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「首都機能移転を社会変革の契機に」


寺島 実郎氏の写真寺島 実郎氏 (株)三井物産戦略研究所所長

1947年北海道生まれ。1973年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。同年三井物産株式会社に入社。調査部・業務部を経てブルッキングス研究所に出向。1991〜97年米国三井物産ワシントン事務所長。三井物産業務部総合情報室長を経て1999年より現職。

著書に「1900年への旅−あるいは道に迷わば年輪を見よ」、「団塊の世代わが責任と使命−戦後なるものの再建」「国家の論理と企業の論理−時代認識と未来構想を求めて」など。



新都市を付加価値創造のプラットフォームにする

私は平成9年までの10年間、アメリカの東海岸で仕事をしてきました。経済の中心であるニューヨークに4年、政治の中心であるワシントンで6年を過ごしてみて、日本も首都機能移転を積極的に進めるべきであると考えています。私が主張したいのは、公共投資のための大型プロジェクトとして単に首都機能を移すということでありません。21世紀にどうやって日本の付加価値を創出していくかを構想するプラットフォームとして、首都機能移転が非常に重要であるということです。

首都機能移転を価値創造型のプラットフォームとするために、5つの視点を挙げたいと思います。

第一は「環境保全型実験都市」です。二酸化炭素の排出やエネルギー利用効率などについて具体的な目標を掲げれば、日本がこれまで蓄積してきた技術に加え、世界の最先端の環境保全技術を結集するプラットホームをつくることができると思います。例えば、エネルギーの利用効率を東京の2倍にしよう、二酸化炭素の排出量を東京の2分の1にしよう、といった具体的な数値目標を設定することで、世界中の環境保全技術の研究開発に携わっている人や企業がこのプラットフォームにエネルギーを注入しようという大きなモチベーションを与えることができると思います。ゴミの処理からリサイクルまで組み入れた環境保全型の実験都市という筋道を一つ通せば、そこから生じる付加価値は大変大きなものになるのではないでしょうか。

二つ目の視点は「国際中核都市」という構想を付け加えることです。私が注目しているのは、スイスのジュネーブです。ジュネーブには国連欧州本部をはじめ15の国際機関が集中しており、年間約40万人もの国連関係者が訪れます。国連の機関は欧米に偏重していますから、国連アジア太平洋本部のようなものを構想して日本に誘致するとか、ODAのような日本が得意とする分野に関連する国際機関を新都市建設にリンクさせて誘致することができれば、国際中核都市としての表情を整えていくことができるのではないでしょうか。そうすることによって情報の集積力を高めることができれば、質の高い情報を持った人たちが世界中から自然と集まってくるようになります。私はこれを「ジュネーブ・モデル」と呼んでいますが、新都市もこのような場所にしていくことが重要だと思います。

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情報化時代の首都機能移転

第三のポイントは「住環境・情報環境整備の実験都市」として、新都市を創造的に建設するプロジェクトに挑戦すべきではないかということです。

日本は衣・食・住のうち、「衣」と「食」に関しては世界でもトップクラスの生活環境を享受していると思いますが、「住」については、まだまだ立ち遅れているといわざるをえません。首都機能移転を契機に住環境および情報環境の整備を本格的に展開すべきだと思います。現在の規格と発想で新都市に公務員住宅を多数建設しても住宅問題解決のステップにはなりません。1戸当たりのスペースを倍増し、設備も充実した未来住宅のモデルとなるような公務員住宅を建設すべきです。その一方で、東京に残された国家公務員住宅の跡地を再開発して同じように充実した公営住宅とし、一般市民に提供することで、21世紀の住環境を改善していく起爆剤としていけるのではないでしょうか。

情報環境の整備も不可欠です。現在、東京で情報関連の新規プロジェクトやニュービジネスを立ち上げようとしても、大変なコスト高になるために、立ち上げのスピードが非常に遅くなっているのです。日本をもう一度見渡して、情報のインフラ、情報のネットワークの基点になるようなインフラ整備を進めることが不可欠です。

ネットワークの時代にはネットワークが遮断された時のリスクも大変なものがありますから、二重、三重に分散したり、バックアップ体制を整備していかなければなりません。そのようなIT戦略を構想する際に、首都機能移転を基軸に考えていくことも日本の情報化のシナリオに非常に重要な要素だと思います。

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政治と経済が適切な距離を持った文化都市

4つ目の視点は「文化性重視の住民参加型都市」です。欧米では、官が旗を振って都市づくりをするのではなく、NPOやボランティアが参加する形で、いろいろなものをつくり上げていくことが多いと思います。例えば私がいましたワシントンのスミソニアン博物館群はボランティアによって支えられています。建物や展示物が立派であることが重要なのではなく、それを維持する仕組みにおいて、地域住民が主体的に参加して効率的に支えていることに意味があるのです。同時に、スミソニアン博物館群は9つの博物館と3つの美術館からなっており、全体でアメリカとは一体何なのかを理解し、アイデンティティーを高める装置になっているのです。人工的な都市は人間的な表情がないという批判をよく耳にしますが、そこはまさに工夫しだい、智恵の絞りどころだと思うのです。若い人たちの柔軟な発想を活かしていくことが重要だと思います。

5番目の視点は「政治と経済の適切な距離の実現」です。これまでの日本人の感覚からすれば、永田町、霞が関、丸の内が至近距離にあることが便利ということだったわけですけれども、それが政治と経済の過剰な依存体制を生み、公的規制社会をもたらす大きな要因になっています。ワシントンとニューヨークが約400km離れている効用として、経済人の自立を高め、政治と経済の知的緊張関係を生み出しているように、適切な政治と経済の距離が重要だと思います。また、新しい情報ネットワークの実験や交通体系の実験は、ワシントンとニューヨークをいかに効率的にコミュニケートするかというところから始まっています。物理的な距離は、経済人の自立を高めるだけでなく、新しいコミュニケーションのためのプロジェクトのきっかけにもなるのです。

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パラダイムを転換するグランドスケッチが求められている

以上、首都機能移転を付加価値創出型のプラットフォームとするための5つの視点を述べてきましたが、首都機能移転の論議は、まさしくパラダイム転換の議論なのです。東京に集積しているメリットをもっと評価すべきだという意見もありますが、東京は戦後高度成長の過程で、いびつに変容した都市になってしまったと、私は思います。

東京で働く多くの人が往復3時間近い通勤地獄に耐え、平均スペースでニューヨークの半分の住宅を入手するのに4倍の賃金を投入しなければならない人生を送っています。過密の弊害が大きいことを感じながらも、何もかもが東京に集中しているために、東京に住むしかないという現実を生きているのです。そのような状況を続けて、21世紀にふさわしい人間性豊かな柔らかい人生を実現することができるのでしょうか。私は、固定観念を脱皮して、パラダイムを転換すべき時期にきていると思います。

そしてこの問題でもう一つ重要なことはガバナンスが問われているのだということです。つまり指導力の問題です。関東大震災の後に、後藤新平が昭和通りをつくったことは有名ですが、意識調査をしてここに太い道路をつくった方がいいと合意されたからつくったのではありません。政治が国の将来に向けて、国民の幸福を考えてガバナンスを発揮すべき瞬間があるのです。パラダイムを変えようという問題意識と情熱を持って、リーダーシップを発揮するときに来ていると思います。

海外の友人から、日本には技術も人材もあるけれど、総合的な設計力がない、とよく指摘されます。私も大きなグランドスケッチが不可欠だと思います。21世紀の日本を創造するための大きな構想が求められている中で、首都機能移転を社会変革のてことして、いかに智恵や技術を注入していけるかが問われているのだと思います。

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