ホーム >> 政策・仕事 >> 国土計画 >> 国会等の移転ホームページ >> 国会・行政の動き >> オンライン講演会 >> 「首都機能移転は枠組みを整理して推進を」

国会等の移転ホームページ

「首都機能移転は枠組みを整理して推進を」


大西 隆氏の写真大西 隆氏 東京大学・先端科学技術研究センター教授

1948年生まれ。1980年東京大学大学院博士課程修了(都市工学)。長岡技術科学大学助教授、東京大学工学部教授等を経て、1998年から現職。国連大学高等研究所教授を兼任。建設省道路審議会、河川審議会専門委員、国土庁国土審議会特別委員。著書に「地域計画の新展開」、「都市交通のパースペクティブ」、「テレコミューティングが都市を変える」など。



災害対応と一極集中の是正が重要

首都機能移転に関して、私は条件付きですが、賛成の立場です。首都機能移転の目的として、防災上の問題と防災性の強化、東京一極集中の是正、国政全般の改革の推進、の三つの項目が挙げられていますが、私は特に最初の二つが重要だと思います。

防災については、日本は地震国だからどこで地震があるかわからないという批判もありますが、大災害のときに重要機能が幾つかに分散していることが、国全体が機能不全になるのを避ける意味で大事です。1カ所にだけ首都機能を置いておくのではなく、首都機能として災害に耐え得るようなものを幾つかに分散させておくことに意味があるのです。

それからもう一つの東京一極集中の問題というのは、バブルの時期が頂点で、その後は軽減されてきたという見方もありますが、東京の電車の混みぐあいなどは引き続き相当なものですし、もう少し国土全体を有効に使ってゆとりのある生活を各地で実現させたほうがいいのではないかと思います。それは、東京の負担の軽減ということにもつながるわけです。一方で、地方の側から見ると、一極集中の過程で重要機能が全て東京に集まってしまい、日本には東京しか街がないのかというような印象さえもあります。そうではなくて、日本の各地がそれなりに個性的に頑張っていこうというきっかけを与える意味で、東京が相対的な存在、つまり全国のあらゆる機能が集まっているところではない存在になるということが必要です。首都機能移転は、その面でもインパクトがあると思いますので、首都機能移転を積極的に進めるべきだという考えです。

ページの先頭へ

重都によるコスト削減も検討を

ただ、非常にお金がかかるとか、今の計画が大規模過ぎるという指摘が一方であります。その点に関して、これまで移転審議会が議論してきた枠組みとは違う形での首都機能移転というものを考えていく必要があるのではないでしょうか。これが私のいう条件ですが、結論的には、重都のような形になると思っています。新首都にすべての機能が移ってしまうと、これはまた新首都の防災性の問題が出てきて、日本の中では絶対という場所はないということで、そこに全ての機能を集中するというのはいいかという議論になります。

今の計画でも、国会都市がまずできて、それから最終的に新首都ができ上がるまでにしばらくの期間があります。その期間は、特に行政機能については東京にも残って、二つ都があるといういわば重都状態になるわけです。これをもう少し恒久的に考えてもいいのではないかと思います。国会を中心とした新しい首都と、一部の行政機能が残る東京都という形で、経済と一部の行政機能を東京が担って、司法、立法と一部の行政機能を新首都が担う重都状態を考えてもいいのではないでしょうか。

その考え方によっては、新首都の規模が、今考えているよりも大幅に縮小される可能性もありますから、コストも安くなるわけです。国会をつくる場所は新規に開発する必要があると思いますが、そこに勤めている人の住宅などは、既存の都市をうまく活用して、その中に埋め込んでいくという方法も十分考えられます。そうすると、新規の開発部については、場合によっては数百ヘクタールとか、千ヘクタールとか、今の計画よりもかなり縮小された規模になっていく可能性があります。

また、そのように縮小した重都というものを考えると、東京と新首都との間で頻繁にやりとりや往来が必要になります。したがって、新首都と東京との距離も、おのずから、今考えているよりも短い距離であることが必要になってきます。例えば今、新幹線を使って2時間程度というのが一つの基準になって、東京からおおむね60キロメートル程度から300キロメートル程度という地域が設定されているわけですが、その中でも、できるだけ短い距離で考えていく必要性が出てくるのではないでしょうか。それは、候補地の選定に影響を与える可能性もあると思います。

ページの先頭へ

新首都に求められる公開性

21世紀の首都のあり方、新首都像については、首都機能という面と都市機能という二つの面、つまり首都像と都市像の二つの面に分けて考えることができます。首都像としては、これから省庁再編が行われたりしていくわけですが、やはり分権的な方向性が出てくるでしょう。今の行政改革や分権論がさらに現実化されて、その上に新しい議論も加わって、地方住民、国民に近いところで意思決定が行われる割合が高くなっていくのです。そのように分権が進むということは、言ってみれば、中央政府がスリムになることにつながります。それは、新首都の一つの首都像として重要ですが、同時にすべてが分権化されるわけではありません。統一国家、独立国家として、首都の役割も依然重要なものがあるわけです。

新首都では、開かれた活動をすることが大事です。「開かれた」という場合、情報通信を使って政府の行っている活動を国民に知らせるという公開性が非常に重要ですが、同時に国民が首都を訪れて、国会の活動や中央省庁の活動などに気軽に接することができる、そういうフェース・ツー・フェースの公開性も必要です。それには交通のアクセスがかなりよくなければいけませんし、施設の立地や構成が非常にアクセスしやすい、開かれた形ででき上がっているということも大事です。また、情報提供の場などがいろいろ作られているということも大事になります。

ページの先頭へ

新しい時代を示す都市機能を

もう一方の新首都像について、これにはいろいろな思いを込めることができると思います。新しい都市をつくるのですから、これから日本の都市づくりに必要なポイントを可能な限りうまく実現していくことが重要です。例えば、環境共生という面で、できるだけ自然環境と融合した都市のあり方を実現することも必要ですし、エネルギーを効率的に供給するような新しい技術を導入したり、身近なところで発電して熱のロスとか送電ロスがなるべく少ないエネルギー供給をする、あるいは交通に関しても公共交通を生かしたり、技術開発が進んでいる燃料電池車が活用されるといった、環境やエネルギーに新しい仕組みを取り入れることが必要になるのではないでしょうか。日本全体としてこれからのテーマとなるまちづくりのポイントをいわば先駆的に、あるいは実験的に新首都の中に取り入れて、普及の促進なり、方向性の提示をしていくことに都市像としての意味があると思います。

同時に、新都市をつくるという意味では、首都機能移転の理由の一つに、一極集中の是正、ゆとりある国土利用ということがありますので、ゆとりのある都市づくりが望ましい。今の計画では最終的な規模として約8,500ヘクタールで約56万人の都市が想定されています。そのうち住宅として使うのが4千数百ヘクタールだったと思いますので、密度の高い都市ができる可能性があります。ですから密度も相当落として、ゆとりという点でも、将来を先取りするような都市づくりが課題となります。

ページの先頭へ

既存の都市と融合できる都市づくりを

もう一つは、どこに移転したとしても既成の都市や町があるわけで、それらとうまく融合していくということも大切なテーマです。新規開発をどんどん進めて、そこだけは別世界で周りとは隔絶したような形でできてしまうと、自然環境にとってもよくないし、社会的な交流という点でも望ましくないのです。

したがって、既存の都市とのデザイン上の融合、社会的な、人と人とのつながりにおける関係ということにも十分に配慮して、新しく来る人と昔からいる人がうまく交流して新しい文化や新しい生活スタイルが生まれていく、新しい人材がそこから育っていく、といったことを重視していくべきではないでしょうか。

この点においても、日本全体が分権化で独立割拠して、それぞれが言わば閉鎖的になってはいけないわけですから、日本の中でいろいろな形で交流し、国際的にも交流する。その交流が、首都に住んだ新しい住民の間だけで行われるのではなくて、古くからいる人も巻き込んで行われ、都市の中で新旧の交流や、歴史と新しいものとの交流が活発に行われるような仕組みが重要だと考えます。逆に新しいものも、古いものを壊すのではなくて、古いものとうまく融合していくようなデザイン、あるいは社会的な配慮が必要なのではないでしょうか。そのようなことが、総体として豊かで奥の深い新都市像を形成していくのだと思います。

したがって、新都市像というのは、ある意味では、先端的な技術とか、先端的な制度、仕組みというのを実験的に取り入れていくという、そういう先端性というのが一方で必要だけれども、他方で、古いもの、あるいは歴史的なものをうまく継承していくという、歴史への配慮や既存社会との融合という視点も、同時に必要になってくるのではないかと考えます。

ページの先頭へ

国民的合意形成を次のステップに

今回の答申は審議会の持っていた役割からすれば、結論があまりはっきりしなかった面があります。国会決議があって、法律ができて、移転するという大きな流れの中で、場所の選定をしていたわけですから、そういう意味では、候補地を絞り込むことが期待された役割だったはずです。ただ、一つに決めて移転しようという機が熟していたかというと、必ずしもそうではなかった。我々の研究室でやった世論調査の結果では、7割から8割ぐらいの人が首都機能の移転に賛成していました。しかし、それはかなり事情をよく知った人に対して実施されたことが影響している可能性もあります。その意味では、この問題についていろいろな情報が与えられて、首都機能移転の理由や意義が浸透していけば、比較的賛成する人が多いのではないかと思うのです。ただ現状ではあまり浸透していないこともあって、お金をたくさん使うから反対だというような意見もかなり多いように感じます。

そういう意味では、議論だけが先に行ってしまって、場所が決まっても、国民世論がそれを支持しないということも十分考えられます。今回の結論の出し方というのは、世論をベースにして考えると、妥当な線だったとも、仕方がなかったとも言えるようです。仕方がなかったという観点に立つと、今回の結論は一里塚ということになりますから、今後は首都機能移転の世論を盛り上げていく、あるいは国民的合意を形成していくために、次のステップが重要だということになります。

ページの先頭へ

次は移転形態の議論を

90年に国会決議があって、92年に法律ができました。その当時は、言わばバブルの真っ最中で、一極集中の弊害が盛んに言われていたころです。そういうときの議論の状況と現在とでは大分状況が違うというのも事実ですし、特に財政赤字が非常に膨大なものになってきています。あるいは、一極集中問題に関しては人口が減少していく時代というのが見えてきているということで、置かれている状況が変わってきているわけですから、やはり新しい状況における首都機能移転のあり方を考えなければいけなくなってきていると思います。第1段階が国会都市で、第2段階で全部移転するという計画も、約56万人、約8,500ヘクタールという大きな枠組みも、代替案が必要になってきていると思います。今回の審議会は、その枠組みの中で議論をしてきたわけですから、その枠組みそのものを見直すということが必要になってきていると思うのです。それは、必ずしも国会決議に抵触するわけではないと思います。枠組みというのは調査会で決めたわけですから、そこにさかのぼって、もう少し枠を広げて考えるという議論が必要だろうと思うのです。

一方でそういう状況がありながら、他方で防災性が必要だとか、あるいは、国土全体を有効に活用していくとか、ゆとりをもたらすということは、いわばますます重要になっているわけです。つまり、首都機能移転の半面については非常に重要になっているけれども、半面については状況が変わってきているわけです。それを全体総合すれば、首都機能移転そのものは必要性があるけれども、そのやり方、規模については、再検討が必要になっているということではないでしょうか。したがってその枠組みの整理、再検討を行う必要があると思います。正しい情報が伝われば理解が深まるという傾向が見られるという意味では、そういった議論を一方でやりながら、その議論を国民に伝えていくことと知らせていくということの、この両方がないとだめです。できるだけわかりやすい形で、いろいろなメディアに乗せて、首都機能移転の議論を身近なものにしていくことが必要になります。

これからエージェンシーなどいろいろ出てくる可能性もあります。人口が減って雇用が減少するということが起こってくる可能性の中で、国としてもいろいろな形で下支えをすることが必要になります。そのためにエージェンシーは、もっと日本の各地に立地するようにすることも考えられると思います。今回移転先の場所がある程度整理されたことを踏まえつつ、今度は移転形態についてもう一度整理し直してから、進めていくことが必要だと思っています。

ページの先頭へ