国土交通No.133
11/24

11になったと考えて良いと思います。その結果、よりはっきりと社会資本の効果を感じることができるようになった、ということかもしれません。—それでは現在のような公共投資を続けていけば良いのでしょうか。実はそういうわけにもいきません。というのも、高齢化による社会保障費の増大や累積する財政赤字によって、かつてのような水準で公共投資への資金を準備することはできなくなっています。さらに、社会資本は永遠に存在し続けるものではなく、時間がたてば老朽化によってストック効果は徐々に失われていきます。現在ある道路や橋、水道や下水道などの多くのインフラ(社会資本)は高度成長期に整備されており、それらの寿命と考えられている50年の節目が訪れてきています。つまり、今後、更新の費用が増加すると心配されており、 国土交通省の推計では、2013年度に約3・6兆円あった維持管理・更新費が、10年後には約4・3~5・1兆円に跳ね上がると予測されています。しかし今の日本の財政状況では、過去と同水準のインフラを整備する余裕はありません。今あるものをどうメンテナンスするか、企業の生産性を効果的に向上させ、日本経済全体をうまく底上げするような公共投資を行うことが重要だと思います。少子高齢化社会に適した社会資本の整備の仕方とはちょうど80~90年代のアメリカにおける社会資本整備は現在の日本における社会資本整備と同じような課題に直面していたように思えます。70年代のアメリカでは石油ショックによりインフラの維持補修費用が削られ、その結果と端的には言い切れないものの、高速道路の橋が落ちるような事故が続発しました。加えて、労働生産性(国民1人当りのGDP)の伸び率も鈍りました。そこで社会資本が朽ちたために、労働生産性に悪影響を及ぼしたという説が注目を集めるようになっていました。このようなアメリカの教訓を踏まえて、同じようなことが日本で起きないようにするためには「選択と集中」ということをせざるを得ないのではないかと思います。—「選択と集中」というのは、具体的に言うとどのようなことでしょう。ストック効果を考えて、投資するだけの正当性があるものを選び、それに資金を集中させるということです。現在日本の人口は1億3千万人近くいますが、2060年には1億人を切ってしまいます。また高齢化率も非常に高く、生産年齢人口が今後50年で半減してしまうとなると、これまでのように全国津々浦々にインフラを整備することが無理なことは自明の理でしょう。このような状況下で考えられているのが、都市のコンパクト化です。人の移住を誘導し、インフラがカバーしなければならない場所を縮小させるというものです。例えば高齢者向けサービスを充実させた施設を計画的に作り、高齢者が安心して暮らせる場所を集中させることができれば、インフラ整備の問題にも高齢化社会にもうまく適応できるかもしれません。いずれにせよ、地域の中でインフラを整備する空間をどうマネジメントするか、国や自治体が向きあわなければならない課題はとても大きいと思います。選択と集中一定の投資に対するストック効果向上は、地域の生産性や地価の向上などから測定できる。投資額に対する効果の効率は、地域の特性、経済や人口、その他のさまざまな条件で変わる。より少ない財政で効果の高い社会資本整備を進めるために、人の居住を誘導しつつ、より投資効率が大きいところに集中投資を行うことが、「選択と集中」の基本的考え方である。社会資本が効果を持つ範囲は有限である相乗効果の高い地域に人を集めれば効率が上がる各国の社会資本への投資額がその国のGDPに占める比率の推移日本の数値は90年代と比べると半分近くまで減っているが、他の先進国と比較すると、同水準に落ち着いてきたとも見ることができる。また、日本は山脈や海峡が多く、橋やトンネルを必要とする地勢条件などから、投資水準が高くなりやすい側面もあると考えられる。6.00%5.00%4.00%3.00%2.00%1.00%0.00%199019911992199319941995199619971998199920002001200220032004200520062007200820092010201120124.0%3.3%3.2%3.1%2.3%2.2%1.5%3.5%カナダフランススウェーデン米国オランダ英国日本ドイツストック効果

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です