平成11年3月17日(水曜日)15時30分〜17時30分
中央合同庁舎5号館別館共用第23会議室
森会長、石原会長代理、野崎部会長代理、新井、石井(進)、石井(威望)、石井(幹子)、宇野、下河辺、中村(英夫)、牧野、溝上、各委員(12名)
池淵、井田、井手、片山、黒川、鈴木、戸所、森地各専門委員(7名)
堀東京大学教授
関谷国土庁長官、谷川国土政務次官、古川内閣官房副長官(事務局長)、近藤国土事務次官、久保田国土庁長官官房長、村上国土庁長官官房審議官(事務局参事官)他
国土庁長官挨拶、景観に係る検討、土地の円滑な取得の可能性に係る検討について等
今回は、国土庁長官から挨拶が行われた後、景観に係る検討結果、土地の円滑な取得の可能性に係る検討結果について、説明が行われた後、質疑応答が行われた。
首都機能の移転は、来るべき21世紀を展望した極めて重要な課題であります。
平成8年12月以来、本審議会におかれましては、移転先の候補地の選定に向けた調査審議を精力的に進めていただいているところでございます。今後も、引き続き、地域ごとの詳細な調査、公聴会の開催、候補地間の相互比較・総合評価等を進められ、所期の成果を得られますようお願い申し上げます。
私も担当大臣として、事務局を督励し、審議会の活動に積極的にご協力申し上げる所存でございます。また、国民的な合意形成の促進に努め、首都機能移転の一層の具体化に向けて積極的な検討を行って参る所存でございますので、今後ともよろしくご指導を賜りますようお願い申し上げます。
景観に係る検討結果について、東京大学の堀繁教授から以下の説明が行われた。
今回は主に2点について検討を行った。1点は、新都市を来訪したときに、日本の新しい都市であるということがわかる都市実感をどのようにつくるかということである。既に新都市像の検討結果が出されているが、その中で日本らしい都市ということが述べられているので、我々は日本らしさというものを具体的に展開して、都市の計画設計に将来つながるように検討した。
もう1点は、調査対象地域を、大きな地形構造に着目して類型化した。大きな地形構造というのは、例えば、京都と東京は都市の内部のつくり方は違うが、それ以上に違うのが都市のおかれている場所である。京都は山に囲まれており、そのような場所を選んだということで、既に京都の性格がかなりの程度決まっている。江戸は関東平野の非常に広い中の、海に面したところを選んだ。その時点で京都とは全然違うタイプの都市になることが決まった。
したがって、都市を取り巻く空間構造(地形的な構造)がどうなっているのか。これは直接的に都市景観、都市実感に関わってくるので、それぞれの地域がどのタイプに該当するのかという検討を行った。
まず、日本らしさというのは一体どういうものなのかということを検討した。今の日本の都市を改めて考えてみると、全てヨーロッパの都市文化の恩恵を受けてつくられている。例えば、歩道と街路樹を持った街路は、江戸時代までの日本にはなかった。歩道も街路樹も、中央分離帯もすべてヨーロッパで発明された、まさにヨーロッパの都市文化なのである。
都市公園もオスマンの発明品であり、ヨーロッパの都市文化がつくりだしたものである。
国会前の日本大通りのように、ビスタ形とその焦点に都市を代表するようなモニュメント的な人工物を持ってくるのも、パリで発明されたものである。
こうして見ていくと、今の日本の都市は全て明治以降はヨーロッパ都市文化の恩恵を浴している。それに対して、日本的な都市は全くあり得ないのだろうか。今、国際社会ではそれぞれの個性が強く問われるので、21世紀の日本の新しい都市もやはりヨーロッパからの借り物であるというのでは、国際社会では通用しないだろう。したがって、日本の文化から提案されるものがあり得ないのか、というのが最初の出発点である。もちろん、ヨーロッパ以外のところから都市の新しい提案というのはなされていないので、全く別の都市文化の提案というのはヨーロッパにとっても刺激を与えることになるだろう。つまり、明治以降ヨーロッパの都市から受けてきた恩を返すためにも、日本的、非ヨーロッパ型の都市の提案がなされてしかるべきだろうと考えた。
ヨーロッパの中世都市もイスラムの都市も、人工物を都市の中に蓄積することで都市をつくっていく。人工物、すなわち自分たちがつくったものこそがアイデンティティーだという文化である。つまり、そこには、自然と一体となるという考え方は大変希薄で、良く言われるように、自然を征服する形で人工物こそが自分たちのよりどころなのだという文化なのである。
それに対して、江戸時代の都市、例えば鳥取では、都市は山懐に抱かれるように立地している。後背部を山に守られることによって安心感が出る。都市防衛などのいろいろな理由はあるが、大事な特徴は、こういう自然の地形に非常に強く依存するというか、自然と人間がつくる都市が一体になるという感覚が極めて強いのが日本の都市の大きな特徴である。
萩の場合も、城があり、川に囲まれた場所に都市をつくっている。このような自然地形があるところを大変慎重に選択して立地している。平らなところがあればどこでも良いというわけではないという点で、ヨーロッパの都市とは最初の立地段階からつくり方が違うと言える。
自然と人為との一体感が非常に重要な日本の都市の特徴であると思う。
自然地形の尊重というのは、立地だけに限らず、都市の内部のつくり方(都市構造)も随分違う。例えば、パリでは街路を中心に都市の骨格が造られていて、セーヌ川があっても、どんどん橋を架けていき、あたかも川がないように道路がつくられている。つまり、都市の骨格形成を道路のみで行うことが非常に大きな特徴である。
これに対して、小倉では、街路と水路が一体となって都市の骨格をつくるという特徴を有している。いうまでもなく、水路は街路に比べて極めて自然のにおいがするものである。日本の伝統的な自然の捉え方は、自然の材料(木や土、水)であれば、人間がつくったものであってもそれは自然なのだという考え方である。つまり、街路だけの都市形成というのは極めて人工的になるが、街路と水路一体で都市骨格の形成をしているということは、極めて自然のにおいが強い都市骨格形成であるということができると思う。
松江や近江八幡も水路を街路と同時に都市骨格形成につくった結果、ヨーロッパの都市とは極めて雰囲気の違う都市ができていた。明治以降、ヨーロッパの都市になろうとして、水路を無視してきた。
また、もう1つの特徴は、都市の内部にも自然の地形が入ってくるという点である。例えば、熊本では城山が都市の中にある。日本の都市は、このように自然の地形、つまり自然と人間の営為との一体化というのが大きな特徴で、都市の中にもこのように地形が非常に大きな役割で入って来るという特徴がある。
一方、同じ城でもベルサイユは地形の一体感は全くなく性格がかなり異なる。
もう一つ指摘しておきたいのは、中心性である。ヨーロッパの都市は、中心に教会あるいは王宮、または国会や行政庁のような都市全体を支配するもの置いている。そこが極めて強い中心であって、そこから八方に街路が出るという都市構造になっている。
それに対して、日本の都市は、門前町にしても城下町にしてもこのようなものが中心にあるということは極めて稀であり、重要なものは都市のエッジにある。
また、都市の外の自然物である山を、街路や都市づくりの手がかりに据えるという特徴を持っている。例えば、富士山が街路の正面に見えるような中央通りがつくられている。これは世界的に見て極めて例外的な特徴である。
都市の重要なものがへりにあるとともに、名所なども都市のへりに置かれ、非常に楽しい場所になっていた。上野の不忍池や飛鳥山も江戸のへりにあった。そしてそれらは全て地形と一体となっている。ヨーロッパの都市公園とは随分違っている。
実は、このような都市のつくり方の特徴というのは、農村や漁村にも強く見られる特徴である。日本の農村では水田耕作が行われ、水田には水が不可欠である。水は高きところから低きところに流れるので、微地形もよく読んで水田をつくらないと水が貯まらなくなる。水田の形が全て異なるのは、微地形が違うからである。微地形によって水田の形を決めている。つまり、微地形の目利き、微地形の尊重が農村では非常に重要だった。小高いところは水が揚がらないので、無理に水田にすることなく、鎮守が置かれる。このように、地形を丁寧に読んでうまく使っていくというのは、都市の前の農村の文化でもある。
このようなことから考えて、これからの新都市における日本らしさをどのように考えたらよいか、整理した。
第1点が、自然地形を意識した立地。大きな地形構造を意識して、どのような山、海があるかを読み込んで都市を立地させる。
次に、小地形で、小丘などの細かな地形は、ヨーロッパの都市では邪魔者以外の何者でもないが、むしろ日本ではそれをもともと存在するものとしてうまく使いこなしている。このような微地形をうまく取り込むということも大事ではないか。
それから水面の多用で、街路だけではなくて水路、あるいは他の様々な水面を多く取り込んでいくというのが日本らしさではないか。
また、中核施設は必ずしも中心に置かなくて良いのではないか。中核施設の配置を自由に考えても良いと思う。
そして、日本は極めて四季のメリハリがあるので、四季を享受できる都市ということも大事な考え方ではないか。
このような考えは、日本のローカリティーを強く打ち出しすぎて、グローバルな普遍性にかけるのではないかという指摘があるかもしれないが、決してそうではない。使いやすい便利な普遍性を持った都市で、かつそこに日本的なものを入れるということである。それは当然のことながら新たな文化を生み出すであろう。そのような都市をつくっていかなくてはならないだろうということをまとめた。
そして、このようにして日本らしく都市がつくられたとしても、それが来訪者、居住者に伝わらなくてはならない。専門用語で、ビジュアル・プレゼンテーションといって、視覚的に訴えていくということにも留意しなくてはならない。ヨーロッパ的でなくて日本的な都市であるということが一目瞭然でわかるということが必要であると思う。
続いて、調査対象地域の各地の特徴を説明する。
(スライドにより各地域の写真を説明)
これらの地域の地形の構造を次のように分類した。
1つは、内陸にある山がちなタイプ(山紫水明型)で、もう1つは海に面しているタイプ(天空海闊型)。それから山がちであるが海が見えるタイプ(望潮山水型)である。さらに山紫水明型を細かく分けた。1つは囲繞風水型で、京都や飛鳥のような山に囲まれた盆地である。もともと日本の都市はこのようなところを好んで立地していた。しかし、既に日本にはこのようなところは残っていないので、調査対象地域の中で該当する地域はない。そして1つは素晴らしい山が見える地域で、秀峰明水型と名付けた。また、もう1つは、山に囲まれているが、盆地ではなくて谷戸状になっているところで、回廊のように平場がつながっている地域があり、これを囲繞谷戸型と名付けた。
調査対象地域の各府県がこのどのタイプに該当するかということを整理した。それぞれ広い地域であるため、地域の全てがこのどれかに該当するというわけでは必ずしもないので、一つの目安としての分類である。
この後、以下のような質疑応答が行われた。
土地の円滑な取得の可能性に係る検討結果について、黒川専門委員から以下の説明が行われた。
今回、第2タームの調査ということで、国土数値情報にある情報と府県からのヒアリングのデータを中心に、どこまで客観的に土地の取得の可能性が言えるか分析をしている。
この検討には、5人の人に入ってもらったが、実際に大規模な開発をしている地域整備公団と住宅都市整備公団の方にもメンバーに入っていただいた。
調査会報告の取得の容易性というところでは、土地投機の防止、地域の調和、生活に与える影響ということが書かれている。
従前の土地所有者の生活に与える影響を極力少なくするということについては、影響を受ける人数が少ないということ、生活生産基盤としての土地の利用の影響が少ないこと、土地を手放すことに対する抵抗感という要素が入るのではないかと考えている。
移転先の地域社会との調和ということでは、新都市への理解度、環境への影響、首都機能受入に対する意向、土地利用計画における新都市計画の受容性という項目に整理した。
土地投機の防止は、土地利用転換の難易度、土地対策の有効性、土地対策の受容性という項目で整理した。
これらをメッシュ解析で把握した要素、ヒアリングで把握した要素、一部を府県提供データ等で把握した要素、一部をヒアリングで把握した要素に分類すると国公有地の規模と分布の状況、大規模土地所有者の状況については客観的なデータが入手できた。
土地投機の防止については、現行の法規制について、メッシュ単位で整理した。国公有地の規模等については各府県からの提供データを使っている。大規模土地所有の状況としては、各府県から提供されたデータのうちゴルフ場の分布、凍結中の大規模民間開発の計画地を使った。土地所有者の状況は細部についてはわからないが、ヒアリングの中から少し抽出できた。生活基盤としての土地利用状況というのは、国土数値情報を使った。土地に対する価値観については把握できなかった。今後の土地対策の内容については、別途検討されるものと理解をしている。
土地利用に係る法規制の区分評価については、市街化区域、市街化調整区域、農用地、その他の農業用地、保安林、地域森林計画対象民有林というように分類されている。これらを土地利用転換の難易度が比較的低い地域、土地利用転換に当たって条件の整備が前提とされる地域、難易度が高い地域に区分した。例えば、ここでは都市的利用がされているところは難易度が高いと区分している。保安林は条件さえ整えば転換の可能性があると分類している。
現在の土地利用の密度の高い部分と利用転換の難易度をクロスさせて評価した。土地利用密度が高いか、法規制の面から土地利用転換の難易度が高い地域は、土地取得は難しいだろう。土地利用密度が低く、法規制の観点から土地利用転換の難易度が低いところは、土地の取得の可能性が高いだろうということである。
また関係府県のいわゆる表明地域というのは、地元自治対等が現地の事情をよくわかって総合評価をした結果であると考えれば、土地の円滑な取得の可能性については、表明地域とそうでない地域は差があるのではないか。
今の段階では優劣をつけられる状況ではないが、表明地域については土地の円滑な取得の可能性は高そうだという結論である。
実際の新都市の可能性がある地域については、もう少し場所を精緻にして検討する必要がある。
土地取得の可能性をどのように考えておくかは重要な問題である。今回出したものは、客観的な条件から見ると土地の円滑な取得の可能性が高いというだけで、取得できると言うことではない。
この後、以下のような質疑応答が行われた。
次回、第17回審議会・調査部会合同会議については4月16日(金曜日)14時0分から行われることが事務局より提示された。
以上
(文責 国会等移転審議会事務局)