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「首都機能移転は21世紀の国家目標から考えるべき」


黒川 紀章氏の写真黒川 紀章氏 建築家、日本芸術院会員、日本景観学会会長、社会工学研究所名誉所長

1934年名古屋市生まれ。1957年京都大学建築学科卒業。1964年東京大学大学院博士課程修了。1981年米国建築家協会名誉会員。1986年英国王立建築家名誉会員。2000年カザフスタン共和国首相顧問。中国広州市政府顧問。国立民族学博物館、国立文楽劇場、日独センター(ベルリン)、クアラルンプール新国際空港(マレーシア)他多数設計。著書に「都市デザイン」「共生の思想」「新・共生の思想」など。



首都機能移転論議には国家目標が欠けている

今の首都機能移転論議の一番の問題点は、21世紀にどういう日本をつくっていくかという国家目標が欠けていることです。それがないために全総(全国総合開発計画)も全ての要素を網羅するだけのものになってしまっています。どの国でもそうですが、まず国家目標がしっかりと定まってはじめて具体的な政策が打ち出され、公共投資の優先順位が明らかになっていくのです。

私が主張したいことは、国家目標に沿って国土計画がどうあるべきかを考えていかなければいけないということです。首都機能移転は単発的にダムをつくることや高速道路をつくることとは違うのですから、21世紀の国土がどうあるべきかという議論と無関係に議論することはできないはずです。21世紀の国土をどうするかという明快なビジョンが不可欠なのです。

21世紀の国土のあり方を考えていく場合、世界がボーダーレス化していく中で、日本の国土が世界に対してどういう役割を果たしていくのかという視点がまず重要だと思います。今までの国土計画は、国内において何をすべきか、国内のそれぞれの地域の役割は何かということは明確になっていましたが、日本が中国に対して、韓国に対して、東南アジアに対して、世界に対してどういう役割を果たしていくのかという視点が弱かったように思います。それは世界の側から見ると日本の国家目標が見えないということでもあるのです。

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首都機能移転は単体のプロジェクトではない

私は14年前に「2025年の国土と東京」というレポートをつくり問題提起をしました。そしてその中で国際ハブ港湾と国際ハブ空港を至急整備する必要があること、首都が東京であり続けるならば首都圏第三空港が必要であること、大分から四国へ向けて伸びていく国土軸が必要であることを提言しました。なぜ14年前にそのような提言をしたかといえば、21世紀の日本の役割を考えるとアジアの中で研究のハブ、金融のハブ、物流のハブ、リゾートのハブなど、いろいろなハブが必要になると考えたからです。その少し前に2010年から2015年くらいの商用化をめざして東京とニューヨークを4時間程度で結ぶスーパーソニックの開発研究が進められていると聞いていました。開発実験が始まるということは、商用化されれば、それが飛んでくるということです。日本にはそういう情報が入ってこなかったようですが、それが現実化した時にどうなるかという研究がヨーロッパで真っ先に行われ、4,000メートルの滑走路を4本以上持つ国際ハブ空港がヨーロッパで2カ所、北米で2カ所、アジアには3カ所必要であるとされたのです。その頃から各国で議論が始まり、それでマレーシア、シンガポール、韓国、中国などがいっせいに準備を始めました。現在、その計画が実行されているのはマレーシア、中国、韓国です。日本は完全に遅れてしまっています。

日本が21世紀に向けてアジアのハブになろうという国家的なターゲットを持つのかどうかがまず重要で、もしアジアのハブの1つになろうとするのであれば、そのための政策を重点的に考えていかなければいけません。ではどこにつくるかということになると、これまでに投入した公共投資、国土軸、これからやろうとしている首都機能移転が全て関連してくるのです。首都機能移転だけを取り上げて議論しているのでは、21世紀に完全に取り残されてしまうと危惧しています。

21世紀に日本が生き残っていくためには、国際ハブ空港が必要で4,000メートルの滑走路が4本必要ですが、東京では難しいと思います。空港というのは滑走路をつくるだけでなく、空港都市をつくることでもあります。羽田にそれだけの面積はありません。そこで私が主張しているのが、関西空港と中部新空港を太平洋新国土軸でつなぐ方法です。今すぐ着手するには、これが唯一日本に残された方法だと思います。関西空港と中部新空港に4,000メートルの滑走路を2本ずつ用意し、リニアで結べば両空港間を30分程度で移動できます。これならロンドンの第1ターミナルから第3ターミナルに行って戻ってくるくらいの時間です。この発想にあるのは、伊勢湾口道路などまだ建設されてはいないものの多額の調査費を投入したものも含めて、今まで投下した公共事業を活かそうという視点です。これによって、現在は採算性の芳しくない瀬戸内海に架けた3本の橋も、回遊性をもたらすネットワークとして活用することができるようになります。

このように、21世紀に生き残るために、アジアでの役割を果たすために必要なインフラは何か、そのインフラを整備するために首都機能をどこに移転すべきかという発想から考えていくことが必要なのです。残念ながら今はそういう発想では検討されていないように思います。自然への影響はどこが少ないか、土地の取得はどこが可能性があるかという視点は、単体のプロジェクトをアセスメントする時と全く同じ発想です。こういう発想で国民全体の支持が得られるでしょうか。次の世代、次の次の世代のために、国土計画上われわれがやらなければいけないことは何なのか、というわかりやすいトータルな考え方を示す中で、だから首都機能が必要であり、だからここに移転するのです、という説明ができなければいけないと思います。

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21世紀の新しい産業を育てる視点が必要

21世紀の新しい産業をどのように育てていくかという視点も重要です。21世紀に有望な産業は、ロジスティックス、IT、エコ産業(バイオ産業)の3つです。

私は、今中国広州市政府の依頼を受けて、これからのロジスティックスがどうあるべきかという研究を進めていますが、マレーシアとシンガポールでも空港と港湾を整備して世界の物流拠点をつくろうという計画を進めています。そのためには、トラック、貨物、船、空港のロジスティックスを一元的に管理することが必要になります。これまで企業ごとに行っていた貨物の追跡システムを一元化し、それを一括して専門会社に任せるシステムも研究を進めています。また、中国では広州の空港と世界最大のコンテナ港を高速道路で結ぶ計画になっています。日本の高速道路の場合、空港と港湾を直結するルートは1つもありません。ロジスティックスが21世紀の日本を支える新しい産業であるとすれば、そのインフラとして、何が必要なのかを考えるのが当たり前です。ところが国土計画の中にはその計画が入っていないのですから、未来への発想が欠けているといわざるをえません。中国もインドもすごく先を見ています。アジアで日本が一番遅れているのです。

2つ目の成長産業はIT産業です。ITのインフラは光ファイバーですが、実際には有線のブロードバンド、地上波のブロードバンドデジタル、それに衛星を加えたハイブリッドがポイントです。その3つのインフラをどういうバックボーンでシステム化していくかという絵は全く描かれていないのが現状です。高速道路と同じように光ファイバーを敷くだけでは不十分で、トラフィックが重要なのです。高速道路を建設するだけではトラフィックを設計したことにはなりません。信号をつけたり、最高速度を決めたり、交通ルールを決めたり、インターチェンジをコントロールしたり、というマネジメントが入ってはじめてトラフィックになるのです。それが日本でどのように計画されようとしているか全くわかりません。日本全体としてIT産業が発展するようなバックボーンのシステムをどのように世界と結んで国土計画の中で構築していくかという発想がないからだと思います。

3つ目はバイオ、遺伝子、医薬、新農業、新林業、リサイクルなどを含めたエコ産業です。エコ産業のインフラはエコ・システム(生態系)とエコ・コリドー(生態回廊)で、21世紀に最も重要となるインフラです。生物の多様性を保持する唯一の方法は、それぞれ孤立したエコ・システムの間を移動できる通路をつくることで、私たちがエコ・コリドーと呼んでいるものです。県レベルで実験を提案しているのですが、21世紀にどのようなエコ・コリドーをつくるかということが国土計画にはありません。

1960年代から始まる工業化のインフラは大都市を結ぶ高速道路と新幹線でよかったのですが、21世紀の新しい産業は農業、林業、医薬と遺伝子産業になります。太平洋新国土軸には、海、山、水田、川のエコ・システムがあります。港湾と空港を結ぶこともできます。そのインフラは資本と労働力を集中する場所ではなく、全く新しい21世紀のインフラとして、アジアのために貢献する、日本の21世紀の産業のために貢献するインフラなのです。

航空官制システムがアメリカと同じようになれば、自家用小型機やコミューター機が日本でもアジアでも爆発的に増えると思います。ヨーロッパは陸続きですが、アジアは無数の島の集合体ですから、船と航空機がヨーロッパ以上に重要になります。そういう視野で3つのインフラを整備していく必要があります。そのことと首都機能移転はどう関係してくるのか。21世紀の地方都市を含めたネットワーク都市化のためのインフラをより有効にすすめるために首都機能の移転が役立つのではないか。それが日本の国土全体のためにいいのではないか、という考え方が成り立つのです。

ですからどこがいいかという前に、日本の国家目標をどうするのか、そのために日本の国土全体をどうするのかということがあって、そのシナリオの中で21世紀のインフラとうまく組み合わせられる場所に首都機能の移転先を決めましょうということになるのではないでしょうか。

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首都機能移転で東京を人の住む街にする

東京の再開発の視点で考えますと、東京にとって一番重要なことは人の住む街にするということです。多くの人が神奈川県や千葉県、埼玉県に住んで、そこに税金を納めている人が東京に通勤してくるのです。これは都市として好ましいことではありません。東京の中心部に人が住めるようにすることが必要で、そのために首都機能移転で空く公務員住宅や官庁関係の土地が使えるのです。その場所をどんどん一般の人のための公営住宅にしていくことは、東京都民にとっても喜ばしいことだと思います。

ただ、民間では採算が合いませんから、サラリーマンのための大福祉計画として国家がやるべきです。必要なことは赤字を出してもやるのが公共事業だと自信を持っていえなければいけないと思います。公共事業が国民のためにならないから反対されるのであって、国民が喜ぶもの、誰にでも効果がわかるものであれば理解してもらえるはずです。再開発のための種地を首都機能移転によって得ることができるのですから、首都機能ということにこだわらず、人が住みやすい街にかえていくきっかけにすべきだと思います。

その一方で、地方の活性化は、拠点都市への人口の集中を加速化させるしかないと思います。21世紀は再び都市化の時代です。ただしその都市化は大都市化ではなく、地方の拠点都市が大都市と同様に重要になるということです。残る地域は、田園風景を守る、生態系を守る、農業・林業を守る、といったことに貢献することが重要だと思います。現在私が関わっているカザフスタンの新首都は世界ではじめて農業を主産業にする首都になる予定です。日本が首都機能を移転した場合に、私の持っている新都市のイメージはこれに近いもので、遺伝子産業を牽引すると同時に生態系も守っていくという新しいタイプの農業都市です。また、エコ・コリドーをつくるためには海を守る必要がありますが、そのために森林を落葉樹に植え替えるプランも必要になってくるのです。

私がいいたいことは、首都機能移転ということにこれだけのことが関係してくるのです。ですから21世紀の国家目標を考えるところから首都機能移転を考えていくことが不可欠なのです。なるほどそういう方向をめざしているのかと国民が可能性を感じられるような、心が躍るような明日の日本のための首都機能移転にして欲しいと思います。

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