国土交通省
 II 計画策定に当たっての基本的な考え方
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 鉄道整備を計画的かつ着実に推進していくには、建設資金について運賃収入を原則としつつ所要の公的支援措置等により回収していく見通しを立てることが必要となるが、既存の鉄道事業者は、導入空間確保の問題、駅工事の複雑化等から鉄道整備に要する費用が増大している一方で、今後は従来のような輸送需要の大幅な増加が期待できないため投資リスクが高まっているとの認識のもとに、新規路線等の大規模投資に消極的になっている。また、国及び地方公共団体は、財政状況が厳しく鉄道整備に対する支援について一般的にその拡大が容易でない状況にある。
 このような状況の中で、今後東京圏において必要となる鉄道整備を円滑に進めていくためには、輸送需要動向や社会的ニーズに的確に対応した投資を効率的かつ重点的に実施していくことが特に重要である。このため、現在工事中の路線の整備を円滑に進めるとともに、既存ストック活用の観点から、これまでの鉄道整備の蓄積である既設路線を改良し高度利用を図ることにより鉄道のリノベーションを積極的に推進するものとする。それでもなお、東京圏において鉄道に求められる諸課題に適切に応えられない場合は、新しい路線の整備等を行うこととし、その際も、既設路線の延伸、短絡線の整備等、できる限り既設路線ネットワークの高度利用を図るとともに、貨物鉄道の円滑な運行に十分配慮するものとする。また、この計画策定に当たっては、新設路線等の整備が、既設路線又は現在整備中の路線に係る投資効果の減殺や運行回数の減少等のサービス水準の低下をもたらす場合があることにも留意し、全体としての鉄道ネットワーク機能の強化を図るものとする。
 以上の点を踏まえて、計画策定に際し東京圏の鉄道について今後対応しなければならない課題ごとの基本的な考え方は以下のとおりである。


1 混雑の緩和

 東京圏における通勤、通学時の混雑緩和対策は、かねてより都市鉄道対策の最重要課題であり、かつ、質の高い交通サービスを確保する上での緊急課題である。
 そこで、現在整備中の常磐新線の建設、小田急電鉄小田原線等の複々線化等を着実に推進するとともに、埼京線等の混雑率の高い路線においては、線路の平面交差の解消、信号保安施設の改良等による運行本数の増加や車両の長編成化を進める等、既設路線を高度利用した輸送力増強対策に最善を尽くすことにより、ラッシュ時の混雑緩和対策を図るものとする。
 また、新たに、JR中央線、総武線、京浜東北線等の将来的にも混雑率が高いと予想される路線については、その混雑緩和を図ることを目的に、JR京葉線を延伸して東京から地下で新宿を経てJR中央線三鷹に至る路線、JR総武線と京葉線を接続する路線等の整備を行うものとする。
 また、新設路線の整備には長期間を要するとともに、路線によっては将来にわたりなお高い混雑率が続くこと等も踏まえ、輸送力増強対策と併せてオフピーク通勤対策の積極的な推進を図るものとする。
 これにより、2015年(平成27年)における東京圏の主要31区間のピーク時の平均混雑率を1998年(平成10年)の183%から、1992年(平成4年)の運輸政策審議会第13号答申で大都市圏における鉄道混雑緩和の長期的目標としている150%にするとともに、個別路線においてもピーク時混雑率を基本的に180%以下にすることを目指す。また、180%以上の混雑区間の長さについても大幅に短縮するものとする。


2 速達性の向上

 近年における時間価値の高まりや地域間の連携・交流の拡大に伴い、鉄道の速達性向上に対する利用者ニーズが強くなっている。このため、郊外部から東京中心部に向けた速達性の向上のみならず、国際中枢機能を担う都心や副都心、業務核都市等を相互に高速で連絡する広域的な鉄道ネットワークの整備が必要である。
 郊外部からの速達性の向上については、現在整備中の東京急行電鉄東横線、小田急電鉄小田原線等の複々線化等を着実に進めることにより、ピーク時間帯における表定速度の向上を図るととともに、常磐新線等の郊外から東京中心部に向けた高速鉄道の早期完成を図る。併せて、現在整備中の東京臨海高速鉄道臨海副都心線とJR埼京線、営団13号線と東京急行電鉄東横線、営団南北線・都営三田線と東京急行電鉄目蒲線等において相互直通運転化を進めることにより、速達性の向上と併せて東京圏における広域的な鉄道ネットワークの形成を図る。
 また、既設路線の改良等の観点からは、京成電鉄八広駅等の鉄道駅における追越し線の整備による急行運転の拡大、都営新宿線等における信号保安施設の改良等による既設線の表定速度の向上、東京急行電鉄大井町線の追越し施設の整備等による急行運転化実施に伴う速達性の向上及び輸送力の増強を図るものとする。
 新たな路線としては、埼玉県、千葉県等における鉄道利用が不便な地域から東京中心部への速達性向上を図るため東京7号線、東京8号線等の延伸や、現在上野止まりのJR東北線、高崎線及び常磐線を東京まで延伸し東海道線と相互直通運転化を行うこと、千葉方面から東京・新宿の東京中心部を貫通してJR中央線三鷹方面に至る新たな高速鉄道の整備を行うこと等により、東京圏全体において速達性の向上を図るとともに、東西方向、南北方向など多方面にわたり、東京中心部を貫通する広域的な高速交通軸を大幅に拡充・強化していくものとする。


3 都市構造・機能の再編整備等への対応

 今後の東京圏においては、現在の東京中心部への一極依存型構造を是正し、東京中心部と近郊地域の業務核都市等が適切な機能分担と提携を図る分散型ネットワーク構造を目指すこととしており、この観点から臨海部の再編や拠点駅周辺の都市再開発等の新たな都市構造の再編等が検討されている。鉄道は、このような都市構造・機能の再編整備に対応して各拠点間の連携・交流を支える基盤施設としての機能を有しており、その観点からの鉄道整備に対する期待が高まっている。
 このため、現在整備中の東京臨海高速鉄道臨海副都心線、都営12号線、みなとみらい21線、常磐新線等について、着実にその整備を進めるものとする。また、今後は、上記2の速達性の向上に資する路線整備により業務核都市間等の鉄道利便性の向上を図るとともに、横浜市においては元町、中山、日吉、鶴見等を連絡する環状方向の、川崎市においては新百合ヶ丘から川崎に至る縦貫型の鉄道整備を行うとともに、東京都区部においても新しい環状方向の鉄道整備を検討するほか、今後京浜臨海部等において予定されている新しい都市整備プロジェクトの推進と鉄道整備のあり方について、個別に検討を進めるものとする。
 さらに、埼玉県の国際アメニティタウン等大規模な住宅開発が予定されているが鉄道利用が必ずしも便利でない地域については、沿線開発等による将来の輸送需要動向を十分踏まえつつ、既設路線を延伸すること等により、東京中心部との間の鉄道利便性の向上を図るものとする。また、臨海副都心、幕張地区等においては、地域内におけるきめ細かなニーズに適切に対応できる中量軌道システムの整備又は検討を行うものとする。


4 空港、新幹線等へのアクセス機能の強化

 あらゆる分野でグローバル化が進む中で、また、広域的な連携・交流の必要性が高まっている中で、国内外の地域相互を結びつける航空、新幹線等の幹線交通機関に係る輸送需要は今後とも順調に増加することが想定されている。こうした中で、成田空港及び羽田空港や、東京駅、品川新駅及び新横浜駅へのアクセスについて、所要時間、乗換回数等の面でアクセス利便性が十分確保されていない地域がかなり広範囲にわたっており、その利便性を向上することが強く求められている。
 成田空港については、北総開発鉄道北総・公団線と成田空港を接続する新しいルートを整備し、東京中心部との間の所要時間を短縮するとともに、今後大幅な増加が予想されるアクセス需要への適切な輸送力を確保するものとする。また、東京1号線(都営浅草線)を東京駅に接着し新しいルートと相互直通運転化し、これにより、都心部のターミナルである東京駅と成田空港、羽田空港を一つの路線で連絡するものとする。そして、これらの措置と、上記2の速達性の向上に資する路線整備等との相乗効果により、アクセスに係る所要時間、乗換回数等の改善を図るものとする。
 羽田空港については、京浜急行電鉄空港線の京急蒲田駅を改良することにより取付け部分を複線化して輸送力増強を図るとともに、横浜方面との直通運転化を可能とし、併せて、川崎駅等において京浜急行電鉄本線と川崎市を縦貫する新しい路線等との間の乗継ぎ円滑化を確保するものとする。東京モノレールについては、浜松町駅を改良し取付け部分を複線化して輸送力増強を図るとともに、天王洲駅において現在整備中の東京臨海高速鉄道臨海副都心線との乗継ぎ円滑化を確保するものとする。また、新たに東京急行電鉄目蒲線と京浜急行電鉄空港線の短絡線の整備、東京1号線(都営浅草線)の東京駅接着や上記2の速達性の向上に資する路線整備等を進めることとし、これらの措置により、アクセスに係る所要時間、乗換回数等の改善を図るものとする。
 東京駅及び品川新駅については、JR東北線、高崎線及び常磐線の東海道線乗入れを図ること等により、また、新横浜駅については、新たに神奈川県東部内陸部から新横浜を経て東京急行電鉄東横線に接続する路線の整備や横浜3号線の新百合ヶ丘方面への延伸を行うこと等により、アクセスに係る所要時間、乗換回数等の改善を図るものとする。
 なお、将来的には、首都圏における新たな拠点空港の構想について検討されているところであり、その検討状況を踏まえつつ、鉄道整備のあり方等について検討するものとする。


5 交通サービスのバリアフリー化、シームレス化等の推進

 高齢社会の急速な進展や、近年における国民の価値観、生活様式の大きな変化等により、鉄道をはじめとする公共交通機関について、より質の高いサービスを求めるニーズが今後一層高まっていくと考えられる。
 このため、鉄道駅においては、エレベーター、エスカレーターの整備等による段差の解消、高齢者、障害者等が利用しやすい券売システムの整備等のほか、切符購入等の駅利用に関するわかりやすい案内情報の提供や駅係員等による適切な案内等を図るとともに、車両における車椅子スペース等の確保、さらには安心して利用できる十分な幅を有するプラットホームの整備や混雑緩和対策等を含めた広い意味でのバリアフリー化を積極的に進めるものとする。
 さらに、鉄道相互間や鉄道と他の交通機関との間の接続や乗継ぎの円滑化を図るため、交通機関相互の乗継ぎに係る「継ぎ目」をハード、ソフトの両面にわたって解消し、出発地から目的地までの移動を全体として円滑なものにするというシームレス化を積極的に進めるものとする。このため、今後は、新たな路線の整備、既設路線の改良等に際しては、極力、鉄道相互の直通運転化や同一ホーム・同一方向乗換化、乗継ぎ経路の短縮等を進めるものとする。また、鉄道とバス、マイカー等との乗継ぎ円滑化を図るため、鉄道整備と都市整備等との連携により、鉄道駅と駅前広場等が一体となっての交通結節機能の機能強化を図っていくものとする。
 また、ソフト面の対策として、割高となる鉄道相互の乗継併算運賃の改善、他の事業者との共通利用が可能なカード乗車券の導入等を推進するとともに、鉄道のフィーダー輸送としてのバス等と鉄道の円滑な乗継ぎを確保するため、鉄道・バス共通のカード乗車券の普及促進、乗継案内等の情報提供等の充実を図るものとする。

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