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韓国の行政中心複合都市建設の経緯と日本への提言

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鄭(ジョン) 還泳(ハンョン)氏の写真鄭(ジョン) 還泳(ハンョン)氏 韓国国立公州大学校 人文社会科学部 地理学科教授

1958年生まれ。1984年公州師範大学大学院地理教育科修士課程修了。1985年から1989年まで日本の東北大学に留学。1989年博士号取得。1993年から現職。

公職では、韓国の首都移転に向けた「行政中心複合都市」の建設にあたってその候補地選定のための評価委員などをつとめた。

『日本における首都機能移転に関する主要論点』、『日本における新首都イメージ』を表題とする論文を韓国都市地理学会誌に寄稿するなど日本の国会等移転論議に関して造詣が深い。


<要約>

  • 日本においても、韓国のように首都機能移転の論議が政治的なイシューになれば、地方と東京、あるいは首都圏との関係でさまざまな議論や動きが出てくるのではないか。
  • 韓国における首都機能移転のテーマは、「国防問題」から「ソウルへの一極集中の是正」へ変遷してきた。そして、現在の最も大きなテーマである「首都圏と地方の不均衡の是正」は、首都機能移転の推進力となっている。
  • 低密度、環境などをコンセプトとして計画されている行政中心複合都市は、21世紀における世界的な都市モデルになるのではないか。
  • 韓国では、省庁移転だけではなく、併せて公共機関の地方移転を実施し、各地域に革新都市(イノベーションシティー)をつくる計画である。これにより、各地域の産業や大学などと産官学の協力関係をつくり、経済を中心とした地域の革新を目指している。
  • 日本においても、これからは、首都機能移転について、もっと積極的に国民に広報し、国民的議論を盛り上げていく必要があるのではないか。
  • 日本の場合、首都機能を1箇所に移転するよりも、分散型の方が合理的であると思う。東京は、位置的に日本の中央近くにあるので、例えば、東京と、東京から2時間以内で移動できる地域に分散すれば、一つの圏内として考えることもできる。

韓国の首都機能移転は政治的イシュー

私は1985年から1989年まで日本の東北大学大学院の博士課程で学び、その後も日本の首都機能移転について勉強しておりますので、多少は日本の事情を知っているつもりです。日本の首都機能移転の論議は、最初はかなりうまくいっているように思いましたが、今は、いつの間にかみんなの頭の中から消えてしまったのではないかという感じがしております。

韓国の首都移転については、2002年12月の大統領選で最大の政治的なイシュー(課題、争点)となりました。その結果、首都移転を支持する盧武鉉(ノムヒョン)大統領が当選し、公約を守るために委員会がつくられ、さまざまな活動が行われました。移転予定地を決める評価委員会では、私も委員の一人として4箇所の候補地へ出向き、いろいろな評価の条件に合わせて検討を行いましたが、最終予定地として忠清南道(チュンチョンナムド)燕岐・公州(ヨンギ・コンジュ)地域が選定されました。

日本では「首都機能移転」ですが、韓国では当初、「新行政首都建設」、つまり、新首都の建設でした。2003年12月に「新行政首都建設のための特別措置法」が成立しましたが、野党側の反発などがあり、結果として2004年10月、憲法裁判所において、この法律に対する違憲判決が下され大変な問題になりました。この判決で裁判所は、ソウルが首都であることは、600年間にわたる慣習によって認められている慣習憲法であるから、首都の移転は、国民投票で決めるべきであるとの判断を下しました。韓国の言葉で「ソウル」は、首都、都(みやこ)という意味があります。政府は、この違憲判決を受けて代案を作成し、2005年3月に与野党の合意で「行政中心複合都市建設のための特別法」を成立させました。特別法の成立により、青瓦台(大統領府)、国会、大法院(最高裁判所)などを除く中央行政機関を新たに建設する行政中心複合都市へ移転することが決まりました。土地の買収は2006年の3月から始まり、既に目標の約90%に達しています。また、農業権や商業権などの生活保障が2007年度から行われ、7月から12月までには工事が始まる予定です。

移転先の行政中心複合都市が属する忠清南道と、隣接する忠清北道(チュンチョンプクド)、大田(テジョン)という3つの地域を合わせて忠清道(チュンチョンド)といいますが、この地域は、政治的にとても重要な意味を持っています。韓国の政治関係は、西部と東部に分かれていて、両者は選挙によって与党側と野党側になるという関係にあります。その中央に位置するのが、この地域なので、政治的に大きな影響力があるのです。

韓国では2007年12月に大統領選挙がある関係から与野党それぞれに思惑があり、選挙結果によっては、移転プロセスに影響を与えるかもしれません。選挙前の2007年7月から12月までに予定通り工事が始まるかどうかによって、移転プロセスがうまくいくかどうかが決まるだろうと思います。しかし、移転予定地が政治的に影響力のある地域であることを考えれば、少なくとも、移転を再検討すべきであるということにはならないのではないかと思います。

日本は、大統領制ではありませんので、政治プロセスが韓国とは違うと思いますが、日本においても首都機能移転の論議が政治的なイシューになれば、地方と東京、あるいは首都圏との関係でさまざまな議論や動きが出てくるのではないかと思います。

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韓国の首都機能移転におけるテーマの変遷

日本と違って韓国では地震などがそれほど多くありませんので、自然災害による「都市の安全問題」をそれほど重要視してはいません。1970年代の後半、当時の朴大統領が臨時首都を建設すると発表し、候補地まで決めましたが、当時の首都移転の大きなテーマは「国防問題」でした。しかし、大統領が暗殺されてこの計画はなくなってしまいました。

その後、韓国では政府庁舎をソウルにある第一庁舎、京畿道(キョンギド)果川(クァチョン)市にある第二庁舎、そして大田市にある第三庁舎に分散しました。このときも安全保障は移転の大きなテーマでしたが、それに加え、当時社会問題であった「ソウルへの一極集中の是正」も大きなテーマになりました。

そして、現在の首都機能移転に関する議論の中心は、一極集中よりも「首都圏と地方の不均衡の是正」にシフトしています。首都圏と地方の不均衡の問題については、従来より、地方から様々な反発がありました。それが、現在の首都機能移転の推進力となっているのではないかと思います。

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日本の現状から気づくこと

もし、今ソウルの人に向かって「行政中心複合都市ができると思いますか」と質問すると、「それはできないでしょう」と答える人が80%はいると思います。しかし実際は、移転先の土地買収が進むなど、法律に従った移転プロセスは粛々と進行しているのですが、ソウルの人は今もそれを認めようとしていません。

一方、移転先の忠清道を中心とする地方の人びとは、行政中心複合都市への移転プロセスが必ず成功すると思っています。もしうまくいかなかった場合には、地方の反発はかなり大きくなると思います。実際に、新行政首都建設に対する違憲判決が下されたときにはかなりの反発があり、その地域の人びとがソウルでデモを決行するなど大変なことになりました。それほど、首都機能の移転は、地方にとって重要な問題なのです。

私は2005年に日本を訪問し、いろいろな立場の方たちと話をしました。その中から、日本と韓国の首都機能移転についてのいくつかの違いを感じました。

1つは経済の状態です。日本は景気が長らく低迷していたところを構造改革によりリカバリーしつつある状態ですので、今のところ首都機能を移転しなくてもよいのではないかと思っている人が、都市や地方を問わず多いのではないかと思います。

2つめは現在の首都の位置関係です。ソウルは韓国の北部に位置していますが、東京は本州だけを見るとわりと中央部に位置しています。この位置関係から、日本はもともと政治的に首都圏対地方という対立関係が弱く、移転の説得力が韓国に較べて希薄だったのではないかと思います。

3つめは、移転先を決定するタイミングです。現在、日本では、3箇所の移転候補地を決めておりますが、移転候補地を決めてから、時間をおかずに移転先をすぐさま1つに絞るべきでした。現在の状況では、移転候補地が相互に協力し、移転を推進するということも難しいのではないでしょうか。移転先が決まれば、移転問題は、韓国のように大きな政治的イシューとなり、その地域の人びとも推進に向けて頑張ったであろうと思います。

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環境を重視した行政中心複合都市の都市計画

当初、韓国の移転候補地は、4箇所選定されました。この4箇所の選定にあたっては、GIS(地理情報システム)が活用されています。例えば、2,300万坪以上の土地が確保できること、軍事的な問題がないこと、用水の確保、ソウルからの距離、全国からのアクセスのしやすさ、近郊地域発展の可能性、国立公園を除くことなどが挙げられます。移転候補地は、韓国の真ん中あたり、ソウルから120〜150kmの間に位置している忠清南道、忠清北道及び大田方面ということが既定の話でしたので、この基準で選定すれば自ずと4箇所は決まってきます。その中でも、移転先に決まった燕岐・公州地域は、最初から他の候補地と競争にならないほど最適な地域でした。

ソウルには漢江(ハンガン)という川が街の中心を流れてます。川の北側に昔からの旧市街地や中枢機能がありますが、現在は南側に住宅地や商業施設が移りつつあります。この漢江という大きな川の両岸に発達したのがソウルという街です。一方、移転先地にも錦江(クンガン)、美湖川(ミホチョン)という二つの川が東で合流し、予定地の中心部を流れており、ソウルと非常によく似た地形となっています。これは、ソウルの街を意識して移転地が選定された結果だと思います。しかし、新しい行政中心複合都市の都市計画はソウルとは全く違う観点でつくられています。都市計画の策定にあたり、低密度、環境などのコンセプトで都市計画の国際公募が行われました。その結果採用されたものは、円の形をした都市計画で、円の周辺を開発し中心部は公園や緑地にします。道路も中心部の緑地を避けてつくりますから、ソウルとは全く違う概念で計画されています。この新都市は、効率の良さよりも環境への対応を重視して、人口規模を大きく想定しないというのが基本的な考え方です。将来人口は、2030年時点で50万人程度を想定しています。この街が誕生すれば、21世紀における世界的な都市モデルになると思います。

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首都機能移転だけでなく公共機関の地方移転も

韓国では、行政中心複合都市への省庁移転とあわせて公社や政府系企業などの公共機関も地方に移転させていきます。韓国には公共機関が約400ありますが、そのうちの180くらいを道や広域市へ移転させます。移転は、1つの地方に集中しないように移転機関の質と量を考えて分散させたり、地域産業との関わりを考えて行われます。たとえば、韓国電力会社は、かなり大きな会社ですので、これが移転した地域には、他の機関の移転は必要ありません。また、韓国観光公社は、観光地で有名な江原道(カンウォンド)という地域へ移転します。このように、公共機関の移転は各地方の経済効果を非常に重要視しています。

公共機関のそれぞれの移転先には、革新都市(イノベーションシティー)と呼ぶ新しい都市をつくります。この革新都市の理念は、移転する公共機関とその地域の産業との関係を重視し、例えば移転した公共機関とその地域の企業や研究機関、大学が産官学の協力関係をつくり地域を革新していくというものです。そして、この地域が革新されていくことにより得られた成果を、他の地域へ波及させていくということを想定しています。

このような考えから、現在、革新都市の建設が行政中心複合都市の建設と同時に行われています。行政中心複合都市の建設が、他の地域の反発もなく順調に進んでいるのは、革新都市の建設に依るところが大きいのではないかと思います。

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新都市への円滑な人口移動は住環境がポイント

行政機関が新都市へ移転する際、それにともなう公務員の移動も円滑に行えるだろうかという問題があります。これについての韓国の事例は、日本が首都機能を移転するときの参考になると思います。韓国では、1998年に省庁の一部がソウルから大田市へ移転しました。この時の事例では、特に、課長以上の公務員のほとんどが単身赴任で、休日はソウルへ帰るという生活でした。やはり、子供の教育問題などを抱える人が多く、家族全員がソウルを離れることは、大変難しかったのだと思います。

しかし、現在、その流れが変り、家族で定住する人が増えています。その理由は、ソウルと大田の生活の質の差にあるのだと思います。ソウルでは通勤に片道1時間半もかかり、住宅も割高です。ソウルにある30坪の住宅1軒の値段で、大田では家を3軒購入できます。また、国立公園に隣接する大田とは自然環境も大きく違います。このように、大田では同じ給料でソウルよりも良い生活ができるのです。

同様に、現在建設している行政中心複合都市が完成した場合も、ソウルからの高速鉄道網が整備されていますので、当初はソウルから通勤する人が多いと思います。しかし、大田市の例のように、そう長くないうちに、ソウルから行政中心複合都市へ家族全員で移る人が増えてくると思います。政府は全国でも有数の大学を行政中心複合都市に誘致しようとしていますので教育問題も解消されると思いますし、新都市の住環境が整えば心配はないと思います。

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日本の首都機能移転への提言

日本も韓国と一緒に首都機能の移転に関する動きが活発になって、同じ時期に建設されればいいと韓国の一国民として思っています。同じ時期に計画し、実行すれば、試行錯誤も一緒にすることができますし、お互いにプラスになるのではないでしょうか。日本と韓国の新しい技術や考え方をお互いに交流して、最も良い計画をつくって、一緒に新しい都市を建設すれば最高だと思います。

日本の首都機能移転の議論が進まないのは、皆さんが、とても慎重に考えておられるからだと思います。しかし、1990年の国会決議以降、20年近くもたった現在、もう検討は十分につくしたのではないでしょうか。これからは、もっと積極的に国民に広報し、市民やNPOのネットワークの活動を通して、国民的議論を盛り上げることが必要なのではないでしょうか。国民一人一人が自ら考え、議論する雰囲気をつくるべきであると思います。それから、政治的な力も必要です。国会に首都機能移転を推進する委員会をつくり、具体的な移転プロセスを法律で決めてほしいと思います。

また、日本の場合、首都機能を1箇所に移転するというよりも、分散型の方が合理的ではないかと思います。東京は、位置的に日本の中央に近いところにありますので、例えば、東京と、東京から2時間以内のところに分散すれば、このエリアを一つの圏内と考えることができると思います。ただし、これは、東京を大きくする大首都計画とは違います。韓国では最近、ソウルとその近辺の京畿(キョンギ)、仁川(インチョン)の3つの自治体が集まって大首都計画というものをつくり、そこに首都機能を移転すべきであるという主張を行っています。日本でも展都という考えがあったと思いますが、これでは、一極集中問題の解決にはならないと思います。やはり、分散型かどちらかのところに決めて移転すべきだと思います。

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