航空

管制情報処理業務・システムの最適化計画

  • 2009(平成21)年6月12日
  • 国土交通省情報化政策委員会決定
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1.業務・システムの概要

  • (1)業務・システムの概要
     国土交通省は、航空法に基づき、国土交通大臣が実施する航空交通の管理、航空交通の指示、飛行計画の承認、情報の提供等を実施する航空管制の支援を目的とした管制情報処理業務を昭和40年代に導入し、安全かつ円滑な航空交通を確保するために国内外の各管制機関等から得る飛行計画情報、飛行経路・高度等の管制指示情報、地上及び衛星から得る航空機位置情報、気象庁等から得る気象情報その他の膨大な関連情報をリアルタイムにコンピュータ処理し、航空管制官等に管制支援情報を適確かつ安定的に提供することにより、航空管制を支援している。
     管制情報処理システムは、航空交通管理センター、航空交通管制部及び全国の空港に設置され、航空会社や国内外の各管制機関及び気象庁等から提供される飛行計画・気象・運航情報が運航情報提供システム(FIHS)を経て、飛行情報管理システム(FDMS)へ集められる。FDMSでは大量の情報を適切に処理し、必要に応じ各システム及び関連機関へ配信するとともに、運航情報管理に必要なデータを作成し、航空管制官等に提供する。航空路レーダー情報処理システム(RDP)、洋上管制データ表示システム(ODP)、ターミナルレーダー情報処理システム(ARTS)及び空港レーダー情報処理システム(TRAD)は、地上レーダー及び人工衛星等から得られる航空機位置情報とFDMSから配信される飛行計画・運航情報等を有機的に処理し、航空機の位置表示データを作成するとともに、航空管制官等に有益な支援情報を算出・作成し、最適なマン・マシン・インターフェースでリアルタイムに提供する。
     また、増大する航空交通量に対応するために、空域管理システム(ASM)においては防衛省等関係機関と密接に関わりながら、予測される交通需要に最適化した空域構成や経路構成の企画・設計に必要なデータを作成し、航空交通流管理システム(ATFM)ではFDMS等から得られるデータを基に交通量及び混雑空域の予測データを算出し、過度な交通集中を未然に防止するための交通流制御情報を航空管制官等に提供する。
     このため、今後も航空交通量の増大が見込まれる中、航空管制を適確に実施し、安全で円滑かつ効率的な航空交通を実現するためには、管制情報処理システムが提供する飛行計画情報、航空機位置情報等の管制支援情報は必要不可欠である。
     また、超高速で飛行する航空機のデータをリアルタイムで処理している管制情報処理業務・システムの機能停止は、航空機の安全運航に多大な影響を与え、社会的影響も非常に大きいものとなることから、極めて高い信頼性、安定性及びリアルタイム性が求められる重要インフラである。
     本計画の対象とする管制情報処理業務・システムは、飛行計画や航空機位置等の管制支援情報をコンピュータ処理し、航空管制官等に適確かつ安定的に提供することにより、航空管制を支援する管制情報処理業務、及びこれらの業務を実施するために必要な処理を行う上記システムとする。

    (2)求められる課題
     管制情報処理システムは、これまで航空交通量の増大に対応し、航空管制の高度化を図るため、順次、システムの増設及び機能拡張を図りながら、システムの老朽化及び処理能力向上のために10年程度でシステム更新を行ってきた。
     しかし、平成15年3月1日に発生したシステム障害により欠航及び遅延が発生し、航空機の運航に多大な影響を及ぼしたことから、学識経験者等による「航空交通管制情報処理システムのフェールセーフのあり方等に関する技術検討委員会」において、既存システムに対し緊急に実施すべき事項として再発防止策を取りまとめ、既存システムで対応可能な対策はすべて完了している。
     既存システムでは対応できない抜本的な対策については、新システム構築時に実施することとし、平成16年度より、学識経験者等による「新システム技術検討会」において、安全かつ円滑な航空交通の確保、増大する航空交通量への対応及び航空管制支援の継続性確保のための管制情報処理業務・システムのあり方について、基本コンセプトの策定及び新システムのアーキテクチャーの検討を行い、新システムの構築に当たっては、航空管制支援の継続性を向上させるため、全体構成の見直しによるバックアップ機能の拡充等により、管制情報処理業務・システムの継続性を最大限に確保することが重要な基本コンセプトの一つとして整理されている。
     一方、我が国では、大都市拠点空港の整備やアジア諸国の経済発展等により、長期的には航空交通量の増加が見込まれており、加えて、運航者や航空利用者の多様化するニーズや地球環境問題への対応が必要となっている。また、国際民間航空機関(ICAO)においては、世界規模での安全な運航を可能とするために必要な統一的基準、推奨手順を国際民間航空条約に定めており、各国はこれを遵守することとされている。2005年の“Global ATM Operational Concept”(Doc.9854)では、「全ての機関との協調による施設及びシームレスなサービスの提供を通じた、安全で、経済的で、また効率的な航空交通及び空域の動的な統合管理」を実現していくために必要となる事項を示している。加えて、航空機の安全かつ効率的な運航を支援するため、2025年及びそれ以降を見据えた総合的でシームレスかつ相互運用性のある全世界的な航空保安サービスに関する概念をとりまとめた。これに基づき、欧米においては、地域に即した長期ビジョンが策定され、今後、これらの世界的な調和を図ることが必要となっている。
     このため、我が国の航空交通量の増大や様々なニーズに対応し、かつ、世界的にシームレスで円滑な航空交通を実現するため、欧米等諸外国の動向を踏まえつつ、我が国における将来の航空交通システムについて検討を行っているところであり、これらを踏まえ、益々高度な管制支援機能の導入等が順次求められることになると予想されることから、将来の航空交通量増大と国際的な要求に対応できる拡張性を備えた新たな管制情報処理システムを構築する。
     また、管制情報処理システムは高い信頼性、安定性を継続的に確保する必要があるため、現状と同様に適確な運用・保守業務を実施する必要がある。

    (3)最適化の基本理念
     管制情報処理業務・システムの最適化を図るため、以下の基本理念により、新たな管制情報処理システムの整備を進めていくこととする。
     [1] 今後も航空交通量の増大が見込まれる中、航空管制を適確に実施し、安全で円滑かつ効率的な航空交通を実現するためには、管制情報処理システムが提供する飛行計画情報や航空機位置情報等の管制支援情報は必要不可欠であり、システムに障害等が発生し、機能停止等が生じた場合の社会的影響は非常に大きなものとなることから、航空管制支援の継続性を最大限確保すべく、管制情報処理業務・システムの信頼性・安定性の更なる向上を図る。また、大規模災害等に対する危機管理機能の強化を図る。
     [2] 今後の航空交通量の増大に対応するため、最新の情報処理技術を適切に活用するとともに、将来予想される国際的な要求にも対応可能となるよう、柔軟な設計により十分な拡張性の確保を図る。
     [3] 近年、電子計算機の処理能力が飛躍的に向上していることから、航空管制に必要となる高度な機能を確保し、更には管制情報処理システムの信頼性・安定性を確保することを前提としつつ、可能な限り、汎用機器を用いたシステム構成とする

2.最適化の実施内容

  •  管制情報処理業務・システムの最適化を実施することにより、平成33年度において年間21億円(試算値)の経費削減を見込む。
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  • (1)航空管制支援の継続性の向上
  •  航空管制支援の継続性を向上させるため、新システム技術検討会において策定された基本コンセプトとして、[1]飛行計画情報処理及び追尾処理の高度化、[2]航空の安全性・定時性に直結する基幹機能とそれ以外の機能の分離、[3]システムのバックアップ系機能の拡充等の機能要件が求められた。
  •  [1]飛行計画情報処理及び追尾処理の高度化
  •     現行システムの飛行計画情報処理では、飛行計画情報(便名、機種、装備、飛行経路、高度等)を元に運航票をタイムリーに生
  •    成することを目的に、必要な情報を処理している。これから構築する新システムでは、従来の飛行計画情報に航空機の動態情報や位
  •    置情報、管制指示・承認及び調整履歴等を追加した飛行関連情報の集合体である「フライトオブジェクト」の考え方を導入することによ
  •    り、飛行に関与する関係者から得られる当該飛行に関して整合のとれた詳細な情報を蓄積することができ、管制支援情報を生成するこ
  •    とが可能となる。
  •     また、多様なレーダーセンサーから航空機位置情報を取り込むとともに、航空機からデータリンクによって伝えられた航空機位置情報
  •    及び航空機動態情報を活用し、精度の高い位置情報の継続的な提供を可能とする。
  •  [2]航空の安全性・定時性に直結する基幹機能とそれ以外の機能の分離
  •     システム障害時においても基幹機能の運用を継続させ、システムの信頼性を向上させるために、航空機位置情報の処理等、極めて
  •    高いリアルタイム性を要求される処理(追尾処理及び個別管制情報処理)・継続性を要求される処理(飛行計画情報処理)と、それ以
  •    外の処理(準リアルタイム管制支援処理)に分離する。
  •     また、個別管制情報処理で一体的に動作していた管制情報入出力(HMI機能)を独立させることにより障害の局所化を図る。
  •  [3]システムのバックアップ系機能の拡充
  •     航空管制支援の継続性・安定的運用を確保するために、2拠点におけるマスター・スレーブ同期レプリケーション方式によるデータ
  •    (フライトオブジェクト)の冗長化を可能とする業務・システム構成を検討する。
  •     また、各システムのデータ形式を共通化し、そのデータの共有化を行うことにより、複数拠点での相互バックアップ機能を実現する。
  •    さらにサブシステム単位でのフォールバック機能を充実させ、相互バックアップ機能と組み合わせて使用することで、システムの致命
  •    的な障害等においても、航空管制支援の継続性を確保することとする。
  •     なお、管制情報処理システムは航空輸送を支える重要なインフラであるため、大規模災害等によりシステムが壊滅的な被害を受けた
  •    場合にも航空交通の安全と秩序を維持し、一定量の交通量を確保するため、費用対効果に十分配慮しつつ、地理的冗長性を持たせた
  •    構成とすることによる危機管理機能の強化を図る。
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  • (2)システム構成の見直し
  •  システム全体の信頼性・安定性向上を図り、上記(1)を実現するためには、システム全体を視野に入れて構成を見直す必要があり、飛行情報管理システム(FDMS)、洋上管制データ表示システム(ODP)、航空路レーダー情報処理システム(RDP)、ターミナルレーダー情報処理システム(ARTS)、空港レーダー情報処理システム(TRAD)及び運航情報提供システム(FIHS)として個別に構築しているシステムを「統合管制情報処理システム」として再構築する。
  •  具体的には、運航データ情報の受配信及び中継業務を実施する運航情報処理と飛行計画情報及びその他飛行に関連した情報をフライトオブジェクトとして管理する飛行計画処理系、レーダー等の各種センサーから航空機位置データを受信し、追尾・情報処理・情報配信する航空路・ターミナル・飛行場・洋上の各個別情報処理系、運用の安全性確保及び航空交通量増大の実現を目的とする管制支援処理系、航空機位置・管制支援・気象等の情報を提供するインターフェースを有する管制運用卓とシステム障害時においても航空管制支援の継続性を確保するためのフォールバックからなる。
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  • (3)十分な拡張性の確保
  •  今後の航空交通量増大への対応を実現するためのコンセプトとして、高度な管制支援機能を実現する必要があると整理された。このことから、統合管制情報処理システムの構築にあたっては、最新の情報処理技術を適切に活用するとともに、将来の航空交通量増大に対応するための管制支援機能等の性能向上及び国際的な調和を図るための機能拡張に対応できる柔軟な設計とし、十分な拡張性の確保を図る。
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  • (4)人材育成及び効率的な人員配置
  •  管制情報処理システムは、その機能が低下又は利用不可能な状態に陥った場合には、航空機の運航に支障を与え、国民生活や社会経済活動、更に人命に影響を及ぼすおそれがあることから、専門的な知識・経験に基づいた一元的な管理が必要であるとともに、関係機関との綿密な調整を実施する必要がある。
  •  また、システムの信頼性及び安定性を確保するためには、システムの運転・監視を継続的に実施し、システムの点検・整備を行うことによりシステムの機能を十分発揮するように維持する必要がある。
  •  このため、システム構成の見直し後においても、引き続き情報システムに関する専門的な知識や技術を持ち、運用者の業務に精通した職員の人材育成を行うとともに、システム設置官署への効率的な配置について平成29年度までに結論を得ることとし、統合管制情報処理システムの運用及び保守の確立を図り、航空交通の安全の確保に一層努める。
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  • (5)信頼性確保を前提としたトータルコスト削減
  •  近年、電子計算機の処理能力が飛躍的に向上していることを踏まえ、既存メインフレームのオープンシステム化等によりシステムの処理能力の増強を図る。また、システムの信頼性・安定性の確保を前提としつつ、可能な限り、汎用的な通信技術及び調達容易な汎用機器を用いた構成とする。
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  • (6)調達の透明性確保
  •  調達については、「情報システムに係る政府調達制度の見直し」に鑑み、原則として一般競争入札(総合評価落札方式)によることとし、調達の透明性・公平性を図る。
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3.最適化計画の見直し

  •  管制情報処理業務・システムの効率化及び信頼性・安全性の向上を図るため、情報処理技術の進展や国際基準の動向等を踏まえ、本最適化計画について必要な見直しを行う。

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