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「高まる政府の役割と社会資本整備の重要性」


紺谷 典子氏の写真紺谷 典子氏 (財)日本証券経済研究所 主任研究員

1944年生まれ。早稲田大学第一文学部史学科東洋史卒業。

1984年より、(財)日本証券経済研究所主任研究員。

国際基督教大学教養学部非常勤講師(財務管理論)、上智大学経済学部非常勤講師(資本市場論)、お茶の水女子大学生活科学部非常勤講師(生活と金融)などを歴任。

「女性投資家の会」代表幹事。



まず首都の役割を考えることが大切

首都機能移転は目的がはっきりしていないと思います。最初にこの話が出てきたのは、もう四半世紀ぐらい前でしょう。当初は首都移転、それが首都機能移転になって、だんだん小さな話になってきています。

当初は「東京の過密を解消するために必要」ということでしたが、東京の過密を解消する方法が、なぜ首都機能なのかという疑問がありました。最近の話では60万人の新都市をつくるということですが、首都圏は3,000万人以上いるのに、わずか60万人だけが引っ越したからといって東京の過密がなくなるのでしょうか。

今は「地方分権」「地方自治の時代」と言われていますが、首都と地方の関係、つまり首都機能自体の意味が非常にあいまいになっています。まず首都の機能とは何かを考えるべきでしょう。中央と地方の関係が流動的で、見直しの気運が高まっている今、首都機能移転を進めるというのはいったいどういう訳でしょう。行政機構自体の見直しが進んでおり、大宮に行政機関が移りましたが、余分な移動がふえて、首都圏の交通はむしろ過密になっているのではないでしょうか。そういう従来の検証もなしにどんどん首都機能移転が進められているのはおかしいですね。

「首都」あるいは「東京」とは何なのかをきちんと考えてほしい。都市には、いろいろなものが重なって混雑しているからこそ発揮される魅力、つまり「集積のメリット」というものがあります。人間と同様、首都にも歴史があり、歴史の重みを過小評価してはいけないと思います。諸外国の都市でも首都機能移転は失敗しているのではありませんか。ただ新しくきれいなだけの都市には、都市としての魅力はありません。東京あるいは首都の魅力とか価値をきちんと整理したうえで、首都機能移転を考えるべきだと思います。

「まず移転ありき」ではなく、なぜ移転するのかという目的が明示的にあって、その目的に即してどこがいいか議論されるべきではないでしょうか。首都を移転することによって中央集権的な行政の体質を変えるというのは非常に乱暴な意見だと思います。

東京は歴史的経緯もありますが、政治、経済、文化が全部集積している大都会です。「世界一の国際都市」と言ってもいい。首都圏全体で3,000万人以上の人口規模ですし、新宿、池袋、渋谷を初めいくつかのコアがある大都会なのです。こういう大都市圏は外国にはありません。

例えば、シンガポールのつまらなさは人工都市であることが原因となっています。東京のように路地があったり、近代ビルがあったり、そういうある意味でのカオスがあることが、都市のエネルギーになっているのですが、シンガポールにはそういうエネルギーが感じられないのです。したがって、東京は日本の大きな財産かもしれない。首都機能移転はそれを壊してしまうのではないかと危惧しています。

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いまこそ重要な政府の役割と社会資本整備

政府は「政府から民間へ」を重視していますが、実はいまこそ「政府の出番」だということを、認識していただきたい。

日本はある意味では社会主義的な国だった訳で、例えば金融機関はどこでも同じ金利、同じ手数料でやってきた。いわゆる護送船団方式です。それが、自由競争に向かおうとしています。政府や学者の多くは「競争によって駄目な金融機関は淘汰される」と言いますが、金融機関だって淘汰されたくないので逆に客の淘汰を始める訳です。そうすると、小口や、過疎地の客、零細業者などは切り捨てられる。つまり、市場メカニズムの弱肉強食、優勝劣敗の原理というのは、金融機関だけでなく利用者にも及ぶのです。自由競争を進めるなら、弱肉強食から振るい落とされる国民へのサービス補完という意味での政府の役割は高まるのです。そういうときに、むしろ小口、過疎地を大事にしてきた郵便局を民営化するのは、ニーズに逆行すると思います。

また、不況についても、「政府はやることはやった、あとは国民の努力」と言っています。しかし国民はすでに十分努力しています。努力しているからこそ景気が悪くなるのです。ご主人の収入が減れば奥さんは節約します。すると、デパートやスーパーの売り上げが落ちて、回り回ってご主人の会社の業績がまた悪化する。企業がリストラをすると失業者がふえ、その人たちはものを買えない。取引先企業からの仕入れを抑えると取引先企業の業績が悪化する。それが回り回ってまた自分の会社の業績悪化につながります。国民が努力すればするほど悪化するからデフレスパイラル、つまり螺旋的に悪化する悪循環になっている訳です。一人ひとりは正しいけれども、みんなが同じ行動をとった結果、かえって前より困ったことになる「合成の誤謬」が発生しています。しかし国民に「努力するな」という訳にはいきません。悪循環に歯止めをかける需要を創出できるのは財政支出です。今こそ政府の出番なのです。

なぜいま、産業廃棄物処理、土壌汚染対策、大地震対策などをやらないのですか。政府がやるべきことは山のようにあるのに、なぜ公共事業の大幅削減なのでしょう。こんなに金利が低く、地価が安く、失業者がまちにあふれている今こそ、公共事業、社会資本整備の絶好のチャンスだと私はこの6〜7年言い続けています。「無駄な公共事業がある」ということと、「公共事業は必要ない」ということとは一致しません。土地収用法にかかわる問題などを議論しないで、多くの有識者が「公共事業をやめろ」と言うのもとてもおかしなことだと思ってきました。政府が考えるべきことは「無駄な公共事業」をやめること、公共事業の選別です。

市場メカニズムで切り捨てられる人への手当てがこれから必要ということと、目先の景気は努力すればするほど悪化するという現状に歯どめをかけられるのは政府だけです。だから、今はむしろ公的な役割、政府の役割をよく考えるべき時なのです。そういう中から、政府の仕事、首都の役割が出てくるのではないでしょうか。公的役割さえ認識していない政府に、首都機能移転などはやってほしくないのです。

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国土の狭いことを活かす方法を考えるべき

公共事業の選別という観点では、首都機能移転は無駄な公共事業の最たるものではないでしょうか。費用は12兆円だけで済む訳がありません。ワシントンやキャンベラをお手本にしているのかもしれませんが、州の力の強い連邦国家と日本とは事情が違うと思います。連邦国家では、国の権限は限定されていますが、日本のような狭い国で隣の府県とまったく違う行政ができるでしょうか。日本には、確かに中央集権の悪弊はありますが、その良さも悪さもきちんと考えたうえで地方分権を行わなければなりません。
日本は国土が狭いですけれど、それは考えようによっては利点かも知れません。災い転じて福と成す方法はいくらでもあるでしょう。さらに技術革新を視野に入れてほしいと思います。情報ネットがあることによってロケーションの問題もだいぶ変わってきていますし、情報化の時代だからこそネットにのらない現場にいなくては入手できない情報の強みというのが大事になってきているのではないでしょうか。そういった意味で、東京は、政治・行政も経済も司法もすべて同じ場所にあり、それらの現場だからこそ魅力が高まっているのではないでしょうか。

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