ベトナム(Vietnam)

概況

ベトナムの国土は九州を除いた我が国の面積とほぼ同じで、その4分の3は山岳や高原地帯が占めている。平野は海岸地帯の紅河デルタ、メコン・デルタなどに限られる。

1986年のドイモイ(刷新)政策導入以降、ベトナムは市場経済、開放化を進めてきた。その結果、土地利用面で、外資による農村周辺部での工業開発、郊外農村部での住宅地のスプロール的拡大といった、従前見られなかった現象が生じている。

ベトナムは行政的に3つの地域(北部、中部、南部)と6つの社会・経済的サブ・リージョンに区分される。

貧困の割合は高地、遠隔地、孤立地域、少数民族の住む地域で相対的に高い。貧困層の64%が北部山岳、北部中央、中央高地、中央沿岸の各サブ・リージョンに居住する。

国勢概要

国名 ベトナム社会主義共和国
Socialist Republic of Viet Nam
国土面積 32万9,241km²
人口 約9,270万人(2016年:越統計総局)
人口密度 282人/km²
都市人口比率 33.6%(2015年)
GDP 約2,019億米ドル(2016年:越統計総局)
一人当たり名目GDP 2,215米ドル(2016年:越統計総局)
産業別
就業人口比率
第一次産業48%
第二次産業21%
第三次産業31% (2012年)
経済成長率 6.21%
(2016年、年平均:ベトナム統計総局)

(情報更新:2017年3月)

地方ブロック図

地方ブロック図

資料:ベトナム建築都市農村計画研究所ホームページ

国及び地方の関係と計画体系

  第一級 第二級 第三級
ベトナム 中央直轄市
(5都市:首都ハノイ、ホーチミン、
ハイフォン、ダナン、カントー)

(58省)
県級市

ベトナムの地方行政は3層で構成されている。

2013年憲法第110項(2014年1月1日制定)によりベトナムの行政区画は省と中央直轄市に分けられ、省は県・県級市・町、中央直轄市は郡・県・市で構成されている。県は町と区、県級市および市は区と村で構成されている。郡は区で構成されている。

特別経済行政単位・地区は国会によって定められる。

都市計画法第一章第一条第一項により、都市(urban centers)は六段階(特級、1~5級)に分類されている。

  • - 中央直轄市は特級または一級都市でなければならない。
  • - 県級市は一級~三級都市でなければならない。
  • - 市は三級または四級都市でなければならない。
  • - 町は四級または五級都市でなければならない。

都市開発庁によれば、2014年12月31日時点で、全国774市町の内訳は、特級市2、一級市15、二級市21、三級市町42、四級市町68、四級町626となっている。都市人口のうち半数は16の大都市に集中している。

国土政策に関係する主な計画には、総合社会経済計画、空間計画の2体系がある。

行政システム

行政システム

計画体系

計画体系

資料:いずれも国土交通省国土計画局(2009)「平成20年度国土政策セミナー報告書」

国土政策に関わる主要な施策

国レベルの社会経済計画の制度概要(総合社会経済計画)

総合社会経済計画システムの国家計画は、十ヵ年の「社会・経済開発戦略」と、当該戦略の期間を前期・後期2期間に分けた「社会・経済開発五ヵ年計画」で構成されている。現行の十ヵ年戦略は、「2020年を目途に先進工業国となるための基礎を築き、社会主義路線に沿った工業化・近代化を加速する」ことをめざしている。

十ヵ年戦略が作成されるようになったのは1986年のドイモイ路線の導入以降であり、2011~2020年の十ヵ年戦略は3代目のものである。一方、五ヵ年計画はドイモイ以前から作成され続け、2011~2015年の計画は第九次計画である。

十ヵ年戦略、五ヵ年計画とも所管は計画投資省(MPI)であり、MPIはこれらの計画作成に関わる諸機関の調整及び最終案作成の第一義的役割を有している。MPIがとりまとめた計画案は政府及び共産党内部の公式協議を経て決定される。

ベトナムの総合社会経済計画システムでは、地方政府(村、県、省)が上位レベルの政府に提案を提出し、そこでまとめられ、最終的にはMPIに提出されて、国土全体について統合するという、ボトムアップの手続きが採用されている。

国、広域地方レベルの空間計画の制度概要

2013年、建設法が制定され、建設計画については第二章に定められている。

その第13項によると、建設計画は以下の四種類の計画で構成される。

  • 1.地域建設計画
  • 2.都市計画(2009年都市計画法の定義による)
  • 3.特別機能ゾーン計画
  • 4.農村計画

2013年建設法第二章第2節によると、地域計画は以下のエリアについて策定される。

  • 1.連省地域(第一級行政区)
  • 2.省
  • 3.連県地域(第二級行政区)
  • 4.県
  • 5.特別機能地区
  • 6.連省地域の幹線道路コリドー・経済コリドー

2013年建設法第二章第3節によると、特別機能ゾーン計画は以下のゾーンについて策定される。

  • 1.経済ゾーン
  • 2.工業地区、輸出加工区、ハイテク地区のゾーン
  • 3.エコロジー・観光ゾーン
  • 4.保全地区、歴史文化地区のゾーン
  • 5.研究育成地区、スポーツ地区のゾーン
  • 6.空港、港湾ゾーン
  • 7.基幹インフラ結節点のゾーン
  • 8.地域計画に定められた、または政府の承認を受けたその他のゾーン

2013年建設法第二章第4節によると、農村計画は以下の村(区や町は非該当)または過疎地の集合体について策定される。

都市計画法第18項によると、都市計画には以下の三種類がある。

  • 1.総合計画:中央直轄市、県級市、市、町、新都心を対象として策定される。
  • 2.ゾーニング計画:都市、市および新都心内のエリアを対象として策定される。
  • 3.詳細計画:都市の開発・管理要件または建設投資ニーズを満たすようなエリアに対して策定される。

建設省が所管する空間計画の詳細は、ベトナム都市開発総合計画方針(全国計画)、地域計画(建設省または省)、総合計画(市または省)、詳細地区計画(県、区、工業地区、開発プロジェクト)の4つのレベルで策定される。ベトナムの計画は概して、西欧の土地利用計画のような土地利用規制的な性格よりも、特定の立地における特定の土地利用の姿を示す規範的な性格が強い。

2009年4月7日、「2050年を展望した2025年までのベトナム都市システム開発修正総合計画方針」が首相によって承認された(決定445/QÐ-TTg号)。これには、①現在から2015年にかけては、重点経済地域および大都市地域を重点化し、国家レベルの成長の極としては包括的経済区域が中心的な役割を担う、②2015年から2025年にかけては主要市街地の開発に重点を置き、それによって農村部の開発および開発の分散を軽減する、③2026年から2050年にかけては都市ネットワークを全体に行きわたらせる―という開発の全体像および数値の見通しが示されている。

都市人口の予測は、2015年に3500万人、2020年に約4400万人、2025年に約5200万人となっており、2025年には都市人口が総人口の50%を占めることとなる。

2015年には、市街地の総数は870以上の自治体に広がり、2025年には1,000自治体に及ぶ。

2015年、都市における建設用地需要は約335,000ヘクタールとなり、これは国土の1.06%、95m²/人にあたる。2025年になると450,000ヘクタール、国土の1.4%、85m²/人となる。

2012年11月7日、首相により「2012~2020年の国家都市開発プログラム」が承認され(決定1659/QD-TTg号)、都市体系に関するいくつかの記述が修正された。

2015年まで
国の都市化率の目標を38%とする。国全体の都市体系を社会経済的発展の要件に適合させ、開発管理の必要条件を満たすべく都市行政管理機関を設置するものとする(2特別都市、一級~四級都市から195、五級都市から640以上)。
2020年まで
国の都市化率の目標を45%とする。国全体の都市体系を社会経済的発展の要件に適合させ、開発管理の必要条件を満たすべく都市行政管理機関を設置するものとする(2特別都市、一級~四級都市から312、五級都市から620以上)。

ベトナム都市開発総合計画方針

ベトナム都市開発総合計画方針

資料:Vietnam Institute of Architecture, Urban and Rural Planning

経済ゾーン

建設省所管の地域計画により、9つの経済ゾーンが規定されている。

  • (1)ハノイ首都圏地域(Hanoi, Thai Nguyen, Phu Tho, Bac Giang, Vinh Phuc, Hung yen, Bac Binh, Hai Duong, Ha Nam, Hoa Binh)
  • (2)北部沿岸地域(Quang Ninh, Hai Phong, Thai Binh, Nam Dinh, Ninh Binh)
  • (3)北部内陸山間地域(Ha Giang, Cao Bang, Lao Cai, Bac Kan, Kang Son, Tuyen Quang, Yen Bai, Lai Chau Dien Bien, Son La)
  • (4)北部中央地域(Thanh Hoa, Nghe An, Ha Tinh, Quang Binh, Quang Tri, Thua Thien Hue)
  • (5)中部高地地域(Kon Tum, Gia Lai, Dak Lak, Dak Nong, Lam Dong)
  • (6)中南部沿岸地域(Phu Yen, Khanh Hoa, Ninh Thuan, Binh Thuan)
  • (7)中部中核経済ゾーン(Da Nang, Quang Nam, Quang Ngai, Binh Dinh)
  • (8)ホーチミン大都市圏地域(HCMC, Binh Duong, Binh Phuoc, Tay Ninh, Long An, Dong Nai, Ba Ria- Vung Tau, Tien Giang)
  • (9)メコンデルタ地域(An Giang, Ben Tre, Bac Lieu, Ca Mau, Can Tho, Dong Thao, Hau Giang, Kien Giang, Long An, Soc Trang, Tien Giang, Tra Vinh, Vinh Long)

大都市圏計画の制度概要

大都市圏計画とは、2013年建設法に沿った地域計画とみなすこともできるが、なかでもハノイやホーチミンのような大都市圏地域について策定されたものを指す。

首都圏など大都市圏の地域建設計画及び複数の省に跨る計画の立案は建設省が担う。それらの計画案は、関係政府機関の本・支庁、他省庁、中央直轄市の人民委員会、関係する省(provinces)の人民委員会の意見を建設省が聴取し、首相に提出し、承認を受ける。

ベトナムには北部、中部、南部の3つの重点経済地域に、3つの大都市圏がある。すなわち、ハノイ地域、ダナン、ホーチミンである。

連省計画立案の実施には克服すべき課題が残されている。憲法には複数の省にまたがる政府というものは規定されておらず、従ってこれらの計画立案を担う行政機関というものが存在しない。よって連省計画は実際には期待されたほど効果が上がっていない。

ハノイ首都圏計画(地域建設計画カテゴリーについて)
ハノイ首都圏計画は2008年5月5日、首相によって承認された(決定490/QÐ-TTg号)。そこでは、中心核としての首都ハノイ、副次核としての県級市群が互いにつながりを持ち、開発を方向づけるという、多核心型の地域構造が強調されている。
2008年の計画は8つの中央直轄市・省を対象としていた:ハノイ、ハタイ、ヴィンフック、フンイエン、バクニン、ハイズオン、ハナム、ホアビン。 現在行われている2008年計画の見直しは2015年に承認される予定である。ハノイ首都圏は原案では10の中央直轄市・省で構成されている:ハノイ、フート、ヴィンフック、タイグエン、バクザン、バクニン、ハイズオン、フンイエン、ハナム、ホアビン。
2011年7月26日、首相によって承認された2030年を目標とする首都ハノイ建設総合計画および2050年に向けたビジョン(都市計画カテゴリーの一つ)は、以下の空間的要素を盛り込んだものとなっている。
2008年の市域拡張以降、ハノイ市には旧ハタイ省と旧ソンタイ市(現ソンタイ町)が含まれている。なお、1992年憲法の「市の中に市を作らない」という規定に従い、旧ハタイ省ハドン市はハノイ市の郡の一つとなっており、ソンタイ市は県級市から市へと格下げとなっている。
この総合計画では、一つの都心部、五つの衛星都市(ソクソン、ソンタイ、ホアラック、スアンマイ、フースエン)、三つのエコタウン(フックトー、クォックオアイ、チュクソン)、その他複数の町で構成されるコナベーション(連担都市群)を開発モデルとして採用している。

ホーチミン大都市圏地域計画

ホーチミン大都市圏地域計画

HCMC metropolitan regional planning
資料:Southern Sub-Institute of Urban and Regional Planning, Ministry of Construction, Vietnam

ホーチミン大都市圏地域計画(地域建設計画カテゴリーについて)
ホーチミン大都市圏計画は、2008年5月20日付け首相署名決定589/QÐ-TTg号として承認された。この計画が対象とするのは8つの中央直轄市・省である:ホーチミン、ビンズオン、ビンフオック、タイニン、ロンアン、ドンナイ、バリア=ブンタウ、ティエンザン。同計画ではホーチミン大都市圏地域は、ホーチミン市を中心ハブとする多心型圏域構造とすることが強調され、県級市が、下記のように複数方向に伸びる開発軸の核として位置づけられている。
  • 南東部成長軸: Vung Tau 市が中核都市として、Phu My, Ba Ria, Long Hai の各市とともにVung Tau都市圏を構成する。
  • 東部成長軸:7都市から構成される(Dau Giay, Long Thanh, Gia ray, Dinh Quan, Tan Phu, Vinh Cuu , Long Khanh の各都市)。
  • 北部成長軸:8都市から構成される(My Phuoc, Chon Thanh, An Loc, Loc Ninh, Hoa Lu, Dong Xoai, Chon Thanh の各都市)。
  • 北西成長軸:9都市から構成される(Trang Bang, Go Dau, Moc Bai, Tay Ninh, Xa Mat, Trang Bang, Go Dau, Moc Bai, Tay Ninh の各都市)。
  • 南西成長軸:4都市から構成される(Ben Luc, Tan An, Tan Hiep, My Tho の各都市、My Tho とTan Anが核都市として位置づけられている)。

2025年までを計画期間とするホーチミン建設マスタープランは都市計画カテゴリーに属し、2010年1月6日に決定24/QD-TTg号として首相承認を受けた。

その他空間開発上、影響が大きい施策の例

国境周辺における隣国との地域開発連携

国境貿易促進を目指し、国境周辺の地域開発を隣国と連携して行っている。国境通過のゲートとなる町を中心に自由貿易地域を設定し、そこから内陸部(相手国内)、港(ベトナム国内)に至る道路を両国の負担で整備し、併せて電力その他のインフラ整備、人材開発等を両国で協議して進めるものである。2014年現在、中国、ラオス、カンボジアとの国境地域に、鉄道、道路国境あわせて、24の国境ゲート経済区が設置されている。

MAUD. Arch. Nguyen Du Minh
  • 情報更新日:2015年2月23日
  • 寄稿者:MAUD. Arch. Nguyen Du Minh(ベトナム都市開発庁都市開発情報・国際協力・協議部門次長)