カンボジア

概況

表1国勢概要

国名 カンボジア王国 Kingdom of Cambodia
国土面積 181,035km²(日本の約2分の1弱)
人口 14,677,000人(2013年)
人口密度 81人/km²(2013年)
都市人口比率 30.0%(2015年)
GDP 約177億米ドル
(2015年推定値:IMF資料)
一人当たりGDP 1,140米ドル(2015年推定値:IMF資料)
産業別
就業人口比率
第一次産業48.7%
第二次産業19.9%
第三次産業31.5%(2013年推計)
GDP成長率 0.1%(2009年)
6.1%(2010年)
7.0%(2011年)
7.0%(2012年)
7.0%(2013年)
7.0%(2014年)

(情報更新:2017年3月)

カンボジアはインドシナ半島に位置し、北西はタイ、北はラオス、南東はベトナムの三カ国と国境を接している。カンボジアの国土面積は、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内ではシンガポールとブルネイを除くと最も狭い。カンボジアには、インドシナ半島最大の淡水湖トンレサップ湖に源を発するトンレサップ川とチベット高原に源流を発するメコン川の二大河川が流れており、国土の大部分が平野部となっている。

カンボジアは多民族国家である。国民の約90%はクメール族であるが、その他チャム族、ベトナム系、中国系住民など36の少数民族が人口の10%を占めている。チャム族、ベトナム系以外の少数民族は、東部及び北東部の国境に近い丘陵地帯に居住する。人口ならびに経済活動は国土面積の半分以下の地域に著しく密集している。2013年現在、人口約1500万人のうちの90%がわずか80,000平方キロメートル内に暮らし人口が密集する中、周辺地域の人口密度は非常に低くなっている。

メコン川流域ならびに氾濫域への都市の密集は、農業中心から都市・産業型へと変遷する開発パターンに伴う十分に予測できた結果である。時折氾濫する低地という、都市開発に不適な環境条件に対応するためには、堤防を増やす他、治水技術を駆使するより選択肢がない。

最大都市は首都プノンペン(2015年現在人口157.3万人)であり、シハヌークビル(15.6万人)、バッタンバン(15.0万人)、シェムリアップ(13.9万人)がそれに続く。首都プノンペンはホーチミンからバンコクを結ぶいわゆる「南部経済回廊」沿いに位置する。

カンボジアはプノンペン都を含む24の州と26の市から構成されている。図1の赤い点は都市の再分類(2011年に、計画省実施の2008年人口調査結果を用いて行ったもの)*に基づく州都を示している。

図1地域、州、市の構成および地形学的特徴)

地域、州、市の構成および地形学的特徴

資料: Cambodia Urbanization Study, ADB, 2014

  • *各州の都市行政区画の境界線は既存の管轄区域に基づき決定されており(2008年の地方行政法施行以前)、人口、人口密度、経済構造のいずれをも反映していなかった。

図2行政体制

行政体制
(注)
王国政府では5年毎に普通選挙が行われる。首都、州、区/郡/市の知事は政府主導の与党により任命され、首都、州、区/郡/市の地方議員はコミューン/サンカット評議会委員による間接選挙により選出される。コミューン/サンカットの議長および評議委員は5年毎の普通選挙により選出される。

資料:2008年地方行政法をベースに再作成したもの

地方行政制度

カンボジアはプノンペン都と24 の州で構成される。行政組織の基本的な枠組みはフランスの統治時代にほぼ完成したと言われ、当初は地方において議会等も設置されておらず、地方政府は中央政府(内政省)により選任されていたため、国の地方行政機関が大きな影響力を持っていた。しかし2001年、貧困地域の住民ならびに疎外化された人々を地方自治体とつなぐこと、また地域の発展に関する諸問題解決において地方自治体の役割と責任を強化する目的でコミューン及びサンカットの統治のための選挙法ならびに基本法が制定された。これにより、コミューン/サンカットの評議員が2002年に初めて直接選挙により選出された。2005年、閣僚評議会により業務分散化および地方分権化に関する国家戦略の枠組みが採択され、地方政府レベルでの一元統治に向けた改革が可能になった。2008 年には憲法改正により、首都・州・市・郡・区の行政管理に関する基本法が承認され、各地方行政体に評議会を設置することとされた。この取り組みにおいて、理事会が地域住民へのサービス提供に関する説明責任を果たしているかどうかを監視する首都、州、郡/区/市の評議員が、間接選挙により初めて選出された。

カンボジアの地方政府による地方行政が確立されたものの、この枠組みは依然として中央政府の強い影響下にあり、行政上ならびに計画立案上、二層構成を形作りつつある。中央行政および地方行政における政府機関間の関係は中央集権、地方分権の特徴を併せ持ったものとなっている。州/市、郡/区、いずれも、知事と呼ばれる政府に任命された代表者により取りまとめられている。主要な省庁から地方行政レベルへの権限と機能の委譲が大幅に遅れているため、国家レベルならびに州/市、郡/区の省庁間の関係は不明瞭である。しかし、2008年、2009年に23の州が誕生し(既存の4州に加えて)たことで構造は明確化され、地方行政の半自治が実現された。それでも日々の運営と行政の根底には中央集権システムが依然としてみられるため、2002年より、コミューン/サンカットの評議会の選挙は完全な中央集権型から業務分散・地方分権型へとそのシステムを変更した。これは2009年に始まった郡/市の間接選挙により後押しされた。こうして主要な役割と責任は徐々に体系的に中央政府から委譲されつつあり、これと同時に地方行政体の設置が進められている。

州および市の中間レベルの管理体制は引き続き立案、予算編成、人員いずれにおいても統一がみられず、役割と責任が重複、統治に関する条例の未整備から、州ならびに市の運営は引き続き大きな障壁を抱えている。しかし、2009年に新しく市が設置されてからは統治上の複雑さは改善された。郡のもと(都市部では「区」と呼ばれる)では州、市に直接責任を負うが、郡ごとの大きさならびに人口の大きな違いにより、サービスの提供および立案が困難になっている。

計画体系(社会経済計画およびフィジカルプランニング)

計画省(MOP)が立案を担う「社会経済開発計画」の体系と国土管理・都市計画・建設省(MLMUPC)が立案を担う「空間計画」の二つの体系がある。政府の四辺形戦略は与党の筆頭の政治要項であり、社会経済政策アジェンダ、五ヵ年国家戦略開発計画、フィジカルな空間計画を含むセクターごとの戦略などの根幹を担うものである。計画省は「国家戦略開発計画」(NSDP)を含む、より強固で一貫性のある国家計画体系の枠組みを率いるというよりは、率いられている状況にあり、受身な立場になっている。カンボジアの計画省は主に政府省庁/機関の社会経済計画に対応している。すなわち、その役割は土地管理とフィジカルプランニングを担う国土管理・都市計画・建設省とはかなり異なっている。

社会経済開発計画が政府と地方との二つのレベルで構成され、しっかりと根付いている一方で、フィジカルプランニングは未だ未成熟で首都と州、ならびにいくつかの都市に限定されている。地方レベルでは、首都、州、郡/市開発計画(五ヵ年)、周期的投資計画(三ヵ年)が評議員により作成され、首都/州、郡/市の評議会で採択されている。コミューン/サンカットレベルでは周期的投資計画(三ヵ年)が整備され(五ヵ年のコミューン開発計画に基づく)郡の投資計画に組み込まれている(郡統合ワークショップ(DIW)を通じて実施)。また、州の投資計画にも地方開発の優先順位の関係や、郡/コミューンの当局の手には負えない課題に際してはつながっている。現在、郡/市(DM)は地方政府の改革アジェンダに注力しており、そのため、民主的地方開発委員会(NCDD)が計画体系、リソースの配分、権限、機能を精査し(2016年)、公共サービスの提供におけるより信頼性の高いメカニズムの確立に努めている。地方投資機関基金(SNIF)を含む郡/市(DM)基金とコミューン・サンカット(CS)基金は両レベルにおける統合的計画と明確な責任の分担に不可欠なものである。更に、NCDDは社会的説明責任の枠組み(I-SAF)に関する計画を実施し(2015-2017)、郡/市ならびにコミューン/サンカットの評議会の統治範囲、説明責任範囲を拡大すると同時に住民の満足度を上げるべく、市民参加、モニタリング、責任委譲といったアプローチをとっている。地方計画ならびに地方予算を含む予算提出への参加型アプローチがSAF(社会的説明責任の枠組み)2015-2017の実施に不可欠であることを意味している。よって、地方計画ならびに予算策定は当然ながら議員の評議会に対する責任、評議会の住民への責任をも強め、更には地方行政が国内法ならびにI-SAF等の基準の遵守を強化することにつながっている。

計画省は四辺形戦略(RS)に次ぐ優先順位である「国家戦略開発計画」(NSDP)の調整およびその進捗の監視が必須であり、各セクターの省庁が直面するニーズや課題を織り込んだ政権の次なる任期の計画を策定しなくてはならない。国家戦略開発計画は様々な支援者および政府機関からのセクター毎、および専門領域でのアドバイスを受けている。2001年に採択された土地政策や土地法のように、基本的な法体制や基準は整備されているものの、フィジカル/空間計画は遅れをとっている。その主な原因は特に地方レベルにおける財政ならびにキャパシティーの限界にある。例えば建築許可に係る閣僚会議令86(1996年)のように、都市開発に関する法律には改正土地法(2001)に照らして失効しているものがある。国家ならびに地方レベルでの政治的関与が推進における重要な役割を担い、実務者が計画を策定し政府の支持を得られるよう働きかけるべきであるが、そういったケースはあまり見られない。

表2計画体系

計画の種類 空間計画 社会・経済開発計画
全国レベル 空間計画に対する国家方針 四辺形戦略 (現在 phase-III, 2014-18)
国家空間計画 国家戦略開発計画
広域地方レベル 地域空間計画  
カンボジア湾岸地域の管理に関する通達(2012年2月)
首都/州レベル 首都土地利用計画とマスタープラン(プノンペン戦略の方向性2035は2015年12月に大筋で十五ヵ年ビジョンとして承認されている) 五ヵ年開発計画、三ヵ年ローリングプラン、1年開発計画プロジェクト(国家予算で実施)
州空間計画
市/郡/区レベル 市の土地利用計画(バッタンバンLUPは2015年12月に十五ヵ年ビジョンとして承認されている) 五ヵ年開発計画、三ヵ年ローリングプラン、1年開発計画プロジェクト(国家予算で実施)
郡/区土地利用に関するマスタープラン
コミューン/
サンカットレベル
コミューン/サンカット土地利用計画 五ヵ年開発計画、三ヵ年ローリングプラン、1年開発計画プロジェクト(国家予算で実施)
コミューン/サンカット計画は郡統合ワークショップ(DIW)に一本化される

国土政策に関わる政府機関等

計画名又は行政分野 担当機関 ホームページ
社会経済開発計画 計画省 http://www.mop.gov.kh/
空間計画 国土管理・都市計画・建設省 http://www.mlmupc.gov.kh/?page=&lg=en

国土政策に関わる主要な施策

計画機関(空間計画)

国家レベルでは、国土管理・都市計画・建設省(MLMUPC)が1999年に設立された際に定められた役割と機能に応じて、空間計画を率いている。MLMUPCのほかに、空間計画に携わる上で核となる省は、内務省、公共事業・運輸省、経済財務省、環境省の他、「国土管理・都市計画委員会」(NCLMUP)(MLMUPCが議長を務める)を組織する省庁である。22の省庁がそれぞれNCLMUPに代表をおき、ここですべての重要な議案は閣議にあげられる間に十分な検討を重ねられる。主な役割は閣僚会議で最終的な承認が下される前の決断や技術的側面を含む領域計画への助言を行うことである。地方レベルではLMUP(国土管理・都市計画)小委員会(州議員が議長を務める)がこれに似た役割を担い、技術的支援を省庁の様々な事業部門から得ている。

あらゆる地方計画が政府の方針と整合性を保たれていなくてはならず、分権・分散(D&D)の包括的な政策*が非常に重要となる。これはすべての都市、町における空間政策、あらゆる経済政策に大きな影響力を及ぼすものである。1990年代初頭のカンボジア再建のための緊急支援期の終了直後、国連開発計画ならびにその他、国際援助機関の長期支援により、D&Dの実験的期間が導入された。これにより、D&D改革がコミューン・サンカット議会の初選挙の後、2002年に正式に立ち上がった。これらの包括的政策は引き続き国土管理、地方行政の全体的な計画制度の一環として引き続き拡充されている。国土管理セクターは国際援助にこれまで約20年間支えられてきており、今後も国家、地方の両レベルでの都市計画および管理機能への国際援助と並んで支援は継続されるだろう。

  • *地方の民主主義発展のための国家プログラム(NP-SNDD)2010-2019 およびその三ヵ年実行計画(IP3)2015-2017 は基本法の完全な実行を支える目的で計画されている。

社会経済計画の概要

2004年、その前年に発足した新政権の総合的な国家開発戦略を示す文書として、「成長、雇用、公正、効率のための四辺形戦略」(以下「四辺形戦略」)が発表された。この戦略は「カンボジアミレニアム開発目標」と「第一次カンボジア社会・経済開発計画2001-2005」及び「国家貧困削減戦略2003年-2005年」の重要な要素を抽出したものであり、従来の政府の「三角形戦略」を継承するものであった。続いて2008年には「第2次四辺形戦略」が、2013年には現在の「第3次四辺形戦略」が発表された。

カンボジア政府は2030年までに高中所得国入り、2050年までに高所得国入り、というビジョンを掲げている。農業開発、フィジカルインフラストラクチャーの開発、民間セクター開発と雇用、能力育成と人材開発を通じて長期持続的な国家発展と貧困削減を促す「第3次四辺形戦略」は、このビジョンの実現の基礎として、重要な役割を果たす。

政策方針である「四辺形戦略」を実施可能なものにするアクションプランの役割を果たすのは「国家戦略開発計画」(NSDP)である。NSDPはNSDP 2006-2010が最初のもので、「第2次社会経済開発計画」(2001-2005)と「国家貧困削減戦略 2003-2005」(世界銀行とIMFが72の開発途上国に策定を求めた「貧困削減ペーパー」のカンボジア版)を一本化した五ヵ年計画として、2006年に閣議*で了承された。続くNSDP2006-2010は第5期国民議会のRS-III 2014-2018との協調を保つべく、新規に策定する代わりに敢えて2009-2012版へと改訂するかたちがとられて誕生した。

「第3次四辺形戦略はNSDP**の政策の枠組みの役割を果たすロードマップである。NSDP2014-2018は、「主要な政策優先事項と行動2014-2018」の中で「グッド・ガバナンス:四辺形戦略の中核」「戦略を実現するための包括的環境」「農業セクターの振興」「フィジカルインフラストラクチャーの開発」「民間セクター開発と雇用」「能力向上と人材育成」の6つの柱を掲げている。国土形成(spatial development)に関する取り組み施策は、これら柱立ての中でそれぞれ記述されている。しかし、NSDPの進捗を計る測定指標ならびに測定を行う権限には疑問がある。計画省は結果の評価を行うにはリソースが不十分であり、国の各省となると自らの領域を優先しがちである。政府はNSDP2014-2018の達成のため、開発協力とパートナーシップ戦略(2014-2018)の策定をカンボジア開発評議会に任命した。これはセクター毎のテクニカル・ワーキンググループ(TWG)の強化を促すと共に開発援助を監督し、既存のドナーならびに新興ドナーとのパートナーシップの調整を行うもので、援助の効率性向上よりも開発の効率性向上を目指すものである。

  • *国家政策ならびに規制は国会に提出する前に閣僚会議(Council of Ministers)で承認されなくてはならない
  • **NSDPの監督省庁である計画省(MoP)は「NSDPは唯一の政府による包括的な指針を示す文書であり、新しいカンボジアを築く『今後の進捗の青写真』である。政府及び外部の開発パートナーはその支援においてNSDPで示された優先事項と協調することが期待せれる」と述べている。(http://www.mop.gov.kh/Home/tabid/36/Default.aspx

フィジカル(空間)プランニングの制度概要

カンボジア政府の成長、雇用、公正、効率のための第3次四辺形戦略(RS-III)と現在の国家戦略開発計画2014-2018は共にカンボジア政府の達成目標であり、第5期国民議会の任期中およびその後も引き続き実現すべき方針と行動を示している。RS-IIIは「4つの優先項目」を挙げており、都市開発に呼応し(section 14, para. 2) ①運送費の削減②信頼性と効率性の向上③競争力の強化④貿易(および経済・産業開発)への投資の増強、に貢献するものとしている。また、「持続可能なカンボジアの経済・社会成長においてもうひとつの課題となった環境および気候変動による人口増加と都市化への対応」の必要性を強調している。

こうした優先課題の達成のため、政府は①「土地白書」を通じて総合的な土地政策の推進と、②国土管理・都市計画法の整備、に注力する。国家都市開発戦略(NUDS)はこれに寄与するもので、都市インフラ整備および経済発展のニーズへの関心促進にも努める。工業化と近代化を経済成長発展の鍵と位置づけ、経済効率と競争力を高める事でカンボジア経済の多様化と貧困削減を促進する。

政府は更に下記に重点を置いている。

「住居に関する国家政策を含む、土地管理および都市計画の枠組み(第3次四辺形戦略 第73節参照)、策定中の土地管理、都市化、建設に係る新しい法律、市および都市部の開発に関する国家戦略*に則り、生活保護の拡充と環境の持続可能性を保証する(第3次四辺形戦略 第77節第6段落参照)。」

「『都市インフラ開発に関するマスタープランの整備』と、国土管理および都市計画に関する進化する法的枠組みとの整合性を保証し、市および都市部の開発における国家戦略(NSDP第4.103節第6段落より抜粋)を整備する。」

「国内の人口移動を制御する政策の整備を、強化された土地管理および都市計画政策の実施と協調して行う。焦点は①プノンペンおよび他の主要な経済拠点、衛星都市、都市部を発展させると共に、これらコミュ二ティでの雇用創出に努めること。②衛星都市と都市部を重要な経済拠点と結びつけ、経済回廊を形成すること(第三次四辺形戦略 第133節参照)。」

NSDP2014-2018は人口増加、都市化、気候変動と災害、その他の諸問題に起因するカンボジアの経済成長と社会的発展の持続可能性への課題も提起している(NSDP section 4.39参照)。またカンボジア政府は5年間で「市場機構体制の枠組みの中で貧困削減、環境保護、ならびに社会経済開発の促進に寄与すべく農地改革を進め、土地の管理、組織化、利用、分配の強化に注力する」と記している。これには「国土管理・都市開発法の整備」やその他の情報(2016年現在、作成中)も含まれる。国土管理・都市計画・建設省(MLMUPC)はその任期中に下記を含む幅広い活動(NSDP section 4.62参照)に全力で着手する**

  • 国土管理・都市計画法と、この導入のための関連した法律政策文書の承認
  • 土地管理政策が定める階層制、市および州の土地管理計画のための「国土管理・都市計画委員会」の設置に係る勅許・政令の採択と有効利用
  • 貧困者が尊厳を持ち安全に幸福に生きられるよう住居問題を解決し、国家住居政策の継続的な採択
  • マスタープランならびに土地利用計画の整備のため、市、郡、区、コミューン、サンカットの議会への継続的な技術支援の提供
  • 土地管理と都市計画に関するデータや統計の収集、編集、作成、拡散業務の効率化の強化

これらは今後、カンボジアの国土・都市開発を相互に影響する指針となり、国家都市開発戦略(NUDS)を策定する上で全体の方向性を示し、導いていく上で極めて重要なものとなる。また、将来の国の政策、戦略、計画にも影響を及ぼし、変化していく優先順位への柔軟な対応を都市戦略に求めていくことになる。

2000年代後半、農村部での参加型土地利用計画およびコミューン土地利用計画が開始された。地方レベルでの土地管理の権限委譲と共に空間計画導入の試みが開始された。更に、空間計画はカンボジアの持続可能な発展に不可欠であると認識されるようになった。しかし、空間計画の制度は未だ整備中である。2011年4月に閣僚会議が承認した「空間計画に関する国家方針」には空間計画が目指している階層構成が示されている***

「空間計画に関する国家方針」は行政各層の空間計画、土地利用マスタープラン、土地利用計画を地方分権の原則と地方行政管理関係諸法に従って定めるとしている。各層の計画を大きく下記のように分類している。

  • リージョナル/グローバルな超国家レベル:経済協力開発計画(例:ASEAN、大メコン圏との協力など)
  • 国家レベルの計画(州より広範な地域をターゲットとした国家空間計画および地方空間計画)
  • 地方レベルでの計画(以下3つのレベルから構成される。①首都/市:首都および市の土地利用マスタープランとより詳細な土地利用計画、②郡/区:郡、区の土地利用計画、コミューン/サンカット:③コミューン、サンカットの土地利用計画(CLUP)と地方プロジェクト開発計画(コミュニティのアップグレード、土地の共同利用、コンクリート道補修プロジェクトなど)

2015年現在で法整備は数年前に比べて相当に整ってきているが、制度面は未だ政策表明と規制に留まり、実際には十分な実施に至っていない。よって、計画策定のための制度は「空間計画に関する国家方針」(2013)と同様に主に素案から成るものである。そこで、コミューンから国家レベルのプログラムまでの各セクターの横断的な画期的な階層によるフィジカルプランが提案された。また、大メコン圏経済開発プロジェクト(アジア開発銀行が参画する6カ国に援助を行うもの)のような近隣諸国との双方向計画および政策策定にも参加するようになった。

図3地域計画の階層 最下層のコミューンから国家レベルまで

地域計画の階層 最下層のコミューンから国家レベルまで

資料:National Policy on Spatial Planning(2013)

各層の計画の特徴は以下に示す通りである (2008年 基本法に定められたもの)。

表3国家レベルから地方レベルまでの空間計画体系

全国/地域レベル
の計画
MLMUPCのリーダーシップの下、勅許(国王令)(Royal Decree)で設立される国家空間・都市計画委員会(National Committee on Spatial and Urban Planning)が作成し、勅許で承認する。計画は20年以上先を展望し、政府の要請により、10年後、もしくは必要に応じそれ以前に改訂する。
首都/州レベル
の計画
政令(Sub-decree)で設置される首都/州空間・都市計画委員会(Capital/Provincial Committee on Spatial and Urban Planning)が、首都/州評議会(議会)(Capital/Provincial Council)と調整して作成し、国家空間・都市計画委員会の同意を得、政令で承認される。計画は20年以上の展望を持って持続し、5年毎に改訂しうる。
市/郡/区レベル
の計画
政令(Sub-decree)で設置される市/郡/区空間・都市計画委員会(Municipal/ District/Khan Committee on Spatial and Urban Planning)が、地市/郡/区評議会(議会)(Capital/Provincial Council)と調整して作成し、国家空間・都市計画委員会の長の承認を受ける。計画は15年以上先の展望を持って持続し、5年毎に修正しうる。
コミューン/
サンカットレベルの計画
コミューン/サンカット評議会(議会)(Commune/Sangkat Council)が、市/郡/区空間・都市計画委員会との調整と技術支援受領により作成し、首都/州空間・都市計画委員会経由で首都/州評議会(議会)の同意を得る。計画は10-15年の展望を持って持続し、ニーズや地域の開発状況、また、特にコミューン/サンカットの投資プログラムに基づき、5年毎に修正しうる。

計画制度は高度に進化してくる頃であろうと思われるが、実際には詳細を明らかにされた市の計画は少なく(完全な政府主導の策定または一部地方レベルの参加で策定)、また閣議でも未だ承認されていない。例外はバッタンバンで、10年以上にわたる主にドイツ国際協力公社(GIZ)からの国際技術援助を得ているという強みを持ち、土地利用計画が2015年の12月初頭に承認されている。同様に、プノンペン都の計画対象期間2005年-2020年の戦略的方向性は2002年より作成され議論されてきているが、承認されたのは2015年12月だった(対象期間2035年までと改訂)。

  • *国家都市開発戦略(NUDS)はこの市および都市部の開発における国家戦略と対応している。
  • **NSDPより引用。優先的戦略の実行のための行動計画(section 4.63)、国土管理と都市計画。
  • ***この文書は国土政策のため、ドイツ国際協力公社(GIZ)の協力を得て評議会の事務総局によりまとめられたもので、政府に持続可能性、公平性、国内・域内・国際舞台での開発の統合を保証するためのビジョン、目標、目的、戦略を示している。

大都市地域およびその他の地域計画制度

都市計画制度とその手法

国土管理のための法/規制の素案の整備が進められている。これには空間計画に関する国家方針ならびに基本法を念頭に、それぞれとの調和が求められる。国家都市開発戦略の枠組み(NUDSF)は将来的に整備される完全なNUDSの指針となるべく起草された(2015年12月)。NUDSFはその中で、NUDSはその起草および政府の各レベルにおける導入にあたり、既存および進行中の土地利用基本計画、詳細計画、ならびにその他の特定の計画に寄与し、方向性を示すものでなくてはならないとしている。今後、関連セクターをベースとした計画はNUDSを都市部において国家ならびに地方の目標を整備する上での主要ツールとして参照し、組み込んでいかなくてはならない。

空間および環境の枠組みとその管理体制(首都、州、市、区/郡、およびコミューン/サンカット等その他の地方行政)は共に計画階層の基本となり、セクター/エリアごとの計画が展開される中で、その実行と統合のための法律の更なる発展を求められていくかもしれない。地方行政の役割は首都、州、市、郡、区の行政管理に関する法律(基本法#2-2008)、コミューン/サンカットの行政管理に関する法律(基本法#1:2001)、空間計画に関する国家政策、国土管理と都市計画(各階層において)に関する委員会設立に関する閣僚会議令に明確に規定されている。また、役割と責任を明確化すると同時に能力開発と助言も必要であり、他の政府機関やその下部団体から情報提供がなされる。あらゆる開発計画は天然資源、経済的資源、人的資源を伴うものであり、これを早期に検討し、費用効率を考慮した導入可能な計画が策定・採択されるよう担保しなくてはならない。

NUDSFは超国家的地域開発計画と協力の必要要件と要素(近隣地域/都市との計画上の調整ならびに雇用の配分と人口を含む)も検討する必要があることを強調している。国土を広い概念で開発可能区域(農業、観光、産業または特別経済区域SEZ、都市)と保護区域(国立公園、自然保護区、生物多様性保護区域、文化遺産保護区)とに分ける必要がある。また沿岸区域は特に資源開発(石油とガスの埋蔵)の可能性、工業、観光、都市移住(港街、工業団地)、保養地ならびに自然保護区域、気候変動によるリスク増加の観点など、利益の競合の均衡化の面から特に注意が必要になる。今後開発されるであろう新たな都会の密集地においては人口と雇用配分も検討を要する。

分析と政策の観点からの地域化

現存の5つまたは6つの統計上の地域からなる制度は、計画上より適切な区分けに再分類する必要があるかもしれない。これには他の政府機関、省庁、利害関係者との調整ならびに相互の意見の一致が求められる。計画区域の調整としての提案の一つは都市のプノンペン、国境地域、その他の計画地域とに地理的、経済的および行政上の観点から区分するものである。都市間、経済回廊に面した都市部と農村地域との相互利益のため、協調による地域計画策定を促し、支援していくことが必要である。

巨視的な地域開発の枠組みの検討は大メコン圏(GMS)とASEANにおいても必要である。特に、国境地域と都市部においてはこれが課題であり、国境をまたがる都市開発は大メコン圏の閣僚会議のもと特別に設置された都市タスクフォースに託されている。ASEANならびにASEAN経済共同体(AEC)の既存方針と新興政策とを統合するには一層の言及が必要になってくるだろう。

その他空間開発上、影響が大きい施策の例

最近数十年、カンボジアは土地管理、都市計画に関するかなりの数の政策、戦略、法律、規制を打ち出し他国を抜きん出てきた。主要な政策の概要を下記に記した。 住居に関する国家政策は、NUDSの中でおそらく最も重要な政策であり、貧困層ならびに弱者に対し、費用効率が高くて手頃な住居を提供するプロセスの整備、ならびに促進を目的としている。加えて、非正規居住の是正も担うものである。

総合的土地政策(「土地白書」)

所有権の付与による土地保有の改善には一層の改良が求められる。都市の膨張により土地の価格が大幅に上昇したことが国によって把握されていないためである。地方税収益による潜在的「資本利益」の増加が地方行政への収入となることが考慮されなくてはならない。土地転換ならびに用途変更により価値が大きく増大するため、中には地方政府が予算として掌握する必要がある場合もあるだろう。本政策の他の側面はNUDSに集約され組み込まれるべきものである。

カンボジア政府は分野横断的なグリーン成長国家戦略を2013年に採択し、これは国家戦略開発計画2014-2018にも持続可能な開発に不可欠な要素として盛り込まれた。この政策の内容はNUDSにも「3Eアプローチ」(経済、環境、公正)と共に組み込まれるべきものである。

最近採択されたカンボジア産業政策はカンボジアを変貌させている経済の急速な変化と多様化を一層と考慮に入れる必要があると協調している。成長拠点と回廊との接続拡大に結びつくであろう産業開発の推進力になりうるものと、将来の都市膨張が果たす役割を特定している。また、提案されている工業団地の開発ならびに開発マスタープランの策定とならび、「特定された州における競争力あるSMEと産業の推進」を目指している。

政府は土地利用計画の向上、環境管理、住居開発、インフラ整備を視野に入れた産業活動の調整のため、スヴァイリエン、シハヌークビル、コッコン地方等の指定工業地帯やポイペト市の空間計画と都市開発の促進をサポートするなど、必要な支援を行うとしている。プノンペン都を工業地域、行政区域、住居区域とに明確に区分する長期的な都市開発計画を実施することで、産業集積都市にしようとする試みである。プノンペンをダイナミズム溢れる文化、知識、産業の中心へと変化させることを目標にしている。

図4大メコン圏経済回廊および国境重点地域

大メコン圏経済回廊および国境重点地域

資料: ADB-TA No. 8042 REG, September 2014: GMS Economic Corridor and Priority Border Areas

交通計画と土地利用計画の統合

現存の交通経路のほとんどは主要な都市拠点を経由し、都市と都市とを結んでいるが、これが拡大するに従い、乗り換え、地域内の移動、物品・農作物の輸送にこれまで以上の時間がかかるようになる。これはモニタリングを要し、代替ルートの計画と開発も必要になる。加えて、一部の都市拠点は拡散されつつあるため、道路輸送を必要としている。これはエネルギーとリソースの極度な浪費であり、道路交通への依存を計画と開発によりいかに減らすかが深刻な課題である。コンパクトな都市・町のコンセプト、ならびに小規模な町のための公共交通政策とアプローチの模索が求められる。

また、「フィジカルインフラストラクチャーの整備」には全国交通網整備の方針が記されている。投資、貿易、観光および農村開発のため、国内の交通インフラならびに近隣諸国とを結ぶ交通インフラ改善のマスタープランを作成し、実施するとしている。また、鉄道網の復旧と維持管理(プノンペンとポイペトを結びタイにつながる北線)、空港および港の維持管理、内陸水路網への投資可能性評価などに焦点を当てるべきであるとしている。加えて、プノンペンとシハヌークビル間を最優先に、高速道路を建設することを奨励している。また、国道、州道および地方道の舗装は一年に300kmから400kmのペースで進められるであろうと予測している。

高速道路の建設計画

プノンペンとホーチミン間の移動を6時間から3時間に短縮する主要な高速道路プロジェクトをJICAが支援していると報告されている。この高速道路はシハヌークビルまで延び、2020年開通予定である。高速道路プロジェクトおよび国道の様々な改善は主要な都心部間の接続は改善するが、これらは非都市地域には及ばない。[2014年現在、JICAの委託によるプノンペン-ホーチミン間高速道路整備実現可能性予備調査が進行中]

インフラ投資が重点的に行われてきたのは、国民統合のためでもあった。全国農村地域の貧困を削減するため、政府は農村と都市の接続強化により農村居住者への農産品の市場を提供し、生活向上のチャンスを創出するため主要都市と農村地域を結ぶ道路の建設・改良に投資するなどしてきた。

大メコン経済圏の枠組み2014-2022は、圏内諸国のカンボジア、中国の雲南省と広西チワン族自治区、ラオス人民民主共和国、ミャンマー、タイ、ベトナムを接続することを目指し、「大メコン経済圏での持続可能な都市開発」という共通のビジョンを掲げている。この中で、経済回廊はその効果を最大限に引き出す効率的な方法であること、経済特区(SEZ)は都市計画や地域計画の方策というよりは経済的手段であること、経済回廊とSEZは大メコン圏の国々において地域、国家、都市の開発における役割を担うこと、といった重要な要素を盛り込んでいる。図4参照。

Dr. Makathy Tep
  • 情報更新日:
    2016年3月11日
  • 寄稿者:
    Dr. Makathy Tep(カンボジア都市研究所(CIUS)所長/創設者)