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「首都機能移転論のバージョンアップを」


八幡 和郎氏の写真八幡 和郎氏 評論家

昭和26年滋賀県生まれ。東京大学法学部を卒業後、通商産業省に入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。国土庁大臣官房参事官、通産省大臣官房情報管理課長を経て、現在、評論家。1987年に「東京集中が日本を滅ぼす」(講談社)のなかで首都移転を提案。著書に「東京の寿命」(同朋舎)、「遷都・夢から政策課題へ」(中公新書)など。社会経済国民会議の新都建設問題特別委員会にも委員として参加。



世界史的流れは小さくて中立的な首都へ

国会等移転審議会は、1999年12月、「三重・畿央地域」など3地域を移転先候補地とする趣旨の答申をした。また本年5月には衆議院の「国会等の移転に関する特別委員会」において「移転先候補地の絞り込みを行い、2年を目途にその結論を得る」旨の決議が行われるなど、移転実現に向けて新たな段階にさしかかっている。

しかし、その一方で、石原東京都知事などによる移転反対論も活発化している。ただ、一般に、首都機能移転反対論の多くは、推進側が提起した論点の基本的なところに真正面から応えようという姿勢を欠いている。

反対論者は、首都機能移転の目的が、公共事業の創出であるとか、東京の過密対策、移転先の地域的利益だというが、この問題のバイブルというべき「国会等移転調査会」の報告でも、東京一極集中の集権型社会システムを排除し、分権・分散型社会を実現しようということこそが目的であることが明言されている。

また、政治行政と経済の中心を切り離すことにより国際化や規制緩和にふさわしい環境をつくろうとしていることをまったく理解しないものである。世界史的な流れをみても、18世紀に米国がワシントンを首都としてから「小さくて中立的な首都」が主流となっており、「一国の政治・経済・文化の中心でなければ首都でない」などという議論は、何の根拠もない。ヨーロッパについても、パリやベルリンから首都移転するという話がないとか、むしろ、ボンから最大都市ベルリンに移るという動きがあったともいうが、欧州統合のなかで、これまでの政府機能は、ブリュッセル(EU事務局)、ストラスブール(欧州議会)、ルクセンブルク(欧州裁判所)、フランクフルト(中央銀行)という、いずれも、ラテンとゲルマンという二大民族居住地の中間に位置する中都市に移っているのである。

いったん決めたことは変更できないと考えるべきでないという議論もあるが、それは確かだが、何年もかけて議論して、国会決議や議員立法まで行った長い積み重ねは、必要な敬意を払い緻密な検証をすることなく、薄っぺらい議論で安易に棄て去るべきものではあるまい。

現在の首都機能移転論は、1987年頃に私を含む何人かがそれぞれの立場で提言を行って始まったものだが、その基本的な考え方は、日本の歴史の中で、首都機能の移転ということが歴史的な大転換を行うことを成功させてきたという経験をも踏まえ、これからの数世紀における日本のかたちをどうするかという長期的な問題意識の上に打ち立てられたものであり、土建国家的な論理とはそもそも無縁のものである。

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財政再建や地方分権とリンク

とはいえ、社会経済の激しい変化があるなかで、具体的な進め方や内容については、その時々の状況を踏まえてより魅力的なものとするためのバージョンアップを必要としていることはいうまでもない。ここでは、新たな状況も踏まえて、そのための、提案をいくつか行いたい。

その第一は財政問題であるが、東京の官庁等跡地、さらには移転地の開発地域を売却、賃貸、信託などすることにより、採算性の高い事業とすることは容易である。国会等移転調査会の議論が行われた1990年代の前半には、財政問題への関心が薄かったために、効率的な事業の進め方について、十分に検討がされていない、あるいは、こうした事業で国が収益を上げることはよくないという考えが強かったが、経済状況が変わったのだから、それにふさわしいプランを必要としている。いまの政府は、経済の中心で物価が高く生活も派手な東京都心部にあることで、高コスト体質になっている。そこからの脱出は行政コストも下げ、クリーンな政治も実現するはずである。これから、より採算性を上げる検討を行い、むしろ積極的に財政赤字解消に役立つことを事業計画として示すべきである。

第二に、地方分権の抜本的な推進と組み合わせた議論をすべきである。世界史の大きな流れは、これまでの東京のように全国の他の地域に優越して君臨するのでなく、むしろ、分権国家の中での小さく中立的な首都像へ向かって流れており、首都機能移転と地方分権は当然に相乗効果をもたらすものである。しかし、より大きな成果を上げるために、市町村合併、道州制等も含めた抜本的な地方分権策を首都機能移転と同時に実現するための構想を提示すべきである。

第三には、東京と移転先だけでなく、日本の国土全体がどのように変わっていくかについての、ビジョンを出すべきである。とくに、交通網については、重大な変更が予想される。反対論のなかには、「どうせ、東京を経由していくことになり無駄なだけ」という声もある。もちろん、移転先によっても違ってくるが、少なくとも、ほとんどの道府県から東京を経由せずに往来できることが必要だろう。とくに、新しい発想である日本海国土軸や新太平洋国土軸をどう実現していくかも視野に入れるべきであろう。また、中国の朱鎔基首相からも期待されているリニア新幹線については、ぜひ、組み込むべきものであろう。幸い、石原都知事も熱心なリニア建設推進論者であるので、リニアを活用した「新首都圏」といったものを考えることが、議論の突破口になるのでないか。

三箇所の首都機能移転候補地のうちどこを選ぶかは、最終的には、国会における党議拘束を行わない投票で過半数をとったところにすればよいが、今回、選定された三地域は今後の世代にとってかけがえのない都市開発のための条件を備えたところであり、それぞれがなんらかの形で広義の首都機能を分担することが好ましい。たとえば、最高裁判所や公正取引委員会など広義の司法機能等をまとめたゾーンは国会や政府と同じところにあることは必然でない。それに、政策立案よりは事務処理的な業務が大きな割合を占める国税庁、社会保険庁、郵政省の郵便部門、各種統計部門などは、移転困難者対策のために当分の間、東京に残し、将来において、第二行政ゾーンを形成させることが望ましい。

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魅力的な移転後の東京像を示せ

さらに、これまで曖昧にされがちだった皇室の扱い、「首都」という言葉など名称の問題、それに東京を世界的な経済文化都市として再生させるために具体的なプランを示す必要がある。首都という言葉には世界に通用する普遍的な意味などなく各国でそのあり方もまちまちで、「広辞苑」や地理の教科書にある「政府所在地」という意味は、普遍的なものでない。たとえば、オランダの公式の首都は、王宮も国会も政府もないアムステルダムである。ただ、日本語の「首都」には東京の固有名詞という側面もあることもあり、引き続き東京を首都と呼べばよいだろう。

皇室については、いまでも御所は東京、京都と二箇所ある。それに加え、新国会所在地にもごく小規模な宿泊・休憩のための新しい御所を置き、そのうち東京のものを皇居と呼べばよい。国事行為については、明治時代に天皇が三か月京都に滞在されたときにも、毎日、鉄道で書類を運んで何の支障もなかったし、もう10年もすれば電子決裁になっているだろう。各種の儀典は、計画中の和風迎賓館の建設で機能が充実する京都も含めて、それぞれの特色を生かした分担を考えるべきである。即位礼や大嘗祭、それにもともと明治天皇の誕生日である文化の日の諸行事など京都で行うのにふさわしい。

現実の東京は、都心部における魅力的な生活・文化環境や良好なビジネス環境に欠け、郊外は乱開発によって防災上極めて危険な状態にある。関東大震災のような事態になったときに危険なのは下町だと考えているいる人が多いが、本当に危険なのは山の手住宅地である。関東大震災のときは、いまの新宿副都心ですら東京市内になっていなかったから、被害が余りなかったのだ。ある推計では、山の手四区(世田谷、中野、杉並、練馬)の死亡率や焼失率は都心三区の(千代田、中央、港)の100倍が予想されるという。

首都機能移転による土地の放出で、都心に住宅を増やすなどし、郊外住宅地の空間を増やすような抜本的再開発を行うことは、世界都市としての東京の機能向上と都民の安全のために不可欠であり、新政治首都建設以上に大きなビジネスチャンスでもある。いまの永田町・霞ヶ関は、シャンゼリゼのように華やかで祝祭的な文化・商業・住宅地にすればよい。また、政治・行政と経済が近くにいなければならないというが、ニューヨークでも、上海でも政府がないから元気なのではないか。

しかし、問題は、東京にとっても首都機能移転が魅力的であることを示す画を描くことである。国土庁でも、新しい国会都市についての意見を募集するだけでなく、残された東京をどうするかということについて、アイディアを募集するといい。

いずれにせよ、官のお膝元で庇護されるより自主独立の気概を持ったニューヨークのような活力ある世界的経済文化都市として生まれ変わった東京や、できることならオリンピックを経験して世界的な知名度を上げた関西なども含めて、世界最高速のリニア新幹線で結ばれ、全国、さらには世界最新鋭の情報システムでつながる新しい首都圏こそが日本経済復興の起爆剤となると確信する。

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