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「首都機能移転で人心一新を」


堀 紘一氏の写真堀 紘一氏 (株)ボストン コンサルティング グループ 代表取締役社長

1945年生まれ。1969年東京大学法学部卒。1980年ハーバード大学経営大学院経営学修士取得。読売新聞社、三菱商事などを経て1981年からボストンコンサルティング グループに勤務。1989年より現職。会社戦略・事業戦略の立案、ならびに企業風土の改革や活性化に関わるコンサルティング経験が豊富。著書に「不況を勝ち抜く!」、「人と違うことをやれ!」、「できることから始めよう!」など多数。



首都機能移転で人心一新

私は、あらゆる意味で首都機能の移転に賛成なのですが、その理由は大きく分けて3つあります。

1つは、人心一新ということです。首都をどう定義するかにもよりますが、朝廷のあるところということで考えてみると、平城京以前は頻繁に遷都しているのです。その理由の1つは、住宅建設技術が木造で、建物が当時あまりもたないということがあったかも知れませんが、いろいろな政治的な状況もあって、人心一新という狙いが大きかったのではないかと思っています。やがて平城京に定まって、平安京になっていくという変遷の後、源頼朝が鎌倉幕府を開くときに、常識論でいえば京に開かなければいけなかったのを、何ゆえに京に開かなかったのか。そして、京に開いた足利一族は、名ばかりの幕府であって、もう一度、徳川家康が江戸幕府を開くことになる。そのときに何を考えたかというと、やはり京都からも、大阪からも遠いということに意味があったのだと思うのです。当時の江戸というのは、全然便利ではないけれど、豊臣のイメージが強い大阪からも離れ、京都からも離れていることで、新しい時代をつくるために人心一新という効果を期待したのではないかと考えています。

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現状固定の日本を変える

1868年に明治維新があって、それから132年がたちました。その結果、何をなし遂げたのかと言うと、キャッチアップです。西洋に追いつけ追い越せ、これが明治政府ができて以来のわが国の悲願だったと思うのです。

今、世の中でいろいろ革命が起きていますが、一番大きいのはIT革命、インフォメーション・テクノロジー革命でしょう。これは、農業革命、産業革命に次ぐ第3の革命だと将来、歴史家が評するようになると思うのです。いわゆるエンクロージャー(囲い込み)で始まる農業革命があって、その結果、何が起きたかといえば、農村部から大量の労働者が職を失って、吐き出されて、ロンドンや他のダウンタウンへ集まってくる。ちょうどそのときに、スティーブンソンが蒸気機関を発明し、農村から吐き出された労働力とのマッチングが起きるのです。それで産業革命が、いっきに進んだのです。

その産業革命が、大体20世紀の後半にはほぼ完成するわけです。20世紀の後半からIT革命、情報革命の先端となるコンピューターというものが登場し始めた。これが本番を迎えるのが21世紀だと思うのです。

そういう大きな流れがある中で、日本は、武家社会で、鎖国をしていて、徳川家康がやったことは現状固定です。家康は自分の後継者、例えば息子とか、孫の家光を見ていて、賢いと思わなかったのでしょう。自分だったら、環境が変わっても状況が変わっても対応していける。ただ自分も人間である以上、いつかは死んでしまう。死んだ後に環境が変わったら、どんないい国家制度、つまり幕府の組織だとか、いろんな法律をつくってもだめだと思って、彼が考えついたことは、環境固定だったのです。環境を固定するためには何をすればいいかというと、1つは、海外との交流を禁止することです。それによって、海外の技術や異なった価値観が入らない。もう一つは、技術を奨励しないことです。技術を奨励しないために一番いいのは、競争を取り除くことです。競争がなければ、技術の進化がない。それでは、競争を取り除くためにはどうすればいいのかといえば、武士の子は武士、それも、家老の子は家老、足軽の子は足軽、そして、商人の子は商人、農民の子は農民ということにする。これは、環境固定です。コンペティションが起きない。これで260年もちましたから、家康は天才だと思います。

ところが、はたと気がついてみたら、その間に、諸外国では、さまざまな価値観が花を開き、産業革命が起き、技術が進化し、もはや日本国はこのままでは清の二の舞だということに、薩長の人だけではなくて、勝海舟も気づいたわけです。そして明治維新で官僚主導体制がつくられていくのです。

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新しい日本をつくる共通の目標が必要

我が国は、戦争で負けて、焼け野原になって、そこから立ち上がるのに再び霞が関中心に徹底的にいろいろなものをコントロールする体制をつくりました。そしてそれが見事にうまくいったわけです。

これはなぜうまくいったかというと、これは、経営学の言葉でいうと、資源配分です。資源の傾斜配分がうまくいったのです。普通、民主主義的にやると、ばらまきになりがちです。いろんな人がいろんなことを言うから、君にも上げるよ、君にも上げるよと。そうすると、資源集中が起きないから、臨界量を超えられないのです。臨界量を超えられないと、競争力もつかない。それで銀行には、鉄や化学や機械に重点的に資金を供給させるということを国家を挙げてやったわけです。

その結果、昭和20年代で日本国から輸出できるものは、消しゴムや鉛筆などの付加価値の少ないものだったのが、はや30年代になると、鉄鋼や造船、40年代になると、自動車や家電などの産業が世界に対抗できるところまで来るわけです。これは、ひとえに官僚組織のおかげといってもいい。それで、どんどんキャッチアップするわけです。

そして私が10年前から言っているのは、1980年代の後半に、それが完成したとみるわけです。つまり、明治維新から118年かけて完成したのです。今までは、常に目標があって、アメリカ、イギリス、ドイツという姿があったから、その背中を見て走っていればよかったのが、先頭に立った瞬間から話が違う。どこを目指すのか。右へ走っていくのか、左へ走っていくのか、どのペースで走っていくのか、走る方向も、走るスピードも、自分で決めなくてはならなくなったわけです。

キャッチアップは完了した。目標はいまだにない。ビジョンも定かでない。その日本がどうしたらいいかというときに、人心一新だと思うのです。ですから、21世紀の日本を迎えるに当たって、キャッチアップという大目標を達成した以上、次の目標を掲げなかったら、これはナンセンスだと思うのです。しかも、1億2,500万人もの人数には、やはりかなり大きな共通目標、夢というものが必要だと思います。それは何なのか。もちろん新しい日本をつくるわけだけれども、その新しい日本という言葉の定義が問題だというときに、首都機能移転というのは非常に意味があると思うのです。日本史でも壁に突き当たって低迷したときは、遷都という手が幾度もとられている。一度ご破算にしてここからやるぞということは、何遍も行っているわけです。その意味で人心一新ということをまずやるべきだというのが1点目の理由です。

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東京一極集中の弊害を是正する

2つめの理由は、東京一極集中の是正です。東京に一極集中したことによる弊害を、私は都民として毎日感じています。特に国賓が来日したときに、高速道路を一時閉鎖するというのは、行き過ぎだと思います。いろいろな意味で、東京一極集中というのは、日本にとって不幸だと思うのです。国土が狭いといっても、日本は38万平方キロメートルあるわけです。東京都は2千平方キロメートルに過ぎない。東京都だけでなく、神奈川県、千葉県、埼玉県の一部という東京への通勤可能な範囲まで含めても日本のトータルの面積と比べれば圧倒的に少ないのに、そこにだいたい人口の3割ぐらいが集中しているわけでしょう。そういうことを考えてみると、これは、住んでいる人にとっても大変な苦痛なわけです。

それから、地方の人にとっても、すべて東京が中心になっているために不便なことが多い。例えば九州の知事が九州の知事会というのをやろうといったらどこでやるかというと、東京でやるのが一番便利という話しもある。すべての国内航空路は羽田空港に通じるというのが今の日本の実情で、その結果、羽田空港はラッシュになって、ちょっとしたミスでも、危ないことが起きそうな状況にあるわけです。こういうことはおかしいと思うので、もっと分散すべきだと思うのです。

ドイツという国が、なぜあんなに知的レベルが高くて、工業化のレベルが高くて、国土が美しいのかということを何回も考えたことがあります。皆さんももし今度ドイツに行かれたら、ぜひそういう目で見てもらいたいと思いますが、やはり分散だと思うのです。あそこはもともと都市国家です。ドイツ連邦として統一されるのは、だいたい明治維新のころです。ヨーロッパの中でも、おくれて国家統一が行われています。それによるデメリットもたくさんありますが、最大のメリットは、やはり分散していることで、自然もそばにあるわけです。東京の中心部にはまだ皇居や新宿御苑や、いろいろ公園などがありますが、むしろ、東京の郊外と言われているところのほうが、住宅地が連続してしまったので、緑が少ないのです。

そういう東京一極集中を避けることは、国家経済的に意味があるし、東京都民にとってもベターライフになるし、それから、災害に対しても、過密なよりは適度にあいているほうが、災害時の、神戸の震災みたいなことがあったときにも被害が少なくできると思います。災害の話も、東京が混み過ぎていることと関係があるわけです。そういう意味では、何かを東京から移転しなくてはいけない。移転するのは何がいいかというと、民間は民間で自由にやっているわけですから、あなたのところは本社を移しなさいと言っても、いや、うちはそれじゃ商売になりませんとなる。幸い、国家機能というものは、税金で賄われているわけですから、しかも、国会で決議すれば、いいも悪いもない。そう考えてみれば、国家機能、首都機能が移転するということは、やはり合理的なわけです。

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後世に意味のある公共工事を

もう一つ理由を加えると、公共工事に関することです。景気が今低迷していることもあって、公共投資をやっているわけですが、都内ではいったいいつになったらできるのかというものがたくさんある。道路幅を広げるといっても、あまり便利にならないものも多い。私に言わせれば、掘って埋めるだけみたいな工事が多いわけです。

ところが、首都機能移転ということになると、ジャンボ旅客機の直行便が飛べる空港、3,000メートル級の滑走路を持つ国際空港ができる。それから、どこか最寄りのところに行く便利な道路がなければどうにもならないから、道路が要ります。考えようによっては、これからは空港と道路だけで済ませてしまったほうがいいということもあるかも知れませんが、鉄道もできるかもしれない。それから、今度は、住宅だとか、国会議事堂だとか、省庁庁舎だとか、そういうのをつくっていかないといけないから、建設工事もたくさんある。今、我が国は土木建設業者で五十数万社あるわけです。景気対策で公共工事をするなら、ただ、掘ってまた埋めるよりは、どうせ予算を使うなら何か先に残るものをつくったほうがいいではないですか。そういう意味では、意味のある公共工事ができる、税金の使い方として有効だという気がするのです。

ただし、くれぐれも間違ってほしくないのは、そのときに、土地の買収に過去のようなやり方だけはしないで欲しい。わが国の一番間違っていることの1つは、民主主義とゴネ得との差が理解できないことです。そういう例は枚挙にいとまがない。スイスへ行くと、道路ができるといったら、周辺の地価が下がる。なぜかと言えば、それは、国家の査定する金額で買収できることになっているからです。一応時価ということになっているのだけれど、その時価が上がらない。納税者としてこういう点は是非見習ってほしい。

そうでなければ、私は、今言った3つの大きな目的、人心一新、東京一極集中の是正、意味のある公共投資の3大目的が達成できるので、冒頭に言ったようにあらゆる意味で賛成します。

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目的は常に確認を

3つの目的の中で一番願いを込めているのは人心一新です。日本が生まれかわらなくてはならない新しい世紀に、キャッチアップではない日本独自の、それはアメリカのまねでもない、イギリスのまねでもない、そういう日本がまだどんな形をしているのか、その輪郭もコンセンサスもないわけです。

それをつくっていくときに、こういう首都機能の移転というようなことを進めていくと、それをまた手がかりとして、新しい日本ということについて考えたり、つくっていくのに役立つと思うので、非常にモニュメンタルでいいことじゃないかなと私は思うわけです。

だから、本当は、どこに移るか、どこに引っ越しするかということよりは、何のために引っ越しするかということのほうに、エネルギーを使ってもらったほうがいいような気がするのです。

そして何のためにということは、繰り返し議論しなくてはいけない。これは1回議論しましたという話ではないと思う。企業経営でも、国家経営でも何でもそうなのですが、人が2人以上集まったときに、目的ということだけは、極端に言えば、毎日確認しなくてはいけないことだと思うのです。それで目的が変わってもいいのです。

例えば10年前に議論したときと目的が変わっていいのです。環境が変わるのだから、当然、目的だって変わらなくてはいけないわけで、ある程度変わるのはいい。それに固執する必要はないと思うのです。けれども、議論をして確認することだけはすごく重要なことです。そうしないと、よく起きることは、手段が目的化してしまうのです。それだけはしないでほしいと思う。常に目的を見失わないで、目的を確認しながら進めて欲しいと思います。

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