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「人類の未来に限りない励ましを与えてくれる都市を」


小松 左京氏の写真小松 左京氏 作家

1931年 大阪生まれ。1970年、日本万博EXPO’70でテーマ委員、テーマ館サブ・プロデューサー。1974年、「日本沈没」で第27回日本推理作家協会賞受賞。1985年、「首都消失」で第6回日本SF大賞受賞。1987年、花と緑の博覧会国際シンポジウム総合プロデュース担当。1990年、国際花と緑の博覧会総合プロデューサー。1996年「大震災’95」出版。著書に「復活の日」「さよならジュピター」「歴史と文明の旅」他多数。



災害対応のシミュレーションにもとづいた新首都に

東京にこれだけ機能が集中してしまった中で、東京が何かの拍子に機能停止してしまったら、日本全体はどうなるのか。「首都消失」はそんな問題意識から書き始めた小説です。本の中では、臨時国会開催中に東京の30キロ圏が突然得体の知れない雲におおわれ、首都機能がブラックアウトする想定になっています。これによって鉄道、道路、航空をはじめとした交通機関が麻痺するとともに、東京から発信される情報が完全に遮断されてしまいます。
さらに国民主権を代表する中心と、国家行政機関の中央が消失してしまったことで、外交、防衛といった国民規模の対応ができなくなってしまうという問題が発生します。特に防衛は国際連帯の中で24時間体制で動いており、それが指令中枢を失って穴があいてしまうのです。実際にこのような事態に直面したとき、果たしてどのような対応が可能なのか。このことを危機管理の専門家に質問したところ、すぐには答えが出てこなかったのですが、電話をかけにいって30分くらいたってから戻ってきて、「全国知事会でしょうね」という返事をもらい、小説の中でも臨時の国政代行組織を全国知事会が担うことにしたのです。
国内だけでなく、海外にも多大な影響を及ぼすことが考えられます。特に東南アジアを中心とするODAなどへの影響が問題となることが予想されます。諸外国との外交の問題もあります。このような事態に備えて首都機能にはどのようなものが必要なのか、何を準備すればいいのか、ということをきちんとシミュレーションして把握しておくことが必要だと思います。

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首都機能は移動性が重要になってくる

1973年のことですが、「日本沈没」の中で、夕方5時過ぎのラッシュ時に第2次関東大地震が起こって、首都高速がひっくりかえり、何百台もの自動車がどんどん降ってきて火と車の雨になるという情景を書いたのです。その後、「高速道路が倒れるはずがない。人を不安にさせてけしからん。」と耐震工学の専門家が怒っていると人づてに聞きました。けれども、それから22年後、阪神・淡路大震災でまっさきにテレビに映し出された光景は、まさに阪神高速道路が倒壊した姿だったのです。ですから決して技術を過信することなく、これまでの経験をきちんと蓄積し、活かしていくことが重要だと思います。特にコンピューター、インターネットの発達を考えると、全国30カ所くらいにバックアップ機能を用意し、どこで何がおきても、どこかが大丈夫というようにしておくことが必要なのではないでしょうか。
アメリカではフライング・アーカイブという発想があって、ワシントンの重要な政治中枢機能を、いざというときに飛行機の中に入れてしまうということを考えています。日本の場合はメガフロートみたいなものに首都機能をみんな乗せてしまうというのはどうでしょうか。1970年の万博の前に若手の建築家の人たちと、これからの国土のファンクションをどうしたらいいか、どんな空間が期待できるかということを議論したときに、その中の一人が海上都市ということを言い出したのです。そして浮かべるだけではなくて、時々動かしてはどうか、と。まさしく「ひょっこりひょうたん島」です。私も1974年に「極冠作戦」という短編の中で、重さ6千万トンのトウキョウ市が時速15ノットのスピードで移動する海上都市になるという小説を書きました。情報化の進んだ現在では、首都機能というサービス機能はそのコピーをアタッシュケースに入れて、持ち歩ける時代になっているといってもいいのではないでしょうか。

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人類の未来に励ましを供給する都市に

アメリカ合衆国の州はいわば一つの独立した国であり、それがアメリカという大連邦を形成していますが、それぞれの州都というのは、もっとも経済的繁栄をとげた人口密度の高い都市ではなく、郊外地に近いところにささやかに置かれています。ニューヨーク州の州都もニューヨーク市ではなく、かなり北のオルバニーという都市にありますし、イリノイ州の州都もシカゴではなく、スプリングフィールドにあります。カリフォルニア州の州都もサクラメントというささやかな都市です。

日本の新都市も、大東京のように、どっしりしたシンボリック建築としての国会議事堂を持ち、丸の内や新宿のような高層ビルが立ち並び、すべての交通・通信体系のターミナルを一極に集中させた都市である必要はないと思います。より機能的で、より高度で効率的な情報通信施設を持ち、いくつかの大学や高等研究所といった知的生産の機能を備えた、新地球時代の世界首都の一つとしての品格と風格を備えたものであって欲しいと思います。そして、人類精神のもっとも高尚なものが、そこに具現・表現され、人類の未来に対して絶えず限りない励ましを与えてくれるような都市であって欲しいと思います。

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