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「ITを活用した首都機能移転の可能性」


坂村 健氏の写真坂村 健氏 東京大学大学院教授、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長

1951年東京生まれ。東京大学大学院情報学環教授。工学博士。

1984年からTRONプロジェクトのリーダーとして、新しいコンピュータ体系を構築。現在、TRONは携帯電話、デジタルカメラ、エンジン制御など世界でもっとも使われているOS。コンピュータを使った電気製品、家具、住宅、ビル、都市、ミュージアムなど広範なデザイン展開を行っている。IEEEフェロー。第33回市町村学術賞特別賞受賞。2001年武田賞受賞。



首都機能の「物理的分散」と「論理的統合」

IT化が進めば、東京と地方の格差はなくなるという人がいます。しかし、これは情報通信インフラの整備状況や通信コストの格差を無視した議論で、そうなっていないのが実情です。もし仮に、このような条件が東京と地方で同一になったとしても、都市機能が充足している都市にこそ人は集まるであろうことは想像に難くありません。IT化が進展したからといって、東京一極集中の是正には直接結びつくわけではないと考えたほうが自然だと思います。
では、東京に様々な機能が集中していることが望ましいのかというと、必ずしもそうではありません。首都機能や中枢機能を物理的に分散させることは、災害や戦争、治安上のリスクの分散を考えるときわめて重要です。インターネットのバックボーン設備や日本とアメリカを結んでいる通信回線も、東京大手町に集中しているなど、危機管理の面からいえば必ずしも安全と言いきれないのが現状ではないでしょうか。
このようなリスクは、機能を分散することである程度回避することができるかと思います。とはいえ、首都機能が物理的に分散するだけでは、意思決定の整合性や行政の効率性が損なわれかねません。首都機能の移転を考える際には、ITを駆使するなどして首都機能の分散がデメリットにならないような方策を考える必要があります。そこで、首都機能の「物理的分散」とITの活用によって組織を一つに統合し、効率的で整合性のある意思決定や行政を実現する「論理的統合」を並行して行うことによって、リスク分散と効率性の両立を図ることが求められるのではないでしょうか。

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「分散型」電子政府の支援研究の必要性

首都機能の分散を考えた場合、ネットワークのリダンダンシー(余裕)確保の観点から地上の回線だけでなく衛星通信を確保することや、首都機能が分散される新都市までのメガロポリタン・ネットワークを延長することなど、情報通信分野におけるインフラストラクチャー(基盤)の整備が必要になってきます。

しかし、物的なインフラの整備だけでは十分ではありません。ITの活用によって、首都機能が分散していることを感じさせないようにすること、いわば「統合」の仕組みを作ることが大切なのです。

特に、離れた場所にいながらも、コンピュータを使って一緒に仕事をするというような「分散協調作業」をどのように支援していくか、あるいは電子政府のセキュリティ・情報機密管理をどうするかといったことが非常に重要になります。そのためには、「分散型」電子政府とでもいうべきシステムの支援研究を今後行う必要があるのではないかと思います。

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首都機能移転のモデル事業を実施することで見えてくるもの

首都機能の移転をめぐる議論は、これまで様々な機関や団体が多様なシミュレーションを行ってきました。

もちろん、シミュレーションをすることは大いに有益なことではあります。しかし、いくらシミュレーション、試算をしても所詮は机上の話でしかありません。机上論だけにもとづいた政策決定は、とても危険なことだと思います。

旧来型の開発であれば、議論する人々もシミュレーションによってある程度具体的なイメージを抱くことができるので、共通の土俵で議論ができます。しかし、ITを活用した行政機構のような新しいものは、なかなか理解されず、誤解に基づいて議論が空転することも起こりかねません。その結果、言葉尻を捉えた瑣末な議論に終始しかねないのが実情です。

こうしたことを回避するために、首都機能移転のモデル事業をパイロットケースとして実施してはどうでしょうか。

分散によって離れた組織の間をどのくらいの人が行き来する必要があるのか、あるいはその間でやり取りする情報量はどのくらいか、そしてどのくらいの回線容量が必要かなどといったことは、実際にやってみないと分からないという部分もあります。そのため、実際の移転と同様の環境を小規模に構築して、モデル的にやってみるのです。モデル事業を実施すれば、ITが首都機能をどのようにサポートできるかが具体的に見えてきます。モデル事業を通して得られる、首都機能を移転したらどうなるのか、そういった現実的・具体的なイメージは、首都機能移転の議論をする上でも大切なことなのではないでしょうか。

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首都機能移転にものづくりの発想を

工学的なセンスで言わせていただけば、モノを作るときは「プロトタイピング」と「評価」を繰り返しながら、徐々に軌道修正して完成形を作りあげることが基本です。特に、人間がからんだりして単純に数値的な基準だけでは評価できないものは、このプロセスをどれだけ繰り返して、要求を集約していけるかが肝要です。

また、トップダウンで考えた場合、モノを作っている間に世の中が変化して要求や状況が変化したときに、その変化を反映したつくりがなかなかできない。例えば、10年かかる「ものづくり」をトップダウンでやった場合、完成したものは10年前の要求・前提に基づいた時代錯誤のモノとなってしまうことが多々あります。

このようなことは、首都機能移転を実施するにあたっても、十分に注意しなければいけないことはいうまでもありません。

そのためには、首都機能移転のパイロットケースをモデル事業として小規模に、短期決戦ですぐ実践することが求められます。例えば、省庁の一つの「局」とその関連法人だけを移転するといったパイロットケースでもいいでしょう。これにより、分散された行政機能をITによってどの程度までサポートできるのか、あるいは電子政府のセキュリティ・情報機密管理は問題ないかといったことが現実的、具体的なイメージをもって見えてきます。そして、このモデル事業をきちんと評価することで、首都機能移転の議論がより一層深まるのではないかと思います。

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