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「環境にやさしい都市づくり」


中村 ひとし氏の写真中村 ひとし氏 環境自由大学(ブラジル・クリチバ市)、特別プロジェクトコーディネーター

1967年大阪府立大学農学部卒業、69年同大学院農学研究科修了。70年ブラジル・パラナ州コンテンダ市の農場に農業移民として入る。71年よりパラナ州クリチバ市役所に勤務し、パラナ州教育局・環境教育コーディネーター等を経て、89年クリチバ市環境局長に就任。都市緑化、リサイクル、スラム対策等に関する政策に取り組み、環境先進都市として国連環境計画賞を受賞。95年パラナ州環境局長に就任し、2001年より現職。

これまでの環境政策への取り組みが評価され、クリチバ市をはじめ、多数の市より名誉市民賞を受賞。


日本では、国会等の移転の議論がなされていると聞いています。私の住んでいるブラジルでも、リオデジャネイロからブラジリアに首都移転が行われました。新都市づくりには、環境面からの配慮が必要不可欠だと思います。ここに、「環境にやさしい都市づくり」にあたって、私の環境行政・環境教育への実際の経験をふまえて、それがお役に立つのならと思って、思いきって筆をとっております。
もう御存知かと思いますが、ブラジル国のクリチバ市は、世界でもすぐれた環境都市として評価されており、その都市づくりに私も全面的に参加し、発展途上国ブラジル、しかも経済的に非常に難しい状態にありながらも、"環境的に正しい都市開発は可能である"という実例を証した都市です。そこで、その経験を通して、私なりの環境にやさしい都市づくりへの意見を述べてみようと思います。

首都ブラジリアと環境都市クリチバ市の比較

ブラジル国の首都ブラジリアは、それこそ都市計画学の見本ともなる21世紀へ向けての新都市づくりで、当時の都市計画家たちの夢でした。私もちょうど大学時代で、ブラジリア建設の情報を未来への都市として憧れの感で受けていた記憶があります。そしてその後30年(1990年代)、そして現在も、この理想的新都市がどのような問題をかかえ、どのような都市になりつつあるのかを、同じ時代より少し遅れてですが、環境的に正しい都市計画を積極的に進めてきた、やはり同じ大きさ(人口)を持つパラナ州の州都クリチバ市(世界の環境都市のモデルとなっている)と比較しながら考察を進めていくことは、これからの新都市を考えていく場合、非常に参考になると思います。

さて、その違いはどこにあったのでしょうか。そのまず第1は、モータリゼーションに対するとらえ方の違いであると思います。ブラジリアのように新しく都市計画を考える場合、どうしても都市の機能のための計画になりがちで、その機能をうまく作用させるためには、このモータリゼーションが一番の要素になり、都市が車のために計画されてしまったのです。もちろんこの事は当然で、必要なことであり、都市計画からくる「用途地区」に従って行動するならば、住居から職場、商業地区、レクレーション地区と全ての人々がその移動にモータリゼーションを必要とし、車なしの生活は不可で、そのために、道路計画は最も重要なものとなりました。道路は緑に囲まれ、分離帯もあり非常に美しく、また渋滞が起こらないように道路幅も最低100m以上で(横断するのに大変)、いわゆるヒューマンスケールをはるかに越えてしまって、従来のみちという、人と人との出合いの場、コミュニケーションの場という観念がなくなり、毎日の生活の中での移動の手段の場となり、ますます車を多く使うようになる。要するに知らず知らず環境を悪くする原因になっているのです(排気ガス、騒音、そしてエネルギーの浪費など)。

一方クリチバ市では、ブラジリアとは全く逆の計画を進めていきました。即ち都心から車を追い出し、そこを自然の要素・緑を取り入れながら、いわゆる街の発生のもとである、多くの人と人との出合いの場としていったのです。また都心をダンゴ型に拡げていくのではなく、線状に延ばし、交通方向を中心に集中させず、線状に分散させ、しかも、主要交通計画と、用途地区計画をお互いに関連させながら立案し、出来るだけ市民の移動距離を少なくし、公共輸送システムを出来るだけ使うような計画に持っていきました。即ち、できるだけ自家用車を使わないような計画、しかも公共輸送の方がかえって便利で、快適であるようにし、さらにバス等のエネルギー源を植物油、あるいはアルコールとディーゼルを温合させ、エコ燃料として排気ガスによる大気汚染を少なくしています。さらに自動車交通の代わりになる自転車による計画も充実されており、市内では、延べ150km以上の自転車専用道路が建設されて、職場・学校・住宅を安全に自転車で通勤・通学が出来るようになっています。即ち、ブラジリアではモータリゼーションを第1の要素として考え、逆にクリチバ市は自動車をできるだけ使わない計画を施行したのです。

第2の違いは、都市が人間性の要素を持つか、或はヒューマンスケールのものであるか、ということだと思います。先に述べた様に、都市機能のためにつくられたブラジリアでは、どうしても人間としての個人的な生活が忘れられ、しかもヒューマンスケールからはずれたものになり、居心地が悪い都市生活になり、その証拠には、毎週木曜日の夕方から月曜にかけては、多くの人々は、ブラジリアは魅力のない街として、自分の出身地へ帰っていき、ブラジリアの人口がかなり減るともいわれます。人間的な生活・感動を主な目的にしたクリチバ市は、市民が自分たちの市を好み、誇りにまで思っています。

第3は、都市づくりが人と自然との調和を基本にしているか、ということだと思います。ブラジリアの場合は全てが人工的なもので、建築学的にはデザインもすばらしいものですが、何かいつも緊張を感じさせるもので、公園緑地、湖等々も人工的で、なにかなじめないところがあります。その反対に、クリチバ市では、河川はすべて自然のままで公園も河川に多く、できるだけ自然に調和したものとしています。放置された昔の石切り場も、その状態をうまく利用しながら公園としています。いわゆる放置された空間の再利用で、一見あまり価値のない土地でも(多くは、そのようなところは、開発が遅れており自然も残され、土地代も安い)工夫によっては、おもしろ味のある公園にもなる。即ち、自然にあるものに調和の心を向けると、おのずからその利用計画がうまれて、より自然なものとなり、和やかなものになるのです。故にその都市にいたくなるのです。

第4は、結局最後には、環境にやさしい市民づくりが行われているかということです。これが環境にやさしい都市づくりを大きく左右するのです。もちろん都市の施設や、ゴミ処理、下水処理等々は、環境的に正しい方法を行っていることは大事ですが、その中に生活する市民が環境に対する市民意識がない場合、環境はそれ以上良くならず、むしろ悪化することを待つだけのものになります。ブラジリアの場合、その首都という性格上、議員関係者、政府関係者等々の人々が多く、我々の街という意識がうすく、それに対しての何らかの対策もなかったので、市民意識もなく、「ブラジリアはいたくない都市」ということになっているようです。クリチバ市は、その反対で市民意識は非常に高く、アンケートによると市民の94%が自分の住んでいる街を愛するという結果を持ちます。それには様々なプログラムを作成し、多くの市民を直接に参加させるようにして、自分たちも市の運営に参加している、或は、新しいよりよい街づくりに参加しているという意識を実際の行動(action)を通して感じさせ、我々の街という思いをつくりあげています。学校でも、市民会でも、職場でも様々なプログラムが行なわれ、日常生活のなかで環境にやさしい街づくりに参加しているという意識を持ち、その結果、自分の好きなまちになっていくようです。

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日本の都市と環境問題

さて、日本の都市ではどうでしょう。私が思うには、一般市民の環境に対する意識は低く、日常生活のなかでは環境問題については、第三者的な立場で考えているように思われます。或は、環境問題というと即ち自然保護か公害問題というように捉えて、自分たちの日常生活にも環境に関する様々な要素があるとは思っていないようです。これの大きな原因のひとつは、日本のほとんどの市で行われているゴミの収集の仕方に問題があるのではないかと思われます。燃えるゴミ・燃えないゴミというように分けられており、これは全くゴミを処理する側に立っての仕方で、環境に配慮したものではありません。このように最も身近な問題で、全ての市民が関係するゴミ問題について、間違った意識をもたせたり、或は再生の理を教えなっかたり、あるいは処理場の問題として片付けようとすることで、環境にやさしい市民づくりの最もいいチャンスを失っているのではないかと思います。また学校内でも、環境教育を日常生活の中で育てていくことが大切で、その都市にあった問題を通して、身近なものとして捉えるようにすることが大切かと思います。現在の日本は、産業公害問題、ゴミ処理、下水処理等、様々な問題を技術的に解決してきており、一時期は死の川といわれたところまで魚がのぼってくるまでなっているようですが、市民意識はまだまだ低く、日常生活を通しての環境教育が大切な問題となると思います。

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環境にやさしい都市

ここで今まで述べてきたことをまとめて、私なりに、環境にやさしい都市とはどの様なものかをあげたいと思います。

  1. モータリゼーションについて非常によく検討する。(できるだけ使わないですむ様な都市計画と公共的大量輸送法を考える)
  2. 都市づくりには、日本文化の伝統的な手法がある。自然との調和を基本的な計画にする。→安らかな景観。環境に無理のない処理。
  3. その地区の歴史的文化を大切にする。
  4. 日常生活のスケール範囲をヒューマンスケール内におさめ、人間的な生活を営み、楽しむようにする。
  5. 日常生活のなかに環境問題に触れるような機会を持たせ、環境にやさしい市民づくりをする。(特にゴミ、緑、特産物等をとおして)
  6. 学校教育のなかに、その地域の自然・文化を含んだ環境教育を取り入れ、それを日常生活のなかで実際に参加できるように意識を高める。
  7. 市民の環境に対する意識を何かの実際の行動(action)を通して参加させ、意識改革させる。
  8. 市の施設は、全て環境的に正しいものを使い、そのことを職員・市民に認識させる。
  9. 最後に、市全体がリサイクルのシステムを持ち、また太陽・風等のエネルギー化を実践し、ゴミ・下水・工業ゴミ・排水等の再利用を行い、そのことについて市民にもしっかりした認識をもたせる。

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