国土交通省
 IV 計画実現に当たっての方策
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 東京圏において鉄道に求められる諸課題に適切に対処するには、国、地方公共団体、鉄道事業者等の関係者が、その果たすべき責務及び役割分担を踏まえ、この答申による計画を着実に推進していくことが必要である。そのためには、整備・運営主体の確立、建設資金の確保等とともに、整備費用の軽減・工期の短縮等、鉄道整備と都市整備等との一層の連携強化、バリアフリー化・シームレス化の推進、オフピーク通勤対策の強化、安定的な経営の確保等の問題に適切に対処していくことが重要となる。また、これらの施策を適切かつ円滑に推進するには、鉄道整備の企画立案段階から関係者間で十分な調整・連携を図るほか、利用者等への適切な情報提供等を進めていく必要がある。


1 整備・運営主体の確立、建設資金の確保等のあり方

 前回の第7号答申時までは輸送需要が大幅な増加傾向にあったこと等から、既存の鉄道事業者にまだ投資意欲があったが、近年は、輸送需要の大きな増加が見込めないこと、整備費用が増大していること等から大規模な投資に消極的になっている状況にある。
 このように、今後とも鉄道整備の社会的要請が強いものの、鉄道事業者に従来のような積極的な投資を期待することが困難になっているなど、鉄道整備を取り巻く環境は大きく変化してきている。そこで、近年、整備・運営主体のあり方としてPFI方式やいわゆる「上下分離方式」(公的主体が主導的に整備主体となり、運営は効率性に優れる既存事業者の能力を活用する方式等)に対する関心が高まっているが、今後の鉄道整備に際しては、その整備・運営主体をどのようにして確立していくかが重要な検討課題となっている。
 また、投資規模が大きく、かつ資本の懐妊期間が長期にわたる鉄道整備については、その公益性にかんがみ、従来より国及び地方公共団体において、所要の建設資金確保のため政策融資等を活用するとともに、補助金交付、税制優遇措置等の公的支援措置を講じてきたところである。しかし、以上に述べた鉄道整備を取り巻く環境の大きな変化を踏まえると、整備・運営主体の問題と併せて、既設路線の改良も含め鉄道整備に係る建設資金の確保の問題が重要な検討課題となっている。
 整備・運営主体、建設資金の確保のあり方等の問題については、現在、運輸政策審議会鉄道部会において、1998年(平成10年)12月の諮問「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について」を受け、この答申と同じ問題意識のもとに幅広く審議されているところであり、同部会においては、東京圏において鉄道に求められている諸課題に的確に対応していく観点から実効ある対策を示されることを強く望むものである。


2 鉄道整備の円滑化等

 (1)整備費用の軽減、工期の短縮等

 東京圏の鉄道整備においては、導入空間確保の問題や駅工事の複雑化等により建設費が高騰し、また、工事過程における既埋設物との調整等から工事が長期化しており、これらが相まって整備費用の増大、開業時期の遅れ等の問題が生じている。
 整備費用の軽減を図るためには、まずは、鉄道事業者において計画段階で整備内容が過大とならないように将来の輸送需要に見合った輸送システム(例えば、小型地下鉄等)や駅施設等を選択するとともに、連続立体交差化事業等の都市整備事業と連携し、両者の一体的な整備により相互の建設費の縮減等を図るものとする。また、建設費の節減効果がある新しい技術を開発・導入するほか、国等においては、技術開発の成果が鉄道関係者全体で活用できるように措置する必要がある。
 さらに、鉄道整備においては、時間的効率性を意識した事業促進に取り組むことが必要であり、鉄道事業者、関係行政機関等はこれまで以上に時間管理概念を重視するものとする。このため、住民との合意形成や関係機関との調整等の必要性から2年から3年程度の期間を必要としている都市計画、環境影響評価等の手続や、鉄道整備に際しての道路管理者、河川管理者、教育委員会等との調整について、関係機関相互の連携を綿密にし、その一層の円滑化を進めるものとする。また、公共の福祉を優先させるという土地基本法の理念の下に、必要に応じて土地収用制度の積極的活用を図るものとする。
 また、鉄道整備に際して防振、防音等の環境保全に十分配慮することはいうまでもなく、この観点から、鉄道事業者等は環境保全に係る新しい技術の開発・導入を積極的に行うものとする。

 (2)利用者及び住民の理解の促進

 鉄道整備の円滑化を図るには、上記のほか、その整備の必要性、工事内容、環境対策等に関し利用者及び住民の理解と協力を得ることが重要であり、これまでは、主として都市計画や環境影響評価の手続の一環として説明会、公聴会等を開催し住民等の意向把握、合意形成を行ってきている。また、鉄道整備の基本計画を策定する本審議会では、パブリック・インボルブメントの必要性を踏まえ、幅広く国民の意見を募り、審議に反映したところである。
 今後は、これに加え、地方公共団体、鉄道事業者等は、鉄道整備に係る企画立案段階から、可能な範囲で、その整備内容、整備による利便性向上の内容、公的支援措置等に関する情報を利用者及び住民に対し適切に提供し、併せて、利用者ニーズ等を幅広く把握し、これを具体的な鉄道整備内容に反映させることが必要である。また、鉄道整備過程においても、適宜、導入空間の確保、工事の進捗等の状況に関し、積極的に情報提供し、鉄道整備の円滑化につき利用者及び住民の理解と協力に努めることが重要である。


3 鉄道整備と都市整備等との連携強化

 鉄道は、日常生活を支える基幹的な公共交通機関であるのみならず、都市機能を維持し、又はその発展を支える上でも重要な役割を担っていることから、従来にも増して鉄道整備と都市整備等との連携を強化していくことが必要である。
 このため、今後の東京圏における鉄道整備や既設駅の改良等に当たっては、連続立体交差化事業、駅周辺の再開発事業等といった都市整備等との間で、これまで以上に、街づくりの観点からの整合性を確保するとともに、効率的な事業実施の観点から可能な限り両者の一体的な整備を図ることにより、例えば、土地区画整理事業等で生み出された用地を活用した鉄道の導入空間の確保、市街地再開発事業と連携した新駅設置、既設駅改良等を推進していく必要がある。特に、大規模な都市再開発、ニュータウン整備等の拠点開発と関連する鉄道整備においては、計画立案段階から開発スケジュール、輸送需要見通し等について関係者間の調整を綿密に行うことにより、両者の事業進捗の整合性を確保し、その円滑な整備を図ることが重要である。
 また、都市機能を支え環境にやさしい大量公共交通機関である鉄道がその特性を十分に発揮するには、沿線の宅地開発、鉄道駅周辺の再開発等の計画的推進や、鉄道駅へのアクセス道路の整備、鉄道駅と駅前広場等の一体的整備等による鉄道とバス、タクシー、自家用車等の交通結節機能の強化、連続立体交差化事業の推進等が重要であることから、鉄道整備に際しては、都市整備等とこれまで以上に十分な調整を図るものとする。
 さらに、鉄道駅は日常的に多数の利用者が集散する場所であり、駅前広場等と一体となって重要な都市機能を発揮しているが、今後は、さらに魅力的な街づくりを実現していく観点から、鉄道整備と都市整備等の連携強化により、鉄道で分断された地域相互の連絡や鉄道、バス等の交通結節機能の強化等に資する自由通路や人工地盤等の整備、高齢者、障害者等の移動円滑化に資するバリアフリー化等を進めることにより、鉄道駅及びその周辺の快適空間化を図るとともに、個性的で洗練されたパブリックアート等を活かし都市の顔として、ゆとりと潤いのある文化的空間化を推進していく必要がある。また、近年、鉄道駅に対しては、ターミナル機能を活用して、従来からのショッピング機能等のほか、市役所等の窓口、託児施設、図書館等の公共的機能や、他の交通機関との乗継情報を含め地域に係る多様な情報発信機能等を有することが求められており、鉄道事業者、関係行政機関等において相互に連携を図りながら、その多機能化に努めるものとする。


4 鉄道の利便性向上、オフピーク通勤対策の強化等

 (1)交通サービスのバリアフリー化、シームレス化等の推進

 社会の高齢化の急速な進展や国民の価値観の変化等を踏まえ、質の高い交通サービスを提供するためには、鉄道駅等のバリアフリー化や交通機関相互の乗換に係るシームレス化を積極的に推進する必要がある。
 鉄道駅のバリアフリー化については、これまでも着実な整備が図られてきたところであるが、社会の高齢化の急速な進展等に適切に対応する等の観点から、「生活空間倍増戦略プラン」(1999年(平成11年)1月29日閣議決定)において、段差が5m以上あり、かつ、一日の乗降客数が5千人以上の鉄道駅について、原則として2010年(平成22年)までに所要のエレベーター・エスカレーターを整備することを目標にバリアフリー化を進めることが決定されている。しかし、鉄道駅のバリアフリー化は収益向上に直結しないこと等から、鉄道事業者の自主性のみに委ねていては、その進捗に限界があると考えられる。そこで、その確実な整備促進を図るためには、鉄道事業者に一定の責務を定め、また、鉄道駅、鉄道車両のみならず道路管理者等と連携して駅前広場及び駅周辺の道路等も対象として、一体的な移動円滑化を推進するための立法措置を講ずるとともに、鉄道事業者の経済的負担にかんがみ国及び地方公共団体による支援措置を図ることが必要である。
 シームレス化については、1999年(平成11年)の鉄道事業法の一部改正において、異なる鉄道事業者間における相互直通運転化、同一ホーム・同一方向乗換化等を促進することを目的に、鉄道事業者間の協議応諾義務、運輸大臣の裁定等のルールを法的に整備したところであり、今後、その積極的な活用を図ることが期待される。また、鉄道相互間のみならず、鉄道とバス、タクシー、自家用車等の乗継ぎ円滑化を図るため、鉄道駅とバスターミナルの乗換距離の短縮、パーク・アンド・ライド用の駐車場の整備等といったハード面とともに、鉄道・バス共通のカード乗車券の普及促進、乗継案内情報の提供等のソフト面の対策を講ずるものとする。

 (2)オフピーク通勤対策の強化

 東京圏においては、通勤混雑緩和を図る施策として、従来より、鉄道整備等による輸送力増強対策に加えて、フレックスタイム制の導入促進等を通じたオフピーク通勤対策を推進してきたところである。ピーク時の混雑緩和対策は東京圏における最重要課題であり、今後とも既設路線の輸送力増強、新設路線の整備等を推進していくこととしているが、それでも2015年(平成27年)の主要31区間の平均混雑率は大都市圏における長期目標である150%には達しないこと、新設路線の整備等には相当の時間を要するとともに、JR総武線緩行等のように路線によっては将来的になお高い混雑率の水準が続くことが予想されること等を踏まえると、今後ともオフピーク通勤対策の積極的な推進により、ピーク時間帯の分散を図ることが不可欠である。しかし、これまでのオフピーク通勤対策は広報啓発活動が中心であり、東京中心部に立地する事業所の受ける経済的メリットが乏しいこと等もあり、必ずしも十分な成果があがっていない現状にある。
 そこで、今後は、従来から行ってきた広報啓発活動に加え、新たに、オフピーク通勤を実施する企業に係る税制上の優遇措置やピーク時運賃を相対的に高く設定する時差定期券等の導入等の経済的インセンティブを付与することを検討し、その推進強化を図るものとする。また、その際は、ピーク時間帯前後においても適切な輸送力を確保するものとする。

 (3)モニタリング、利用者への情報提供等

 今後、質の高い鉄道サービスを実現していくためには、国、地方公共団体、鉄道事業者等は、利用者の望む鉄道サービスの水準、利用者ニーズの内容等を常に的確に把握しておく必要がある。このため、国においては、利用者の関心の高い混雑率、速達性、乗継ぎ利便性等に関する情報を適切にモニタリングするとともに、これらの情報については、鉄道事業者にとり不利な情報も含めできる限り公開し、併せて利用者の声を汲み上げること等により、鉄道サービス改善に係る行政施策に反映するものとする。
 鉄道事業者においては、必要に応じ他の事業者等とも連携しつつ、インターネット等の各種媒体を活用して、これまで以上に混雑区間・時間帯等の利用者が必要とする情報の提供や利用者ニーズの把握に努め、その成果を具体的なサービス改善に反映するものとする。また、列車遅延、非常事態発生等の場合における利用者に対する案内情報の提供、避難誘導等について適切に対応できるよう、常日頃から万全の体制を整えておくことが必要である。


5 安定的な経営の確保

 (1)鉄道整備に際しての輸送需要、採算性の見極め等

 鉄道事業において良質なサービスを安定的に提供していくためには健全な経営の確保が不可欠であり、そのためには、鉄道輸送に適した輸送需要が安定的に存在することが必要となる。そこで、この答申路線の具体化に当たっては、鉄道事業者等は、その時点において改めて将来的な需要の見通し、採算性等について十分見極めた上で整備に着手するものとする。なお、都市再開発、ニュータウン整備等の拠点開発に関連する鉄道整備について、開発の遅れ等により、想定した輸送需要が確保できず、収支状況の悪化が想定される場合は、当該事業者の経営効率化措置を前提に、鉄道事業者、当該拠点開発の主体、関係地方公共団体等の関係者が緊密に連携し、できる限り早い時期に経営改善に向けた取組みを検討・実施すべきである。

 (2)適切な運賃水準の設定、輸送需要の喚起、事業資金の確保等

 安定的な経営を確保する観点から、鉄道事業者に対しては、効率的な経営が強く求められており、今後とも安全確保を大前提に業務の機械化、アウトソーシング化、退職者の嘱託化等を積極的に推進する必要がある。
 また、鉄道事業の収入原資である運賃については、健全経営が確保できるよう、効率的経営を前提に所要の原価が賄える水準に設定することは当然であるが、併せて、鉄道事業者においては、既設路線利用者に過度な負担をかけないよう新規整備路線等に係る加算運賃制度の活用を図るとともに、鉄道投資の多くはピーク時における輸送力増強対策に係るものであることに着目し、ピーク時利用者の運賃負担のあり方について別途検討していく必要がある。
 さらに、輸送需要の喚起を図る観点から、利用者ニーズの多様化に対応した各種割引運賃の活用、異なる事業者間を乗り継ぐ場合における運賃の割高感の改善等を図るとともに、バスも含め全ての事業者間で利用可能な共通乗車カードの導入を目指すものとする。
 なお、鉄道事業においては、整備着手から開業までに相当の期間を必要とし、開業後も、単年度黒字化して累積赤字を解消するまでには30年前後かかるのが一般的であることから、建設資金とともに長期にわたる事業資金の安定的確保が必要不可欠である。市中金融機関からの資金調達環境が悪化している現状等を踏まえると、既設路線のネットワークや兼業部門を持たない第三セクターの鉄道事業者を中心に、安定的な事業資金の確保は極めて重要かつ深刻な問題であり、当該鉄道事業者はもちろんのこと、出資者である地方公共団体等は、長期的な健全経営の見通し及び資金計画を確立するとともに、安定的な事業資金確保に万全の措置を講ずる必要がある。

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