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「首都機能移転の考え方」


舛添 要一氏の写真舛添 要一氏 舛添政治経済研究所 所長、政治学者
1948年生まれ。東京大学法学部政治学科卒業。パリ大学、ジュネーブ高等国際政治研究所各客員研究員を経て、東京大学教養学部政治学助教授。平成元年に退官。以後、舛添政治経済研究所所長として政治・経済分野のほか、社会福祉など論評活動は多岐にわたる。近著に、「少子高齢化ニッポン」、「完全図解 日本のエネルギー危機」など。
((株)舛添政治経済研究所ホームページ http://www.mipe.co.jp)


首都機能移転論議の経緯

首相の諮問機関である「国会等移転審議会」が移転の候補地として、(1)宮城地域、(2)福島地域、(3)栃木地域、(4)栃木・福島地域、(5)茨城地域、(6)岐阜・愛知地域、(7)静岡・愛知地域、(8)三重地域、(9)畿央地域、(10)三重・畿央地域の10地域をあげていましたが、容易には優劣がつけがたかったと思います。しかし、12月20日に候補地を、(4)の「栃木・福島地域」と(6)の「岐阜・愛知地域」に決定し、(10)の「三重・畿央地域」は高速交通網の整備などを条件に、将来候補地となる可能性があるとして、準候補地扱いにしました。

そもそも、首都機能移転の議論は、バブルによって東京の地価が高騰したことが拍車をかけ、1990年に衆参両院が国会移転を決議しています。そして、96年には移転先の選定を明記した国会等移転法も生まれております。具体的には、国会、行政、司法の中枢機能を東京圏外に移すことが定められていますが、皇居は移さないので遷都という表現はしていません。国会等移転調査会及び国会等移転審議会は、新首都のイメージとして、東京から約60〜300キロに位置し、面積は最大8500ヘクタール、人口は最大56万人としました。移転に必要な費用は、公的負担が4兆4千億円、民間投資が7兆9千億円の計12兆3千億円となっています。

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国会等移転審議会の答申と世論の現状

国会等移転審議会は、評価作業の選定基準として、(1)東京の過密の緩和、(2)国土構造改編の方向、(3)文化形成の方向、(4)新しい情報ネットワークへの対応容易性、(5)大規模災害への対応力、(6)火山災害に対する安全性、(7)地震災害に対する安全性、(8)全国からのアクセス容易性、(9)外国とのアクセス容易性、(10)東京とのアクセス容易性、(11)既存都市との関係の適切性、(12)水害・土地災害に対する安全性、(13)土地の円滑な取得の可能性、(14)地形の良好性、(15)景観の魅力、(16)水供給の安定性、(17)自然環境との共生の可能性、(18)環境負荷の低減の可能性、の18項目をあげています。11月25日の審議会では、地震などの災害に対する安全性と土地の円滑な取得の二点を重視する方針が示されましたが、その他の評価項目も当然検討しなければなりません。

500点満点の総合評価点は、1位の栃木・福島地域が353点、2位の岐阜・愛知地域が340点、3位の茨城地域が333点、4位の宮城地域が320点、5位の静岡・愛知地域が316点、6位の三重・畿央地域が302点でした。

これまで候補地にあがった地域では、地方自治体や経済団体などが首都誘致合戦に乗り出してきました。テレビや新聞での宣伝をはじめ、積極的な誘致キャンペーンに努めてきています。一方、東京都の石原知事は、首都移転を歴史への冒涜と非難し、断固反対の立場を貫いています。10月には、知事を会長にして、都選出国会議員や区市町村、商工業団体などを網羅した「首都移転に断固反対する会」が組織されました。しかしながら、候補地と東京以外では、全国的には首都移転問題はほとんど関心を引いていません。全国民の懸念事項は、景気であり、この不景気のときに12兆円ものカネを首都移転だけのために捻出できるのかと、しらけているのです。また、東京の地価も下がり、その傾向はまだ続いていくと思われます。もちろん、阪神・淡路大震災の経験からも、防災ということを考えれば、東京が地震に襲われたときに、首都機能をどうするかという問題は深刻に考えなければならないでしょう。

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首都機能移転に欠けている視点

しかし、賛成するにせよ、反対するにせよ、首都機能移転を論じる人々に欠けている視点があります。それは、日本の地方行政制度をどう改革するか、つまり中央と地方の関係をどうするかといった問題です。現在の47都道府県、3250市町村という体制をそのままにしておいてよいのでしょうか。仕事の量から言えば、地方対中央が2対1なのに、財源では逆に1対2になっています。そのギャップを埋めているのが、地方交付税交付金や補助金なのです。カネを出せば口も出す。それで、地方自治が育つはずはありません。さらには、東京をはじめとする都会の住民の稼ぎが、田舎へと流れて行っているのです。これらの問題を解決するためには、根本的な改革が必要なのです。石原東京都知事が提案した外形標準課税も、単に東京都対銀行という対立図式を超えて、地方制度改革への議論へと発展させるべきでしょう。

ところが、首都機能移転の議論には、この視点が欠けているのです。東京が過密だからどこかに国会が移ればよいという議論では、首都がどこかに移転すればそれで問題が解決したという誤った印象を与えることになります。しかし、それでは困るのです。首都移転や遷都を議論する前に、中央と地方の関係の見直しを行うべきで、もし首都移転議論がその見直しを邪魔することになるのであれば、百害あって一利なしだと言えます。

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平成の廃藩置県で中央と地方の関係を見直す

私が提案したいのは、首都移転議論は止めて、まずは、平成の廃藩置県を行うことです。具体的には、47都道府県を廃止して、日本を6〜10のブロックに分け、道州制にします。また、3250の市町村を廃止して、300〜800の新しい行政単位を作りますが、その際には市と町と村の区別をやめて、統一した呼称にします。英語ではミュニシパリティ、フランス語ではコミューンがこれに当たります。また、人口5万人以下の単位を認めないようにします。そして、ドイツやアメリカやスイスのように州の権限を強めて連邦制にし、地方自治を徹底させるべきです。そうすれば、首都など、どこにあろうが構わなくなります。場合によっては、国民体育大会のように毎年首都の位置を変えてもよいと思います。

介護保険をめぐって、今日本全国で混乱が生じていますが、その混乱の原因の一つは、地方制度の改革を行わないまま、強引に中央がこの制度を導入しようとしたことにあります。人口100万人の大都会と人口500人の村とに同じ仕事を押しつけても、それでうまくいくはずがありません。一方で施設もヘルパーも揃っている所があれば、他方で、老人保健施設も特別養護老人ホームもヘルパーもいない所があります。同じ日本人なのに、住んでいる地域によってあまりにも格差があるのは問題です。東京の特別養護老人ホームは3年待たないと入れません。これではないのと同じです。地方で施設が充実しているのは、東京のカネが回されているからです。いつまでこのような状態を続けるのでしょうか。首都機能移転など論じる前に、中央と地方の関係を根本から見直すことが先ではないでしょうか。しかもインターネットの時代です。情報処理が分散される時代に、立法、行政、司法を一カ所に集める意味は何もないと思います。

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地方行政改革の推進で新しい日本の再生を

現在、行政改革は、中央省庁を1府12省に再編することで終わったような雰囲気ですが、地方の行政改革も忘れてもらっては困ります。中央官庁のみならず、地方行政の無駄を省くことが重要であることは言うまでもありません。それとともに、地方分権の推進が、規制緩和とともに、日本の経済を、そして社会を活性化させることにつながるからです。道州制、連邦制を採用する「廃県置州」を実施した上で、大幅に権限を移行し、外交、防衛、法務、連邦財務以外は、すべて地方に任せるべきです。港の道路一つつくるのに、霞が関に通って、関係省庁の許可をとらねばなりませんが、そのような無駄が経済を疲弊させているのです。地方の開発省が責任をもって実行すれば、迅速かつ効率的で安価に事業が完成するようなシステムが必要です。地方分権と規制緩和を推進し、日本全体を改革しないかぎり、地方の再活性化はありえないのです。

明治維新のときには、廃藩置県が実行されました。今回の行政改革が明治維新に匹敵するものであるならば、現在の都道府県、市町村という地方行政単位の見直しを断行すべきです。これは、けっして、荒唐無稽なアイディアではなく、この方式を実践しているのが東西の統一で日本とほぼ同じ国土面積をもつことになったドイツです。ドイツ首相といえば、かつてはコール氏、現在はシュレーダー氏ですが、州レベルで見ると、それぞれに総理大臣や閣僚がいるのです。これと同じように日本でも、北海道から九州まで首相がいる、大蔵大臣、厚生大臣、文部大臣などの閣僚がいる。そして、各地域が強い自治権をもって行政を行う。その結果、地域格差が生まれるとの懸念もあるでしょうが、むしろ地域の独自性や多様性を認めることが、新しい日本の再生の道につながるのではないでしょうか。

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