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森の再生から始まる日本の再生

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C.W.ニコル氏の写真C.W.ニコル氏 作家

1940年、英国ウェールズ生まれ。17歳でカナダへ渡り、その後、カナダ水産調査局北極生物研究所の技官として、海洋哺乳類の調査研究にあたる。1967年、エチオピア帝国政府野生動物保護省の猟区主任管理官に就任。シミエン山岳国立公園を創設し、公園長を務める。1972年、カナダ水産調査局淡水研究所の主任技官、また環境保護局の環境問題緊急対策官として石油、化学薬品の流出事故などの処理にあたる。

1980年、長野県黒姫に居を定め、以降、執筆活動をしている。1995年、日本国籍を取得。2002年財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団を設立。2005年、英国エリザベス女王陛下より名誉大英勲章を賜る。

公職として、内閣官房「21世紀地球環境懇談会」委員、内閣府「未来生活懇談会」委員、東京都「エコツーリズム・サポート会議」委員、環境省「エコツーリズム推進会議」委員、京都大学フィールド科学教育センター社会連携教授 等

主な著書に、「マザーツリー母なる樹の物語」(静山社)、「ティキシー」(角川書店)、「勇魚」(文藝春秋社)、「風を見た少年」(講談社)、「盟約」(文藝春秋社)、「遭敵海域」(文藝春秋)、「裸のダルシン」(小学館)、「魂のレッスン」(NHK出版)、「誇り高き日本人でいたい」(アートデイズ) 等


<要約>

  • 日本は50数年の間に70%もの天然の森が失われた。日本の森の大部分は、金になるものは金にし、あとは放置されてしまっている。森をはじめとする自然環境を放置していると、火災やゴミの不法投棄など大きな問題を引き起こす。
  • 森を再生することは決して不可能ではない。長野県黒姫の「アファンの森」では、針葉樹を間引き、落葉樹を植えるなどして森の再生活動を行っている。森が育つと、保水力や生物の多様性も蘇り、森の生産力が上がる。
  • 環境意識を高める上でも、子ども達への教育が大事。特に森の中での教育は、様々な意味で「人間づくり」の授業の場となる。
  • 森を増やすことは、国の経済、国民の健康、子ども達への教育など、様々な面でいい影響を与える。森などの自然環境の再生について、国が強く推し進めてほしい。
  • 国会等の移転についてはニュートラルな立場だが、東京で大規模災害が起きたときのことを考えるとやはり心配。より適した場所があれば、首都機能の移転・分散について考えること自体は悪くない。反対の立場の人もいるだろうが、みんなで議論し、みんなで決めた上で進めれば、日本は何でもできる国だと思う。 

急速に失われつつある日本の天然の森

私が日本に最初に来たのは今から45年前の1962年です。その時は2年半滞在しましたが、暇さえあればずっと山に行ってました。1950年頃の日本は森林面積の38%が天然の森で、樹齢100年以上の木々がたくさん生えていました。英国の南ウェールズ出身の私にとって、これだけ人口密度が高い島国にもかかわらず、美しい天然の森がそのまま残っていることは大きな驚きでした。

しかし、1964年の東京オリンピック以降、天然の森は次々と伐採され、2002年には11%を残すのみです。わずか50数年の間に70%もの天然の森が失われ、金になるという理由からスギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹に植え替えられてしまいました。そして今でも天然の森の伐採は続いています。

一方、個人所有の森では、「金にならない」という理由で手入れがほとんどされていません。私が若い頃に子どもと一緒に遊んだ「里山」と呼ばれる雑木林も全く手入れされないまま藪になっています。日本の森の大部分は、金になるものは金にし、あとは放置されてしまっているのです。それは本当に悲しいですね。飛行機に乗って空の上から日本を見ると「なんと森の豊かな国だろう」と思いますが、一歩森の中に入ると全く逆です。特にスギ山は貧弱で暗く、保水力や生物の多様性も失われています。

森の所有者に、「森を再生すればキノコや山菜、花も増えて明るい森になる。そうすれば美しい国をつくるための力になる」と言っても、いつも「金にならない」と言われてしまいます。金にならないものに対しては全くやる気がない。日本人は45年前から随分と変わってしまったなと思いますね。

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自然環境の放置によって増大するゴミの不法投棄

森や水源地等の自然環境を放置していると大きな問題を引き起こします。手入れされていない針葉樹林では、木々が密集していて太陽の光が下まで届きませんから、下の方の枝が枯れ落ちてしまい、地面一面が茶色くなります。緑が全くないばかりか、土壌も保水力を失っています。そのような状況だと火災の発生がとても心配です。実際にポルトガルやギリシャ、最近ではカリフォルニアなど、世界中で大規模な森林火災や山火事が起こっています。

また、ゴミの不法投棄も大きな問題です。今では日本中で大量の不法投棄が行われています。我々が10年ほど前に不法投棄の現場を調べたところ、長野県だけでも2000カ所以上もありました。

以前、長野県の個人所有の土地にある小さな沢から黒っぽい水が流れ出し、非常に悪臭を放っていたことがありました。我々はそこを掘らせてほしいと頼みましたが、ゴミの投棄の許可は取っているということで相手にされませんでした。その後、その土地の所有者が代わり、再度頼んで掘らせてもらったところ、そこには大量のゴミが埋められていて、しかもその8割が医療廃棄物でした。非常に恐ろしい話ですが、同じような問題は日本に限らず世界中で起こっています。

私はカナダの環境保護局で働いていたことがありますが、カナダでは取り締まりが非常に厳しく、特にサケやマスが生息する川に少しでも汚染物を流すと、大変高額な罰金が科せられるだけでなく圧力もかかります。日本でも環境問題に一生懸命に取り組んでいる人がたくさんいますし、新しい技術も次々と生まれています。この問題は法律やお金など様々なことが複雑に絡み合い、解決は容易ではありません。ゴミの問題は街の問題で、全てに関わる問題です。森と水源地とゴミ、全部が一つのサイクルに入っていますから、これはどうやって変えていいかわかりませんが、皆さんがドン・キホーテになってくれれば、私は喜んでロバになって協力しますよ。

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長野県黒姫の「アファンの森」における取り組み

日本の森の厳しい現状についてお話ししましたが、森を再生することは決して不可能ではありません。日本の森を再び野生動物の棲める豊かな森に戻したい。そのような思いで、私は長野県信濃町の黒姫の森を少しづつ買い取り、「アファンの森」と名付けて再生活動に取り組んでいます。

アファンの森で私達が行っている森の再生方法の一つは、スギなどの針葉樹を間引き、カツラやナラ、ヤマザクラ、クリなどの落葉樹を植えるというものです。そうすると、上から十分な光が届きますから、落葉樹は真っすぐ育ちます。最初のうちは針葉樹の幹に光が直接当たって木が苦しみますが、落葉樹がだんだん成長するにつれて針葉樹の幹に涼しさを与えるようになります。しかも、太陽の光がまばらに下まで入ってくるので、地面では花やキノコ、山菜などが咲きます。そうすると針葉樹も立派に成長しますよ。アファンの森でも混合林に変えてからは、最初は私の首ぐらいの太さしかなかった木が、15年ぐらいでとても立派に育っています。

そうして森の木々が育つと、保水力や生物の多様性も蘇り、森の生産力が上がります。場所と状況にもよりますが、この方法は森林を育てるためのワン・オブ・ザ・ベストだと思っています。

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森の再生活動に取り組むきっかけとなった南ウェールズの成功事例

私がアファンの森における再生活動に取り組むようになったのは、私の生まれ故郷の南ウェールズを訪れたことがきっかけです。20年ほど前、日本の森の現状に絶望しかけていた頃に久しぶりに故郷を訪れた私は、そこで成功を収めた森の再生活動に感銘を受け、自らも日本の森を再生していくことを決意しました。

南ウェールズでは産業革命以来、天然の森が破壊され続け、一時期はわずか5%にまで減少していた森林面積が、今では60%にまで回復しています。アファン・アルゴード(Afan Argoed)という炭鉱地域は、かつて森林の大部分が伐採され、私が子どもの頃には、非常に荒れたボタ山しかありませんでした。しかし、終戦後復員した3人の若い小学校の先生によって森の再生への取り組みが始まりました。恐ろしい戦争を経験した彼らは、子ども達にこれから何を教えていくべきか考えた末、10ヘクタールの荒れた土地を借りて、子ども達と一緒に木を植えたのです。そこで子ども達に「仲間と協力すること」「他の生き物を大事にすること」「地元の歴史や生態系などに誇りを持つこと」、そして「未来を信じること」を教えました。

1966年にアベルヴァン(Aberfan)という村で大雨のためにボタ山が崩れ、その真下にあった小学校を含む一帯を押しつぶし、多くの犠牲者が出ました。すると、3人の若い先生の教えによって森の大切さを学んだ人たちが「ボタ山に木を植えよう」と運動を始めました。最初は小さな運動でしたが、それに触発されて次第にみんなの意識が変わり、社会全体が動き出したのです。今ではその地域の町や村の周辺が全て緑に変わりました。川にはサケやカワウソも戻ってきましたし、海岸もきれいになりました。10ヘクタールだった森が今や3万ヘクタールにまで広がり、「アファン・アルゴード森林公園」(Afan Argoed Forest Park)という国立公園になっています。

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環境意識を高めるためにも森の中での教育を

環境意識を高めるには、子ども達への教育が大事です。「アファン・アルゴード森林公園」では、子ども達を対象とした野外教育を行っていて、中には1〜2週間泊まりがけで行うこともあります。そこでは、公園のレンジャー(森林監視員)が先生となり、学校の先生がアシスタント役を務めます。授業は森や生物に関するものだけでなく、国語、数学、地理、歴史も行います。実際に森の中に入って体験することで、子ども達は活き活きとした表情で木の種類や名前を覚え、自然の大切さや人と協力することの大切さを学びます。また、実際にフィールドを動き回ることで体力づくりにもつながります。そのように、様々な意味で「人間づくり」の授業の場となっています。

難しいことは分かっていますが、日本の教育現場でも子ども達をもっと外に引っ張り出してほしいですね。そのためにも優秀なレンジャーが必要です。レンジャーの役割は、単に森や国立公園を守るだけでなく、子ども達への教育なども含めて考えるべきです。そうすれば、学校の先生もアシスタントとして実際に経験を重ねることができ、教育の可能性が広がるでしょう。英国でできることが、日本でできないはずがありません。子ども達の教育の全てを学校の先生の責任にするのではなく、もっと社会全体で責任を担うべきだと思います。

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特定の森を育て、自然を理解している役人が不足している日本

日本には素晴らしい国立公園がたくさんありますが、他の文明国に比べて、訓練を受けたレンジャーの数が圧倒的に少ない。今は300人ぐらいでしょうか。それでも増えたほうで、以前は120人ぐらいしかいませんでした。海外をみると、人口が日本の5分の1のカナダは4000人以上のレンジャーがいますし、アメリカは9000人、ケニアは3000人、英国でも1000人ほどいます。

厳しい言い方かもしれませんが、私から見れば、日本のレンジャーには基本的なアウトドアの技術と経験が不足しています。しかも、国立公園や森の責任者が2〜3年毎に異動してしまう。特定の森を育て、自然について本当に理解している役人が少なすぎますよ。環境や森林関係の役人には、少なくとも週3日はネクタイを外し、ヘルメットを被って、調査でも力仕事でも何でも構わないので、実際に森の中で仕事をしてほしいですね。

いろいろな経験を積むことは、トップに上がっていく上ではいいことだと思いますが、中には「この国立公園にずっといたい」「この地域でずっと森を育てたい」という人もいるんですよ。ただ、役人に限らず、「森や川で仕事をしたい」という若い人がいても仕事の場がないという問題があります。かつてのように、多くの人が自然の中で働くことができる環境づくりを進めてほしいですね。一方で、東京水道局が管理している多摩川や伊勢神宮の森は本当によく手入れがされていて、そういうところは素晴らしいです。

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自然環境の再生に向けて国によるイニシアティブの発揮が必要

森は我々にとって癒しの場所になります。様々な生物が生息している元気な森の中を2時間ぐらい散歩すると、血圧が安定し、免疫力も強くなり、ストレスも低下することが分かっています。ウェールズでも地元の医者が、「森の中を散歩すれば元気になる」と処方せんを書いていますよ。

日本は地震国ですから、街中に緑のスペースと水源地が必要です。そのスペースを美しい公園のような場所にしてはどうでしょうか。そして、整備用の軽トラックが通れるぐらいの幅で十分ですから、散歩やサイクリング、乗馬、雪国であればクロスカントリースキーなどができるような道を整備すれば、都会の人たちの癒しや教育の場になると思います。緑豊かで癒される空間。それが私の理想とする街の姿です。

森の再生には当然お金がかかります。しかし、森を増やすことは、国の経済、国民の健康、子ども達への教育など、様々な面でいい影響を与えます。そうした大事なことに国がどうしてお金を使わないのか不思議ですね。不要としか思えない大プロジェクトに費やすお金の10分の1でもあれば、結構広くて美しい森がつくれますよ。

今、東京都では「緑の東京10年プロジェクト」など、緑を増やす運動を活発に行っていて、実際にその効果が見え始めています。そうした運動を全国的にもっと増やしていくことが大事です。そのためにはお金だけでなく、いろいろなイニシアティブやインセンティブ(動機付け)も必要だと思います。森に限らず、川や水源地など、自然環境の再生について国がもっと強く推し進めていってほしいと願っています。

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日本はやろうと決めてしまえば何でもできる国

国会等の移転について私はニュートラルな立場です。しかし、今の東京には住みたくありませんね。今の東京で地震が起こればどうなるか私にも容易に想像できます。私の家内の実家は兵庫県芦屋にありましたが、阪神・淡路大震災で完全につぶれてしまいました。大規模な災害が起こったときのことを考えるとやはり心配です。

カナダやオーストラリア、アメリカなど、割りと新しい国では、経済の中心地と政治の中心地は分離していますよね。より適した場所があれば、首都機能の移転・分散について考えること自体は悪くない。もし私がチンギス・ハンやヒトラーだったら、やはり首都機能を分散させるでしょうね。

ただ、日本はデモクラシーの国。首都機能の移転・分散について反対の立場をとる人も少なくないと思いますよ。移転候補地として自然豊かな土地が選ばれたとしても、その自然を壊して新しい都市をつくるとなると、地元住民やNPOなどによる反対運動が当然起こるでしょう。もちろん自然と共生していけるような都市づくりが望ましいですが、それでも反対の声が上がることは避けられません。

しかし、日本はひとたびやろうと決めてしまえば何でもできる国です。日本は明治維新から数十年で近代国家の仲間入りを果たしました。立派な海軍をつくり、大国・ロシアと戦っても負けませんでした。第二次世界大戦後も奇跡的な復興を成し遂げました。私は、その元になった力は日本の豊かな自然にあると思っています。みんなで議論し、みんなで決めた上で進めれば、移転にあたって森の再生や、環境に配慮した都市づくり、国づくりを実現するなど、日本の再生も可能だと思います。

ただ、移転するにしても、お金がかかり過ぎることは国民の1人として気になります。できるだけ無駄なお金を使わず、効果的に進めてほしいですね。

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