国土交通省No.135
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15海上運航の安全を守るPSC世界をつないでいる海。人や物資の交流に、海は大きな役割を果たしている一方、自然の大きな力はときに悲惨な事故も引き起こします。海上運航の安全を守るため、19世紀後半から国際条約などが策定されるようになりました。1912年に発生した豪華客船タイタニック号の衝撃的な沈没事故を契機に、船舶の構造や設備に関する取り決めの必要性が再認識され、1914年に海上における人命の安全のための国際条約が採択されました。これをSOLAS(Safety of Life at Sea)条約といい、現在、海事分野の国際ルールの中でも中心的なものとなっています。その後もMARPOL条約(海洋汚染防止条約)やSTCW条約(船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する条約)など、国際海事機関(IMO)や国際労働機関(ILO)で国際条約が採択されてきました。しかし数多くの約束事も守られなければ無意味です。条約を批准していない国や、国の検査が不十分で条約基準に達しないまま航行している船舶が増えてくると、1970年代にはフランス沖でのアモコカディス号の座礁・油汚染事故に代表される大規模な海難事故が発生しました。事故の影響を大きく受けた欧州を中心に、国際条約の基準に適合しない船を排除すべきとの機運が高まり、寄港国において立入検査をする体制が確立されました。この立入検査がPSC(Port State Control:外国船舶の監督)です。日本に寄港した外国船舶に対してPSCを行うのが、全国の地方運輸局などに配属されている外国船舶監督官です。2人1組で確実な検査を横浜第2合同庁舎にある関東運輸局・海上安全環境部には、10名ほどの外国船舶監督官が所属しています。通常、事務官と技官が2人1組になって、横浜港などに入港した外国船舶の検査を行います。取材に訪れた日は、大黒ふ頭に着岸したパナマ船籍の自動車運搬船に対してPSCを行いました。寄港した船舶は、過去の検査結果などの情報から検査対象としての優先順位が判断されます。過去の検査が優良な船舶ほど検査の優先順位は低くなり、条約の基準を守らない質の悪い船舶は優先的に選定されます。外国船舶監督官は選定した対象船舶を抜き打ちで検査します。今回担当したのは、事務官の渋谷和也と技官の関口理絵です。2人はまず、船体にダメージがないか、塗装や錆の状態はどうかといった船の外観をチェック。その後、外国船舶監督官の身分証明書を提示し、セキュリティチェックを受けて乗船します。日本に寄港していても、船内は国内ではなく外国の扱いです。本船の共通言語は英語。このパナマ船籍の自動車運搬船の船員は、全員フィリピン人でした。乗船後にまず船長室を訪れると、2人は笑顔で船長と握手を交わし、PSCの実施を伝えます。そしてさっそく航海状況などの聞き取りを行いながら、各種証書類の確認作業に入ります。渋谷と関口の指示により船長が船員に次々と書類を提示させ、2人がそ外観のチェックは岸壁側のみを目視で確認する。港に停泊する際に衝突して傷が生じるケースもあるため、確認は丁寧に行う。主に船長室での書類確認。必要な書類がそろっているかはもちろん、条約証書の有効期間、船員の資格、設備の点検・整備の記録など、安全に関わるあらゆる項目を一つ一つ確認していく。2れを入念にチェックします。船舶にはさまざまな書類があるため、この作業はスムーズに進んだ場合でも約1時間はかかります。書類の確認後は、ブリッジやエンジンルームなど船内の主だった場所を回り、各種設備や機器類の状態を確認します。移動中は基本的に目視で異常や破損の有無を確認し、必要だと判断した場合には船員にも機器の操作や作動のデモンストレーションを行わせま

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