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「新都建設で新しい時代を開く」


島田 晴雄氏の写真島田 晴雄氏 慶應義塾大学 教授

1943年生まれ、1965年慶應義塾大学経済学部卒。同大学院を経て米国留学。1974年米国ウィスコンシン大学博士(産業関係論)。政府税制調査会委員、財政制度審議会委員、産業構造審議会委員、対日投資促進委員会部会長、規制緩和検討委員会委員など。

最近の主な著作、『マーケット・パワー』、『日本再浮上の構想』、『ジャパンクライシス』、『安全と安心の経済学』、『日本改革論〜新産業・雇用創出計画』、『日本の雇用〜21世紀への再設計〜』、『外国人労働者問題の解決策』 など。



東京時代から新しい時代へ

私は首都機能移転という言い方よりも、「新都建設」という表現にすべきだと考えています。新都建設は国家百年の計よりももっと大きな計になる可能性のあるものです。短い鎌倉時代でも1世紀以上あったのですから、200〜300年続くことも十分あり得ると思います。首都は時代の顔となるものです。新しい時代を開くという意味からも新都建設という表現がいいと思いますし、ぜひとも推進すべきだと考えています。

歴史的に振り返ると明治維新より今日までの時代を「東京時代」と位置づけることができると思います。私たちがこれから迎える時代は東京時代の延長ではないと思います。東京時代の成果を踏まえて、全く新しい時代を開くことが日本に期待されているのだと私は考えています。東京時代は欧米列強に囲まれて、その中で近代国家として一日も早く列強に肩を並べたいという時代だったと思います。封建時代の遅れを取り戻すために中央集権国家として富国強兵策をとり、資源を効率的に配分することで先進国にキャッチアップすることができたわけです。敗戦後も急速な復興を遂げて、多くの開発途上国のモデルとなりました。このように追いつき追い越せが東京時代だったわけですが、現在は先進成熟国として国際社会の中でどういう振る舞いをするのか、どういう国民生活にしていくのかが問われているのです。

さらにこれからは人口が減少し高齢化していくという、これまでとは全く違う新しいメガトレンドの時代に入っていくのです。その中で個人個人の豊かな生活や個性のある暮らしが重んじられて、国際社会と協調した開かれた社会をつくっていくことになります。それは東京時代につくられた基礎のうえで十分可能だと思います。新しいシンボル、新しい首都のもとで、新しい時代を宣言する時だと思います。思い切って分権して、思い切って世界に開いて、人々が個性を発揮して楽しい豊かな生活をする、という社会のイメージです。追いつき追い越せの時代ではありません。そうなると東京時代とは決別をして、東京時代に頑張ってきた首都東京は経済の中心としていっそう頑張ってもらうというのが良いと思います。

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首都機能の安全を確保すべき

10年位前から新都建設問題が社会的にも関心を呼び、具体的な政治課題となり、行政がそれを受け止めて本格的な首都機能移転として動いているわけですが、近代史には非常に珍しいケースだと思います。戦争があったとか、大地震があったという場合に首都を移すことはありますが、平時に政策課題として取り上げられるのはあまり例がないのではないでしょうか。ドイツのように分割していた国が統合するので首都を戻すというような政治的な理由もないし、大災害も戦争もないわけですから。平時にそういうことを考えられるのは民族の大変な知力・勇気・見識だと思います。

新都建設問題が出てきた背景の一つに、東京に人口や諸機能が集中し過ぎたために地価の高騰や水不足、災害対応などいろいろな問題がでてきたことがあります。経済の過密や自然生態系の問題、安全性の面から今の東京が危険ではないか、最適な首都ではないのではないかということが10年前から提起されてきたわけです。しかし景気の低迷もあって経済の過密という議論は少し色あせました。この数年干ばつが起きていないこともあり、水の問題も関心を呼んでいません。安全の問題は阪神・淡路大震災があったので改めて認識されましたが、この議論が起き始めた背景要因は変わってきています。しかしそれも国家数百年の計という大きな議論の枠組みの中で、濃淡が変わっているだけと言えると思います。

安全というポイントは依然として非常に重要だと思います。安全は首都機能を守るために重要なのです。もちろん市民の安全は東京に限らず守らなければなりませんが、東京のような大都市で大災害があったときに首都機能は守れるのでしょうか。やはり過密な大都会よりも、ゆとりのある田園都市にあった方が安全性が高いのではないでしょうか。

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新都はできるだけスリムに

新都のあるべき姿は非常にスリムであるべきだと思います。今の首都が持っている様々な機能は東京時代の持っていたしがらみだと思います。強力な中央集権国家として、ありとあらゆる機能を東京に集中させたわけですが、その時代は終わったと思います。本当に国がやらなければいけないことだけが首都にあればいいわけです。それは外交と防衛とルールメイキングだけだと思います。産業も教育も通信も福祉もみんな地方ができることです。個性ある生活とか各地の持っている豊かさを活かすことを考えると、国がやらない方がいいと思います。ですから小さな首都でいいわけですし、そうすべきだと私は思います。「グローカル」という言葉がありますが、地方の特徴が活かされつつ世界に対して各地方が全て開かれているという形が望ましいと思います。したがって新都は10万人規模で十分だと思います。

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徹底した行政・政治改革が新都建設の本質

新都は新しいライフスタイルのありかたを象徴するような都市づくりをすべきだと思います。それは逆説的ですが首都が大きくない、中央集権ではないということです。雑誌、本の販売、テレビ局、教科書などもっと地方に主体性を移していくべきだと思います。地方分権の時代といいながら、全国各地は地方分権を求めていないのではないでしょうか。それは中央に責任を任せて、中央を批判して、中央に要求している今のやり方の方が楽だからです。予算が足りなければ国に頼ればいいという考えでは、限りない財政赤字を国が抱えることになり、今後累積的に将来世代の重荷になっていきます。そういうあり方から決別しないといけない。中央はコントロールもしないかわりに面倒も見ない、地方は自分の工夫と努力でやっていくというのが新しいスタイルです。徹底した行政・政治改革、これが新都建設の本質です。建物をつくるのは二の次、三の次です。ライフスタイルを変えることこそ本質です。そしてそれこそ国家数百年の計として、おおいにエネルギーを費やす価値がある課題だと思います。

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人間と自然を新都の象徴に

もう一つ申し上げたいのは、人間と自然の新しいあり方をライフスタイルの象徴としておおいに前面に打ち出すべきだと思います。つまり人間性のある首都です。歩いて行ける範囲に小川のせせらぎがあり、木がさわやかに風になびいて、小鳥のさえずりが聞こえる環境です。朝起きてから寝るまできれいな空気と美しい自然と豊かな太陽の中で、1日を過ごせるようにするわけです。それは単純素朴な自然ではありません。それを可能にするための装置は全て地下に隠し、人の目にはいっさい触れないようにするのです。それはまさしく未来都市ですが、小規模なら可能だと思うのです。

自然とどう共生するかという視点からも、建設にあたって自然を壊すべきではありません。科学技術の粋を集めて人間が自然と共存しながら、世界都市としての機能を発揮できるあり方を追求すべきです。与えられた自然は壊さずに、世界都市にふさわしい最先端の機能を備えた自然都市を人工的につくるべきだと思います。100年後にはこうした都市が標準になるでしょう。

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国民が歓迎する新都建設に

最後に申し上げたいのは、新都建設が国民に大歓迎されるものでなければならないということです。それには国民が理解することがまず重要です。ですから場所の決め方は国民を強く意識してもらいたいと思います。途中までは理解されていたと思うのですが、最近はいろいろな意見があって、東京都も大反対しています。候補地が決定したときに、その住民はもろ手をあげて賛成するでしょうか。成田空港の建設の時、賛成の地主もいましたが、反対の地主がいたために後から大変なことになったわけです。審議会が粛々と候補地を決定していくと国民の感覚からずれてしまいがちです。確かに予算も予定もあると思います。それはわかりますが、国民の関心がないままに進めてしまって本当にいいのでしょうか。話が具体的になってきたときに、建設関係など利権にからむような話がでてくると、国民にそっぽをむかれることになりかねません。

国民が理解するのか、賛成するのか、そして選ばれた土地の人が本当にみんな賛成するのか、このことをぜひ最優先して進めていただきたいと思います。

また、財政難を理由に反対する意見もありますが、景気回復のためにすでに百兆円程度も使っているのです。しかも使い方が悪かったために、あまり効果も出ていません。それに比べれば未来型の新都を建設するために20兆円、30兆円を使うことは今の日本ならできますし、非常に重要だと思います。怖いのはいろいろな問題があるからこのへんで新都建設の議論そのものをやめようという動きが政治的にでてくることです。候補地を決めることそのものはもっと先に延ばしていいと思います。たいまつをもっともっと高く燃やして、ライフスタイルを変えていこう、未来に向けて発信していこう、人間と自然の共存を進めていこう、という自覚を高めていく必要がある思います。そうした国民の認識を高めるためには10年かけてもいいと考えています。

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