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まず構造改革を、そして首都機能移転を改めて考えたい」


奥谷 禮子氏の写真奥谷 禮子氏 (株)ザ・アール 代表取締役社長

甲南大学法学部を卒業後、日本航空(株)に入社。同社にて国際線客室乗務員として3年、その後VIPルームにて勤務。

1982年、職場の同僚女性と(株)ザ・アールを設立、代表取締役社長に就任。1986年(株)ウイルの代表取締役社長を兼任(1992年まで)。1986年(社)経済同友会初の女性会員の一人に選ばれる。(社)経済同友会幹事、内閣府総合規制改革会議委員、国土交通省交通政策審議会委員、厚生労働省労働政策審議会臨時委員(労働条件分科会会員)などを務める。

主な著書に、「最新版 日航スチュワーデス魅力の礼儀作法」「ポジティブになれる人ほど幸福に近づける」など。



大きなインパクト

私はひと頃、首都機能移転は賛成と言っていた。もちろんいくつかの条件を付けた上でのことだが、移転は人心一新に効果的だというのが賛成の中心的な理由だった。停滞し淀んでいる日本の政治や経済を革新するには、首都機能移転、中でも国会と官庁が地方に移るぐらいの大きなインパクトが必要だと考えたのである。

それだけの大がかりなことだから、国民多数のコンセンサスが要る。政治家も民間の我々も共同して気運を盛り上げて、国民全体が変化を受け入れる気構えができたところで移転を実行する。政治・経済がたとえ疲弊していようと、我々日本人はこれだけのことを為しうるのだということを諸外国に強くアピールすることができる。

阪神・淡路大震災以後、もし東京が壊滅状態になったら、政治機能だけでも余所に移しておくのが得策だとの意見が出され、私はそれにも賛成の立場である。しかし、危機管理の意識が官邸を含めて徹底されていない中で、器だけ移しても意味がなさそうだ、ということもおいおい分かってきた。今回のテロ対策特措法にしても、湾岸戦争以来、放っておいたものに手を付けたかたちである。

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不要不急の政策

しかし、この2、3年でかなり事情が変わってきた。とくに小泉内閣の成立が大きい。首都機能移転などの物理的な技を使わなくても、日本は変わりうる可能性が出てきたからである(その正否は未知数ではあるが)。

それに構造改革に関連して、経済がしばらくは下降線をたどる可能性が大きい。倒産、リストラ、失業率の上昇など目の前に危機が迫っているときに、不要不急の首都機能移転などにかまっていられるかという意見はよく分かる。それよりも政府の無駄を無くし、民間でやれることは民間に任せ、旧産業から新作業に人をシフトさせるために雇用のセーフティネットをどうにかしよう、転職先の新産業育成に力を傾注しよう、となるのは当然である。首都機能移転はますます旗色が悪くなってしまった。

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メリットとデメリット

首都機能移転にはいくつかのメリットがあると言われている。

1 地方分権の牽引役になる
2 人口集中緩和になる
3 経済波及効果がある
4 移転した跡地が売れる
5 地震対策になる
6 新首都のコンセプトが世界に発信される

それぞれ見ていくと、1については、基本的にはハードの問題ではなく、ソフトの問題だという指摘がある。地方には歳入に関する権限がほとんどなく、財源の不足分は、地方交付税や補助金であてがいがされる。そういう状態で地方に活力が戻るとは思えない。課税の自主権を地方自治体に委ねるべきである。

首都機能移転ばかりか道州制まで進めるべきだという意見もあるが、私はどうせやるならその方が、いろいろと面目一新でいいように思う。しかし、ことが大事だけに、現時点では難しい案であろう。

2はそれほどの効果を期待できないだろうと言われている。新首都の規模から言ってもそうだし、相変わらず東京に経済集中する姿は変わらないから、というわけである。もともと首都機能移転が政治的な課題として浮上してきたのは、人口過密でオフィスビルが高騰、入居が難しいという背景があったからである。

今や土地はさらに下がる気配を見せ、スプロールした人々が東京に戻りつつある現状である。よって2の理由はほとんど消えたと考えていいのではないだろうか。

3は投資額9兆円(公的負担と民間投資の合計)で経済効果25兆円とはじく研究機関もあった。これはあくまで予測であって、どういう都市を構想するかによっても、数字は違ってくると思われる。工事が進むほどに費用が膨大に膨らんでいくという公共工事の通弊を考えれば、こんな投資額ですまず、結局経済効果を相殺させてしまう危険性さえあるのではないだろうか。

4は2と関連した項目で、東京にはバブルの後遺症で虫食いのように遊休地が転がっている。そこに国の大きな土地が放出されれば、さらに民間の地価を押し下げることになるだろう。ただ、大きなまとまった土地に、何か斬新かつ経済合理性のある建築群ができれば、それはそれで意味のあることではあろう。

5はいまだに有効な意見である。ただし、地震対策は首都機能だけを考えるものではなく、都市の防災が基本にあるべきだという意見は尤もである。しかし、東京が壊滅した状態を考えれば、空恐ろしい。首都機能を移転しない場合でも、政治的な中枢機能だけはいつでも保持される必要がある。そのための方策は、常に用意されていなければならない。

6は「環境情報都市」のような、世界に先駆ける考えで小振りの都市を作ってみるというのは面白い。環境と共生する都市、それでいながらIT化が隅々まで施されたインターネットシティである。日本人の英知の詰まった都市を構想したいものである。

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後景のテーマ

先に書いたように、私は首都機能移転をきっかけにして、停滞感の強い日本を打破することを考えていた。遷都ほど大げさではないが、さまざまに波及効果のある話だろうと思っていた。それは基本的に変わるところではないが、何しろ政治的な風向きが変わったということがある。

日本が多少はましな国になればと、みんなが知恵を出し合っている時代である。まず制度を変えよう、手をつけようということで、躍起になっている。そういう意味では、首都機能移転は政治マターとしては、後景に下がってしまったと言わざるをえない。

あと10年もすれば、日本の姿も変わっているだろう。そのための努力をいま傾注するのに忙しい。時が来ればまた考えたいテーマだと思っている。

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