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「首都機能移転でガーデンアイランズの実現を」


川勝 平太氏の写真川勝 平太氏 国際日本文化研究センター教授

昭和 23年生まれ。早稲田大学政治経済学部教授を経て、平成10年より文部省総合大学院大学の国際日本文化研究センター教授。博士(オクスフォード大学)。国土審議会委員、経済審議会委員、小淵首相主宰「21世紀日本の構想」懇談会委員を務める。著書に「文明の海洋史観」「日本文明と近代西洋」「富国有徳論」「文明の海へ」など。



自国の歴史に照らして新しい顔をつくる

首都機能移転につきまして、私は賛成の立場です。理由は、首都というのは日本の国の顔であって、我々は日本の新しい顔を今歴史的に必要としている、時代の転換点にいるのだと考えているからです。首都機能移転そのものについて、海外でも成功してない例があるといった反対論がありますが、その論法は間違いだと思います。海外の首都機能の移転というのは、19世紀以降だけ見てもたくさんあります。古くはアメリカ合衆国におけるフィラデルフィアからワシントン、オランダにおけるハーグからアムステルダム、カナダにおけるケベックからオタワなどのほか、20世紀に入ってからもオーストラリアにおけるメルボルンからキャンベラ、ブラジルにおけるリオデジャネイロからブラジリア、最近でもマレーシアにおけるブトラジャヤへの移転、あるいはドイツのベルリンへの移転などがある。こうした諸外国の移転はそれぞれの国の事情で行っているので、それを最大公約数で、メリット、デメリットを出したり、一般的結論を導こうとすることは生産的ではありません。首都機能の移転につきましては、自国の歴史に照らして考えるべきです。

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新しい時代にふさわしい顔をつくる

日本の歴史は首都機能移転の歴史です。藤原京、長岡京、平安京と移転し、首都機能という意味では、鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府と変遷してきました。首都機能の移転はいずれも時代の転換を告げるものであり、日本の顔を明らかに変えてきました。しかも、この国の歴史の、いわば成熟の過程を示しています。最初の奈良、平安は、東洋の文明を受け入れる時代でした。そして、その後は日本が自立していく過程を示しています。いわば旧中国的な文明から離脱する過程です。長安的な大陸文化から離脱した新しい日本文化が、鎌倉仏教を含めて出てくる。いったん室町に引き戻されました。しかし、関東平野の利根川などの流れを変える大投資をして江戸の街を作り上げ、ようやく中国文明から完全に自立し、この国独自の顔をつくったのです。

江戸という土台の上に、集権的にヨーロッパ文明を受け入れていく本拠地になったのが東京です。東京は、技術だけでなくて、思想・文学・音楽・絵画などあらゆるヨーロッパ文明のシステム全部を移入する装置であったのです。欧米へのキャッチアップは、日本の国是でもあった。

しかし、キャッチアップの時代が一段落したとことによって、我々は新しい日本の顔を求められているのです。これまでのように経済力を集中した大都市と違った国の顔が求められています。東洋の文明を受け入れていた奈良、京都、中国文明から離脱した江戸、西洋文明を受容し切った東京を踏まえた上で、新しい日本の顔、新しい時代に即応した日本の顔をつくる必要があります。それは文化に立脚したものになるべきです。文化は、国づくりの基礎です。文化とは、暮らしの立て方、生き方です。どのようにして自国の文化を提示するか。やはり魅力ある文化を前面に出すことが課題になると思います。文化は押しつけることができません。しかし引きつけることはできます。引きつける魅力のある文化をつくることが、新しい文化の時代の国づくりにおいて踏まえるべき心構えだと思います。引きつける力を持つ、魅力的な力を持つ都市をつくるということです。

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「美しさ」で引きつける文化を

日本は何によって引きつけるか。それは美しさであると思います。日本の国の姿は、世界史に美しい文明の国として登場したことが文献的にも確かめられます。自然が多様な美しい風土を持っていることによって、人々がそこに神聖さを感じ、アニミズム的な思想の土壌になった。それが日本の風土だと思います。こういう風土の中でつくり上げてきた日本文化は、力の文明であるヨーロッパと直面したときに、生活景観、自然景観がエデンの園とかアルカディアと言われ、極めて美しい姿として登場したのです。それを今、改めて自覚する時代になっています。

その顔をどこにつくるか。今回、3つの候補地が答申されました。3つとも似ているところがあります。それは自然が豊かなことです。新しい国の形がどういうものであるかを、だれに言われるともなく、安全の基準とか、東京からのアクセスといったものとは別に、3者3様に自分たちの自然景観、生活景観が、日本の顔として恥ずかくないと言っているのがおもしろい。自然との調和こそ、内外に認められた日本独自の価値であり、そういう意味におきまして、3者とも候補地にふさわしいと思います。

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顔と体は一体でなければならない

首都は国の顔と言いましたが、国の体ではありません。国の体というのは国土全体で、顔と体は一体のものでなくてはなりません。国土計画におきましても、これまでの太平洋工業ベルト地帯と別の、多軸型の国づくりをしていく方向が打ち出されています。それを北東国土軸、日本海国土軸、太平洋新国土軸と言っている。多軸型、つまり多元的な国の姿をつくり出していかなければなりません。多様な姿をもつ国づくりを国土グランドデザインでは4つの戦略であらわしています。第1の戦略である多自然居住地域の創造と第2の戦略である大都市のリノベーションは不可分な関係で、両方とも暮らしの立て方にかかわるものです。すなわち、今まで大都市に集中している暮らしを多自然地域で住めるようにするということです。これは暮らしの立て方を変えるということです。

多自然地域に居住がある程度進めば、大都市にゆとりができますから、都市のリノベーションがしやすくなります。両方ともライフスタイル、暮らしの立て方にかかわる、言いかえると、文化にかかわることです。地球時代の日本のアイデンティティを発信していくには、都市において、生産拠点あるいは生産基地としての家という住み方とは全く違う暮らしの立て方をすることです。提言は都市的な住み方と多自然地域の住み方の両方を、魅力のある選択肢として提示しているわけです。

選択肢を増やすだけでなく、ネットワークで結ばなければなりません。それが第3戦略の地域連携軸の展開です。地域が連携するのは、対内的な連携だけでなくて、対外的連携も当然入ってきます。したがって、第4戦略として、広域国際交流圏の形成として、それぞれの地域が世界と結びつく。多中心的な日本をつくり上げていくことが挙げられます。これは多元的な軸、多軸型と即応した日本の姿を世界に示すことです。

国土の体と顔が両方一緒に議論されなかったと思います。本来体と顔は一体のものです。そこから、緑あふれる森の都を首都としてつくりあげることが必然的に求められると思います。

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日本の文化は北上している

この国は主権在民ですけれども、天皇の国事行為が100以上あるわけです。天皇の国事行為があるのに、皇居について論じていないのは、問題だと思います。天皇がいらっしゃりやすいところは、那須に御用邸のある北東地域です。

歴史的に、日本の文化は九州から、瀬戸内海を経て、難波に上陸し、飛鳥から奈良、京都、鎌倉、江戸と北上してきています。ちょうどギリシャ、ローマの文化がアルプスを渡って、大陸ヨーロッパに入って、そしてドーバー海峡を経てイギリス、そしてさらに大西洋を越えてアメリカへという過程に比肩されるものです。日本の歴史の流れは、北東方向にベクトルが動いています。もちろん、一たん畿央なり、東海地域に戻ることもあるかもしれませんが、全体として、日本の歴史のベクトルは北東へ動いていますので、今回の首都機能移転も北東の方向に考えたほうがいい。

今回の答申では3つの回答が出ましたが、本来の使命は決断であり、それをしなかったことを、大変残念に思っています。私は今回の総合評価で最も得点の高い地域に首都機能を移すべきだと思っています。

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ガーデンアイランズにゴールデンハートを

首都機能移転と聞くと、新しい東京をつくると考えている人が多いと思いますが、森に沈む小さな世界都市と言われるように、今までの都市とは全く違うものをつくることです。建物の高さは樹木の高さ以上にはしない、塀は決してブロックでつくらない、電線は埋設する、ガーデンを持った、自然と共生する、自然を生かし、それによって生かされる、ゆとりのある都市生活にするのです。しかも、都市的な利便性を享受できるものにしなくてはいけません。新しい住まい方を日本の四季折々を利用し、享受できる自然と調和したガーデンアイランズのゴールデンハートをつくるのです。そこにある価値は、美しいというものだと思うのです。感動を与える新首都を仮に北都と呼べば、小北都がたくさんできていくと思います。小さい森の都がたくさんできていくのです。首都機能をどういうイメージでつくるべきか。EUにおけるブリュッセルを考えるのがいいと思います。EUはブリュッセルに本部がありますが、だからといって、ベルリンをなくすわけではない。パリをなくすわけでない。ロンドンをなくすわけではない。マドリードをなくすわけでもない。ローマをなくすわけでもない。みんなそれぞれ残っています。しかし、新しい中心が小さな都市であっても全体を代表できるということをよくあらわしている。京都は京都、名古屋は名古屋、東京は東京の良さがあります。で、しかし、北都は全く新しい中心性を出していく。それはあたかもEUにおけるブリュッセルのような役割だと思います。それが首都のイメージです。美しい自然を生かした森の都ができると、森の町が日本全体に普及していく大きなきっかけになると思います。全体が南北 3,000キロに広がっている島々の中に、自然景観と生活景観がマッチしたものができ上がると、ガーデンアイランズになる。

森を再生し、自然を再生している生活こそ、世界の最先端になるという意味において、地球ガーデンアイランズを構想した首都にすべきです。(談)〔文責:編集部〕

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