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「国民投票で決着をつけよう」


佐々木 毅氏の写真佐々木  毅氏 東京大学 教授

1942年生まれ。1965年東京大学法学部政治学科、法学博士。東京大学助教授などをへて1978年から現職。専門は政治学、政治思想史。著書に「プラトンの呪縛」(読売論壇賞、和辻哲郎文化賞)、「政治に何ができるか」(東畑記念賞)、「いま政治になにが可能か」(吉野作造賞)、「保守化と政治的意味空間―日本とアメリカを考える」、「プラトンと政治」、「近代政治思想の誕生」など。



迷走する首都機能移転

首都機能移転問題は迷走状態にある。その責任は政治にあるが、全体として議論のつめの甘さがこれに輪をかけている。その上、時間に伴う変化がそれを加速している。いつの場合でもそうであるが、現状を変えようとする側には相当の理論武装が必要なはずである。従って、現在、どのような議論が有効性を持ちうるか、改めて考えをきっちり整理してみる必要がある。

話の発端は一極集中の是正にあったわけであるが、それは今から20年以上前に遡る話であった。それは国土総合開発や公共事業などの全盛時代の典型的な発想である。それが現在、そのまま通用すると考えるのはアナクロニズムといわれても仕方がない。政策の有効性は常に時代とタイミングにある以上、これだけの時間が経ったこと自体、その説得性に疑問が出ても仕方がない。

また、財政状態の悪化は極めて深刻であり、日本国債の格付けが一部の評価機関によって引き下げられた。おまけに昨今における公共事業の評判の悪さは決して一部の地域の意見とはいえなくなってきた。その意味でこの件は今般、中止が言われている諸々の公共事業とどこが違うのかと言われればなかなか返答に困るのではあるまいか。「一度決めたことだから変えられない」というだけではもはや通らないことは、今や、当り前のことになりつつある。最近、扇大臣が首都機能移転について消極的な発言をして話題になっている。その公的立場上批判は免れないが、現実には「一度決めたことだから変えられない」というだけでは済まない事態になっていることが自然にこうした発言を誘発したように見える。

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首都機能移転論議の弱点

日本の首都機能移転論議には一つの致命的な弱点があった。それは戦略的・政治的判断の基本的な欠如である。つまり、それは日本の公共事業が多くの場合そうであるようにこれを欠いている。首都機能移転を何かニュータウン建設のように考えるロジックを越えるものがそこにはほとんど見えないのである。首都移転と首都機能移転とは違うということを一応脇において考えても、これをニュータウン建設のように考えるというのは一種の奇観というべきであろう。どこの国においても首都の問題はそのあり方に関わる重大問題であり、そのことは昨今のドイツにしてもそうである。古くは軍事戦略上、首都をどこに置くかは決定的に重要であったし、首都の位置はその国の政策関心の方向性をいろいろな形で示唆するものがある。従って、こうした観点を欠いた日本の首都機能移転論議というものは、政治の判断を建設業界の判断に置き換えるようなものである。それは戦後政治の戦略的貧困の遺物のように見えてくる。

更に悪いことに、足下において政治は首相官邸の新築を行い、議員会館の拡充計画を進めている。これは首都機能移転は真面目な話ではないということを自白しているように見える。その一方でそれぞれの地元の期待を煽り続けてきたが、いずれにせよ、この問題を扱う責任能力を十分に持っているかどうか、疑わしい状況にある。このままで景気浮揚といった名目でこの新たな大公共事業に着手するようなことをすれば、金融市場等で深刻な波乱が起きないとも限らない。

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首都機能移転論議の二つの出口

出口としては二つのことが考えられる。第一は、中央政府機能の抜本的な見直し・縮小と地方への大胆な権限委譲を一段と進めることとセットで、経費節約的な首都機能移転を改めて提案することである。つまり、新しい統治システムへの21世紀日本の移行という国民的意識の大転換と結びつけて首都機能の移転を提案し直すことである。逆にいえば、今から20年以上前の「国土の均衡ある発展」などといった御題目はもはや使えないものと考えるべきである。これまで中央政府が東京に依存してきたか、東京が中央政府に依存してきたかはともかく、この二つが切り離されることは中央・地方関係に重大な変化を及ぼすことは確実である。

それに加え、政治がこの問題で当事者能力を失いつつあること、テーマが国民意識の転換に関わる重大事であることを考え、具体的な候補地を示した上で首都機能移転について国民投票を行うことを提案したい。この手続きは先の提案と一体のものである。

第二は、現在論議されている首都機能移転とは別に大災害などの危機管理との関係でその機能をバックアップする体制を早急に整備すべきであると考える。いわゆる首都機能移転論議によってこの種の必要が無視され、あるいは放置されることは許されない。各企業がそれぞれに準備しているような体制を政府が整えられないというのでは論外である。

こうした点を含め、政治による速やかな問題の整理のし直しが不可欠であり、その上で速やかに決着を計ることが求められているといえよう。

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