デンマーク(Denmark)

概況

デンマークは、欧州大陸に連なるユトランド半島と大小406の島(うち75が有人島)からなる本土と、ノルウェー海沖に浮かぶフェロー諸島、世界最大の島グリーンランドで構成される。グリーンランドとフェロー諸島は自治権をもつ。

本土は九州と同程度の広さであり、北は海を挟んでスカンジナビア半島諸国、南にはドイツと国境を接する。本土はおおむね平坦であり(最高地点は173m)、53%の土地は農用地である。本土の人口密度は約130人/km²で、わが国の3分の1程度である。

本土は、首都コペンハーゲンがあるシェラン島、フュン島、ユトランド半島と、主に3つのエリアに分けられる。コペンハーゲンは隣接するスウェーデンのスコーネ地域とエレスンド橋で繋がっている。人口54万人のコペンハーゲン・コムーネ(kommuner、基礎自治体)は広域自治体であるデンマーク首都レギオン(region)に属するが、このレギオンと隣接するシェラン・レギオン、及びスウェーデンのスコーネ地域には、人口350万人の大都市圏(オアスン地域)が形成されている。

国勢概要

国名 デンマーク王国Kingdom of Denmark
国土面積 約4.3万km²(九州とほぼ同じ)
(フェロー諸島及びグリーンランドを除く)
人口 約570万人(2016年:デンマーク統計局)
(兵庫県とほぼ同じ)
人口密度 133人/km²(2017年)
都市人口比率 87.7%(2015年)
GDP 2,950億ドル(2015年:IMF統計)
一人当たりGDP 52,114ドル(2015年:IMF統計)
産業別
就業人口比率
第一次産業1.1%
第二次産業23.4%
第三次産業75.5% (2016年推計)
経済成長率 1.2%(2015年:IMF統計)

(情報更新:2017年3月)

デンマークの地図

デンマーク地図

資料:http://europa.eu/abc/maps/members/denmark_en.htm

デンマークの地方制度と空間計画

デンマークは近年、公的部門の抜本的再編を行い、2005年に法制化された地方自治体改革が2007年1月から発効した。これにより、本土の行政区画であった14のアムト(amter、県)全てが廃止され、より広域な行政体である5つのレギオンに再編された。レギオンは、4年毎に直接選挙で選ばれる議会(regional council)によって運営される自治体であるが、アムトと異なって課税権を有せず、その結果、レギオンの所管業務は国の交付金やコムーネの拠出金に立脚して実施される。実際、複数の業務が国やコムーネに移管されたため、レギオンの所管業務はアムトに比べて狭まり、主に担うのは医療保健分野となった。2007年の地方自治体改革では、コムーネの再編も同時に進められ、271あったコムーネは98に統合された。

土地利用の計画や規制など、国土の空間形成に関わる行政権限は、従来、三層のヒエラルキーを構成する国、アムト、コムーネの間で分担されていたが、アムトの廃止後は、レギオンの権限が弱まり、実質、国とコムーネの二層の行政機関の間で分担されることとなった。

デンマークの計画体系(2007年)

デンマークの計画体系(2007年)

資料:Ministry of the Environment (2007) "Spatial Planning in Denmark"

国土政策関係の主要な機関

政策分野 機関名 ホームページ
空間計画 環境・食糧省
Minister for Environment and Food
http://en.mfvm.dk/
首都圏計画(フィンガープラン) 環境・食糧省
Minister for Environment and Food
http://en.mfvm.dk/
地域政策、産業政策 商務・金融省
Ministry of Industry, Business and Financial Affairs
http://em.dk/english

国土政策に関わる主要な施策

デンマークで、国土計画(national planning)に関する規則が導入されたのは1974年である。その後、各種の関連法規が導入され、それらを統合する形で、1992年に計画法(Planning Act)が施行された。以降は、近年の地方自治制度改革に合わせ、2005年の計画法改正、2007年の国土計画の大幅な強化が行われた。

首都圏とその他の地域の所得格差は国際標準からみると小さく、近年より均衡化する傾向にある。また、地域間の失業率格差は、所得以上にバランスがとれている。所得や雇用の改善が伸び悩んでいる地域が辺境地等に散在する形で残り、相対的に富裕度の低い辺境地に対する公平性の問題は残るが、「すべての地域が国の経済成長を最大化に貢献しなければならない」と地域政策の目標設定がされている。

空間計画

従来の空間計画体系
国が作成する国土計画戦略、計12の地域計画機関(10のアムト、グレーター・コペンハーゲン庁、ボーンホルム地域コムーネ)が作成する地域計画、コムーネが作成するコムーネ計画及び地区計画で構成され、各計画は上位レベルでの決定に矛盾してはならないとされていた。そして、上位レベルの決定が変更された場合はそれに従って下位レベルの計画も修正される必要があった。
2007年以降の空間計画体系
環境大臣は、地域空間開発計画およびコムーネ計画の総合的枠組みを、国土計画レポート、コムーネ計画における国の関心の全体像、国土計画指令、対話、その他の形式を通じて確立する。大臣はコムーネ計画を国全体の関心と一致させるために拒否権を確保している。

国土計画を構成する主な文書や環境大臣の権限・機能

国土計画レポート
(national planning reports)
デンマーク議会の選挙が終わるたびに、環境大臣が、地域空間開発計画とコムーネ計画での活用に備えて提出する。コペンハーゲン大都市圏に固有の計画課題についても言及する。時勢に沿った計画課題に向けたビジョンや見通しが盛り込まれる政治的な文書であり、レギオンやコムーネの計画に対する法的拘束力はない。
コムーネ計画における国の関心の全体像
(overview of national interests in municipal planning)
環境大臣が4年ごとに発表する。国として、コムーネに対してどのような関心や期待感を持っているのかを説明した文書であり、法律、アクションプラン、部門別計画、国土計画決定、および自治体との合意という形で政治的に採択された決定から浮き彫りとなった関心・検討事項が反映される。
国家計画指令
(national planning directives)
環境大臣は、計画の内容について拘束力のある規定を設けることができる。これを通じて政府は特定のプロジェクトを推進するとともに開発を一定の方向に導くことができる(コムーネ計画や地区計画に代えて用いることができる)。計画法は、大臣がコペンハーゲン大都市圏における計画について、国家計画指令の形で、個別の規則を設けることを要求している。
拒否権と命令
(veto and orders)
環境大臣は、全大臣を代理し、コムーネ計画の提案が国の関心に矛盾する場合、それを拒否しなければならない。また、大臣はコムーネに対し、特定項目を盛り込んだ計画を作成するよう命ずることができる。特別な場合は、大臣がある機関をコムーネ計画の担当機関とみなし、個別の計画に関する議論を決着することがある。これらのオプションが実行されるのは極めてまれで、特別な国家的関心により自治への介入が必要な場合に限られる。
指針
(guidelines)
国土計画においては指針が重要な要素となる。コムーネ計画、農村部の管理、地区計画作成、環境影響評価についてなど、指針は法令を読み解いたものとして定期的に発表される。また、その他の指針は、環境的課題を取り入れたり、ランドスケープ保護またはコムーネ計画の戦略を管理するといった地区計画作成への示唆を与えるものである。

(注)他に、自然・環境政策に関するレポート、小売業計画に関するレポート、国立公園の設置などがある。

国土空間構造

国土空間構造

(注)二つの主要都市圏(白い丸)、主要インフラ軸、外縁部地区(網掛け)が示されている。
資料:Ministry of Foreign Affairs (2008) "Factsheet Denmark"

レギオン・カウンシル(広域自治体)は、当該レギオンの開発ビジョンを示す地域空間開発計画を作成する。これは2007年システムで導入された新しいタイプの戦略計画であり、従前アムトの計画が持っていたコムーネ・カウンシルの計画に対する拘束力を有しない、ガイダンス的文書である。
コムーネ・カウンシル(基礎自治体)は、当該コムーネの開発の目標と戦略をコムーネ計画に要約して示す。この計画は、コムーネが定める詳細な地区計画の枠組みになるものであるとともに、個別開発案件を計画法および多くの関係諸法に従って処理する枠組みとなるものである。日本の地区計画制度同様、デンマークのコムーネは、自らの判断で地区計画を策定する地理的範囲を定めることができる。

フィンガープラン2007における地域区分

フィンガープラン2007における地域区分

資料:Naturstyrelsen (Nature Agency), Miljøministeriet (Ministry of the Environment) (2007) "Fingerplan 2007"(Finger Plan 2007)

首都圏の空間計画

現行の計画法は、コペンハーゲン大都市圏の計画について、国家計画指令として規則を設けることを環境大臣に求めており、この規定により作成されたものが「フィンガープラン2007」である。

コペンハーゲン大都市圏を対象とする計画は、1947年の最初の「フィンガープラン」を手始めに数度作成されてきたが、国が作成するのは2007年計画が初めてで、従来はアムトやコムーネが参加した協議会(例えば2000年から2007年に存在した「グレーター・コペンハーゲン庁」)や研究会が作成してきた。「フィンガープラン」という呼称には、コペンハーゲン市(掌)から郊外に向かう複数の交通軸沿い(手の指)に都市開発を集中させ、交通軸相互の間をオープンスペース(緑のくさび)として残すという都市構造の考え方に立脚しており、1947年計画から2007年計画まで、一貫した思想となっている。

フィンガープラン2007は、従前の計画と異なって具体的な開発計画を描いておらず、コムーネに自由裁量を与えたことにひとつの特色がある。また、一層の交通渋滞緩和の取り組みが必要との認識等から、駅から半径600m以内の距離に大型オフィスビルや商業施設等の集中配置するよう促していることも特色である。広域的には、オアスン地域の統合化がさらに発展しうるとの認識も示している。

その他空間開発上、影響が大きい施策の例

国土基幹鉄道・道路軸「Big H」

国土基幹鉄道・道路軸「Big H」

資料:Ministry of Foreign Affairs (2008) "Factsheet Denmark"

デンマークの国土計画のひとつの特色は、デンマークと欧州全域との関係をどう構築していくかに、他国に先駆けて着目してきたことにあるといわれる(例えば、OECD (2010) "Regional Development Policies in OECD Countries")。そうした観点からのデンマークの国土政策上の重要事項のひとつに、島々と半島で構成される国土を結ぶ橋梁群を建設しつつ、それを他国との国際鉄道・道路ネットワークにリンクさせていく、という取り組みがある。デンマークは、1962年以降、「Big H」と呼ばれる構造の国土基幹鉄道・道路軸の形成に取り組んできており、国内部分はその大部分が実現し、かつ国際的には2000年にスウェーデンとの間のオレスン橋が開通した今日、最大関心事は、スウェーデン、デンマーク、ドイツの3国をオレスン橋経由で短経路で結ぶドイツ側ルート「フェーマン・リンク」の整備を、2020年を目途に実現させることにある。これにより、デンマークと欧州中心部との連結性が大きく向上することが期待されている。

(情報更新:2012年3月)