国土交通省
第3章 重点課題に関する考え方
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 前章に示した21世紀初頭の交通政策の考え方を踏まえ、かつ、第1章に示した課題に対処するため、以下の課題に重点的に取り組み、各項目に示した提言について、有効性を確認しつつ、その具体化を図るべきである。

 (1)「クルマ社会」からの脱皮

 既に見たとおり、自動車は、その利便性の高さによって、旅客交通、物流の両分野で急速に利用が進み、今や国民生活や経済の諸活動にとって不可欠の存在となり、いわゆるクルマ社会が形成されている。
 自動車の有する高い利便性は大量輸送機関では代替することが困難であり、その利用の拡大は国民のモビリティを拡大するものとして積極的に評価される。自動車は、我が国の交通システムの主役としてますます重要な役割を担うこととなる。
 しかしながら、自動車の利用には、不可避的な要素として環境問題、交通事故、道路交通混雑といった負の側面が伴う。これらの問題は、とりわけ都市圏において顕著であり、マナーが悪い運転者による違法駐車等は、このような負の側面を一層顕在化させてきた。これまではこうした負の側面に対し根本的な対策がなされないままに自動車の利用が進んできたが、経済優先から生活の豊かさを重視する時代を迎える今、このようなクルマ社会にこれ以上手をこまねくことは許されない。
 このため、自動車が人々の生活を脅かすことなく、真に豊かな生活をもたらすものとなるよう、その利用状況や利用に伴う影響を絶えず点検し、自動車交通の負の側面の是正策を果敢に講じることにより、安心感がある新しい交通システムを実現すること(「クルマ社会」からの脱皮)が必要である。
 我々は、現在のクルマ社会においては、全ての人々が直接・間接の加害者であると同時に被害者でもあることを正しく認識しなければならない。21世紀初頭における個人を基礎とした新しい社会においては、社会の構成員に相互に了解される「公」の概念が不可欠であるが、ここに示す新しい交通システムの実現は、このような「公」の概念の形成の一つの証と言えるのではないか。
 このような考え方から、本答申では、以下の提言を行うこととする。

a.都市と交通の改造
 人口の大半が居住し、経済活動の大部分が営まれている都市のあり方は、我が国の経済活動や国民生活に係る諸活動のあり方と密接に関連している。交通は、このような都市を形作る主要な要素であるとともに、逆に、都市の構造によってそのあり方を規定される存在であるため、都市と交通は、整合性を確保しつつ一体的に整備されなくてはならない。
 このため、都市政策と交通政策とが連携し、TOD15の発想に立って限られた都市空間を高度利用し、都市機能の適正配置と都市内交通の充実とを一体的に進める「都市と交通の改造」を推進し、自動車に過度に依存しない都市と交通を実現する必要がある。

注15) TOD(Transit Oriented Development):
 都市の交通手段として公共交通を重視した都市開発を意味する。

(提言)
 地方公共団体は、地域における合意形成や関係機関との調整を図りつつ、各地域の実情に応じて以下のような施策を組み合わせた「都市と交通の改造」に関する計画を策定し、その推進を図る。国は、このような地方公共団体の取り組みに関する指針を示すとともに、制度、技術等の面から多面的な支援を行う。

(都市機能の適正配置)
環状道路やバイパスの整備と物流拠点の適正配置による通過交通の都心部への流入の回避
交通ターミナルやその周辺の空間の高度利用と公共・福祉サービスや居住といった多様な都市機能の集積の促進
まちの中核的な交通動線へのバス、LRT16等の専用空間を有する公共交通軸の設定
踏切道の連続立体交差化 等
 
(公共交通や徒歩・自転車利用への転換)
公共交通軸上を走行するバス、LRT等による多頻度で定時性や速達性に優れた公共交通サービスの提供と利用の促進
交通のバリアフリー化・ユニバーサル化17
交通ターミナルの改良等によるバス、タクシー乗り場の確保、携帯情報端末等を通じた乗り換え情報の提供の充実等による乗り換え利便性の向上、汎用電子乗車券の導入の促進等のシームレス施策
幅の広く障害物の少ない歩道・自転車道や駐輪場の整備による徒歩・自転車利用の促進 等
 
(自動車の利用調整等)
レーン規制、ロードプライシング、カーシェアリング等による自動車の利用調整
郊外の自宅への業務用自動車の持ち帰りの抑制
都市内共同配送の促進による走行車両台数の削減
トラックベイ、荷捌き場の整備、ETC18の導入等による自動車交通の円滑化
道路交通情報の提供による交通量の時間的・空間的平準化  等

注16)

LRT(Light Rail Transit):
 低床式の車両で高齢者等にも利用しやすく、加速・減速時の騒音や振動が少ない等の優れた特性を有する次世代型の軌道系中量輸送機関を意味する。

17)

交通のユニバーサル化:
  「バリアフリー化」が「障害がある人が社会生活を営む上で障壁(バリア)となるものを除去すること」を意味するのに対し、「ユニバーサル(共用)化」は「(年齢、身体的能力等を問わず、)全ての人にとって利用しやすいものにすること」を意味する。
 高齢者が人口のかなりの部分を占める時代が急速かつ確実に近づく中、バリアフリー化の考え方をさらに進め、このような高齢者や身体障害者等を含む多様な人々の存在を前提に、全ての人が快適に移動できる交通システムを実現すること(「交通のユニバーサル化」)を目指すべきである。

18)

ETC(Electronic Toll Collection System):
 ノンストップ自動料金収受システムを意味する。

b. 自動車交通のグリーン化
)京都議定書の定める温室効果ガス削減目標を達成するとともに、大気汚染等の地域環境問題の解決に向けて、自動車から排出される二酸化炭素(CO2) 、窒素酸化物(NOx) 、粒子状物質(PM)等を削減するため、自動車交通を環境に優しい交通システムに転換する必要がある。このため、特に大きな効果が期待される自動車単体対策の強化を図るとともに、「都市と交通の改造」等による環境負荷の少ない交通システムの実現等に取り組む必要がある。
 また、自動車騒音問題については、一層きめ細かな騒音源対策や騒音低減装置の性能維持対策を進めるとともに、道路構造対策、交通流対策も含めた総合的な対策として推進する必要がある。

(提言)
 以下のような政策パッケージである「自動車交通のグリーン化19」を総合的に実施する。

環境自動車20の開発・普及と「自動車税制のグリーン化」による促進
TDM手法を通じた都市交通システムの効率化
都市部における環状道路、バイパス等の整備や踏切の立体交差化の推進、駐車対策の強化等による道路交通渋滞対策の推進
自動車NOx 法の改正によるNOx、PM対策の強化
ディーゼル車からの排出ガス改善のため硫黄分の少ない軽油を導入する「自動車燃料のグリーン化」
特殊自動車(建設機械(クレーン車等)、産業機械(フォークリフト等)、農業機械(トラクター等))の排出ガス規制の導入 等

注19)

グリーン化:
 環境に優しい方向に変革していくことを意味する。近年、OECD等において「税制のグリーン化」等が提唱されている。

20)

環境自動車:
 環境自動車とは、自動車からの排出ガスに含まれる大気汚染物質(NOx等)や地球温暖化物質(CO2)による環境への負荷の少ない自動車をいう。現在の環境自動車には、ハイブリッド自動車や圧縮天然ガス(CNG)自動車等の低公害車のほか、超低燃費車、低排出ガス認定車がある。また、将来に向け、燃料電池自動車やジメチルエーテル(DME)自動車等の開発も進められている。

)気候変動枠組条約は「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させる」ことを究極の目的としている。このため、同条約の第一約束期間(2008年から2012年)以降さらに厳しい温室効果ガスの削減が求められる可能性が高い。このような状況を踏まえ、既存の施策に加え、さらなる施策を講じる必要があり、現在、化石燃料の使用に伴う二酸化炭素の排出を抑制する観点から、各方面で燃料課税としての炭素税(環境税)の創設が検討されている。
 炭素税については、今後、持続可能な社会の発展、汚染者負担の原則(PPP)等の観点を踏まえ、導入に向けた検討を進めることが必要である。その際、税収を二酸化炭素排出削減に資する施策に用いること、特定の分野・業種にのみ負担を求める制度とならないよう配慮すること等の点について勘案することが適当である。

c. 自動車交通の安全性の向上
 21世紀初頭の国民生活の脅威とも言うべき「新たな交通戦争」の拡大を防ぐため、様々な角度から交通事故の情報を分析し、その背後にある要因を解明するとともに、先進技術を駆使しながら、従来は技術的に困難であった分野においても対策を推進することなどにより、自動車交通安全対策の強化を図る必要がある。
 特に、近年のITの発達によりその実現可能性が大きく拡大しているアクティブ・セーフティ(事故未然防止対策)の分野において、対策の強化を図る必要がある。具体的には、事故原因の多くを占める運転者の認知の遅れ、判断・操作の誤り等(ヒューマン・エラー)の減少を図るとともに、ヒューマン・エラーが発生した場合にもそれが大きな事故につながる可能性を極力低減する。また、歩行中や自転車利用中の死者数が他の先進国と比べ多いことから、人と車両の空間的分離を図るための幅が広く障害物の少ない歩道や自転車道の整備も必須である。
 さらに、パッシブ・セーフティー(万一事故が発生した場合の被害軽減対策)の分野においては、衝突時に乗員を保護するための車両構造対策に加え、衝突した相手の安全についても配慮した対策を進める必要がある。具体的には、事故時の傷害発生要因を分析することにより、自動車同士の衝突において、相対的に大きな車両の加害性を低減することなどにより相対的に小さな車両の乗員の保護を図る「コンパティビリティ」(共存性)の考え方に基づく対策や、歩行者と衝突した場合の加害性を低減する対策等が必要である。
 しかし、これらの対策によっても全ての事故を未然に防止することはできないため、これらの対策に併せ、交通事故被害者の救済対策についても充実を図る必要がある。

(提言)
 自動車交通の安全性の向上を図るため、以下の政策を推進する。

事故情報や危険情報の官民による収集・分析・活用体制の充実と自動車交通安全対策サイクル21の好循環化の推進
自動車の予防安全性能や事故回避性能等の向上のための先進安全自動車(ASV22)等の技術開発の促進
事故時の弱者側の被害を軽減するための車両構造の改善の推進
自動車アセスメント制度23の試験・評価方法と評価事項の充実
幅が広く障害物の少ない歩道、自転車道の整備
事業用自動車に係る運行管理制度の強化
適正な保険金支払いの確保、重度後遺障害者やその家族に対する救済策の拡充等の推進 等

注21)

自動車交通安全対策サイクル:
 事故実態の把握を中心とした、事故の低減目標の設定から対策の実施、効果評価、低減目標の再設定へと続く自動車交通安全対策の一連の流れ

22)

ASV(Advanced Safety Vehicle):
 先進安全自動車。エレクトロニクス技術等の新技術により自動車を高知能化して安全性を格段に高めた自動車。

23)

自動車アセスメント制度:
 自動車の安全性を車種毎に評価し、その結果をユーザーに提供することにより、ユーザーが安全な車選びをしやすい環境を整えるとともに、自動車メメーカーによるより安全な自動車の開発を促進する制度

d. 自動車交通サービスの多様化
 大量輸送機関を利用し難い分野において、需要にきめ細かく対応できる新しい自動車交通サービスの展開を図る必要がある。
 
)都市圏、地方圏を通じて、介護を必要とする高齢者等が増加する中で、福祉タクシー等によるスペシャル・トランスポート・サービス(STS)に対するニーズが大幅に増加することは確実であり、同サービスが適切なサービス水準で、各地域の特性に応じて効率的かつ安定的に供給される必要がある。

(提言)
 スペシャル・トランスポート・サービスに関し、交通政策と福祉政策との連携のあり方や国と地方公共団体等との役割分担を整理し、それぞれの役割に応じて、福祉タクシー等による同サービスの発達のための環境整備を図る。
 この一環として、車両の仕様の標準化による車両価格の低減やITの活用による運行効率の向上等を図る。

)地方圏のうち公共交通が確保されていない地域においては、マイカーを利用できない者のモビリティの確保のため、スクールバス、福祉バス等の多面的活用やコミュニティー内の相互扶助の考え方に基づくモビリティの確保を図る必要がある。

e. 観光地の交通の円滑化
 マイカーの集中的な乗り入れにより道路交通混雑、環境問題等が発生している観光地について、個別の事情に応じた交通の円滑化等の対策を検討する必要がある。

(提言)
 主要な観光地におけるマイカーの利用状況等を調査し、マイカーの集中的な乗り入れにより交通問題が発生している観光地に関して、地方公共団体、環境関係団体、警察等との間で地域の事情に応じた適切な交通規制を含むTDM施策について協議する仕組みを構築する。

 (2)環境との調和と安全の確保

 環境との調和と安全の確保を図るため、規制的措置だけではなく、経済的措置や自主的な取り組みの促進等を含め、様々な方策をその特性を活かして組み合わせること(ポリシー・ミックス)により、以下のような取り組みを進める必要がある。

a. 環境問題への対応と循環型社会の構築
)自動車に関し、(1)b.「自動車交通のグリーン化19」に掲げられた政策を推進するとともに、他の輸送機器の単体対策の強化やモーダルシフト対策、海洋汚染対策等を推進する必要がある。

(提言)
 環境問題に対応するため、以下の政策を推進する。

スーパーエコシップ12の技術開発・実用化、海上ハイウェイネットワーク13や海のITS14の構築等を通じた「海上輸送の新生」
大規模な油流出事故による海洋汚染防止のための大型油回収船等の防除資機材の整備、国際協調による事故防止体制の強化
地球環境観測体制の強化
船舶からの排出ガス対策、航空機及び新幹線の騒音対策

)循環型社会の構築に向けて、公共事業や交通事業における廃棄物の排出抑制(リデュース)、使用済製品の再使用(リユース)、回収されたものの原材料としての利用(リサイクル)の取り組みの強化を進めるとともに、使用済みの自動車やプレジャーボートの適正処理等に関する総合的な施策を検討し、不法投棄の防止やリサイクル性の向上を図る必要がある。
 また、効率的で環境への負荷の少ない静脈物流システムの構築の検討を進める必要がある。このため、従来の製造業の原材料の調達ルートに加え、リサイクル物資やリユース物資の還流ルートをいかに形成するかという点について調査検討を行うことが必要である。特に、静脈物流の波動性を考慮しつつ、ストックポイントの形成、大量輸送機関の活用方策等に関して検討を進める必要がある。

b. 交通の安全の確保
 自動車に関し、(1)c.「自動車交通の安全性の向上」に掲げられた政策を推進するとともに、ひとたび事故が発生した場合は多数の死傷者を生じる恐れがある鉄道、海運、航空分野についても、安全性の一層の向上を図る必要がある。

(提言)
 交通の安全の確保を図るため、以下の政策を推進する。

公共交通の安全性に関する国民の信頼を回復するため、事故原因の分析、安全対策の徹底、対策効果の評価という安全対策サイクルの好循環化を図るとともに防犯対策を進める。
船舶等の輸送機器のインテリジェント化(知能化)による事故防止性能の強化や次世代航空保安システム等の整備による交通管制能力の向上を図る。
事故再発の防止をより重視していく観点から、事故原因の多角的な調査・分析のための体制の強化を図る。特に、航空事故及び鉄道事故の原因究明やそれを踏まえた安全対策の提言体制を充実・強化するため、科学的かつ公正に事故調査を実施するとともに、重大インシデント24についても調査を行う常設・専門の組織の整備を進め、事故の再発防止を推進する。

注24) 重大インシデント:
 事故には至らないものの、運航(行)の安全に影響を与えるおそれの大きい事態。

 (3)ITの活用による交通システムの高度化

 従来は考えられなかったような高速での情報処理等を可能とするIT革命は、陸海空の全ての分野で、交通の直面する諸課題の解決の鍵となる大きな可能性を有している。このため、ITを機軸とした交通システムの高度化に積極的に取り組み、人や物のモビリティを革新する必要がある。

a. ITの活用
)国自らが率先して情報化に取り組み電子政府を実現するとともに、ITを活用した先駆的なシステムの開発・普及を先導することにより、陸海空にわたる交通システムの総合的な情報化を図り、交通事業の安全性、利便性、生産性の向上とサービスの多様化、交通インフラの利用効率の
向上等を進める必要がある。また、交通関連情報の提供等を通じて自家用乗用車を含めた交通機関間の競争を促進するとともに、TDM施策の導入を図る必要がある。

(提言)
 ITを活用した以下の政策を推進する。

(電子政府の実現等)
申請等手続のオンライン化や港湾、自動車保有等に関連する官民手続のワンストップ・サービス化
海図を含む国土情報の電子化による地理情報システム(GIS25)の構築と官民における活用 等
 
(陸上交通の高度化:陸のITS26
ICカードを活用した汎用電子乗車券の導入や総合交通情報提供システム27の構築等による公共交通の乗り継ぎ利便性の向上等
ETC18等の導入、道路交通情報の提供、自動車の利用調整による自動車交通の円滑化
先進安全自動車(ASV22)等の開発・普及や運行管理システムの高度化による安全性や効率性の向上
電子ナンバープレートの開発・活用 等
 
(海上交通の高度化:海のITS)
船舶の知能化及び陸上支援の高度化による海上交通の円滑化と安全性の向上
港湾・海運分野における総合的な情報ネットワークの構築による物流の迅速化と効率化 等
 
(航空輸送の高度化:空のITS)
運輸多目的衛星を活用した次世代航空保安システムの整備による航空交通容量の拡大と安全性の向上 等

注25) GIS(Geographic Information System):
 地理情報システム。地理的位置や空間に関する情報を持った、自然、社会、経済等の属性データ(空間データ)を統合的に処理、管理、分析し、その結果を表示するコンピューター情報処理体系を意味する。
26) ITS(Intelligent Transport System): 
 高度に情報化された交通システムの総称。狭義には高度道路交通システムを意味する。
27) 総合交通情報提供システム:
 鉄道、バス等の公共交通の利用に関する情報をインターネットに接続されれた携帯情報端末、パソコン等を通じて総合的に提供するシステム。

)交通と関連する貿易、金融等の諸分野と密接に協力しつつ、業務モデルの標準化・共通化を進めるとともに、関連する情報システムの連携と統合を図ることが必要である。この点は、官民間の関係にあっても十分に配慮しなければならない。
 また、ネットワーク性を有するシステムについては、一定以上の普及率(クリティカル・マス)に達すると急速に普及が進むとともに社会的な便益も大幅に高まる場合が多いため、普及の初期の段階に強力な促進策を集中的に講じることも重要である。この場合、ネットワーク全体としての便益を高める観点から、情報化への対応能力に乏しい企業も含めて普及が進むよう配慮することが必要である。さらに、プライバシーの保護やセキュリティの確保についても十分な配慮が必要である。

b. 物流システムの高度化
 物流サービスの高度化と社会的制約への対応の両立を図るため、「3e物流」をキーワードに、効率的(efficient)で環境に優しく(environment-friendly)、情報化に対応した(electronic)物流の実現に向けて、物流システムの高度化を進める必要がある。
 このような観点から、国民に対し、本答申を踏まえつつ、物流に関する具体的なビジョンを提示し、官民の取り組みの連携を図るとともに、IT革命の急速な進展等を踏まえつつ、関連制度や商慣行、業務モデルの見直し等とITの活用とを併せて講じていくことが重要である。

(提言)
 a.「ITの活用」に掲げられた政策に加え、物流システムの高度化を図るため、以下の政策を推進する。

物流情報プラットホーム28の構築の促進
物流関連情報に関する各種データベースの構築の促進
各種の標準化活動に対する支援
ガイドラインの策定等による契約の合理化・明確化(商品の売買価格からの輸送コストの分離、トラック運送における荷役料金等の明確化と作業内容に応じた差別化等)の促進
サード・パーティ・ロジスティクス10事業に関する業務モデルの明確化、モデル契約書の作成、荷主・物流事業者間のリスク負担等についての検討
荷主企業向けの物流コスト算定基準の策定
物流効率化の視点に立った建築物の設計思想の普及 等

注28) 物流情報プラットホーム:
 輸送機関・事業者横断的な物流関連情報を標準化し、流通させるための情報基盤

 (4)交通インフラの整備と活用

 交通インフラは、経済活動を支え、人々の生活を豊かにするための基盤であり、従来から着実にその充実が図られてきた。  しかしながら、国及び地方公共団体の長期債務は膨大な額に達しており、単純な地域間の公平論に基づく公的投資は行い得ない。また、交通需要の伸び悩みや減少が進む中で、交通事業者の投資余力の減少も懸念される。  このような中で、経年化に伴う交通インフラの維持更新需要の大幅な増加が確実視されるとともに、高齢化や環境問題等への対応のための投資をいかに進めていくかが課題となっている。

a. 戦略的重点投資
 我が国の存立にとって不可欠な国際競争力の強化、環境との調和と安全の確保、生活の豊かさの増進といった21世紀初頭の交通ニーズに適合する交通インフラを厳しく見極め、戦略的な重点投資を徹底する必要がある。

(提言)
)以下の3つの類型の交通インフラについて戦略的重点投資を進めていく。

「国際化対応型インフラ」
 グローバリゼーションの進展に対応するため、大都市圏を中心に管理・運用面を含めて国際的に遜色のない水準の交通インフラを適時に整備する。
 長期的な航空需要の増大に対応するため、大都市圏の拠点空港の整備を進める。特に、国内、国際双方の需要に対応するため、首都圏の空港容量拡大には一刻の猶予も許されない。
 また、我が国をめぐる国際物流システムの効率化や高度化を図るため、次世代海上コンテナターミナルの整備や海上ハイウェイネットワーク13の構築等を進める。
 
「環境・安全型インフラ」
 環境負荷の少ない交通システムを構築するため、需要に応じた軌道系交通機関の整備を進める。また、モーダルシフトの推進のため、港湾における内貿ターミナル整備等による複合一貫輸送の推進を進める。
 さらに、エコポート29等の環境と調和した交通インフラの整備や循環型社会の形成に貢献する廃棄物海面処分場等の整備を進める。
 また、次世代航空保安システム等の整備による交通管制能力の向上や防災型・耐災型の交通インフラの整備を進める。

注29) エコポート:
 環境問題への関心の高まりに対応し、政府が実現を目指している「環境と共生する港湾」

「生活基盤型インフラ」
 住み良い地域社会の形成を図る「都市と交通の改造」を進めるとともに、需要に応じた都市鉄道等の整備及び新幹線の整備等による幹線鉄道の高速化を推進する。
 また、交通施設及びその周辺のバリアの解消を図るとともに、ユニバーサル・デザインの考え方に立ってすべての人にとって使いやすい交通施設への改善を行う。特に、1日当たりの乗降客数が多い旅客施設や、周辺に病院等の高齢者、身体障害者等の利用の多い施設がある旅客施設のバリアフリー化を優先的に推進する。
 さらに、離島空港・港湾についても、ナショナルミニマムの確保の観点から着実な整備を進める。
 
)全ての交通機関を統合した各地域の交通水準に関する客観的かつ総合的な指標を開発し、活用を図る。また、費用対効果分析を基本とする事業評価に関し、全ての分野において整合的な実施を図る。
 さらに、事業の特性に応じ、適当なものについては、財政支出の節減にも資するPFI30手法の活用を図る。

注30) PFI(Private Finance Initiative):
 公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法。

b. 新しい整備方式の検討
従来、多くの需要が見込まれる大都市圏等の基幹的な交通インフラの整備を行う場合には、経済の大きな成長を前提に、将来にわたって利用者に課す負担を主要な財源とするケースが多かった。
 しかしながら、今後、経済の大きな成長が見込まれない中で、我が国産業の国際競争力の確保や環境問題に対応するためなお必要となる基幹的な交通インフラの整備を進めるに当たって、従来の整備方式には限界が生じる可能性が排除できず、このような交通インフラへの投資をどのように進めていくかが課題となってくる。
 このため、次に示すような新しい整備方式について検討するとともに、個別の事情に応じた交通インフラの整備財源や資金調達方法の多様化についても検討を進める必要がある。

(提言)
 鉄道については、既存の支援制度の見直し等では対応が困難な場合には、インフラは公的主体等が整備し、運行は運行事業者が効率的に行う「上下分離方式」を有効な整備方式として検討するべきである。この場合、個別のプロジェクトにどのような上下分離方式が適当であるかは、平成12年8月の当審議会第19号答申「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について」に示したように、新線か既設線かの別、事業規模の大小等の要素を総合的に判断する。
 また、港湾、空港については、公共事業による整備を基本としながらも、60年代後半から大都市圏の基幹インフラについて、自立採算を基本とする経営体にその整備・運営を行わせる方式が逐次採用されてきたが、最近、港湾におけるいわゆる「新方式」31制度や関西国際空港の二期事業における用地造成のように、公的部門の役割を従来よりも実質的に拡大する試みが行われている。今後、このような基幹インフラの整備に当たっては、経営体方式の適否、これらの新しい方式の敷衍、近隣の関連インフラとの連携なども視野に入れて、整備方式を多角的に検討する。
 なお、このような方式の導入に当たっては、投資のための投資といった安易な投資につながらないよう、投資対象の厳しい選別を行う必要があることは、論を待たない。

注31) 港湾におけるいわゆる「新方式」:
国際海上コンテナターミナルの利用料金の低廉化と利用効率の向上を目的として、国・港湾管理者が岸壁を、埠頭公社が背後ヤードをそれぞれ整備し、これらの施設を埠頭公社が一体的に運営する方式

c. 既存施設の有効活用と適切な維持・更新
 官民の投資環境が厳しさを増し、新規投資が難しくなってきている状況にあって、可能な限り既存施設の有効活用を進め、需要に対応していく必要がある。このため、新たな技術を活用した効果的な追加投資により機能の向上を図り、また利用環境を整備することなどにより、既存施設の有効活用を進めていくことが大きな課題である。
 また、経年化した施設の増加に伴い、適切な維持・更新が必要である。ITをはじめとする新技術を活用して、保守、延命化、更新等の措置を計画的に講じ、安全性を確保しつつ、維持・更新費用の最小化に努める必要がある。

(提言)
 既存施設の有効活用と適切な維持・更新を図るため、以下の政策を推進する。

在来線と新幹線の直通運転を可能とするフリーゲージトレインの開発・導入等による幹線鉄道の高速化を進める。
船舶の大型化等に対応した岸壁の改良、24時間フルオープン化、情報システムの高度化等により、港湾の効率的な利用とサービスの大幅な向上を進める。
空港の運用時間や空域、飛行経路等の見直しにより、航空輸送の利便性の向上や交通容量の拡大を進める。
交通インフラの延命化や事故の未然防止に資する、定量的評価による余寿命評価法や状態監視技術の開発を進めるとともに、保守・管理に係る人的負担を軽減(ミニマムメインテナンス化)するための技術の開発を推進する。

e. 交通インフラ整備事業の効率化・透明化
 投資対象の重点化等に加え、事業実施過程についてもその効率化・透明化を図る必要がある。

(提言)
 交通インフラ整備事業の効率化・透明化を図るため、以下の政策を推進する。

公共事業の効率的・効果的な実施のため、費用対効果分析を基本とする事業評価に関し、全ての分野において整合的な実施を図る。
事業実施過程での情報を公開し、さらにパブリック・インボルブメント(PI)手法の導入により住民参加を促進する。
公共事業の計画から供用までの全ての段階において、事業の遅延による機会損失や時間短縮による社会的便益を勘案した時間管理概念を導入し、適切な予算の管理・執行体制の下で事業の促進を図る。33

注33
公共事業の円滑な実施にあたっては、事業の遅延につながる要因の解消が重要である。このような観点から、現在は「伝家の宝刀」として実際には利用されない場合が多い土地収用制度について、適正な補償の下で、透明性を確保しつつ機動的な運用が可能となるよう、所要の改善がなされることが期待される。

(参考)政策提言の実現による成果

本答申で提言した政策を逐次実現していくことにより、次世代には、以下のような新たな交通システムが実現することが期待される。

地域内交通
 都市圏においては、快適な生活環境を求める地域住民が中心となって、公共交通を最大限活用した「都市と交通の改造」を行っている。すなわち、都市の周辺部における環状道路、パークアンドライド駐車場等の整備やレーン規制の実施等により、都市中心部の自動車走行台数は大幅に抑制されている。一方、朝夕の通勤・通学ラッシュ時でも混雑率が150%以内に改善された都市鉄道が基幹的な交通手段として機能し、主要な道路では基幹バスやLRT16が高頻度でスピーディなサービスを提供するとともに、使い勝手が高まったタクシー等により、高いモビリティが確保されている。これらの交通機関については、最先端のITを活用して交通情報の提供が行われている他、十分に考慮された乗換通路の整備や非接触型のICカード乗車券の普及により、乗換えがスムーズである。駅やその周辺の賑わいのある歩行空間や自転車走行空間は、ゆったりと整備され、ソフト面も含めあらゆるバリアが除去されているため、高齢者や身体障害者ばかりでなくすべての人々が安心して快適に歩き、自転車を利用することができる。さらに、駅やその周辺では、商業・業務施設だけではなく、公共・福祉サービス等の機能も集積した都市整備が進んでおり、駅の近くで様々な用が足せる。
 一方、地方圏においては、マイカーが主要な交通手段として活用されるとともに、小型バスや乗合タクシーによる輸送やITを活用したデマンド・バスの活用等により、多様な形での公共交通サービスの提供やコミュニティ内の相互扶助の考え方によるモビリティの提供も行われる。

地域間交通・国際交通
 大都市圏の拠点空港の整備や航空管制システムの高度化が進み、十分な航空交通容量が確保されるようになる。諸外国との路線網が飛躍的に充実するとともに、ビジネスジェット機の利用も容易となり、自由度の高い交流が進む。これにより、邦人の海外渡航者や我が国を訪れる外国人旅行者が大幅に増加する。国内においては、中小型機材の活用による運航頻度の増加や都市間の多様な路線展開が実現する。また、航空企業間の連携による路線間の乗継ぎの改善も進んでいる。また、新幹線のネットワークの充実とフリーゲージトレインの実用化等により幹線鉄道ネットワークの高速化が進み、五大都市圏と地方の主要都市が概ね3時間程度で結ばれる。さらに、高規格幹線道路等の整備に伴い、高速バスネットワークが充実する。空港、港湾、鉄道駅へのアクセスも改善され、主要な空港・港湾の大部分から自動車専用道路等のインターチェンジへ10分以内に、国際的な空港から都心部へ鉄道で30分台でアクセスできるようになる。この結果、三大都市圏を核とする基幹交通ばかりでなく、地方相互間のモビリティも着実に向上し、地方圏1 を含め、「一日交通圏」が拡大する。

物流
 情報ネットワークを介した企業間の連携や契約の合理化・明確化が進み、無駄を省いた輸送が行われるとともに、eコマースや高齢化等に対応した新しい物流サービスが提供される。また、循環型社会を支える効率的で環境への負荷の少ない静脈物流システムの構築が進む。
 ITの活用によりトラックの積載効率が改善するとともに、フォークリフト等を用いて迅速な荷役が行われる。都市内では、トラックベイや共同荷捌き場を利用して交通の流れを妨げずに貨物の積み卸しを行えるようになる。また、海上交通管制の高機能化、基幹的な航路の整備等により海上ハイウェイネットワーク13が構築されており、船舶のスピーディーな航行が実現するとともに、スーパーエコシップ12が実用化され、輸送効率が大幅に向上する。24時間フルオープン化した大水深岸壁に停泊する大型コンテナ船の荷役は迅速に行われ、入出港や輸出入に関連する手続も情報ネットワーク上で瞬時に行われる。また、主要な港湾・空港の大部分から自動車専用道路等のインターチェンジへ10分以内に到達できるようになる。この結果、ハード・ソフトの両面から、国際的に遜色のない水準の物流サービスが提供される。

環境と安全
 環境に優しい輸送機器の開発や普及が進む。特に、超低燃費車や低公害トラックの普及が進み、燃料電池車が実用化される。また、TDM8 施策や「海上輸送の新生」等により環境負荷の少ない交通システムが実現する。これにより、NOX 、PMや温室効果ガスの排出量が現在よりも相当程度減少し、大都市地域の環境基準や交通部門の二酸化炭素排出量削減目標が達成される。
 事故防止性能の高い自動車の開発や普及、衝突時の被害を軽減するための車両構造の改善、歩道、自転車道の整備、事業用自動車の運行管理の充実等が進み、運転者のミスによる事故が大きく減少するとともに、交通事故の弱者側の被害が軽減される。この結果、自動車交通事故の事故後30日以内の死亡者数が現在より1500人以上減少する。また、交通安全対策サイクルの好循環化により、その他の交通機関の事故も減少する。

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