国土交通No.133
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20体や学校の校長や生徒会長、商工会等と、自治体、事業者からなる「運営委員会」を設置し、利用者の増加や利便性・満足度アップのためのアイデアを出し合った。そして日本一心ゆたかなローカル線を目指して、住民は駅美化や集客のためのイベント開催などを行い、行政は地域づくりとしての支援、そして事業者においては社長自らが沿線の実情を把握するために各駅を歩いて視察したと言う。廃線も検討された貴志川線が奇跡ともいえる存続を果たした背景には、こうした住民・行政・事業者の三位一体での取り組みがあったのだ。そこへ日本の民営鉄道では初となる猫の駅長、三毛猫の「たま駅長」が誕生。国内にとどまらず、海外からも旅行者が押し寄せるほどの人気者となった「たま駅長」の客招き効果も加わり、年間200万人を切っていた乗客数は220万人以上に増加。和歌山電鐵は地方鉄道の再生モデルといわれるようになった。平成21年には地域公共交通優良団体国土交通大臣表彰も受賞した。ネコの駅長!ネコの観光特別大使!!貴志川線には「たま駅長」の他に、もう一匹猫の駅長がいる。和歌山電鐵本社がある伊いだきそ太祈曽駅の駅長「ニタマ」だ。当初たま駅長の部下として就任し、たま駅長の代行業務などで研修をしていたが、後にニタマちゃんにも正式辞令が交付され、駅長となったのだ。明るく人なつこい性格のニタマ駅長は一躍人気者となり、乗客数等アップの立役者ともなった。さらには市のPRに貢献していると「和歌山市観光特別大使〝アゼリニャ〟」に就任するなど、ニタマ駅長大活躍である。住民の交通手段と元気なまちのために地域公共交通は交通手段としてだけではなく、地域の活性化にも重要な役割を果たしている。濵口さんは「人の流れを作ることが、元気なまちをつくることになるんです」と話す。実際に貴志川線沿線ではイベントの開催はもちろんだが、お立ち寄りスポットやグルメをまとめたマップ、レンタサイクル〝たま自転車〟に乗って周辺のパワースポット等を探索するサイクリングマップを作成したりと、地域全体での取り組みが盛り上がりを見せている。しかし地方鉄道を取り巻く環境は極めて厳しいのが現状で、貴志川線を支える人々は今も変わらず精力的に存続運動を行っている。「素晴らしいのが9年経った今でも“つくる〟会の熱心な取り組みが変わらないことです」(山木さん)。市の職員上うええ江さんも「住民も電鐵さんも本当に一生懸命取り組んでいます。行政としてもできるだけの支援をしていきたいと思っています」と語った。人々の想いが詰まった魅力溢れる貴志川線。かわいい駅長さんやユニークな電車、そして車窓からののどかな景色を訪ね、癒やされてみては。▲和歌山市観光特別大使“アゼリニャ”のニタマ駅長和歌山市の観光キャンペーンスタッフ“アゼリア”(市花「つつじ」の英語名)にちなみ、猫のニタマ駅長は“アゼリニャ”!地域公共交通優良団体国土交通大臣表彰地域公共交通に関する取り組みが他地域の模範となるような顕著な功績がある団体を表彰することで、優良事例の情報提供等を図ることを目的としたもの。▲貴志川線の未来を“つくる”会の取り組み。つくる会の方はいつも黄色のジャンパーを着て貴志川線を支えている。▼DESIGNED BY EIJI MITOOKA+DON DESIGN ASSOCIATES(左から)いちご電車、おもちゃ電車、たま電車。ユニークなのは外装だけではない。それぞれのモチーフが所狭しと散りばめられた車内は、思わず心がほっこりし、幼少の頃に引き戻してくれるような気分に。たま駅長は取材後の平成27年6月22日ご逝去され、同年6月28日、最後の辞令により名誉永久駅長になられました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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