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持続可能な社会と都市の望ましい関係とは

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泊 みゆき氏の写真泊 みゆき氏 NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事長

日本大学大学院国際関係研究科修了。(株)富士総合研究所で環境問題、社会問題のリサーチに従事し、1999年にバイオマス資源の社会的・生態的に適正な利用促進を目的とする「バイオマス産業社会ネットワーク」を設立し、共同代表に。2004年、NPO法人格の取得に伴い、同理事長に就任。バイオマス情報ヘッドクォーター推進検討委員会委員、バイオマス利活用普及啓発推進事業検討委員会委員などを歴任。

主な著書に、『バイオマス産業社会』(共著、築地書館)、『アマゾンの畑で採れるメルセデス・ベンツ』(共著、築地書館)などがある。


<要約>

  • 東京という機能が一時的であれ機能しないということは、世界の政治経済にとってインパクトが大きい。日本は国の責任として危機管理のための国家機能バックアップを早急に整える必要がある。
  • 日本もEUのように持続可能性の国家戦略が必要。現在、化石燃料、漁業資源などの天然資源が枯渇の危機にある。特に日本のような先進国の人間は、基本的に天然資源消費を抑えていかざるを得ない。
  • 東京は規模が大き過ぎて持続可能ではない。持続可能な社会に向かっていくには、首都機能移転が一つのインパクトになり得る。市場原理に任せていたのでは、恐らく分散化は進まない。政治的な決断が必要である。
  • 首都機能を分散させるにあたっては、雇用、文化、教育の三つの視点から意識改革や思い切った手立てが必要である。
  • インテリジェントビルが並ぶ都市、人工的につくられた都市に住む人にはストレスが多いのではないか。首都機能移転で新しくつくる都市については、緑が多く、住みやすい街づくりを望む。 

日本の持続可能性は世界的な責任、国家戦略として考えるべき

まず、東京という都市を考えた場合、持続可能性とはそぐわないというか、非持続的な状態にあります。そういった現状に対してどこから手をつけるのかというと、危機管理という点では、首都機能の早急な分散移転が必要ではないかと思います。特に地震の脅威は非常に差し迫っていますし、東京という機能が一時的であれ機能しないということは、世界の政治経済にとってあまりにもインパクトが大きい。ですから、日本は国の責任として、最低限、危機管理のための国家機能バックアップを早急に整える必要があるかと思います。

また、東京や首都機能移転を持続可能性の視点で考えると、まず、日本の国家的な持続可能性戦略が必要ではないかと思います。それには内外の専門家などの意見も必要ですし、もちろん国民的な議論も必要です。人口問題や経済政策、雇用、福祉、食糧、エネルギー、貿易、資源、生活、自治、住民参加、発展のあり方などについて、これからの21世紀にどうしていくのかということをみんなで考えなければなりません。そして、「このように進もう」というある程度の国家像が明確になって初めて、首都機能移転という議論が位置づけられるべきだと思いますし、例えばその中にバイオマスの利用というものも位置づけられるべきだと思います。

外国の例をあげますと、EUにはアムステルダム条約というものがあります。EUはバイオマスの利用が進んでいるので、その真似をしようという話がよくありますが、EUではまず持続可能性についての国家戦略が先にある。持続可能なEU、ヨーロッパとはどういうものかということを、かなりの時間をかけて議論し、まとめたものを条約の形にしています。それに基づいて、例えば持続可能なエネルギー戦略があり、再生可能エネルギー戦略があり、その下にバイオマスについての政策があるわけです。エネルギー戦略では、「持続可能」と同時に「安全保障」の意味合いも重要です。中東などのEU外に頼るのではなく、いかにEU内でエネルギーを自給していくか。EUは食糧の自給はもう達成していますので、あとは維持していけばいいわけです。日本の場合、広い意味での安全保障の中では食糧自給も必要ですので、そういうものも持続可能な国家戦略の中に位置づけることが必要になってくると思います。

また、再生可能エネルギーをどうしていくかを考えていくときには、そもそもエネルギー需要はどの程度なのかということが必要となってきます。2020年、2050年、2100年といった時期に、人口はどのぐらいなのか、どういう暮らしをしていくのか、そのためにはどのくらいのエネルギーが必要か、というふうに考えなければなりません。バイオマスをどのぐらい開発すればいいのかという前に、将来の予想や国家像がないとどうしようもないわけです。これは国民みんなで考えていく問題だと思いますし、そのためにもやはり国家戦略というものが必要になってきます。

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持続可能な社会・都市づくりへの課題は資源枯渇

「持続可能とは何か」ということはなかなかイメージできませんが、それにはいろいろな定義があります。私の定義では、生態系システムを壊さない範囲内で生活の質的向上をするということになります。例えば、天然林をこれ以上減らさないようにする。あるいは、漁業資源も非常に減っていますから天然の魚をこれ以上減らさないようにする。魚などについていえば、50年前に比べると、人間がよく食べる魚はもう9割ぐらいとり尽くしてしまって、今は10%ぐらいの資源量しかないともいわれています。そう考えると、特に日本のような先進国の人間は、基本的に天然資源消費を抑えていかざるを得ないわけです。

また、化石燃料は、石炭以外は今世紀中には枯渇するといわれています。ですから、今は20世紀型の社会経済システムで動いてしまっているのですが、それを違うものに転換していかなければいけません。そのために、イギリスやドイツ、フランスなどでは、2050年低炭素社会シナリオというものを構築しています。そこでのシミュレーションによると、気候変動を人類社会にとって危険なレベル以内にくいとめるためには、2050年までに1人当たりのCO2排出量を今の半分ぐらいにしなければならないとされています。しかし、それは非常に難しいわけです。

無理矢理やろうとすれば、原子力発電をふやすとか、バイオマスをたくさん輸入するとか、炭素固定をするといったような方法が出てくるのですが、恐らくこれらの方法では他の重大な問題を引き起こすでしょう。ですから、発想の転換が必要になってきます。例えば、首都機能移転で新しい都市をつくるとき、50万都市を前提にすれば、今ある50万都市に比べてエネルギー消費量を半分に減らすにはどういう都市計画が必要かというように考えるのも一つの手だと思います。このような思考プロセスから首都機能移転というものも考えていくべきだと思いますし、それが持続可能な経済社会に転換する際の有効な方法になっていく可能性は十分にあるだろうと思っています。

それから、日本としては、今と同じだけエネルギーを消費するのではなく、いかに減らしていくかを考えていくべきではないでしょうか。今の利便性をあまり失わない形でなければ受け入れられないでしょうから、公共交通機関をいかに使いやすくするか、1台当たりの燃費をいかに減らすか、自転車でいかに走りやすくするかということを考えていかなければならないと思います。特に自転車の利用は有効ではないでしょうか。新しく首都機能を移転するところでは、ほとんど公共交通機関と自転車で移動できるぐらいのまちづくりをするのが良いのではないかと思います。

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歴史や海外での事例が教えてくれること

ジャレド・ダイアモンドという人が『文明崩壊―滅亡と存続の命運を分けるもの―』という本を書いています。過去の文明がどのような要因で崩壊していったかということを克明に分析した本です。ある地域で何らかの事情で人口が増加すると、そこの近くの木が切られてしまい、気候がだんだん乾燥化して土壌が流出していく。そうすると、どこかの時点で臨界点が来て文明が崩壊する、それが悲劇的に進んだのがイースター島の例だとしています。

私たちからすれば、崩壊しようとする文明の人たちは、どうして崩壊を止められなかったのだろうかという疑問を持つと思います。この本では、例えばイースター島の最後の1本の木を切る人は何を考えて切ったのかということについても、「ここにはもうないけれども、他のところにはあるのではないか」、「自分が切らなくても、誰かが切ってしまうから、結局同じことである」と考えていたのではないかと推測しています。このことは現代の私たちに多くの示唆を与えているのではないかと思います。今日はとりあえず無事に過ごせるし、明日も無事に過ごせるだろうという感じで、現代の私たちがずっと先送りにしてきたことが、そろそろ20〜30年後には手のつけられない状況になるかもしれません。私たちのネットワークでは、我々の文明が明らかに非持続的であり、我々にはもう時間がないと考え、せめていくつかの持続可能な地域を残そうと活動している人がいます。

では、何をすればいいかというと、それははっきりわかっていて、化石資源の外部経済を内部化すれば経済のメカニズムでかなり問題は解決されるわけです。

ただし、化石資源や鉱物資源が枯渇しているから、自然エネルギーにシフトすればよい、それも輸入バイオマスを増やせばよいという意見には疑問を感じます。私は、輸入バイオマスには持続性にかなり問題があると見ています。ボルネオ島のパームオイルの事例を紹介すると、マレーシア及びインドネシア政府は、バイオディーゼルなどに使うことができるパームオイルのプランテーションを増やしているのですが、このことがボルネオ島の熱帯林破壊の最大要因となっているわけです。しかも、プランテーションでは先住民との間で土地問題も生じていますし、児童労働や農薬被害などの問題も起きており、持続性とは相反するものになっているのです。

次に、エタノールの事例を紹介すると、ブラジルは世界最大のエタノール生産国で、2020年までに生産量を2倍以上に増やすと言っています。しかし、その増やした分をすべて日本が輸入したとしても、日本の輸送エネルギーすべては賄えません。今の輸送エネルギー量はあまりにも莫大ですので、化石燃料をバイオ燃料にとりかえることは無理です。アメリカにしても、アメリカで生産するトウモロコシ全部をエタノールにしたとしても、アメリカの輸送燃料の2割ぐらいにしかならないと言われています。ですから、バイオ燃料はワン・オブ・ゼムの解決策ではあるけれども、それ単独ですべてが解決できるというものではないわけです。

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持続可能な社会・都市づくりへの視点〜集中化から分散化へ

持続可能性という観点からすると、現在の東京は規模が大き過ぎて、どう考えても持続可能ではありません。メガロポリスというのは、化石燃料があって初めて成立し得るものです。世界的に見ても、化石燃料がなかった時代にこれほど大きな都市はありませんでした。東京というのは非常にエネルギーを必要とする都市です。ですから、持続可能性という面からすれば、もう少し規模を小さくしていくという方向が必要だと思います。

また、東京の場合、東京都だけでなく、神奈川、埼玉、千葉などを含めた首都圏という広い範囲で考えなければなりません。東京都だけ、23区だけということであれば、まだ考えようがあるのですが、これだけ広がっている都市圏をどうするかと考えると、やはり様々な機能を分散していく方向が必要ではないかと思います。今は必ずしも東京に無くてもよいものまで、東京に集まってしまっています。そういうものはできるだけほかに移していくことが必要ではないでしょうか。そのためには、分散化を促すような法体系が必要になってきます。例えば企業にとって機能を分散することがメリットになるような税制などが、一例として挙げられると思います。それは危機管理にもなりますし、東京の住みやすさにもつながるわけです。

そういう意味で、持続可能な社会に向かっていくにあたって、首都機能移転などが一つのインパクトになり得るとは思います。しかし、そのためには戦略と価値観の転換が必要です。市場原理に任せていたのでは、恐らく分散化は進まないでしょう。集中しているほうが、経済効率が高くなりやすいのは当然です。ですから、政治的な決断が必要であろうと思います。

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分散化への3つの視点〜「雇用」「文化」「教育」

東京に限らず、現在では都市化は世界的に大きな問題となっています。今は世界の人口の6割ぐらいが都市に集中している状態ですが、これは持続可能性の点からいって、あまりよくありません。なぜ都市に人が移動するかというと、雇用、文化、教育の三つが大きな要因として挙げられます。

雇用については、都市に行ったからといって雇用先があるとは限らないのですが、農村では十分な収入が得られないために移動が起こってしまいます。地方にいかに雇用をつくるか、特に若い人の雇用をいかにつくるかが一番知恵の出しどころだと思います。首都機能の移転も方法の一つだと思いますし、もっと地道なところでは、その地域の自然風土に合った産業づくりということも考えられます。地方は企業の誘致をよくやりますが、安易にやっても、すぐにもっと安い海外に行ってしまったりします。その地域に本当に根づいたもの、簡単には移転できないようなものをつくっていくことが必要です。

文化については、意識の変化が必要だと思います。そのためには、メディアの役割が非常に大きいわけです。日本のマスメディアはあまりにも東京中心になり過ぎていて、しかも、東京を持ち上げるような書き方をします。とにかく地方は遅れていて、東京は何でもすごいというふうに、ずっと人々を洗脳してきたわけです。

これを何とか切換えるためにも、ぜひマスメディアを東京でないところに持っていってほしいと思います。そうすれば、記者自身が「田舎暮らしはいいな」ということを本気で書くようになるのではないでしょうか。この首都機能移転の中でも、ぜひメディアというものをきちんと位置づけていただきたいと思います。

また、教育も大きいと思います。今、都心でないところに移転する大学も増えてはいますが、学生の立場から考えると、東京を目指す傾向があるのではないでしょうか。東京の大学が東京から離れたところに移転する、そのぐらい思い切ったことが必要なのではないでしょうか。一つの方法論としてそう思います。

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本当の意味での「持続可能な都市」とは

私たちが子供のころの未来の社会像というのは、人工物がいっぱいあって、すごいビルが建ち並んでいて、高速道路が走っていてというイメージだったと思います。今でも一部にそういうイメージを持っている人たちがいて、例えば六本木ヒルズなどを理想としているわけです。しかし、これからはそうではなく、住む人にとってもストレスが少なく、健康や環境にもいい長もちする家づくり、まちづくりにだんだんシフトしていく必要があると思っています。

例えば、京都や奈良の古いお寺は、それこそ1000年以上も建っています。それらの建物は、南側の壁に南側の斜面で育った木を使い、北側には北側で育った木を使うということをやっているわけです。そのようにつくると、1000年もつものなのです。今の建売住宅の多くが20年ももたないのは、南洋材などのような全く気候の違うところで育った木を使っているからです。わざわざ外材を輸入してくるよりも、近隣の木材でつくったほうが住宅にしても長持ちする。首都機能移転で新しくつくる都市については、そういう観点も必要ではないでしょうか。

また、ブラジリアに住んでいる日本人の方から話を聞いたのですが、ブラジリアは「人工的過ぎて住みにくい、住んでいてストレスがたまる」ということをおっしゃっていたことも参考になると思います。ブラジリアというのは30年ぐらい前、非常に人工的につくられた首都です。確かに治安などはいいですし、よく考えてつくられているのですが、もう少しゆとり、無駄みたいなものがないと、住む人間は疲れてしまうと思います。首都機能を移転する都市を新しくつくるときにはそういうことも考える必要があるのではないかと思います。

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