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「東京の機能更新とポテンシャル向上に向けての議論を」


黒川 和美氏の写真黒川 和美氏 法政大学経済学部教授

1970年横浜国立大学経済学部卒業、76年慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、同年法政大学経済学部特別研究助手、77年助教授、85年より現職。92年〜93年ジョージメイスン大学公共選択研究所客員研究員。財務省財政制度等審議会委員、総務省情報通信審議会専門委員、東京国税局土地評価審議会委員などの公職を務める。

著書に『民優論』(PHP研究所)、『農村大革命』(PHP研究所)、『黒川和美の地域激論』(ぎょうせい)など多数。



さらなる機能更新で東京を魅力ある都市へ

東京は都市の機能を郊外に移す業務核都市への分散で、都心の機能を高めようとしてきました。最近のOD調査(起終点調査)では、都心から郊外へ放射状に走る横須賀線や高崎線の乗客は減る傾向にあるのに対して、都心の周りを走る横浜線や武蔵野線や南武線などは非常に増えていることがわかっています。また、東京都心の地下鉄の乗客数や、23区内の自動車の交通量は減ってきています。さらに、東京郊外を環状に走る圏央道という道路ができ上がれば、高速道路のネットワーク化で交通がスムーズになることにより、東京の都心機能は高まっていくでしょう。業務核都市への分散というこれまで国が一生懸命やってきた首都圏計画の一つが、だんだん成果を上げつつあることが、調査結果に表れているのではないかと思います。

また時代とともに東京の機能更新も着実に進んできました。大都市というのは、いつでも競争力のある人が真ん中に入ってきて仕事をしています。そのため、例えば昭和30年代から40年代の中ごろにかけては、都心にあった江東区とか芝浦の工場が、郊外の工業団地にうまく吸収されながら、そこがオフィスや住宅に変わって、大手町のオフィスに働きに行くように機能が更新されてきたのです。そういう意味では、大阪の道修町や船場などではなかなか構造転換ができないために、大阪は再開発を積極的に行うものの、基本的に機能が大きく変わることなく来ているわけです。

東京は今までは働くほうの魅力や機能的な面だけが考えられてきましたが、都市としてどんな魅力を持てるのかということから、東京が次にどんなことをすべきなのかを考えなければいけないでしょう。ウォーターフロントでは工場跡地などの空き地ができつつありますが、このような土地はブラウンフィールドといわれ、今は自然の浄化力で緑に返すことぐらいしか考えられていない状態です。現在のような財政状況では、そう簡単に大きな予算を使うことはできないけれども、このような土地をうまく活用する方法を考えるのは面白いことだと思います。

例えばドイツでは博覧会方式で、民間企業が次々に施設をつくって、博覧会終了後もその施設をそのまま、まちの基本的な施設として残すというまちづくりをしています。その中で一つ非常にユニークなのは、ドルトムントからエッセンまでの幅7キロ、長さ40キロのIBMエムシャーパークです。ここを流れるルール川やエムシャー川はとりわけ汚れていたのですが、それが本当にきれいになったり、大きな工場がそのままモニュメントになって公園がつくられているなど、この地域は世界中の人々人が話題にしているところです。

日本でもエムシャーパークのような形で開発できないかということや、新しくどういうことができるだろうかということなど、東京においてだれもが興味深く面白いと思うような環境をつくることを考える必要があるでしょう。

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まずは東京の国際化を進めるための工夫を

社会的な意思決定をする場が東京になければならないかというと、必ずしもそうではありませんが、現在のような経済状況のときに日本の経済を引っ張っていくためには、やはり東京が一段上のランクの活動をすることによって、世界の最先端の研究所を集めたり、国際化を急速に進めたりすることが必要だと思います。今は東京自体が世界の国際都市に負けているわけで、このままだとアジアにおける経済ブロックの中心がほかの都市に行ってしまいます。アジアの中で東京は非常に大きな役割を果たすべきなので、ファーイーストの中で国際的な拠点という地位から落ちないようにするためには、先端的な研究や国際的な機能を高めていくための工夫を、しばらくの期間やらないといけないのではないかと思っています。それと同時に新しい首都とはどのような姿が望ましいのかを考え、環境に配慮しながらその姿に近づけていくことが必要なのではないでしょうか。

これから国際都市のことを考えたら、外国人が入ってきても違和感なく住める生活環境づくりが不可欠です。週末のエンターテインメントも楽しめるように、ミュージカルもみんな日本語でやっていたのでは困ります。だから、日本人そのもの、東京人そのものが国際化するようにしないといけないでしょう。

日本は国際的に中立的な立場をとることができるので、それをうまく活用するべきだと思います。例えばサッカーでいうとトヨタカップがあります。中南米のクラブチームとヨーロッパのクラブチームが対戦し世界一を決める試合ですが、どちらの地域で試合を行っても、危なくてサッカーなどできないわけです。だから中立な日本でやる。しかも、そこで最高のものを見たいと思う観客が6万人集まれる。また、そこから世界に情報発信するために、プレスの人が大勢集まっても対応できるような設備をつくってきているのです。

また国際化において、当然のこととして韓国や中国との関係も必要だから、例えば韓国と日本と中国の一番強い4チームずつぐらいでアジアリーグというのをつくってリーグ戦をやるべきです。そうすれば、中国、韓国に応援に行く、向こうからも応援に来るという構造ができます。今回のワールドカップに関しては、東京は一言も口を出さなかったわけですが、そういう意味では、文化とか国際化に関してはやや譲っている傾向にあります。東京は率先して国際化を進める必要があり、そのための機能更新に向けては、今後いわゆるブラウンフィールドとなっているウォーターフロントのエリアを何にするかを考えることはやはり非常に重要なテーマになります。

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首都機能移転の議論は、日本全体のポテンシャルを上げることを念頭に

首都機能移転を考える場合、しばらくの間は東京の機能更新のほうにウエートが置かれるべきで、日本全体のポテンシャルを上げることを第一にすべきだと思います。それは何かというと、例えば国際化や研究開発など、日本を支える大きな要因となるもののレベルを思い切って上げることです。日本の大学や研究機関なども、もう少し高いレベルにしないと人も集まってくれないでしょう。恐らく大学や研究機関から変わっていくような、生産中心主義とは違う、新しい東京論が生まれてくるのではないかと思います。そうすれば東京にどのような機能が必要か、また機能更新のためにはどのような方法があるのかという議論になるのです。

機能更新の方法では、ドイツの博覧会方式のほかに、例えばイギリスのサッチャー首相がドックランド開発を行ったときのウインブルドン方式があります。ウインブルドンはセンターコートで、イギリス人のガーデニングの技術できれいに芝生を整備するけれども、そこで活躍するのはイギリス人ではない。つまりドックランドも、重厚長大型産業でブラウンフィールドだったところを産業構造転換するにあたって、イギリスは環境整備を行って、そこに多国籍企業が入ってくることにより経済が繁栄したのです。これによりロンドンはフランスから金融機能を完全にとってしまったと言われるぐらいになりました。

金融でいえば、今ニューヨークとロンドンが強くて、それにシンガポールがどれくらい肉薄できるかという話になっています。その他はシドニーも伸びています。シンガポールもシドニーも英語圏で、東京は英語が使えない圏だから、うまく英語圏の都市にフィットしていかないと、投資環境として金融の世界でも外れてしまいます。英語がもう当たり前になっているような環境、国際化している空間を東京の中につくらなければいけないでしょう。少なくとも東京の大学の先生が半分は外国人だとか、大学生の教育環境が完全に外国人と一緒になっているというぐらい、東京が国際化する必要があるというのが私の印象です。

また東京には先端的な研究開発の環境が不可欠だと多くの人が言っています。ここで言う研究開発環境というのは生命科学やバイオの分野を指しますが、世界中の研究者があそこに行ったら研究ができるという魅力的な環境をつくるべきだと思います。例えば、ゲノム医療で東京が国際都市になり、インターネットで世界中と一緒に共同研究を行う環境をつくることなどが考えられます。

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首都機能移転の問題は地方分権と一緒に考えるべき

今後徹底して地方分権を進めていくことにより、国会の機能は大幅に小さくなると思っています。また、中央と地方という関係が見直され、各地域の住民が自分でものを考えられる環境ができると、都道府県という機能も小さくなると思います。さらに地域間で競争するような環境になると、地域どおしの広域連携も進んでいくことが考えられます。国にはもう交付税を維持する能力もだんだんなくなってきたことを考えると、昨今の財政危機の影響で逆に地方分権は進展していくという感じがしています。

首都機能移転の問題は、この地方分権の話と一緒に考えなければいけません。霞ヶ関がどこかに移ったとき、地方分権の社会になったときの首都の姿がどのようになるかをもっと考える必要があるでしょう。そして首都機能を移転する先のまちづくりも、その地域の特性をいかしたものにする必要があります。

今、移転候補になっている地域でも一生懸命環境を守ろうとする運動が起こっているところがあります。そのような地域に首都機能を移転させる場合、地域のコンセプトを守ったまま、上手にまちづくりをすることが必要となりますが、環境を守るまちづくりのコンセプトに対し、民間企業がそれに対応できるのかどうか、環境のためにはお金を使うという心構えが日本人にあるのかどうか、ということなども課題となるでしょう。

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