フィンランド(Finland)

概況

スカンディナビア半島の東端を占めるフィンランドは、森と湖の国である。33.8万km²の国土のうち、陸地の74%は森林が覆われるとともに、湖水面積が3.2万km²に及んでいる。また、南西海岸沖に4万以上の群島を有する。

かつての主要産業は製紙・パルプなどの木材関連と金属であったが、1990年代後半からエレクトロニクス・ICTなどの先端技術産業が経済の中核をなすようになり、現代的で競争力のある経済を発展させてきたフィンランドは、イノベーションの世界のリーダーのひとつとなっている。欧州経済通貨同盟には、1999年に第一陣参加した。

国勢概要

国名 フィンランド共和国(Republic of Finland)
国土面積 33.8万km²(日本よりやや小)
人口 約549万人(2016年4月末時点)
人口密度 16人/km²(2017年)
都市人口比率 84.2%(2015年)
GDP(名目) 2,996億ドル(2015年:IMF)
一人当たりGDP 41,973ドル(2015年:IMF)
産業別
就業人口比率
第一次産業2.5%
第二次産業26.9%
第三次産業70.6%(2016年推計)
GDP成長率 0.431%(2015年:IMF)

(情報更新:2017年3月)

フィンランドの地方制度

フィンランドの地方行政制度は、他の北欧諸国と異なり一層制で、国と基礎自治体(kunta)より成り立つという特徴を持つ。ただし、広域な地域においては、国の地方出先機関と自治体組合(地域開発法に定められた地域協議会を含む)によって行政が行われている。

フィンランドの階層別行政組織

フィンランドの階層別行政組織

国土・地域の整備に係る国の計画・政策の策定機関

計画・政策の名称/分野 機関名 ホームページ
地域政策(全般)
農村政策委員会、島嶼政策
雇用経済省
Ministry of Economic Affairs and Employment
https://tem.fi/en
土地利用計画、環境計画 環境省
Ministry of the Environment
http://www.ym.fi/en-us
農村政策 農林省
Ministry of Agriculture and Forestry
http://www.mmm.fi/en/index/ministry.html
運輸・通信政策 運輸・通信省
Ministry of Transport and Communications
https://www.lvm.fi/en/home
地域レベルの経済開発・交通・環境整備 経済開発・交通・環境整備センターELY:本土に15カ所
Centres for Economic Development, Transport and the Environment
 

国土政策に関わる主要な施策

国土・地域の整備に係る計画・政策

<国土政策の体系>

他の欧州諸国と同様に国全体を対象とした空間計画は存在しない。

社会経済開発計画としての地域開発政策体系と空間計画としての土地利用計画体系によって、国土・地域政策が構成されている。

地域開発政策体系
<地域開発に関する法律と政令>
  • 地域開発法 (No 1651):2009年12月29日発令
  • 地域開発に係る政令(1651/2009):2009年12月29日発令

地域開発政策体系

地域開発政策体系
土地利用計画体系
ここ数年間かけて(2011年現在の文献による)フィンランドの土地利用計画体系が変更された。
地域土地利用計画は土地利用・建築法(132/1999)に準拠している。

フィンランドの土地利用計画制度

フィンランドの土地利用計画制度

地域政策の動向

<地域政策の方向>

伝統的にフィンランドはサービス提供において、住民、その他を平等に扱う基本方針があった。地域ごとの特徴や強みもある。今後はそれらを上手く生かして国全体が潤うことが期待される。

日本と同様に高齢化が急速に進行している。民間企業の活力を生かす様々な方策の検討が必要で、地域政策によってバックアップしたい。地域ごとに偏った産業構造を幅広い産業構造にしていきたいとする目論見がある。

縦割り社会から、横断的な横割り社会に、トップダウンではなくボトムアップ、カスタマー(顧客、住民)中心で下からの要求を汲み上げる方式に変えていく。

デジタル技術の活用を農村地域振興に役立てる。将来的には情報通信網を生かして、少ない人数で効率的に行政情報の最適レベルを保てるようにする。

<地域イノベーション施策>

研究とイノベーション政策を担当する中心的な組織は、教育文化省と雇用経済省である。教育文化省は、教育、科学政策、大学や高等教育機関、フィンランドアカデミーに関する事項等を処理する。雇用経済省は、産業やイノベーション政策、技術庁、VTT技術研究センターに関する事項を処理する。国家研究資金の約85%がこれらの2省庁を通じて支出される。

2002年に開始された「専門的知識拠点プログラム」が地域イノベーション政策の中核となる施策であり、情報と専門技術という側面で国家成長戦略において重要な役割を果たすものである。このプログラムは国、地域、地方の資源を集め、トップレベルの専門技術を開拓し、地域の力と専門性を支え、専門的知識拠点同士の協力関係を深めるものである。

2007-2013年の専門的知識拠点プログラムに関しては13の国家クラスターが指定され、それを21の専門的知識拠点が実施した。クラスターおよび専門的知識拠点は各専門分野における最上級の専門性を体現している。

専門的知識拠点は研究部門、教育機関、ビジネス・産業部門の協力によるプロジェクトを実施する。これらのプロジェクトは企業の競争力を高め、地域の専門技術を強化・向上させ、新規ビジネスを創出し、新たなイノベーション環境の創造を促進する。

専門的知識拠点プログラムは、2011年カタイネン国民連合党政権の成立により、2013年で一旦終了している(12年間)。

新政権の下では、TEKES (Finnish Funding Agency for Innovation)が中心となって、イノベーション都市プログラム(INKA: Innovative Cities programme)を実施している。

<ルーラル・ポリシー>

フィンランドの国土の95%は農村部で、人口の31%が暮らしている。

農村地域では、都市への人口流出と高齢化が急速に進んでいる。

今後とも継続的な農村地域での雇用の道を開く、サービスを的確に実施するのが重要である。

農村政策委員会はフィンランドで20年間事業を行ってきている。2年前までは農林省の担当、現在は雇用労働省の担当に移管されている。農村政策には、日常生活と関連する全省庁が関連している。物事の決定には行政機関が個別に農村の特徴や特質を考慮に入れながら考えなければいけない。

農村政策をブロードとナローに区分している。ナローの農村政策はEU構造改革事業の農村に対する補助が中心である。

農村部の政策は様々な機関が関係している。農村政策委員会は農村政策を重点的、効率的に実施する機能を果たしている。

<条件不利地域に対する政策(少数民族サーミ人に対する政策)>

少数民族サーミ(ラップランド人)はフィンランド北部に住んでいる。現在はサーミ議会があり法律で保障されている。

多数のサーミ人の居住地域が規定されている。但し、完全な自治が保障されているわけではないが、言語・文化に対しては自主的に決定できる。

行政施行、立法化の場合、サーミ人の生活への影響を与える場合は必ずサーミ議会に申告する必要がある。例えば、土地利用、法規制のある自然保護地域の土地利用や鉱物資源の利用についても相談が必要になる。

大都市圏の計画(ヘルシンキ)

名称 ビジョン2050
計画期間 ~2050 2014年12月に2015年の草案が完成する。
策定機関 ヘルシンキ市
法的位置付け マスタープランは、土地利用・建築法(132/1999)に準拠している。
ビジョン2050は、特に法的位置付けはない。
計画の目標と開発戦略 <7つのビジョンテーマ>
①生活が脈動するアーバン・メトロポリス、②魅力的な生活が選べるまち、③経済が成長し、雇用が生み出される街、④持続可能なモビリティの街、⑤レクリエーション、都市的自然と文化環境、⑥シーサイドの街、⑦グローバルでローカルなヘルシンキ
<都市構造モデル:レール・ネットワーク・シティ>
  • ヘルシンキ中心部の拡大―道路指向の環境をアーバン・シティ・スペースに変え、土地利用の効率を高める。
  • 郊外のセンターを中央のネットワークに組み込む
首都圏庁について
  • 「首都圏庁は、特に首都圏の土地利用、住宅、輸送の問題を解決するために設立される。政府の提案は2014年12月4日に議会に提出される。首都圏庁は、2017年の地方政府選挙を機に活動を開始する。」と2014年8月28日に政府広報から発表されている。
  • 首都圏庁の任務は計画の作成(地域計画、マスタープランと、必要であれば、詳細マスタープラン)と確実に含まれる計画の実施(計画・プログラムおよびその他の十分な措置を含む)、加えて、次の地域公法業務:公共交通機関の計画と管理(ヘルシンキ地域交通)、ヘルシンキ地域環境サービス局やウーシマー地域協議会から移転される環境に関する業務等である。
  • 独立する首都圏庁の資金調達は、現在の合同自治体の収入、中央政府からの移転やさらに準備中に指定される資金調達方法によって確保される。首都圏庁は税金を上げる独自の権利を持っていない。住民の合計税率は、現在のレベルを超えて上がることはない。
  • 首都圏庁は、地域的、政党政治的代表性を考慮した選挙が実施できるような選出協議会を持つことになる。

地方中枢都市圏の計画(オウル)

名称 新オウル・マスタープラン
計画期間 ~2050(現在作成中)
策定機関 オウル市
法的根拠 土地利用・建築法(132/1999)
計画の目標と開発戦略
  • 増加する人口、住宅を、コンパクトに収容しつつ、活力あるまちを形成する。
  • これまでの、都市構造の形成過程を踏まえつつ、公共交通手段の整備や適正な土地利用により、持続可能なまちづくりを目指す。
  • 開発ゾーンの設定により、都市部と農村部の開発特性とその質を示し、土地利用を誘導する。
主な特徴
  • オウルのマスタープランは、フィンランドの土地利用計画を踏まえると共に、オウル市の総合的なビジョンや戦略を踏まえて作成される。
  • また、2013年に策定されたMALPE(Multilateral agreement of intent、2013)の基本計画も踏まえている。これは数年毎に見直されるものであるが、国の出先機関、地域協議会、関連する自治体が共同して策定している。13年計画では、土地利用、住宅、交通サービス、ビジネスが扱われている。
  • 国の開発計画、オウル市や地域の計画をドッキングさせて効率的に重複の無い実行が可能になる。
DEVELOPMENT ZONES

国境を越えて広域化した空間政策課題

ロシアを含むバルカン半島諸国で共通のオープン・ビジネス・プラットフォーム(The Northern Growth Zone)が構想されている。フィンランドは、ヨーロッパの通信の交差点で非常に成長が期待できる構想として評価できる。

大西洋-フィンランド―シベリアに至るバレンツリンクが構想されている。ヨーロッパと極東を結ぶ航路を、これまでのスエズ運河経由から、バレンツ海北端と極東を結ぶ航路に変えることを考えている。上手くいけばバレンツ海ルートの物流が更に盛んになる可能性がある。日本との関係では北極海航路である。

ロシアは広大な国土を持つので、国境周辺の地域を対象に連携の強化を検討している。2010年にユウレギオカレリア(Euregio Karelia)という地域を指定してボスニア、北ボスニア、北カレリア地方の地域協議会とカイヌーの連携強化を検討している。ロシアとの連携については国境検問所の整備、交通網、特に道路整備といった戦略がある。重点項目として国境周辺地域、検問所のインフラ整備、ロシア人観光客の誘致が挙げられる。

(情報更新:2015年3月)