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安全で安心な国づくりのために考えるべきこととは

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入倉 孝次郎氏の写真入倉 孝次郎氏 愛知工業大学 客員教授・防災科学技術研究所 客員研究員

1940年中国・青島生れ。1963年京都大学理学部物理学科卒業。1968年京都大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士課程中退後、京都大学防災研究所助手、京都大学防災研究所助教授を経て、1988年京都大学防災研究所教授に。京都大学防災研究所所長、京都大学総長補佐を歴任し、2004年から京都大学理事・副学長。2005年から現職。

専門は、地震学、とくに強震動地震学、経験的グリーン関数法を用いて大地震時の地震動の合成に関する研究、強震動予測レシピの構築など。

日本学術会議会員のほか、日本地震工学会会長、内閣府中央防災会議専門調査会専門委員、内閣府原子力安全委員会専門委員、経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員、国立大学協会企画委員会基本問題小委員会科学技術基本計画対応委員、科学技術・学術審議会学術分科会臨時委員など公職多数。「スロバキアにおける地震学100年記念メダル」(スロバキア学士院地球物理学会)「文部科学大臣賞 研究功績者」「2004年度日本地震学会論文賞」「平成18年防災功労者防災担当大臣表彰」を受賞。

主な著書に『巨大地震の予知と防災』(共著/創文社)、『ここまでわかった都市直下地震』(共著/クバプロ)、『防災ハンドブック』(分担執筆/京都大学防災研究所編、朝倉書店)、『地震災害論 防災学講座2』(共著/京都大学防災研究所編、山海堂)などがある。


<要約>

  • 東京でマグニチュード7クラスの地震が30年以内に起こる可能性は70%以上。東京で地震が起こると過去の経験のみからでは予測できない被害が発生するなど何が起こるかわからないという問題もある。そういう意味で、地震が必ず起こると想定した上で、いろいろ対策をしなければいけない。
  • 東京と大阪や京都の住民を比較すると、地震に対する意識が阪神・淡路大震災を境に逆転したのではないか。大きな地震の起こる可能性が高いことを皆に知らせておくべき。
  • 東海・東南海地震が起きても、東京での震度はあまり大きくならないと思うが、震度は小さくても超高層ビルでは大きな揺れが長く続く可能性がある。そうすると、非常に混乱するのではないか。
  • 長周期地震動の問題を考えると、首都機能が正常に動くかというと、これまで経験がないために何が起こるかわからない。地震の混乱期にシステムだけでもバックアップできるようにしておくことが重要ではないか。
  • 巨大地震に対応するために首都機能を一時的に移せるシステムをつくるのは、非常に重要な課題。やはり、デュアル(二重)システムとして首都を考えていく必要がある。
  • デュアルシステムは日常的に機能するものでなければならない。そのためには、機能だけではなく、最小限の人材も必要。安全で安心な国を作るためにもデュアルシステムを考えるべきで、首都機能移転問題を考えるときもそれがキーポイントになるのではないか。

日本で自然災害が起こる可能性

日本の科学者の代表の集まりである日本学術会議では、今年の取り組むべき課題の一つとして、地球規模の自然災害の発生の可能性およびそのような大災害が起こったときに社会基盤をどう整備するかという問題を取り上げ、課題別委員会をつくって検討しています。この問題は国土交通省も強い関心を持っており、日本学術会議として同省から諮問も受け、国としてどう取り組むべきかなどの意見交換も行っています。

その委員会には三つの分科会があるのですが、私のいる第一分科会では、とくに地球惑星科学の立場から、地震と気象による災害現象の問題について議論しています。まず地震についていえば、大規模な地震、特に東海、東南海、南海地震は必ず起こるわけですから、現象そのものの科学的解明とそれに基づく精度の良い予測が必要とされています。もう一つ重要な気象問題にしても、いま温暖化によって集中豪雨などが増えています。そこで、CO2によってどのぐらい温度が上昇して、それがどういう影響を与えるかというシミュレーションがなされていますが、それらの結果はどの程度の信頼性があり、またその社会的影響としてどのような現象が予測されどのような対応が必要か、などが議論されています。

私の専門でもある地震について考えてみると、大規模災害が予想されるのは駿河沖から四国沖にかけた南海トラフに起こる巨大地震だけではありません。地震には海溝型や内陸活断層型というような種類があり、海溝型は海洋プレートが陸側のプレートの沈み込みに伴って生じる歪みの解放によるもの、内陸活断層型は内陸の地殻内の弱面(活断層)での歪みの解放によるものです。東京より北東では太平洋プレートが陸側のプレートに沈み込み、東京より南西側ではフィリピン海プレートが陸側に沈み込んでいるので、東京近辺はこれら3枚のプレートがぶつかっている地域に近く、そのため国内でも最も地震が多い地域です。一方、内陸活断層については、東京の場合は堆積層が厚く堆積しているので非常にわかりにくいのですが、安政江戸地震(1855年)などは内陸活断層型の地震だった可能性があると言われています。過去の地震の調査から活断層による地震の発生確率はそれほど高くないと考えられています。

東京で問題となるのはやはり海溝型の地震です。近年最も大きな地震は1923年の関東地震ですが、この地震はフィリピン海プレートの上面に起こったマグニチュード8クラスの地震で、そのクラスの大きな地震はしばらくないだろうと考えられます。しかしながら、フィリピン海プレートおよび太平洋プレートに伴うマグニチュード7クラスの地震を併せて考えると今後30年間に発生する確率は72%と推定されています。このうち、フィリピン海プレートのやや深い部分に起こる地震は東京のほぼ直下に位置しており、地震が起こると首都に大きな被害の発生する可能性が高いことが中央防災会議から報告されています。

首都圏の防災としては、内陸活断層による地震を想定した被害も当然考えておく必要があります。地震が起こったら、人口が非常に稠密で、交通網、情報網、重要施設が集中していますから、どこかで被害が起きるとそれが波及効果を生みだします。家屋や高架橋が倒壊する、山手線など列車が被害をうけるなど、地震による一時的な被害とは別の被害の可能性が出てくるわけです。

また、急速にCO2を削減しない限り、地球温暖化が生じることは確かであるといわれています。温暖化の影響として日本では集中豪雨が多発するというシミュレーション結果が出されています。集中豪雨により洪水災害や土砂災害の発生の可能性が高まることになります。東京を中心とする首都圏では地震による災害だけでなく地球温暖化の影響を受けて気象災害も今後増える可能性があります。さらに、地震の前後に集中豪雨などの気象災害が発生し、地震による災害と複合して被害が拡大することも考えておく必要があります。

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防災に対する意識と地震が起こる確率の関係


私は長く京都大学にいましたので、関西の経験が強く頭に残っています。その関西の住民感情としては、やはり関西には地震が少なく、東京は地震が多いというものがあるように思います。だから、日頃の感じ方としては、私が地震の揺れの研究をずっとしていても、そのような研究の重要性はなかなか皆から理解されないということがありました。ところが、阪神・淡路大震災が起こると急に地震防災に対する関心が高まりました。起こってからでは間に合わないわけですけれど、防災に対する関心は地震が起こらないとどうしても低くなってしまいます。

東京と大阪・京都の住民の地震に対する関心度を比較しますと、恐らく阪神・淡路大震災の前までは、東京の人の方が地震に対する心配をずっとしていたと思います。しかし、その後は意識が逆転したのではないでしょうか。人々の気持ちというのは、どうしても目の前で起こった現象に意識が残りますので、一度ある現象が起こるとまた同じことが起こるという想像はできても、起こってないことに想像力を働かせて次を意識することがなかなか難しいということだろうと思います。

ところが、地震に対しては逆の意識をもつ必要があります。最近、活断層に起きる地震の確率的予測が次々に発表されましたが、ある活断層の地震の予測をすると過去に地震が起きたところの確率は当然低くなるわけです。そして、地震が起こっていないところの確率が高くなる。もちろん、地震に対する危険度を考えるのに確率的なものはあまり役に立たないという意見もあります。私もあまり確率表現のみを重視するのは地震に対する危険度を過少に考えてしまうので問題があると思っています。とくに、確率を出すときに様々な仮定が必要なのですが、現在の確率的な地震動予測には仮定そのものに科学的には疑わしい面もまだたくさんあると思います。しかしながら、確率的予測は重要なことを示唆する面も、もちろんあるわけです。地震の起こる可能性があって未だに起こっていないところというのは、やはり次に地震が起こる可能性が非常に高いということは間違いのない事実に基づいたものです。

そういう意味では、東京では常日頃から地震がある程度起こっているにしても、大きな地震は起こっていないわけですから、どこと指定するのは難しいとしても大きな地震の起こる可能性が高く、地震の揺れによる大きな被害がでるということを皆に知らせていく必要があると思います。阪神・淡路大震災の後、東京の皆さんは「東京にいてよかった」という感じで、東京に被害が出るような地震はやってこないと思っている可能性が高いのではないかという気がします。

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震度だけでは分からない超高層ビルの危険性

東京に最も大きな被害を引き起こすと考えられる関東地震はマグニチュード8クラスで、その繰り返し周期はだいたい220年ぐらいです。前の関東地震は1923年ですから、まだ80年ぐらいしかたっていません。過去の地震の発生状況からおおざっぱに言って周期の半分を過ぎるとあぶない場合が多いので、関東地震はその程度の意味でまだ大丈夫ではないかと考えられているようです。確率的にいえば、先に述べた海溝型の巨大地震の中でいま一番危ないのは東南海地震です。繰り返し周期は計算の方法で少し変わりますが、90年ちょっととされています。1944年に起きていますから、地震後の経過率はすでに0.7程度ですので、もうすぐ満期に近くなるといえます。

東南海地震や南海地震が30年以内に起こる確率は地震調査委員会の発表で2001年1月の時点でそれぞれ約50%と約40%だったのですが、それから4年たった2005年1月時点では約60%と約50%というように変わってきています。ラフに計算すると、年に2.5%ぐらい上がっていることになります。2003年に北海道の十勝沖の地震は今後30年の発生確率が60%の段階で起こっていますので、すでに切迫性が高いと考えるべきです。

東海地震が30年以内に起こる確率は84%とされていますが、過去の事例で東海地震だけが単独で起きたということは知られていないので、東南海地震と東海地震が同時に起こる可能性が非常に高いと考えられます。ですから、次の東南海が起こる確率をそのまま東海地震の確率に当てはめた方が、より現実に近いのではないかと思います。

東京を考えると、東海や東南海で実際に地震が起こっても、震度が6弱以上になることは殆どないので、これまでの過去の地震被害で報告されている普通の意味での被害は起こらないと思います。しかし、超高層ビルの人たちはパニックになる可能性があります。これについては早急な検討が必要ではないかと思います。というのも、東京都や中央防災会議で行っている被害予測というのは、地震が起こったらどれくらい揺れるかを計算してその揺れの大きさから推定される震度分布を使って行います。これまで発表された方法では、阪神・淡路大震災の経験から震度が幾つだと建物が何%壊れる、そして何%の建物が壊れると何人の人が亡くなるという経験的な関係で被害が予測されています。震度というのは揺れの中でも最大速度の値に関係づけられますが、周期が短かく短時間でおわる揺れや周期が長く長時間続く揺れなど、地震によって揺れ方が全然違いますけれども、揺れのピークの値(最大速度値)だけで震度が決まり、その値で被害予測がなされています。南海トラフに起こる巨大地震による揺れを計算してみると、遠く離れた東京など首都圏では実際には大きな揺れが長く続くことがわかってきました。そういう周期の長い地震動がやってくると一般の木造家屋や中低層の鉄筋コンクリート・鉄骨構造物はあまり揺れないのですが、周期の長い超高層ビルなどは大きく揺れることになります。

阪神・淡路大震災では揺れた時間がだいたい10秒間といわれていますから、ちょっと我慢すれば終わってくれました。ところが、例えば東海で地震が起こったとき、東京の超高層ビルにいる人は、何十分、下手をすれば1時間くらい揺れの中で生活しなければならなくなります。その中でどうやって避難するかなど、前もって考えておかないと何が起こるかわからないことになります。現在のシミュレーションでも、超高層ビルの上層部分では、東海地震などでも1〜2メートルくらいの揺れが生じるだろうとされています。そうすると、そこにいる人々は必ず逃げ出すだろうと思いますが、逃げ出そうにもエレベーターが足りない。だいたいエレベーター自体が危ないですから、階段を使わなければならない。しかし、現状で階段にそれだけのスペースがあるかという問題があるわけです。いずれにせよ、すごい混乱が生じるのではないかと思います。

巨大地震が近代都市の近くで起こったということはまだ国際的にも経験がないので、こうした災害が起こったことはありません。ロサンゼルスやサンフランシスコの地震にしても、ほとんど内陸の地震で海溝型の巨大地震に比べたら小さいものばかりです。ですから、長周期地震動による被害はありませんでした。巨大地震が発生したときの長周期地震動による被害を唯一経験しているのが日本で、2003年十勝沖地震による石油タンクの被害です。従って長周期地震動が起こったときにどうなるかは、日本が世界に先駆けて研究し、災害軽減のため独自の技術を開発する必要があります。東海地震などが起きても東京が壊滅的な打撃を受けるとは思いませんが、これだけ超高層ビルが林立している都市は他にないわけですから、何らかの対策を講じる必要があるのではないかと思います。

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長周期地震動から考える東京の揺れ方

東京というのは、ご存じのように堆積層が厚い地域です。つまり、軟らかい地盤が深いところまで続いているわけです。2004年の紀伊半島南東沖地震や東海沖地震は日本列島からやや遠いところにおきた大きな地震で、それらにより日本列島全体に周期の長い揺れが生じましたが、そのとき東京は最もよく揺れた都市の1つでした。軟らかい地層が厚く堆積しているところ、すなわち堆積盆地では、地震が起こると一般によく揺れるのですが、さらに周期の長い揺れが生じます。東京では、堆積層の厚さとそこでのS波の速度の関係から揺れの周期(長周期振動)が7〜8秒のときに揺れが最も大きくなり、大阪が5〜6秒、名古屋が3秒くらいといわれています。これらの周期はそれぞれの地域の堆積地盤の揺れの固有周期とよばれるもので、これらの揺れの固有周期と超高層ビルなどの構造物の固有周期が一致すると「共振」して揺れがさらに大きくなります。今の日本の超高層ビルの固有周期は3秒が一番多くて、長いと5〜6秒といったところですから、東京の平均的な地盤の周期(7〜8秒)より短いことになります。しかしながら、地盤の基本周期が7〜8秒ということは、2次の固有周期が2〜3秒になりますので、7〜8秒の揺れだけでなく2〜3秒の揺れで構造物が大きく揺れる可能性があります。超高層ビルの本体は柔構造として作られていますので、長周期地震動により大きな揺れが生じること自体は織り込み済みのはずですので、本体そのものが倒壊するというようなことは起こらないといわれています。しかし、設計では想定していなかった長周期の大きな揺れに襲われたら、室内の家具など付帯物がどうなるか、そこに居る人々がどのような影響を受けるかなどを考えておく必要があると思います。

地震に対する東京の弱点というのは関東大震災のときによく研究されています。震動の周期が0.5〜1秒の場合、地盤のやわらかい下町のほうがよく揺れたため、下町では木造家屋の被害が大きかった。一方山の手では、それよりも短周期(0.5秒以下)の揺れが強く、そのため土蔵など短周期に弱い構造物が被害を受けたと報告されています。これらは東京都などの地震被害予測にも反映されていて、首都機能の中枢となっている霞が関周辺地域は地盤が良いので地震に対する地域危険度は最も低いランクに評価されていますが、基本的にそれは短周期の地震の揺れのときには大丈夫ということだろうと思います。関東大震災のときも、浅草などの下町やゼロメートル地帯などの海岸近くは非常に被害が大きかったのですが、霞ヶ関では被害をあまり受けていません。ですから、震度だけの話でいえば、東京近辺に地震が起きても首都機能の被害はそんなに大きくなることはないと思います。

しかしながら、長周期振動の問題を考えると、揺れの大きさが地層の浅いところでは決まらず、もっと深い構造のところで決まってきます。そう考えると、霞ヶ関もいつでも安泰とは言えないことになります。超高層ビルが倒れることはないとしても、機能が正常に動くかというと、そういうことがこれまで起こったことがないために何が起こるかがわからないわけです。情報システムがきちんと作動するか、避難したいときに避難がきちんとできるかも現状ではなかなか分からない。巨大地震が起こってからでは遅いので、いまのうちに超高層ビルが大丈夫かどうか、どのような点をチェックするべきかなどの対策の策定は緊急の課題となっていると思います。

上記のようなことを考えると、首都機能をどうするかについても早急な検討が必要な時期が来ていると考えます。首都を丸ごと移転するということは時間的にも経済的にも困難としても、地震の混乱期にシステムだけでもバックアップできるようにしておくことが重要なのではないかと思います。今のところ、近々必ず起こると完全に予測できる地震は、南海トラフ地震(東南海・南海地震)だけです。予知できるという意味ではなく、南海トラフ地震は必ず起こるので、そのときに何が起こるか予測して対策を立てることができるのではないでしょうか。首都をどうするかということは、都市づくりの観点から考えておかなければならないことだと思います。首都機能移転の問題は、21世紀の前半にも必ず起こると考えられる巨大地震に対して東京はどのような備えが必要かということを考える中で、もう一度考え直す必要があるのではないでしょうか。

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巨大地震への対応策としてのデュアルシステム

ドイツのミュンヘンの再保険会社が世界の主要都市の災害危険度指標を評価して、日本の東京・横浜が世界の主要都市の中で飛び抜けて高い危険度となることを2003年発表して国内外で大きな反響を呼びました。その他種々の調査・分析でも、東京は地震あるいは気象によるものを含めて自然災害によって大きな被害が起こる可能性が日本でも一番高い地域の1つです。だから、東京をどうにかしないといけません。現在は東京に全ての首都機能が集中しているので、それ自体は機能のコンパクト化という観点からも極めて効率的な面もあり、便利ともいえます。その意味からも、首都機能の全部または一部でも別に移転するというのも現実的ではなく反対も強いと思います。しかしながら、これまで述べてきたように自然災害の観点から、首都機能を東京に一極集中させておくことは極めて危険と考えます。やはりデュアルシステムとして首都を考えていく必要があると思います。東京を捨てるということではなく、首都の機能を東京にそれなりに残したまま、システムをデュアル(二重)にできないかということです。巨大地震に対応するために、政府などの首都機能を一時的に移せるというシステムをつくるというのは、非常に重要な課題だと思います。日本のような自然災害の多発する国では、このような考え方が、安全・安心の観点からの新たな都市づくりの基本となるものではないでしょうか。

デュアルシステムというからには、機能を災害のときだけ急に立ち上げるのは非常に難しいですから、日常的にシステムをサポートできるような体制が必要です。そういう体制を早急にとらなければ、いろいろな災害対応が難しいのではないかと私は思います。

デュアルシステムは、災害だけではなく、テロ対策などを考えても基本中の基本です。日本が今まであまりデュアルシステムを考えてこなかったということは、日本はある意味でそれだけ幸せな国だったということでもあると思います。阪神・淡路大震災にしても、幸いにして首都ではなかったわけです。あれが本当に首都に近いところで起こっていたら、誰もがデュアルシステムにしなければならないと思ったのではないでしょうか。そういう意味で、現実に起こらないとなかなか理解されないということはあるのですが、東京で本当に地震が起こってからでは間に合いませんから、常日頃から考えておく必要があるのではないかと思います。

こうしたシステムを置くにあたっては、東京と同時被害を受けないことや、災害発生時にアクセスができなくなったりしないことが条件になります。そう考えると、少なくとも地震の観点からは、どうしても東京から北の方向が望ましいということになると私は思います。東海や東南海などの地震を考えると、想定される震源域に近いようなところでは、被災したときに陸上アクセスなどが途中で中断される可能性が高い。そういう障害があると、実際に機能しなくなるのではないかという気がします。

もちろん、東京より北の方向でも、宮城県沖地震が今後30年以内に99%の確率で起こるといわれています。宮城県沖地震が起こったのは1978年で、周期は40年ちょっとと考えられています。しかし、1978年のときもそうでしたが、影響が出るのはせいぜい仙台までと考えられます。また、北関東も那須の西方に活断層がありますが、既に動いたことがわかっているので、その近くで活断層の活動が起こる可能性はあまり高くないといえます。茨城県沖や福島県沖でも地震がしょっちゅう起こっていますので、北関東でも地震による揺れは結構あると思いますが、大きな被害に至ることはないのではないでしょうか。

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安心で安全な国を作るためにもデュアルシステムを考えるべき

デュアルシステムを考えるときには、やはりデータをきちんとコントロールする、あるいはいろいろな情報の発信システムが機能するといったことが重要になってきます。ですから、人がいるよりも情報管理の機能が重要なのですが、これを無人でやるのは難しいだろうと思います。デュアルシステムというのは常にバックアップを行える体制ですから、マスター(主機能)が切断されても大丈夫だというシステムをつくっておかなければいけません。マスターがだめになったら、スレイブ側(バックアップ機能)でそれなりのことができないといけません。それから、マスターがもとに戻ったとき、すぐに情報が戻せるようにしておく。そのためには、単に施設だけがあるのではなく、最小限の人材を置いておくことが、少なくとも災害対応ということからは必要だろうと思います。

それから、国民に関心を持ってもらうためにも、デュアルシステムは日常的に機能するものでなければならないと思います。要するに、大災害のときしか機能しないというようなものでは、無駄遣いではないかということでなかなか理解していただけない可能性がある。コンピュータなどにしても、常日頃からバックアップをとっていなければいざというときに使えないですから、常日頃からデュアルで仕事ができる体制を今後考えていかなければならないと思います。

そういうことからすると、今のままではやはり安全・安心というかけ声だけになってしまうような気がします。安全で安心な国をつくるためには、まずデュアルシステムを考えるべきではないでしょうか。首都機能移転という問題を考えるときにも、それがキーポイントになるのではないかと思います。そういうことを含めて、首都機能移転をどうするべきかについて、やはりもう一度世論を喚起する必要があると思います。

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