1) 実績の把握
対象とする5火山について、表10のとおり既存文献を参照して火砕流堆積物の実績を整理した。
大規模火砕流(109m3オーダー)の実績としては、安達太良山の約12万年前の噴火と那須岳の約1万6千年前の噴火の2例がある。また、中規模火砕流(107〜108m3オーダー)の実績としては、那須岳の大沢ユニット以外の4つの噴火ユニットにおける火砕流がある。
また、巨大噴火に伴った火砕流の実績としては,那須火山の北麓にあるカルデラ群から約100〜140万年前に噴出した白河火砕流群(体積1.0×1011m3以上)と高原火山の北麓にある塩原カルデラから約50万年前に噴出した大田原火砕流(体積1.0×1010m3以上)がある(山元孝広(1999)、井上・吉田・藤巻・伴(1994))。
火山名 | 文献 | 火砕流の実績 |
---|---|---|
蔵王山 | 酒寄(1992) | 火砕流堆積物は五色岳近傍にわずかに記載がある。 |
蔵王山 | 今田・大場(1989) | 山形側の山麓に蔵王ライン火砕流(更新世後期)の記述があるが、到達範囲は明示されていない。 |
吾妻山 | NEDO(1991) | 記載なし |
安達太良山 | 阪口(1995) | 約12万年前の湯川火砕流堆積物(火口から約16km)。火砕流噴出量2×109m3 。 |
那須岳 | 山元・伴(1997) | 大沢ユニット火砕流堆積物(約1万6千年前) 火口からの到達距離:12km 火砕流噴出量:6.4×108m3 |
那須岳 | 山元・伴(1997) | 湯本ユニット火砕流堆積物(約1万1千年前) 火砕流噴出量:1.2×106m3 |
那須岳 | 山元・伴(1997) | 八幡ユニット火砕流堆積物(約8千年前) 火砕流噴出量:9.0×105m3 |
那須岳 | 山元・伴(1997) | 大丸ユニット火砕流堆積物(約6千年前) 火砕流噴出量:1.4×106m3 |
那須岳 | 山元・伴(1997) | 1408〜1410年ユニット火砕流堆積物 火砕流噴出量:7.2×106m3 |
高原山 | 井上・吉田・藤巻・伴(1994) | 記載なし |
2) 検討方法
火砕流の影響範囲については、過去の実績をもとに類推するには事例が少ないため、実績を参考としながら、噴出規模を設定することとする。噴火規模と対応した噴煙が、山頂から噴煙柱(CH)の高さまで上がり、重力で水平にL、垂直にHだけ流下し、重力エネルギーを失って停止すると考え、この範囲を火砕流の影響範囲とする。この時、H/Lは火砕流噴出物の規模に依存する。
表10の実績から見ると、山麓部まで到達する大きな規模の火砕流が、安達太良山と那須岳で起きており、その頻度はおよそ数万〜10数万年に1回程度と考えられる。また、那須岳の実績をみると数千年に1回程度の噴火に伴って火砕流が噴出しているが、いずれも規模が小さく、その影響範囲は山体にとどまっている。これらの実績を踏まえ、火砕流の規模別の頻度を次のように設定する。
中規模火砕流:数千年に1回程度の頻度。那須岳の大沢ユニットを除く実績からH/L=0.25とする。
大規模火砕流:数万年に1回程度の頻度。安達太良山の実績からH/L=0.12とする。
上記で設定したH/L値を用いて、対象とするすべての火山で影響範囲を予測した。その際、ガススラストの高さ(CH)はピナツボ火山の1991年噴火の解析事例(金子他、1993)を参考に500mとした。