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日本のグランドマップを描くきっかけとなる国会等の移転

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浮川 和宣氏の写真浮川 和宣氏 株式会社ジャストシステム 代表取締役社長

1949年愛媛県生まれ。1973年愛媛大学工学部電気工学科卒業後、西芝電機株式会社入社。1979年ジャストシステム創業。1981年株式会社ジャストシステム設立。

公職として、(社)コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)副理事長、(社)パーソナルコンピュータソフトウエア協会(CSAJ)理事を務めている。


<要約>

  • 国全体で「東京対地方」という構図がある一方で、地方においても「中心地対田舎」という構図が存在する。そうした構造を変え、バランスよく成長していくことが必要。
  • 地方に人を定着させ、活性化させるには、生活拠点の中に仮想空間の職場を構築することが有効。それにより、住む地域によって就職先が限定されることも地域間格差もなくなる。
  • これからは、多様な価値観に対応できるように、多様な選択肢を用意することが大事。様々な選択肢が用意されている社会こそが本当に豊かな社会だと思われる。
  • 現在の東京への一極集中は国民の価値観を狭くし、社会構造のみならず、人間の思想にまで影響を与えているように思われる。これからは多様な価値観を醸造していく必要があり、そういう意味では国会等の首都機能を移転してもよい。
  • 国会等の移転は決して経済論ではなく、国の概念形成という根本的な問題。今はこれからの日本のグランドマップを描くことが必要であり、国会等の移転はそのグランドマップを描くための大きなきっかけになり得る。
  • 国はもっと多くの情報を国民に提供すべき。国が収集する情報の中には、非常に幅広い活用の可能性を秘めているものもあり、そうした情報をもっとオープンで使いやすい形で提供してもらいたい。

ますます広がっている東京と地方の格差

当社は創業以来、徳島県に本社を置いています。本社では約500名の従業員が働いていますが、東京支社で働く従業員数も約200名となり、ここ10年で大きく増えました。最近は、役員の大半が東京支社にいることが多くなりましたが、徳島で生まれ育った会社ということもありますし、メリットとデメリット、コスト等の観点から判断して、しばらくは本社を徳島に置き続けるつもりです。

地方に本社を置くことで、地方に立脚した視点がいつの間にか身につきました。日本経済もやや持ち直してきたと報じられていますが、国全体でみると地方経済の遅れ感が目につき、東京と地方の格差がますます広がっているように思います。生活拠点を東京に置くようになってからも当然徳島の本社に足を運びますから、そうした傾向を肌で感じますね。

国全体でみると「東京対地方」という構図がある一方で、地方においても、「中心地対田舎」という構図が存在します。例えば愛知県では、名古屋市や豊田市のあたりは自動車産業などで非常に栄えていますが、その他の地域はそれほどでもなかったりします。他の県でも、「ここはにぎやかな街だけど、あそこはひなびた田舎」といった構図があり、集中と過疎化現象が起きています。国全体だけでなく、地方の中でもピラミッド構造が存在しているわけです。

私は、一部の限定された地域とその他の地域との格差がますます開き、多くのいびつな結果を生み出すことを非常に危惧しています。そうした構造を変え、バランスよく成長していくことが必要だと思います。

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地方を活性化させるには生活拠点で仕事ができる環境づくりを

地方から都市への若者の流出とそれに伴う地方の高齢化がますます進んでいます。10年先は分かりませんが、この流れが5年程度のスパンで大きく変わることはないでしょう。民間の大企業や中堅企業では、地方に根差したビジネスモデルが非常に描きづらくなっていて、それが地方における若者の雇用の場の少なさにつながっています。

長年にわたって、地方は工業立地の面で日本全体の産業振興に貢献してきました。日本各地がこぞって工場誘致を行い、それによって地方に雇用の場が生まれ、地方経済が活性化した時代がありました。しかし、ある時期から多くの企業が雪崩を打つように製造拠点の中国への移転を始めました。最近は中国の人件費等のコストも上昇傾向にありますから、移転の動きが少し沈静化し、一部の企業では日本回帰の動きも見られます。しかし、地方が頼りとした工場誘致の流れが途絶えたことは事実ですし、それが現在の地方経済の苦しさにつながっていると考えられます。

では地方を元気にするにはどうすればいいのか。この問題について、根本的な解決策はなかなか思い浮かびません。しかし、少しでもこの状況を改善するためには、将来を担う若者の仕事の場を地方に確保することを中心に考えるべきです。

たとえ地方に大きな工場を建てたとしても、工場のある地域に人が集中し、その周辺地域の人口は減少します。つまり、ある拠点に人が足を運び続ける限り、必ず集中と過疎化が起きてしまう。その構造を変えるためには、生活拠点の中に職場を仮想空間として構築するしかありません。極端に言ってしまえば、わざわざ職場に出勤しなくても、自宅で仕事ができるような環境を整えればいい。私は、地方に人を根付かせて活性化させるにはそれ以外に方法はないと思っています。

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生活拠点で仕事ができる環境づくりにはITの活用が鍵

生活拠点の中に仮想的な仕事空間を実現するためには、ITの活用が鍵となります。インターネットやバーチャルリアリティ(仮想現実:コンピュータグラフィックス等を組み合わせて、人工的に現実感を作り出す技術)等のITを一層活用することで、必ず解決策を見出せるはずです。

例えば、当社ではほとんどの会議をテレビ会議により行っています。国内の各拠点にテレビ会議システムを備えていますから、全ての拠点同士で会議を行うことも可能です。テレビ会議では自動カメラによって出席者の顔を映すのですが、これが非常に優れていて、発言者を的確に捉えることができます。我々が誰かの発言に聞き耳を立てるように、コンピュータが同じことをしてくれますよ。それによって、離れた場所でもあたかも同じ部屋にいるかのように、疑似フェース・トゥ・フェース(face to face:対面)で会議を行うことができます。

アメリカやヨーロッパ、中国等の拠点との連絡は通常eメールや電話で行いますが、テレビ会議システムも活用しています。営業拠点はまだこれからですが、研究開発拠点には全てテレビ会議システムを備えました。それによって、打ち合わせ等のために人が移動する必要がなくなったのです。もう少し慣れも必要ですが、今後は更に効果的に活用できると思っています。

企業や個人のIT環境が整っていけば、社員がわざわざ会社に出勤する必要はなくなります。当社もまだ過渡期で中途半端な状態ですが、最終的にはそのような状態を理想としています。

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日本より20年進んでいるアメリカの就業形態

一方、アメリカの当社の営業拠点では、生活拠点と職場の分離が完全に実現しています。ニューヨークにオフィスを構えてはいますが、毎日出社してくる人間はいません。マーケティング部門の担当者はノースカロライナ州に住んでいますし、技術者の中にはロチェスターというニューヨーク州にある町に住んでいる者もいます。営業マンも、シカゴやアトランタなど住んでいるところはバラバラです。本社の私達は「それでやっていけるのか」と最初は疑心暗鬼でしたが、彼らの「広いアメリカを少ない人数でカバーしなければいけないのに、全員がニューヨークのオフィスに出社していたら仕事ができない」という言葉には説得力がありました。

彼らは、「オフィスはバーチャルでいい」と言います。みんな自宅でパソコンを活用し、ホームオフィスのような形で仕事をしていますから、日頃の連絡は電話やeメールで済みますし、会議も電話会議システム()を使えば事足ります。

オフィスに出社しなければいけないという足枷があると、アメリカでは人材も集まりません。本当にいい人材が欲しければ、「毎日の出社」という足枷を外して、全米中から人材を募った方がうまくいくのです。

アメリカでは、ベンチャー企業など新興企業の多くがそうした就業形態になっています。比較的歴史があり本社機能がとても強大な大企業は別として、多くの大企業も変わりつつあります。日本はインターネットの通信速度はアメリカを上回るようになりましたが、就業形態という点では、20年ぐらい遅れているように感じます。

(注)電話会議システム:専用の音声会議端末を使って遠隔地と会議が行えるシステム

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本当に豊かな社会とは、多様な価値観に対して多様な選択肢がある社会

私はインターネットをインフラと捉えていますが、高度なインターネット環境が整えば、どんな山奥に住んでいたとしても十分に仕事ができるようになります。しかも一歩玄関を出れば、そこには素晴らしい自然が目の前に広がっている。日本人の就業意識が変わることも必要ですが、そうなれば、住む地域によって就職先が限定されることも、地域間格差もなくなるでしょう。

現在ではもはや一極集中によるメリットも失われつつあると思います。分散すれば、それに応じた新たなビジネスが必ず生まれてきます。例えば、今ではインターネットを通じて買い物をすることが当たり前になり、インターネット専門で通信販売を行う企業の成長率は目を見張るものがあります。家電量販店などでも、人口密集地に店舗を構える他にインターネットによる物販も行っていますが、そのようなビジネスが、ここ2〜3年の間に急成長しています。逆に、地価が非常に高い場所に店舗を構えて商売するやり方の限界が見えつつあるように思いますね。

ではインターネットだけで全てが事足りるかというと、そうではありません。インターネットで商品を購入したい人もいれば、店舗で実際に商品を見てから購入したいという人もいるでしょう。そうした多様な価値観に対応できるように、多様な選択肢を用意することが大事です。買い物だけではなく、教育や子育て、就職などにおいても、様々な選択肢が用意されている社会こそが本当に豊かな社会だと思います。

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多様な「ことば」が豊かな個性、豊かな社会をつくり出す

当社では創業以来30年近く、一貫して「ことば」の技術に取り組んできました。独自の技術を活かした日本語変換ソフトをつくり育ててきましたが、決して「標準語」の変換ソフトをつくっているわけではありません。当たり前のことですが、「方言」も立派な日本語です。今ではその方言がしだいに使われなくなり、放っておくと絶滅してしまう可能性もあります。そこで、当社では方言を日本の文化として残すために力を注いできました。

絶滅しかけているとはいえ、方言はいまだに多くの地方で使われています。その理由は、標準語ではどうしても表現しきれないニュアンスがあるからです。例えば北海道に「めんこい」という方言があります。「かわいい」「美しい」といった意味ですが、そのような標準語では伝わらないニュアンスを「めんこい」という言葉は持っています。その方言を使わない人達には、その微妙なニュアンスは伝わりません。つまり、「めんこい」という独自の概念があるわけです。

フランス語で「マッシュルーム」という単語があります。日本人はマツタケやシイタケといった単語を聞くと、それぞれの姿形や味、においまでも思い浮かびますが、「マッシュルーム」という一つの単語に集約されると漠然としたものになってしまいます。また、アラスカには「白」という概念を表す言葉が何十種類もあるそうです。そうした「おぼろげな概念」というものは、それを表現する言葉がなければ決して定着しません。逆に言えば、言葉がなくなれば、その概念自体もなくなってしまう。

そうした豊かな表現が、人間の豊かな個性をつくり出している部分があると思います。そして、豊かな個性が集まってこそ、豊かな社会がつくられるのです。その根底となるものが「ことば」であり、方言もその大きな要素の一つだと考えています。

標準語が特に優れた言葉だというわけではなく、あくまで日本語という大きな枠の中の一つにすぎません。微妙なニュアンスを表現したいときには、方言を使う方が適していることもあります。状況に応じてそれらを垣根なく自在に使いこなす。そのように幅広い選択肢を持つことによって、人間は成長していくものだと思います。

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狭まった価値観を解き放つ象徴となる国会等の移転

私は国会等の首都機能は移転したほうがいいと考えています。現在は人間の価値観が非常に多様化していますし、その傾向は今後更に続くでしょう。にもかかわらず、現在の東京への一極集中は、逆に価値観を狭くしている象徴のように思います。最初にふれましたが、現在の日本には「中央対地方」という構図があって、「東京は便利で華やかでいいところだけど、地方はそうではない」という価値観の二極化が起きています。

東京への一極集中は、社会構造だけではなく、人間の思想にまで影響を与えているように思います。無意識のうちに、マスコミ等の情報を通じていつの間にか東京は素晴らしいところだと思い込んでしまっている面もあるでしょうね。テレビや新聞、雑誌等のマスメディアから流れてくる言葉はほとんど標準語に統一されていますから、特に子ども達は、標準語こそが正しい日本語で、方言は正しくないと思ってしまう。東京だけが優れていて、その他は全部だめだという価値観の二極化が、「ことば」の世界でも起こっています。法律違反などのケースは別にして、日常生活の中にそうした勧善懲悪的な価値観があってはならないと思います。

今はあまりにも価値観が窮屈で余裕がなく、対極的な比較論に陥ってしまっているように感じます。価値観が狭まると、人間の生活やスタイルもますます縮まってしまう。それは非常に危険なことだと思いますね。

現在は多くの企業が東京に本社を置いています。行政は中央集権型ですし、銀行や監査法人等、企業にまつわる様々なサービスも東京に集中していますから、企業を経営する上で東京に本社を置く方が都合がいい。まさに東京でないと何もできないという一つの価値観に縛られているわけですが、それでは人材や事業における選択肢が非常に狭まってしまう。これからは、多様な価値観を醸造していく必要があります。

そのためにも、まず国が、ある特定の場所で常にリアルに顔を突き合わせていなければ何もできないという構造を突き崩すことが必要です。その象徴という意味でも国会等の首都機能を移転した方がいい。法律やルールを決める場と実際に実行する場が離れていても支障はないはずです。国がそうした姿勢を示せば、リーダーシップをとる企業も出てきて、本社機能の東京への集中という状況も緩和されると思います。

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国会等の移転をきっかけに日本のグランドマップを描くべき

日本には1億2,000万もの人がいて、それぞれが独自の価値観、人生観を持っています。今、その多様な価値観を活かす広がりのあるグランドマップが描けなければ、これからの日本はどうなってしまうのかと心配になります。

国会等の移転は、グランドマップを描くための大きなきっかけになり得るのではないでしょうか。商業的な中心地として東京があり、国会等の首都機能は他の地域にあるという社会構造が、人間の多様な価値観、人生観を表す象徴的なものになると思います。

国会等の移転は決して経済論ではありません。日本はこれだけ負債を抱えているのに、国会等の移転に何兆円もかけられないという反対論もあるでしょうが、私は、この話は国の概念形成というもっと根本的な問題だと思っています。これから先、1億2,000万人の日本人はどちらを向き、どのようにやっていくのか。そうしたグランドマップを描くことこそ今の日本に必要だと感じています。そして、豊かな社会をつくり出すためには、Aという方法だけでなく、Bもあるし、Cもあるし、Dもあるというように多様な選択肢を持つことが必要です。

国会等の首都機能を移転させるには、まだIT技術が不十分だという意見もあるでしょうし、確かにそのような課題はあると思います。しかし、未来の日本というグランドマップを描くためには、とにかく早く移転させたほうがいい。現在のITを十分活用することによって、企業活動や個人の生活環境にも非常に大きな波及効果があるでしょうし、IT分野も更に進展するのではないでしょうか。

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もっと国民に幅広い情報の提供を

最近は国会中継もライブで放送されるようになりましたが、国はもっと多くの情報を国民に提供すべきです。例えば、そのための専門チャンネルがあってもいい。国の情報は我々の生活の全てに密着しますから、24時間サービスで分かりやすく情報を伝える専門チャンネルが一つ欲しいですね。

また、国政に関わる多くの情報が冊子などの形で国民に届けられていますが、一方で、一部の者しかその情報を得ることできない面も残っているように思います。例えば各省庁は多くの費用と労力をかけて膨大な資料を収集しています。その中には非常に幅広い活用の可能性を秘めている情報もあると思いますが、それが外部に公表されていない。あるいは非常に使い勝手の悪い状態で提供されているように感じます。これからは、インターネット等を活用し、もっとオープンで使いやすい形で情報を提供してもらいたいものですね。

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