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首都機能移転は50年の計で

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弘兼 憲史 氏の写真弘兼 憲史 氏 (漫画家)

1947年山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)本社販売助成部に3年間勤めたのち、1974年『風薫』でデビュー。1983年連載開始の『課長 島耕作』がヒット。以後『部長 島耕作』『取締役 島耕作』などが続き、2008年『社長 島耕作』の連載開始。その他、国会議員を主人公にした『加治隆介の議』『ラストニュース』『黄昏流星群』など、多数の作品がある。

文化放送番組審議委員、デジタルラジオ放送番組審議委員、コンテンツ産業国際戦略研究会議委員、松下政経塾評議員、21世紀のコミック作家の著作権を考える会理事、JFM賞審査員、フジ広告大賞審査員、講談社漫画賞審査員、「美しい国づくり」企画会議有識者(安倍内閣)、小学館漫画賞審査員を務める。2007年紫綬褒章。

<要約>

  • 『社長 島耕作』の取材を通じて、ほとんどの社長は、私利私欲にとらわれることなく、社会への利益還元を本気で考えているものだということを感じた。
  • 国政の柱は、教育、外交、経済政策、国防の四つ。政治家の実像は一般のイメージとは異なっており、本当はやりがいのある素晴らしい仕事だということを作品を通じて訴えたかった。
  • 東京は文化が集積する魅力ある都市。反面、都市公園や交通システムの整備など、世界の都市に学んで改善するべき課題もある。震災に備えてバックアップ体制を造っておくことも必要。
  • アメリカでは大企業の本社が田舎にあることも多い。経済機能を東京以外の場所に移転する方が政経分離をやりやすいのではないか。
  • 経済状態に余裕ができ、タイミングがうまくかみ合えば、首都機能移転への流れも生まれるだろう。首都機能移転は50年間かけてじっくり議論していくべき問題。

「島耕作」に見る社長観

2008年5月に連載がはじまった『社長 島耕作』では、冒頭の社長就任挨拶で“Think Global”(地球規模で考えよ)というメッセージを発表しています。これまで日本企業は豊かな国内マーケットに支えられて、内向きの企業活動でも十分通用してきました。しかし、今後は一層少子化が進んで国内マーケットは縮小し、一方で、BRICs、NEXT11()などの新興国マーケットはこれから拡大期を迎えるなど、海外での事業展開が重要になってきます。韓国の電機大手の中には、海外での売上げが80%を占める企業もあるほどです。だから、日本企業は、もっと外国に目を向けようという意味で、“Think Global”を打ち出したのです。

ところが、2008年秋頃から世界経済が急速に落ち込んできて、外国に行っている場合じゃない、内需を何とかしないといけないということになり、作者としても今後の展開が難しくなってきました。漫画だけではなく、各社の社長も今大きく方針を転換しようとしています。本当に、この漫画を描いていると、自分が漫画家なのか経済人なのか分からなくなります。自分が経営者だったらどうすべきか、という判断を常にしなければいけないのですから。

『社長 島耕作』執筆に当たって、話題の社長や大企業の社長など、多くの方々にインタビューをしてきました。すると、社長というのは私利私欲にとらわれていないものなんだということが分かってきました。例えば、アメリカのトップがけた外れに高い年収を得ているのに比べて、日本の社長の年収は非常に低い。この意味では日本の会社は健全だと思います。また、サントリーは、利益の三分の一を社会に還元する「利益三分主義」を唱えていますが、他にも多くの会社がホールや美術館を造る、メセナ活動に取り組むなど、いろいろな形で利益を地域に還元しています。会社は株主のものというより会社を支えている人たちのもの。だから、地域の雇用創出や周りの住民の幸せも考えなければいけない。会社が繁栄することはその地域の繁栄でもあると、ほとんどの会社の社長さんが本気で考えていたのです。やはり社長になる人は違うと感心しました。

(注)世界的に知られる新興国のグループを指し、米国の投資銀行ゴールドマン・サックスが名づけたのが語源。BRICsは、今後の高い成長が見込まれる新興国である、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国。NEXT11は、BRICsに続く経済発展が期待される新興経済発展国家群である、メキシコ、韓国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、パキスタン、イラン、トルコ、エジプト、ナイジェリアの11カ国を指す。

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政治家はやりがいのある仕事

弘兼 憲史 氏の写真実像が伝わりにくい職業の一つに政治家があります。『加治隆介の議』では、サラリーマンから政治の世界に身を投じた主人公を通じて、政治家の本当の姿を伝えたいと考えました。「末は博士か大臣か」という言葉が示すように、昔は、国会議員になるのが大出世と考えられてきました。ところが、今は政治家に対するイメージは必ずしもそうではなくて、総理大臣になろうという夢などは持ちにくくなっています。政治家を目指す人も少なくなり、親の地盤を引き継いで政治家になるケースが増えてきました。『加治隆介』は、一般の人に、政治というのはすばらしいものだ、政治家というのはものすごくやりがいのある仕事であることを知ってもらいたいという老婆心から、正義の政治家の姿を描いたのです。

主人公の加治隆介は、国政の四つの柱は、「教育、外交、経済政策、そして国防だ」という考えを持っています。これからは政治のシステムを変えて、国会議員は「おらが国」から出した先生だから、必ず国から地元に見返りを戻してくれるという国民の意識を捨て、国政と地方政治を明確に分けていくべきです。

現実には選挙という制度があるので、政治家は「金帰火来(きんきからい)」と言われるように、たびたび地元に帰って支持者とのつながりを強めなければいけない。この仕組みから改めなければいけないでしょう。イギリスのように、政治家は地元からは立候補できないという工夫も必要かもしれません。

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文化の集積した魅力ある都市・東京

私の出身地は山口県岩国市です。市内を流れる錦川には日本三名橋の一つである錦帯橋が架かり、上流にはきれいな山があって山紫水明、一方で基地もあるしコンビナートもある、いろいろな側面がある面白い町です。それでも、私は今暮らしている東京が好きですし、死ぬまで離れたくない。なぜなら、東京には多くの文化が集まっているからです。

子供のころからずっと東京が好きでした。それは文化の中心としての東京に対するあこがれがあったからです。大阪でのサラリーマン時代、一緒に仕事をしていたデザイナーたちの多くは、最高峰のニューヨークで活躍することを夢見ていました。その前段階が東京でしたから、大阪のデザイナーは皆まず東京を目指します。デザイナーだけでなく、フォーク歌手も福岡や広島といった地方の主要都市から東京へ出て来る。当時は、私のような仕事をやりたい人間は、東京に行かなければ話にならないというイメージがありました。

また、東京には食文化も集中しています。中華料理も韓国料理も、それなりにいいアレンジをしておいしく作られている。これだけいろいろな食べ物が食べられる都市は、世界でもニューヨークと東京ぐらいしか無いのではないでしょうか。日本人は、毎日バリエーションのある食べ物を食べるのが好きな国民です。世界には365日ほぼ同じ食べ物で、パンとチーズとサラミ以外にはほとんど何も無いような国もあります。そういう国では、お祭りでもない限り、朝から晩まで同じ物を食べている。東京のように、ちょっと手を伸ばせばあらゆる料理が食べられるのは健康にも良いですし、日本の平均寿命が世界で一番長いのは、多分いろいろなものをバランス良く食べられる環境にあるからでしょう。それも東京の魅力です。

東京は、コンパクトにまとまっている都市で、河川も空気も昔ほどは汚れていない。大阪に比べたら緑も多い。また、お台場の辺りには広い土地があって、オリンピックの施設ができるような余裕もあります。ただ、余りにまとまり過ぎて、社会、経済、文化が全部東京に一極集中し過ぎているきらいはあります。

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首都・東京の改善点と震災への備え

弘兼 憲史 氏の写真東京が世界の都市に学んでほしいこともあります。一つは、電線の共同溝への埋設です。銀座などは既に整備されていますが、これをもっと普及させてほしい。また、公園をもう少し造ってもいい。今の東京にニューヨークのセントラルパークのような大きな公園を造るのは難しいかもしれませんが、小さな公園はもっとたくさん造ってほしいですね。

交通についても学ぶところがあります。例えばパリの凱旋門のロータリー式交差点は、信号がなくてもいろいろな方向から車がスムーズに流れる優れたシステムです。日本では交差点で必ず車を一回止めますが、車を止めずに流せるような仕組みを考えていくことも必要ですね。

また、交通混雑を減らすために、高速道路の上にもう一層高速道路を造ってはどうでしょうか。首都高速で実験的にやってみるのもいいでしょう。もちろん日照権、地震に対する安全性、住民との調整などいろいろな問題が出てくるでしょうが、そういった問題をクリアできれば、これも一つのアイデアになると思います。

日本の中枢である東京が震災で崩れると首都機能は麻痺してしまいます。だから、震災に備えて、地盤のしっかりした場所に、震度7にも耐えられる強固な建物を造ることが必要です。また、情報システムが止まったときに備えてバックアップ体制をつくることも必要でしょう。阪神・淡路大震災で分かったことは、日本には地震に対して安全な地域など無いということ。この辺は安全だろう、ここはかつて地震が無かったから大丈夫だと考えられていたのに、活断層が日本中にくまなく走っているため、実は、安全な場所は無いとなると、首都機能が壊れたときのバックアップ体制、小さな「ミニ首都」みたいなものを造っておくことも一つの方法ではないでしょうか。

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経済機能の移転が現実的

金融機関は中心街にまとめた方がいいと思います。外国でも金融機関は比較的コンパクトな地区にまとまっているところが多いですね。インドのムンバイには、貧しいスラムが広がっているのですが、金融機関が集中している地域だけ高層ビルがたくさん建っています。

アメリカでは、飛行機のビジネスクラスに乗ると、ジョン・F・ケネディ空港から中心街へ行く無料のヘリコプターサービスが付いています。お陰で、車で行けば交通渋滞で1時間以上かかる自由の女神像に10分程度で到着できるので、とても便利です。日本でももう少し空の規制を緩和して、ヘリコプターがより頻繁に使えるようになれば、ビル屋上のヘリポートがもっと有効利用できるでしょう。

ニューヨークに取材に行ったとき、ニュージャージー州のパナソニック・アメリカ本社に立ち寄りました。そこは全くの田舎で、広大な敷地に3階建てぐらいの大きな本社ビルが建っていました。ウォルマートもコカ・コーラも、本社は本当に田舎にあります。そういったことを考えると、政治と文化は同じところにあってもいいけれども、日本も経済機能を外に移転した方が政経分離をやりやすいのではないでしょうか。国会議事堂を移転したり取り壊したりするのは大変なので、東京に本社のある大きな会社に移転を依頼する方が現実的でしょう。霞が関をそのまま残して一つの完全なエリアにし、その地域のセキュリティを万全にする。逆に東京から企業が移転することによって、移転先に新しい都市が出来る方がいいような気がします。首都機能移転とはやり方は違いますが、同じ結果になると思います。

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首都機能移転は50年の計で考える

弘兼 憲史 氏の写真首都機能移転をシンボルとして先行させて、その後に改革を実行するというやり方も考えられますが、これでは移転先に対するコンセンサスが得にくいでしょう。あるいは時期をにらみ、一番良いとき、つまり瞬間最大風速的にみんなの気持ちが高まった時期にやらないと、なかなか国民の理解は得られない。目下の問題は、首都機能移転より、失業をどうするのかということ。ブラジリアのように、国がまだ熟成していないときに一気に移転することはできますが、熟成した土地、例えばアメリカで言えばワシントンD.C.をどこかに移転しようと言われても難しいように、日本の場合も困難が多いでしょう。

国会等を移転すると決議をしたころは、日本はとても景気のいい時代でした。今は首都機能を移転するだけのお金と時間が無く、それよりも先にやらなければいけない問題が山積しているので、今はこの問題はしりすぼみという形になっています。また、今の時代は、昔のように人々が一堂に会して会議をする時代ではなく、衛星を使えば居ながらにして会議ができますから、分散移転論という考え方もあるかもしれません。ただ、分散移転論の場合は、多分それぞれの県に対して平等に、あなたにはここをあげるから、あなたにはここをどうぞというおかしな割り振りになってしまう可能性があります。諸外国からお見えになるお客様のことなどを考えると、首都機能は分散するよりも1箇所にまとめた方が良いでしょう。

首都機能移転にはタイミングがあって、できるとしたら、それは経済状態がうまく回り始めていろいろなことに余裕ができ、それぞれがうまくかみ合ったときです。あるいは、外国の軍事的脅威のようなものがあったりすると、皆の意見が一気にまとまって、首都は変えた方がいい、政経分離した方がいいという流れになるでしょう。けれども、今はなかなか皆が乗ってこない時期です。結局、首都機能移転は、国民の意識としても急がなければならない問題ではないので、50年間ぐらいのタイムスパンで考えてじっくり議論していくような課題だという気がします。

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