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「地方分権と小さな首都機能移転」


矢田 俊文氏の写真矢田 俊文氏  九州大学 教授

1964年東京大学教養学科卒業、71年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了・理学博士。

1979年法政大学経済学部教授、82年九州大学経済学部教授、1997年から2001年まで、九州大学副学長を務める。2000年より九州大学大学院経済学研究院教授。

経済地理学会会長、産業学会会長、国土審議会委員、福岡県総合計画審議会副会長。

最近の主な著書に、『現代経済地理学』(共編著、2000年)、『21世紀の国土構造と国土政策』(1999年)、『国土政策と地域政策』(1996年)など。


首都機能移転の是非とそのあり方について論ずるには、日本の国土構造の中での首都・東京圏の肥大化のメカニズムを明らかにするとともに、東京圏一極集中型の国土構造の再編の方向性のなかに首都機能の移転を位置づけることが求められる。

なぜ首都・東京圏は肥大化するのか

東京圏には、多様な機能が集積し、それらの機能が相互に関係しあって、他地域より有利な便益が発生し、この「集積の利益」を媒介として、さらに諸機能が集積する。こうした「雪だるま」的拡大機構が東京圏に存在している。

東京圏を特徴づけるのは、いうまでもなく、司法・立法・行政として集約される国家機能の中枢部という首都機能である(図の中央部)。これを核にして、巨大企業の本社群・地方本社企業の重要支社群・経団連や多数の経済団体・外国企業の日本支社群など「経済中枢機能」(図の左部)、国公私立大学群や研究所群・宗教や各種文化団体本部、新聞・雑誌・放送・広告宣伝・各種シンクタンクなど「科学・教育・文化・情報中枢機能」(図の右部)、各国大使館や各種国際団体など「国際機能」(図の上部)、さらに都道府県や市町村の連合組織・地方自治体の東京事務所など「地方団体の出先機能」(図の下部)など、多様な機能が集積している。

それぞれの機能を司る諸組織は、日々の活動のなかで絶えず機能特有の専門情報(specialized information, A. Pred ; City Systems in Advanced Economies, 1977)を生産・蓄積し、日本中だけでなく世界に展開している当該組織の工場やオフィス間を循環させている(組織内循環)。さらに、こうした専門情報の一部は組織外に流出し、企業の本社間、企業と経済団体間、経済団体と省庁間、省庁と政党間、企業と大学間、大学と省庁間で政策形成活動、行政指導、審議会・研究会活動、各種調査活動などを通じて首都圏の組織間に循環している(地域内循環)。さらに、地方出先機関や国際機関、マスコミやシンクタンクなどを通じて全国や世界に専門情報が循環していく。こうした専門情報循環は、マスコミなどの印刷物や放送媒体、コンピュータ・ネットワークによって循環することはもちろん、情報を保有するヒトそのもののface to faceによる情報伝達による部分が依然として大きい。こうした専門情報がface to face によってなされる限り、諸機能の空間的近接性と情報を保有するヒトの移動のための交通基盤の整備が不可欠となっている。

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「大木」を移植するための三つの改革

このように、首都・東京圏は、諸機能という大木がそびえたち、それぞれの根っこがからみあい、専門情報という栄養分をお互いの根から吸収しあう形で成立している。このからみあった根を切って、首都機能の核である「国家中枢機能」という大木だけを移植することは不可能である。結局、大木群を一体として移植するしかない。これはあまりにも大きなプロジェクトであり、それだけの投資をする意義はほとんどない。移植に成功したとしても50〜100年かけて移転先の新首都圏に新たな一極集中を再現するだけである。首都機能をスリムにしてこれを東京圏そのものから切り離し、東京圏の肥大化を大幅に改善するものでなければならない。それには大木間の「寄生」を解体することが不可欠である。

まず、「国家中枢機能」と「経済中枢機能」との関係では、「規制緩和」が鍵となる。許認可権・行政指導という形での経済団体や企業幹部の省庁への頻繁な出入り、政策形成過程での各種審議会や研究会での財界幹部と省庁幹部との密接な接触などを不可欠とするシステムの転換である。

また、「国家中枢機能」と「地方出先機能」や「科学・教育・文化機能」との関係でいえば、補助金をめぐる陳情行政の一掃が喫緊の課題となる。地方自治体は省庁や政治家への陳情のため強力な東京事務所をおき、年末には自治体幹部が大挙して上京する。権限や財源の大胆な国の支分局や都道府県への委譲などの地方分権の強化がこうした弊害を緩和できる。教育・宗教・文化など諸団体も補助金行政に強く縛られて、本部を首都圏におく。科学や文化への補助金を武器とした細かな介入の是正も軽視できない。

さらに、ガードの固い省庁や政治家の専門情報の収集をめぐるマスコミの取材合戦も「情報公開」の徹底によって、かなり緩和される。

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地方分権=道州制による国家機能の縮小と首都機能移転

こうした、「規制緩和」、「地方分権」、「情報公開」の三つの改革が首都機能をスリム化し、移植の前提条件を熟させることになる。とはいっても、こうした改革をどの程度実施すればこうした条件が整うか判断するメルクマールは明瞭ではない。適当な改革で、移転地の決定と土木・建築工事が始まる可能性は、日本の政治からみれば否定することはできない。首都機能をスリム化するとともに、首都圏一極集中型国土構造を是正する最良の方法は、「経済中枢機能」、「科学・教育・文化・情報機能」、「国際機能」、「地方出先機能」と「国家中枢機能」との融合を解体するだけでなく、道州制など地方分権の徹底による「国家中枢機能」そのものをスリム化することである。首都機能移転は、あくまでこうした道州制の実現による「地方分権」の徹底と一体のものでなくてはならない。それは、戦後確立した人材・権限・財源・情報の極端な国家集中、これと多様な機能の結合というソフトなシステムの改革なくしては、その空間的表現である首都圏一極集中構造はなくならない。

道州制による「国家中枢機能」の分権化、三大都市圏や地方ブロックなどの広域経済圏の「自立」と「連携」こそが、首都圏一極集中型国土構造から広域圏連合・地方分権型の国土構造への転換を実現する。これによりスリムとなった「国家中枢機能」を最新のIT機能で支え、かつ地震など災害に強い、新しい首都機能都市の構築が可能になる。また、それぞれの「道州制」の成長による多極分散型国土構造も確実なものとなる。首都機能の移転の是非や移転地の決定より、道州制を核とする新しい地方分権システム論議が先行することが必要であり、これとの関連で小さな首都機能の移転が位置づけられるべきであろう。

本稿は、「大木を移植するための『根回し』の条件」 keidanren第45巻 第5号1997年5月号(矢田俊文『21世紀の国土構造と国土政策』大明堂 1999年所収)を加筆・修正したものである。

図 首都の機構と「機能移転」

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