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「廃央創域」を実現し、活力ある日本の創造を


藤田 昌久氏の写真藤田 昌久氏 京都大学経済研究所 教授

1966年京都大学工学部土木工学科卒業後、1972ペンシルバニア大学地域科学部Ph.D.取得。1973京都大学工学部交通土木工学科助教授、1976ペンシルバニア大学地域科学部および経済学部助教授、81年同大学準教授、86年同大学教授、95年京都大学経済研究所教授、99年京都大学経済研究所長を経て、現在に至る。都市・地域・国際経済学を専門とし、現在の研究課題は複雑系空間経済学。文部省科学官、応用地域学会・会長、日本経済学会常任理事等を歴任。

著書に『空間経済学:都市・地域・国際貿易の新しい分析』、『都市空間の経済学』、『Spatial Development Planning:A Dynamic Convex Programming Approach』など。



世界のイノベーション・センターを目指せ

どんどんボーダレス化が進み、国境の役割が低下していく現実の世界で、都市、地域、国際経済というような従来の細分化された学問では現実の世界は分析できなくなってきたため、地理的空間の都市・地域・国際というものを、もう一段高い立場から見た、統一した学問をつくろうと、1990年代のはじめから、新しい経済学「空間経済学」の構築に努力してきました。この「空間経済学」の視点から、日本経済の現状と課題、活性化のあり方についてみていきたいと思います。

経済成長を大きな雪だまづくりに例えるなら、肝心なのは最初の雪だまの核づくりです。戦後の日本においては、50年代の朝鮮戦争をきっかけとして日本の製造業の核が出来ました。その後は雪だまが急な坂を転がるように、まず繊維、さらには重厚長大型の産業、また三種の神器と言われたTV、冷蔵庫、洗濯機などの大量生産、大量消費の工業製品をどんどんつくり、世界中に輸出して、日本経済は急成長しました。その後、1970年代の前半のオイルショック、変動相場制への移行などで日本経済は最初の転換期を迎えますが、そのときは雪だまに勢いがありましたのでハイテク産業に切り替えることで停滞期を乗り切ることができ、1980年代にはアメリカに次ぐ経済大国に成長しました。しかし、1990年代にバブルがはじけ、その後、日本経済は長期停滞に陥っています。世界第二位の経済大国という雪だまが谷底にとどまった状態にあるわけです。どうして、長期停滞から脱出できないのでしょうか。

それは、重厚長大型の産業を中心とする高度成長期、さらにそれに引き続きハイテク産業を中心とする成長を通じて形成された戦後の日本の社会経済システムが現在の新たな潮流、つまり、80年代終わりごろから本格的に始まった情報革命ないしIT革命、及びそれによって加速化されてきている世界経済のグローバル化という新たな潮流にうまく対応し切れていないということです。

より具体的にいいますと、現在、中国の持つ量産型の製造業における圧倒的なコスト競争力、アメリカなどが圧倒的に持っているイノベーションの力、日本はこの中国とアメリカの間で身動きできない状態にあります。つまり、日本の今の社会経済システムは、IT革命とグローバリゼーション時代にはあまり向いていないということです。量産型製造業における賃金は、日本は中国の10倍ないし20倍ですので、コスト競争力では、同じものをつくっていては勝負になりません。かといって、イノベーション競争力ではアメリカにどんどん引き離されている感があります。では、一体どうすればいいのでしょうか。

現在の行き詰まりを脱し、日本が主要な先進国として再び発展していくためには、基本的な方向は一つしかないと思います。アメリカに負けないイノベーションの力、広い意味での知識創造の力を伸ばし、常に他の国に負けないような物を創造していくということです。

21世紀における日本の将来像として私が提案したいのは、米国・EU・中国などとすみ分けた世界的なイノベーションの場、つまり、知識創造の場になるということです。

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21世紀の鍵は「多様性」。東京一極集中を是正し、多様性ある国の創造を

そのための基本は「多様性」を持つということです。知識創造活動の場には創造力が問われます。均質な労働力の時代ではありません。地域も教育も多様性が求められます。人間・人材の多様性、企業の多様性、大学の多様性、都市・地域・文化の多様性、これを本当に推し進めなければいけません。これが今、東京を中心とした中央集権国家となっているために、多様性がますますしぼんでいっている。つまり、中央集権、東京一極集中が「多様性」を生み出す上で足かせになっているということです。

特に問題になるのは、中央集権国家で社会の多くの側面において自律性が失われていったということです。全国一律の義務教育、記憶中心の過酷な受験競争、これは本当に子供の創造力が、アメリカ人と比べて落ちています。また、中央集権による地方行政の従属化も問題です。本当に地域の持っている力を生かそうとするとき、かえって足かせになります。もう一つは、一極集中により東京が大きくなることはいいわけですが、東京の肥大化が起こって、これが多様性を減らしているということです。

どうして東京が大きくなって多様性が失われるかといいますと、一極集中によって人の流れが止まり、人間の多様性が減るからです。具体的にいいますと、短期的には、3,000万という大量の人間が集まりコミュニケーションが進展することで知識外部性が大きくなっていろいろなアイデアが生まれるわけですが、長期的には、長い期間たくさんの同じ人間が集まると共有知識が肥大化するため、かえって多様性が減少するという強い負の効果を及ぼすことになるわけです。

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「国会等の移転」等を通じて「廃央創域」を実現し、日本の活力を取り戻せ

このような「多様性」を取り戻すためには、現在の日本の社会システム全体を大胆に自己変革していくことが不可欠です。そのシステム改革の一環として、提案したいのが「廃央創域」、つまり今の東京中心のがんじがらめの中央集権国家の行政体制を大きく変えるために、中央の力を大きく減らし、多様性と自立性に富んだ元気な地域、新たな産業集積を全国につくろうということです。

そのようなシステムをつくるための一環として、「国会等の移転」を行うのは大変良いことだと思っています。今、国会において移転の規模を縮小する方向での議論もあると聞いていますが、中途半端はいけません。移転するのであれば、思いきった移転を行うべきだと思っています。

また、知識創造社会における最も中心的な資源は多様な人間・人材です。「三人よれば文殊の智慧」という諺があるように、多様性が重要であり、多様な人間・人材が集まることで、新たなイノベーションが発生します。そのためには、移民政策を見直し、様々な国から多様な人材を確保することも検討する必要があります。また、積極的な施策を通じて、中高齢者、身体障害者、女性のポテンシャルを最大限生かしてくことも大変重要だと思います。

こうしたシステム改革を通じて、多様性と自立性に富んだ元気な地域、新たな産業集積を全国につくり、これらを核として、地域が互いに競争しながら連携を保つことによって、また世界中、日本中で人材の流動化を通じて、世界をリードするイノベーションの力を育て、日本の再生を図っていくべきだと考えています。

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