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国民の理解を得られる国会等移転の推進を

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白石 真澄氏の写真白石 真澄氏 関西大学政策創造学部教授

1958年大阪府生まれ。1987年関西大学大学院修士課程工学研究科建築計画学専攻修了。

(株)西武百貨店、(株)ニッセイ基礎研究所主任研究員、東洋大学経済学部社会経済システム学科助教授を経て、2006年4月東洋大学経済学部社会経済システム学科教授。2007年4月より関西大学政策創造学部教授に就任、現職。

専門は、「バリアフリー」、「少子・高齢化と地域システム」

教育再生会議委員、規制改革会議委員、構造改革特区推進本部評価委員、(いずれも内閣府)、社会資本整備審議会および交通政策審議会委員(いずれも国土交通省)、過疎問題懇談会委員(総務省)、名古屋市子ども青少年局政策参与、千葉県教育委員会など公職多数。

主な著書に、『バリアフリーのまちづくり』(日本経済新聞社)、『福祉の仕事』(共著、日経事業出版)、『新時代の都市計画』(共著、ぎょうせい)、『少子社会への11人の提言』(共著、ぎょうせい)、『分権型社会をつくる』(共著、ぎょうせい)、『ソーシャル・ガバナンス-新しい分権・市民社会の構図』(共著、東洋経済新報社))、『都市観光でまちづくり』(編者、学芸出版)、『社会経済システムとその変革』(共著、NTT出版)、『新しい自治体の設計4』(共著、有斐閣)、『日本に生まれて 女たちが考える日本国憲法』(共著、2004年、阪急コミュニケーションズ書籍編集部/編)、『保育園ママのおたすけガイド』(監修、法研)など


<要約>

  • 移転ありきで議論が進められてきた感があるが、本来は、首都機能のあり方や移転先と東京の連携などを踏まえて、機能ありきで進めるべきではないか。
  • 移転に向けて国民の理解を得るためには、移転によって国全体の便益がどのように向上するのか費用対便益をあわせて明確にする必要がある。
  • 移転の広報は、後ろ向きな言葉を並べるのではなく、移転によって実現する生活を提示し、夢のあるものにしたほうがよい。
  • 現状においては、移転はバックアップ機能としての最小限にとどめ、東京で抱えている問題や、疲弊している地方にお金を投入するほうが、国民的な合意は形成されやすいのではないか。
  • 移転先の新都市に期待する点は、環境と高齢化への対応などこれまで実現できなかったようなこと。単なるハード面だけでなく、生活のアメニティや楽しさなど、ソフト面での充実が望まれる。
  • 移転の際には、東京の再生プロジェクトなどに民間を活用することも重要。

国会等移転の議論の進め方の疑問

私が国会等移転の議論に関してとても不思議に思うのは、その議論の進め方です。本来は今後の首都機能のあり方や、東京に残す機能と移す機能との連携などを踏まえた上で、移転先を決めるというプロセス、つまり、先に機能ありきでの議論があるのが普通ではないかと思うのですが、まず移転ありきで3つの候補地を絞り、その中から一つに絞り込むという議論だと、どうも順序が違うのではないかという気がします。

また、今進められているような東京の再生プロジェクトは、果たしてこの国会等の移転をにらんだものなのでしょうか。国会等の移転計画があるなら、今東京で進められている計画はどこまでお金をかけないで済ませられるのかなど、両にらみの議論ができていないような気がします。

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移転の目的への疑問

移転の目的についても、いくつか疑問があります。

目的の一つである東京への一極集中の是正ですが、この問題が長年言われ続けてきたにも関わらず、今でもあらゆるものが更に東京に集中しています。国会等の機能の一部を移転させたとしても、この集中が果たして止められるのかという検証もないまま、この議論が引き続き行われていることに対しては違和感を覚えます。移転先の人口は15万人程度が予想されていますが、東京圏の昼間人口を3,000万人としたときに、その中の衆議院調査局試算で15万人というのがどれぐらいのインパクトを持っているのか、その数が一極集中の是正に有効なのかどうかもよくわかりません。この数字はあまりにもインパクトが小さ過ぎるのではないかと思います。東京にはいろいろと便利なものがあって、多くの人たちが、不満を感じながらもそこに集積することのメリットをそれ以上に享受しているからこそ、この傾向が続いているのではないでしょうか。

二つ目の国政改革についてですが、その必要性と、この移転によって果たして達成できるのかどうかということは、少し異質な問題ではないでしょうか。私はここ3年ぐらい規制改革に関わっていますが、やはり政官財というのは相当密接な関係を持っていて、これだけ情報化が進めば、距離が離れたとしても情報交換は幾らでもできるわけです。それにもっと根深いようなそれぞれの利権があって、そこで結びついているわけですから、果たして距離を離すことによって、その新しい関係が築けるのかどうかは非常に疑問で、もっと違うやり方があるのではないかと思います。

公務員制度改革もその一つで、公務員という身分があって、異動に伴って担当者が替わり、前任者のやってきたことを淡々と踏襲しているからこそ、今までの規制みたいなものがずっと温存されているわけです。新しい仕組みをつくっていくと責任が発生するから、だれもトライをしない。そこで、省庁の公務員という身分を外し、もっと官民の交流をさせるべきでしょう。例えばアメリカのように、政権が変わるたびに省庁の局長クラスを民間から投入させて、自分の思うとおりの政策をやらせることのほうが、はるかに規制緩和への近道だと思います。だから、評価制度の問題や公務員の制度、身分をどういうふうに外していくかとか、官民の人材交流の話とか、その評価の話などのほうがはるかに重要なことだと思います。公務員制度改革を十分にしないまま、首都機能を移転しても、問題の解消にはつながらないのではないでしょうか。要するに、物理的な問題ではなく制度やスキームの問題だと思います。

三つ目の災害対策についてですが、東京は木造密集地もたくさんあり、都市基盤も脆弱で、地震学者の間では関東大震災クラスの地震がいつ来てもおかしくないと言われています。そんな中で、もし首都のバックアップ機能を言うのであれば、もっと早く手を打つべきでしょう。緊急性や必要性に反して、国会等移転の議論が遅々として進んでいないことを考えると、移転は本当に必要なのかと思わざるを得ません。移転の候補地も諸条件を勘案して、もうそろそろ絞り込むのが当然でしょうし、危機管理機能などの必要性とそのスケジュールとの乖離は相当大きいと思います。

移転先についても、バックアップ機能という面では、地震などの災害の影響を避けるためにも、東京から50〜60キロ以遠に置かなければいけないことはわかりますが、それが果たして今の三つの選定候補地でいいのかどうかはまた別の話だと思います。機能と場所とでばらばらに議論が進んでいて、どうもトータルに考えられていないのではないでしょうか。地震のリスクに関しては日本のどこに行ってもあるわけです。東京がいま危ないというのなら、一刻も早く東京の危機管理体制を構築して、バックアップ機能を持たせるためにも、もっと迅速に議論が進んでいかなければいけないのではないでしょうか。

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国民の理解を得るには移転の費用対便益を明確に

今後、移転に向けて国民の理解を得るためには、移転をすることによって何がどう変わって、国民生活にどういう便益がもたらされるのかを明確にすることが必要です。こうなるだろうとか、こういうふうにしたいという理念とか構想ではなく、やはり現実的な問題として便益とそれに対するコストの問題を明らかにしない限りは、多くの人たちを納得させることは難しいのではないでしょうか。

これだけの税金をかけてミニ東京をつくるようなことをするなら、「ふるさと納税」ではないけれども、「もっと交付金を増やせ」というようなことを地方の人たちはおっしゃると思います。もとになっているのが税金で、潤うのはこの移転先の一部というのではなく、東京の将来像、新都市への首都機能の移転経費、企業の移動コストや時間コストなどをトータルで考えて、その便益は日本全体に及ぶもので、ある程度の確証を持って見込まれるものでなければならないということです。

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移転によって実現する生活を提示して夢のある広報を

国民にこういうことをやりましょうと呼びかけるときには、後ろ向きからスタートするのではなく、もっと夢のある広報の仕方があってもいいと思います。国土交通省が発行している国会等移転のパンフレット(「国会等の移転ホームページ」http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/service/panf_index.html参照)を見たときに、ある程度、今の行政機構に係る問題が分かっている人は、こんなことを物理的にやっても、果たしてこれが万能薬なのかと思うし、一極集中がどの程度まで是正するのかというようなことも分かりません。議論が煮詰まっていないことが露呈しているような印象です。それなら災害対応力強化を一番に打ち出したほうがいいでしょう。これは全ての人の利害に関係しますし、やはり日本は災害大国だから、今東京で災害が起きるとどれだけの被害が生じ、移転することによってどれだけ被害が軽減されるかという地に足のついた数字を提示しない限り、こんなものはうそでしょうということになってしまいます。

東京都内の木造密集地の事情は確かにありますが、この建てかえが移転によって一挙に進むわけではないから、矛盾が明らかにここに詰め込まれているわけです。それだったらもっと夢のあるパンフレットにして、「こういう生活を実現します」ということを訴えるのはどうでしょうか。ゆとりと潤いのある住環境も、やはりハードだけではなくて、どんな働き方が実現するのかとか、安全・安心がそこにあるのか、とか具体的に明示されていないと、どんな暮らしになるのかよく分かりません。日本全体が移転によって今よりよくなることが見えない限りは、多くの人たちの賛同を集めることは難しいわけです。移転の問題は日本全体にとってどう影響するのかを訴えていかない限りは多くの人達の賛同を得ることは難しいでしょう。単にワシントンとニューヨークとか、シドニーとキャンベラの例を挙げても、多くの人たちは実感を持てません。

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移転によらなくても可能な東京問題の解決

現状では、国会等移転ではなく、東京及び東京周辺で抱えている問題や、疲弊している地方にお金を投入するほうが、国民的な合意は形成されやすいのではないかと思います。移転はバックアップ機能として最小限にとどめ、それよりも今の都市的な問題を解決するため、及び地方の活性化のために投資するほうがいいのではないでしょうか。

私は今東京にオフィスがあり、住まいは千葉にあります。また、仕事で毎週名古屋、関西に通っており、いわば「人間四都物語」をやっていますが、やはり問題があると言いながらも、混雑を抜きにすれば東京は相当便利です。他の都市だと、会える人も、入ってくる情報も限定されます。やはり東京の優位性に勝るものはないと、4都市を比べてみて思います。

しかし、東京で働いたり、住む人達にとって住宅問題は悩みの種です。例えば、子育てに関しても、専業主婦で子育てするか、働きながら子育てするかによると思いますが、お父さんは働いて、お母さんはニュータウンで子育てというのであれば、多摩とか八王子に住んでもいいと思います。しかし、共働きだとやはり家から勤務先までが近く、いつでも飛んで帰れることが欠かせません。

ただ、都心の中に共働き家庭の人たちが住めるような住宅がたくさん供給されているかというと、それは違います。住宅に関して、働く女性がいま何を我慢できるかというと、狭さと家賃の高さです。しかし職場からの遠さは我慢できない。やはり満員電車の通勤とか子供との距離には替えられないから、高い家賃とかローンを払ってでも、都心から30分以内の東京23区内に住む人たちが多いわけです。また、保育料も東京は周辺地域よりも安いため、家賃に高いお金を払っても、保育料が安い分いくらか戻ってきますし、便利な生活を手に入れることができるわけです。だから、住まいに対する考え方も働く女性が増えてくると変わると思います。

それにいま世帯数の中で最も多いのがひとり暮らし世帯です。これからは家族の規模自体が小さくなり、子供を持っている世帯も、やはりお父さんとお母さんと一人っ子というのはもう標準形なので、そんなに広い住宅は必要なくなります。2LDKぐらいのファミリー層が住むような住宅が、都心の中にたくさんあればといいという感じでしょう。

東京の問題は、その他にも混雑、空気の悪さ、いろいろな人たちがいることによる治安の悪さがあります。これは誤解を招くかもしれませんが、やはり外国人犯罪も相当増えています。それだけ商売のネタが東京にあるということでしょうけれども、これは都市の問題だけではなくて、入国管理の問題など、ありとあらゆる仕組みが外国人にとって非常に甘くなっているわけです。ですから、ある種のわい雑さを持ちながらも健康な都市でもあるべきです。

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移転先の新都市に期待する点

移転先の新都市に期待する点として、20世紀までに果たし得なかったことをぜひ実現してほしいと思っています。

大きなところから言うと、世界的に起っている環境問題の解決に貢献するような都市構造のあり方です。当然これはクリーンなエネルギーとか循環型都市、産業廃棄物を出さないとか、いろいろな意味で環境社会に貢献できるような都市です。例えば交通の面でも、ガソリンに依存しないで電気を使うとか、地域冷暖房とかいろいろなやり方があると思いますが、環境配慮型の都市であることは大前提です。

二つ目は高齢化への対応です。移転先の新都市は国の中枢管理機能が移るので、海外から来る人たちも今よりは相当増えるでしょう。したがって、そういう点でもグローバル社会の中で、ほかの都市に負けないようなレベルでバリアフリー化し、情報提供まで含めていろいろな人たちに配慮された、移動しやすい都市でなくてはいけないと思います。すべての国籍の人たち、すべての年代層の人たちに配慮したユニバーサルな都市であることは大事ではないかと思います。

東京圏でも関西圏でもそうですが、そこに住む人達の多くは、相当なストレスや苦痛を感じながら通勤や仕事をしています。例えば森の中にオフィスがあるとか、15分以内にオフィスに自転車で行けるとか、今まで理想としながらも実現し得なかったような働き方、職住近接などがあればいいですね。ただ、都市のインフラの質というよりも、やはり生活のアメニティーや医療サービス、多言語でいろいろなサービスにアクセスできるなど、ソフトの面もとても大事だと思います。

しかし、多くの人が新都市への移転を望むには、やはり住んで楽しいエキサイティングな都市でなくてはいけないし、クリーンで整然としているだけの都市では魅力がありません。やはり東京にはおいしいものはあるし劇場もある。ちょっとわい雑なところもあって、雑多であることも東京の大きな魅力を醸し出しています。

最近ではとてもよくなりましたけれども、以前の筑波研究学園都市のような都市というのは、「水清ければ魚棲まず」というような状況がありました。ミニ東京になってはいけませんが、ありとあらゆる面で多くの人たちを楽しませるような都市機能というのが必要ではないかと思います。ショッピング、医療、文化、情報などの面において、東京を上回るような魅力がそこになくては、国内や海外から来て、そこに泊まって仕事をしてもらえるということにはなっていかないと思います。

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移転にあたって民間の活用も大切

今いわれている「大が小を食っていく」とか、「格差」とかの問題に対して移転後の新都市の生活にはどういう変化があるのでしょうか。例えば、小さいところでも情報発信できるようになったり、規制緩和とかいろいろなベンチャー育成策などと併せて、新しいことをここでやっていくんだということを一緒に打ち出していけば、いろいろなビジネスが生まれる可能性があります。そして、そこに雇用創出効果もあります。そのために規制緩和をどうしていくのかとか、民間の力をどう活用していくのかも考えなくてはなりません。 これまでの情報だと、国会がどうなるということしか見えなくて、この周辺の経済の動きなどはほとんどわかりません。都市の中で起こるダイナミズムというのが見えなくて、器とかハードだけが先行しています。

国会等移転の議論も、やはり民間を引きつけるような魅力も兼ね備えないと、国民にそっぽを向かれたままになってしまいます。移転後の跡地をどうするか、霞が関の一部をどうするかということとセットで提案していったほうが、より理解は得られやすいのではないでしょうか。経済界をどう味方につけていくかということもとても大切で、国会等が移転したとしても、依然として経済界は東京、ニューヨークに向いているということになれば、新しい都市には付加価値はついていきません。

東京で今進められている国のプロジェクトについても、民間をもっと活用してはどうでしょうか。私は不動産スキームにそんなに詳しいわけではありませんが、例えば30年後に移転するとしたら、国有財産を全部売却し、民間資金で建物を建ててもらいます。それで一定期間、例えば30年間は国が格安家賃で借りるけれども、その後はもう民間が好きに住宅や業務機能をつくってくださいと、そこまでするのです。そうすると、東京の都市再生にもなるし、民間の資金もここに流入し、安い住宅も建つというようなダイナミックな構図が見えてきます。

首都機能移転の三つの目的は、民間を活用して、どういうふうにドラスティックにやっていくのかで、それぞれのスケジュールが違ってくるのではないでしょうか。

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