための輸送力の拡大が優先的な課題であった。
 国は、交通インフラの整備を急ピッチで進めるとともに、交通事業については事業ごとに需給調整規制を行って経営の安定を図り、交通サービスの安定的な供給を確保した。このような環境が、陸海空の各交通機関の設備投資を促し、輸送力の増強が進んだ。
  
b. 交通機関別には、まず我が国の地形条件等に適し戦前より整備が進められていた鉄道や海運が発達し、都市圏旅客交通、幹線物流等の分野で効率的な大量輸送システムを実現した。また、交通サービスは、自立採算を原則とする企業の健全な事業経営の下で提供されており、これは、欧米に比べても誇れる点となっている。
   
注1) 本答申において「都市圏」とは、三大都市圏及び地方中枢・中核都市を指し、「地方圏」とはその他の地域を指すこととする。
  
c. その後、道路整備、空港整備の進展に合わせて、利便性に優れる自動車交通、高速性に優れる航空輸送は、従来の交通機関と競争を繰り広げながら急速に拡大した。
   
注2) 本答申においては、自動車の種別を整理し、次のような用語法を用いている。
 
  
d. 特に自家用乗用車及びトラックは、鉄道、バス等を主軸とする交通機関分担の姿を塗り替えるまでの高い普及を示すようになったが、その影響は、交通分野や地域によって異なった。
 旅客交通については、地方圏で大きな変化を生じさせ、バスをはじめとする公共交通のネットワークの一部が縮小を余儀なくされることとなったが、利便性に優れる自家用乗用車の利用により全体のモビリティはむしろ向上した。一方、人口の集積する都市圏では、鉄道及びバスが通勤・通学等の足として主要な役割を担い続け、特に三大都市圏においては、鉄道が中核的な交通手段として機能してきた。その結果、全体として先進各国と比べて単位輸送量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、環境負荷の少ない交通システムが形成されてきた。

○交通機関別分担率の推移(国内旅客輸送:人キロベース)
国   名鉄道自動車海運航空

人キロ当たり
二酸化炭素排出量
(指数)

日  本(1955年)82%17%1%0%
日  本(1975年)46%51%1%3%
日  本(1995年)29%66%0%5%100
アメリカ(1993年)1%82%0%17%129
イギリス(1995年)5%94%0%1%131
ド イ ツ( 〃 )7%90%0%3%128
備考1) 日本の1955年及び1975年の自動車には軽自動車等による輸送を含まない。
2) 交通機関別二酸化炭素排出原単位は、外国についても我が国と同じ値を用いた。

 一方、物流については、臨海工業地帯の形成により大量輸送物資の海上輸送が進展するとともに、利便性に優れるトラックへの依存が大きく進む中で、かつては国内貨物輸送の半分以上を占めていた鉄道のシェアが激減した。その結果、単位輸送量当たりの二酸化炭素排出量でみた環境負荷は 西欧諸国並みとなり、広大な内陸部を抱え鉄道輸送が発達した米国に比べれば、相当大きなものとなった。

○交通機関別分担率の推移(国内貨物輸送:トンキロベース)
国   名鉄道自動車海運航空

トンキロ当たり
二酸化炭素排出量
(指数)

日  本(1955年)53%12%36%0%
日  本(1975年)13%36%51%0%
日  本(1995年)4%53%43%0%100
アメリカ(1993年)49%33%18%0% 59
イギリス(1995年)6%69%24%0%110
ド イ ツ( 〃 )20%61%19%0%101
備考1) 日本の1955年及び1975年の自動車には軽自動車を含まない。また、外国には上記の他にパイプラインがあるが、本表では計算の対象から除外した。
2) 交通機関別二酸化炭素排出原単位は、外国についても我が国と同じ値を用いた。

e. 他方、国際輸送については、周囲を海に囲まれた資源小国である我が国は、原材料や食料等の多くを輸入し、製品を輸出する貿易立国として諸外国との間の交流を拡大させてきた。経済の成長に伴い国際輸送需要が急速に拡大し、これに対応するため、国際港湾や国際空港の整備が進められた。
 
f. こうした経過を経て、現在、我が国の交通は、年間500兆円を越える巨大な経済活動と1億2600万人もの国民の足を支え、また、地域の振興に大きく貢献してきた。今や全国に展開された鉄道、港湾、空港の整備によって、交通ネットワークは概成しつつあるが、大都市圏には未だ交通のボトルネックが残っている。

○輸送量の伸び
区  分1955(昭和30)年1995(平成7)年
国内旅  客1,658億人キロ11,764億人キロ( 7.1倍)
貨  物812億トンキロ5,569億トンキロ( 6.9倍)
国際航空旅客170千 人43,570千 人(256.3倍)
海上貨物50百万トン1,071百万トン( 21.4倍)
備考) 国際海上貨物輸送量のトン数は、重量又は容積に基づき算出したフレート・トンである。

g. 一方、交通機関相互間の連携といった交通全体を総合的な体系としてとらえる必要性は、昭和46年、昭和56年の当審議会答申等においても指摘されていたが、各交通機関それぞれの輸送力の増強が大きな課題とされた当時においては、具体的な政策として結実することは少なかった。また、道路交通混雑、環境問題、交通事故等の交通の負の側面への対応は、それぞれ個別に行われ、交通全体を総合的な体系としてとらえ、それに内在する問題を構造的に解決していこうとする政策も、十分なものではなかった。

 (3)21世紀に向けて変貌しつつある経済社会

a. 量的な拡大を前提とし、規格大量生産を押し進めるにはきわめて好都合であった日本的経営を基盤とする我が国経済社会は、特に90年代に入って顕在化した次のような内外の変化により、現在大きな岐路に立たされている。
 
グローバリゼーションの進展
 冷戦終結後、経済のグローバリゼーションが急速に進む状況下で、我が国独自の制度や慣習に基づく活動は、米国がリードする「グローバルスタンダード」との整合が厳しく問われるようになった。また、アジア諸国の急速な工業化により、我が国とこれらの国々との間の国際的な水平分業が進むとともに、国際的な競争の激化の中で我が国産業の国際競争力の確保が重要な課題となった。
 
少子高齢化の進展
 我が国がこれまで経験したことのない人口減少社会の到来や、社会に占める高齢者の割合が世界的にも例を見ないほど急速に高まることは、社会の活力維持への懸念を生じさせているばかりでなく、労働力需給の不均衡をはじめ、多くの分野で我が国経済社会を変貌させる。
 
IT革命
 IT(情報技術)革命は、従来では考えられなかったような大量の情報の高速かつ安価な処理と広範なネットワーク化を可能とし、企業活動のみならず国民の日常生活に至るまでの広い範囲で、我が国の経済社会を大きく変えつつある。一方で、生産性の向上や国民生活のゆとりをもたらすが、他方で経済社会のあらゆる分野において、旧来のシステムに高度情報化社会への適合を迫る。
  
 こうした社会情勢の変化を受けて、我が国の従来型の画一的な生産システムは機能しなくなり、集団の協調を特徴とする日本的経営はその利点を生かせず、むしろ独創的な事業展開の桎梏にすらなってきた。
 また、経済的には欧米へのキャッチアップを十分に果たした今、国民は、意識面でも旧来の社会や組織から独立した自由で独創的な「個」としての躍動を求めている。
 
b. また、利便性と効率性とを追い求めてきた現代社会は、もはや部分的な対応では解決できない次のような課題に直面している。
 
環境問題の深刻化
 資源の大量消費を前提とした現代社会の根本に疑問を投げかける地球環境問題が顕在化した今、環境問題への対応は従来のような部分的な対応では解決できず、国民が一丸となって経済社会システムを変革する形で対応していくことが必要となっている。
 
安全に対する意識の高まり
 長寿社会を実現した我が国にあって、国民は安全を脅かすものの解消に強い関心を持ってきている。こうした中で、最近、信頼されていたシステムに起こった相次ぐ事故、犯罪及び大規模自然災害の発生は、国民の安全に対する意識をかつてないほどに高めている。

(4)経済社会の変化を受けて転換を迫られる交通システム

 上記のような経済社会の大きな変化は、量的な拡大に主眼が置かれてきた従来の交通システムのあり方にも根本的な転換を迫っている。

a.輸送需要の伸びの鈍化と交通に対するニーズの多様化
 少子高齢化の進展や経済の低成長化は、国内輸送需要を低迷させ、交通事業者の投資意欲を減退させる。また、国際航空輸送や国際海上コンテナ輸送は引き続き順調な伸びが見込まれるものの、国際輸送についても、拡大の程度はかつてほどではなくなる。
 また、高齢者の増加に伴う昼間交通の増加や少子化に伴う通学需要の減少など、時間帯・年代等の需要の構成も変化する。

○過去15年間(1980-1995年)と比べた今後15年間(1995-2010年)の国内輸送需要の伸び
区   分過去15年間今後15年間
旅客(人ベース)32%4〜6%
貨物(トンベース)8%1〜5%

○過去15年間(1980-1995年)と比べた今後15年間(1995-2010年)の国際輸送需要の伸び
区  分過去15年間今後15年間
旅客(人ベース)258%59〜79%
貨物(トンベース)
うち海上コンテナ(トンベース)
うち航空貨物(トンベース)
29%
218%
300%
14〜16%
79〜84%
63〜89%

 さらに、自由で独創的な個人社会の到来は、随意性、快適性、サービスの質と負担の関係等について多様化したニーズを創り出す。こうした中で、交通機関に対し利用のしやすさや快適性等への要請が強まる。また、移動そのものにも楽しみを見出すという、いわゆる「レジャー交通」に対する要請も高まる。

b.需給調整規制の廃止に伴う競争環境の出現
 事業の安定により交通サービスの安定的な供給を確保する機能を果たしてきた需給調整規制は、各種の交通機関が成熟するとともに自家用交通の普及が顕著に進む中で、その制度的意義が薄れてきた。その一方、規制に伴う効率性の阻害等の問題が看過できなくなるとともに、需給調整の一側面としての内部補助による不採算路線の維持の手法もその限界や弊害が強く認識されるようになった。
 このような事情を背景に、交通事業に対する需給調整規制は、原則として廃止する方向で改革が進んでいる。今後は、交通事業者間の競争を通じて、ニーズに対応した多様な交通サービスの提供が期待されるとともに、交通事業者にはその事業の効率化が求められる。行政には、市場原理のみでは対応できない問題への適切な対応が求められるとともに、公正な競争の確保や消費者保護の観点から、市場の状況の監視や関連する情報の公表等が必要となる。さらに、交通事業者による創意工夫に満ちた事業の展開を促す環境整備への配慮も必要である。
 
c.環境問題の深刻化
 地球温暖化の原因となる二酸化炭素の交通部門からの排出量は、その大宗を占める自動車からの排出量の伸びを背景に一貫して増加傾向にあり、1998(平成10)年時点では1990(平成2)年比21%増と、2010(平成22)年時点で17%増に抑制するという目標値を既に上回っている。
 また、大都市地域における大気汚染、騒音等に関する環境基準の達成率は依然として低く、自動車による公害問題が深刻の度を増しており、尼崎公害訴訟や大都市でのディーゼル車規制が国民の関心を集める問題となっている。
 このため、自動車をはじめとする輸送機器の単体対策や環境負荷の少ない交通システムの実現が喫緊の課題となっている。

○自動車による大気汚染、騒音の状況
 1998(平成10)年1999(平成11)年
NO(窒素酸化物)の特定地域(大都市地域)での環境基準達成率36%59%
SPM(浮遊粒子状物質)の大都市地域での環境基準達成率12%64%
自動車騒音の4時間帯全てで環境基準が達成された割合13%
出典: 環境庁資料
備考: 1999(平成11)年はNO 、SPMに係る環境基準の達成割合が前年に比べて大幅に改善しているが、これは夏期の強風等の特異な気象条件が原因の一つとされており、状況の深刻さは変わっていない。

注3)

目標値:
 1997(平成9)年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議において、同条約の目的を達成するために締約国が行う措置等について定めた京都議定書が採択された。我が国については、2008年から2012年における温室効果ガス排出量を1990(平成2)年比6%削減することが規定されている。上記の「17%増に抑制するという目標値」は、この京都議定書の目標を達成するために設定された交通部門のCO(二酸化炭素)排出量削減目標である。

4)

エネルギー問題:
 環境問題を引き起こした主要な要因の一つは化石燃料の大量消費である。化石燃料の消費を抑制するためには、省エネルギー技術や代替エネルギーの開発と普及への期待が大きい。我が国の交通部門に関しては、交通需要の伸びの鈍化と自動車の燃費の改善等により、エネルギー需要には従来のような伸びは見込まれない。しかし、発展途上諸国におけるエネルギー需要は、今後とも高い増勢を保つものと予想されるため、国際的なエネルギー需給が逼迫する可能性は否定できない。このため、化石燃料の消費抑制は、環境対策としてのみならず、エネルギー対策の観点からも推進されるべきである。

d.IT革命
 IT革命は、交通分野に対して需給の両面から大きな影響をもたらす。交通需要の面では、テレワーク、SOHO、eコマース(電子商取引)の普及等が、通信による交通の代替・削減や時間的・空間的平準化を押し進める。一方で、多様な大量の情報の高速での流通が、新たな旅行需要の喚起や取引の広域化、情報化された時間精度の高い迅速な物流サービスに対する需要の拡大等をもたらす。
 一方、交通サービスの供給面では、公共交通の利便性の向上や物流の効率化、交通インフラの利用効率の向上等への道を開くとともに、運賃・料金のきめ細かい設定による交通需要の平準化等の需要面への働きかけを可能とする。このような中で、ITの活用により、旅客や荷主の意向を的確に把握し、その需要にきめ細かく機動的に対応できる事業者が競争上優位に立つとともに、旅行代理店のような交通事業者と利用者との間を仲介する機能は、単なる仲介ではその意義を失い、新たな付加価値の創造が厳しく求められるようになる。
 さらに、インターネットや携帯情報端末(PDA)等を通じた交通関連情報の提供やネット上で交通事業者や利用者の間の取引の機会を提供するビジネスの発展、ITの活用による交通インフラの機能の向上等が交通システムを高度化していく。

注5)

SOHO(Small Office Home Office):
 情報通信ネットワークや通信機器を活用し、自宅や小規模な事務所で仕事をする独立自営型のワークスタイル。

携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants):
 文字情報だけではなく、音声や画像も全てデジタル技術で統合し、個人の情報生活を積極的に支援するものであり、携帯型情報機器とも呼ばれる。

e.グローバリゼーションの進展
 グローバリゼーションは、国際交通需要を拡大させ、交通インフラの必要量等へ影響するにはとどまらない。国境を越えて活動する企業の立地等をめぐって都市、地域、国家といったあらゆる段階で国際的な競争を激化させ、交通の分野でも国際的に遜色のない水準のサービスの提供や国際的な動向を踏まえた関連諸制度の改善が求められる。このような面での対応の遅れは、立地企業の退出等を通じて我が国自身の活力の低下につながりかねない。
 
f.安全への脅威
 近年、自動車交通事故の死者数はやや減少しているものの、交通事故件数及び死傷者数はここ10年間で1.3倍になるなど、増加傾向が続いている。また、1999(平成11)年には死傷者数が史上初めて100万人を突破し、重度後遺障害者が増加するなど、言わば「新たな交通戦争」の渦中にある。さらに、交通事故死者数のうち歩行中及び自転車利用中の者が約4割と先進国の中では非常に高く、違反なく死傷したいわゆる「もらい事故」の被害者も全死傷者数の約6割にのぼる。
 このような中で、今後の高齢者の増加とその免許保有率の高まりにより「シルバー自動車社会」の到来が見込まれ、「新たな交通戦争」がさらに激化する恐れがある。
 一方、交通事業についても、最近の度重なる事故等により、国民の交通機関の安全に対する信頼感が揺らぎ始めているとともに、交通機関を対象とした犯罪からの防護や自然災害に対する備えの必要性も指摘されている。

注7)

2010(平成22)年における自動車交通事故死者数の試算:
 高齢者の増加(対1999年比33%増)、運転免許を保有する高齢者の増加(78%増)、高齢者の被害者・原因者となる確率、1999(平成11)年の事故死者数を用いて推定すると、2010年において、高齢者の事故死者数51%増、全体の事故死者数22%増という驚くべき結果となる。

g.快適な生活環境の重視
 都市においては、懸命な道路整備の努力が行われているものの、自動車の保有台数及び総走行キロはそれを上回って増加しており、短期的な改善は見られるものの、長期的には自動車の走行速度はむしろ低下傾向にある。これが、道路を利用するバス等の利便性を低下させ、利用者の減少をさらに加速させている。このようにして、都市においては、道路交通混雑ばかりでなく環境や安全の問題がさらに深刻化している。
 経済優先から生活の豊かさへと国民の関心が移っていく中で、自動車交通が生活にもたらす負の側面は看過できない重大な問題として意識されるところとなった。かねてから快適な生活環境への関心が高い諸外国において、都市の中心部での自動車の利用の抑制や歩行、自転車利用の奨励といった政策が次々と具体化している中で、我が国でも、都市住民の間でクルマ社会に対する懐疑の声が着実に高まっている。
 
h.地域の自立と連携への要請
 我が国の社会情勢の変化を受けて、国土構造を規定する要素として、人口と工業の集積の比重が下がり、気候や風土、交流の歴史的蓄積、文化遺産などが重要性を増してくると考えられる。国土の構造は、東京を中枢とした都市間の階層構造から、自立と連携に基づくより水平的なネットワーク構造への変化が求められている。
 精力的な交通インフラの整備により、地域の自立や連携の基盤となる交通ネットワークの形成が進んできたが、高速化等のネットワークの質の改善は今後とも重要な課題である。また、地域交通については、自家用乗用車等の私的交通と公共交通の結節の改善、需給調整規制廃止後の公共交通の維持等について、新しい視点から検討が求められている。
 
i.労働力問題
 少子化の進展に伴う若年労働力の不足という問題については、女性や高齢者の就労の促進やITの活用による生産性の向上によって克服できるとの見方もあり、現在の交通産業の年齢階層別就労状況から予測すると、交通産業全体としては2010年頃まではその影響は小さい。しかしながら、労働集約型産業が多い交通産業においては楽観は許されず、物流業など業種によっては問題が顕在化する可能性がある。
 また、製造業のように生産拠点の海外移転等により労働力不足問題を解決することができない交通産業においては、外国人労働力の受け入れ問題が、今後検討課題として浮上する可能性がある。
 このため、将来の若年労働力の逼迫に備え、男女共同参画の考え方に沿った女性労働力の積極的活用や高齢労働力の活用のための環境整備について、早い段階からの検討が求められる。また、外国人労働力の活用の可能性についても、我が国全体としての対応も踏まえた検討が求められる。

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