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「国費を使った事業に求められること」

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小柴 昌俊氏の写真小柴 昌俊氏 東京大学名誉教授

1926年愛知県生まれ。1951年東京大学理学部理学科卒業。1955年ロチェスター大学大学院修了。1958年東京大学助教授。1970年同大学教授。1974年東京大学高エネルギー物理学実験施設(現東京大学素粒子物理国際研究センター)長。1987年定年退官し、東京大学名誉教授。その後、東海大学教授を経て、現在、東京大学素粒子物理国際研究センター参与。日本学士院会員。

ノーベル物理学賞(2003)のほか、文化功労賞(1988)、日本学士院賞(1989)、文化勲章(1997)、Wolf賞(2000)など受賞多数。

著書に「ようこそニュートリノ天体物理学へ」(海鳴社,2002)、「ニュートリノ天体物理学入門」(講談社,2002)、「やれば、できる」(新潮社,2003)など。



政府がやるべきことと基礎科学

日本の政府は、これまでばかげたこともやりましたが、国家としてやるべきこと、その国の基礎科学をあるレベルで維持していこうということはやってきたと思います。

例えば、岐阜県の片田舎の神岡という町が今では世界のニュートリノ研究のメッカと言われています。今、神岡で行われている実験だけでも130人以上のアメリカの学者が参加しています。新聞にも先日載りましたが、新しい強力な加速器でニュートリノビームを送るということが実際に始まれば、ヨーロッパの学者数十名がさらに押し寄せてくることになります。日本政府がこのプロジェクトに使ったお金は、全部合わせても130億円ぐらいでしょうか。小さなお金ではないけれど、他の大きな計画に比べれば、全然小さい金額です。内容がまともであるかどうかということを学者が議論してもだめな段階で、金と政治の流れの中で動かされている計画もないわけではありませんから、神岡では生きたお金の使い方がされているように思います。

私はよく「国民の血税」と言うのですが、税金というのはやはり痛いです。それを集めて使うのですから、生きた形でお金は使われるべきだと思います。「国民の血税を使っている」という責任感のない使い方をすることには、私は本当に腹が立ちます。

そういうことから、私から見れば、日本の政府はときどきへんてこな間違いをするけれど、ぎりぎりのところでやるべきことはやってきたという感じがしています。

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実績を積み重ねることの重要性

私が最初にカミオカンデをやろうとしたときは、掘り賃が1億何千万円かで、装置の設備費が2億7000万円くらい、全部で4億円くらいだったでしょうか。それでも、加速器以外の素粒子実験に億単位のお金が出るということはそれまでなかったので、文部科学省のお役人を説得するのに随分一生懸命になった記憶があります。

その次に作ったスーパーカミオカンデには、100億円かかっています。はじめは、日本の政府だけではスーパーカミオカンデのお金を出し切れないと思いましたので、「世界中の学者が集まって作らないか」と国際学会で提案したのですが、誰も乗ってきませんでした。ところが、最初に作ったカミオカンデでの実験で、非常に幸運に恵まれた結果を出せました。超新星ニュートリノをつかまえましたし、太陽ニュートリノもきちんとつかまえました。さらには、ニュートリノには質量があって、移り変わっているということも発見しました。それで世界が騒いだものですから、文部科学省が評価をしてくれて、日本だけで100億円のスーパーカミオカンデを作ることになったわけです。

最初のカミオカンデのときには、全く新しいことをやろうとしていたわけですから、何も実績がありませんでした。ですから、「この計画を応援するべきか、つぶすべきか」ということは、結局、やろうとしている責任者がこれまでどういう実績を積んできたかで判断するしかないわけです。はっきりと聞いたわけではありませんが、カミオカンデの場合には、私が国際共同研究で電子・陽電子衝突の素粒子実験を何年間かにわたってやっていたという実績が考慮されたのだと思います。スーパーカミオカンデの場合は、カミオカンデでの実績がものをいって、実現できたのだと理解しています。

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学生たちに必ず言ってきたこと

私が現役で学生を採っていた頃、入ってきた新しい学生たちに毎年必ず言っていたことが二つあります。

一つは、「国民の血税を使って、自分たちの夢を見させてもらっていることを忘れてはいけない。だから、研究費を無駄遣いするなんてとんでもないことだ。業者の言い値でモノを買ってはならん」ということです。まず、大学院生が値引き交渉をするのですが、慣れていませんのでそんなにまけさせられません。すると、次に助手が出ていって、もう少し値引きします。その次には助教授が出ていって、もう少し引かせます。そして、最後に私が出ていって、がくんとまけさせるわけです。

例えば、カミオカンデのときは、浜松ホトニクスと共同で大きな球(光電子増倍管)を開発したのですが、社長はしばらくの間「小柴先生のおかげで、うちの会社は3億円の赤字を出した」と言っていました。もちろん、きちんと原価計算した上でそれに少し上乗せして「これだけ払う」と言った訳ですから、それはちょっと大げさで、それほど赤字は出させていません。

やはり「国民の血税」である以上、それを与えられた者は、生きた使い方をしなければならないという責任があるということです。

もう一つ言ったのは、「研究者としてこれからやっていこうというのだったら、今はできないけれど、いずれは何とか解決したいと思うような、"研究の卵"を三つか四つ、抱いておけよ。それを時々取り出して、かえせるかどうかをチェックするようにしなさい」ということです。

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日本の将来を考える

日本の将来のことについては、正直にいってあまり期待できないところもあると思っています。一番の理由は何かというと、日本の若い人たちが子供を産まなくなってしまったということにあります。日本の決定的な弱点です。このままでは、日本民族が滅びてしまうわけです。ですから、私は若い男女を見ると、「結婚しなさい。早く子供を作りなさい。」と言っているのですが、これは本当にシリアスな問題だと思います。人口問題がこのようになってしまうと、他の問題はもうどうしようもないということになってしまいます。ただ、その点は致命的なのですが、それ以外のことであれば、日本の将来はそんなに暗くないのではないかと思っています。

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東京の無駄をなくす方法

私がまだノーベル賞をもらう前の話ですが、都知事と首相に手紙を出したことがあります。その手紙にどういうことを書いたかというと、一つは、世界中で日本の主要都市ほど飛行場へのアクセスが悪いところはないということです。これは非常に無駄なことです。トンネルを掘る技術は、日本が世界一です。その技術を使って、例えば成田から東京、新宿、羽田を地下の高速鉄道で結べば、それぞれ30分で結べるはずです。これは、国費を使っても構わない事業だと思います。そういうことこそ、まず考えるべきではないでしょうか。

もう一つは、東京のように地価の高いところで、「無駄な使い方をしている」と一目見ただけでわかる場所があるということです。それは、鉄道の用地です。東京の中央線や山手線、私鉄などを含めて、あのような高い土地を手にしていながら、1階分しか使っていない。2階建てにもしていません。これほどもったいない話はありません。その敷地の上に、例えば20階建ての住宅及びオフィスを作っていけば良いと私は書いたわけです。それこそ職住接近で大変便利な住宅ですから、欲しいという人はたくさんいると思います。そういう人たちから前受け金をとれば、予算がなくても作っていけるはずです。

また、私の家の近くに環状8号線が通っているのですが、いつでも込んでいます。数年前に環状8号線から中央道への上り口を高井戸に作るという話があったのですが、不思議なことに地域住民の反対があってできませんでした。それで大型トラックなどが下の道をグルグル走り回ることになって、公害が多くなってしまっているわけです。地域住民のエゴで反対したわけですが、結局、自分たちが損しているのです。

私に言わせれば、環状8号線はあれだけの幅と距離をとにかく取得できたのですから、なぜあの上に2階建ての高速道路を作って東名、中央、関越全部をつないでしまわないのかということです。やるべきことの順序を少し変える必要があるのではないでしょうか。

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科学的認識による首都機能移転

「首都機能が東京に集中してしまっている。だから、国民の意識の面でも具合の悪い点がある」という議論については、色々な人が色々なことを言っていると思います。しかし、具体的にどういうところで国民の意識が具合悪くなってきているのかということを、はっきり示せる人はいないと思います。私には、結局、議論が実験や実際の観察を離れて、頭の中だけで先走りしてしまっているという感じがするのです。そういう人たちにしても、例えば首都機能を三つに分散したら、国民の意識が具体的にどう変わるのかということはわからないと思います。私に言わせれば、そんなことは誰にも分かりはしないのです。

科学的な認識というのは、頭の中で考えたことだけではなく、実際に観測したり、実験するということで、初めて本当か嘘かチェックできるわけです。しかし、首都機能を三つに分散したときにどうなるかについては、やってみなければ分かりません。観測ができるわけではないのです。ですから、こういう問題は難しいのだと思います。

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トライ・アンド・エラーでは難しい首都機能移転

アメリカでワシントンとニューヨークに機能が分散しているというのは、要するに歴史的にそうなったということです。政治と経済のセンターが別々になっているということで、不都合なこともあったのだと思います。しかし、200年以上そうしてきて、「離れていても、このようにやればいいんだ」というやり方が育ってきたのではないでしょうか。今、例えば大阪に経済機能をいきなり全部移してしまったら、大混乱になるでしょう。そういうことは、一度に全てを変えたところでうまくいくはずがないのです。やはり、トライ・アンド・エラーで、時間をかけてやっていく体制をつくっていかなければならないのだろうと思います。

しかし、トライ・アンド・エラーで首都機能の移転ということの見当をつけることは、難しいのではないかと思います。というのは、こういうことの影響はサイズ・エフェクトといいますか、細かいことを少しやっただけでは影響が出てきません。ある程度の大きさのことをやってみて、初めてその影響がわかってくる。それが具合の悪い影響だったとしても、大きなことをやってしまった場合は、それをどうやって戻すかという問題が出てきます。ですから、本当に難しいことだと思います。

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無駄のない分散による首都機能移転を

首都機能移転については、東京への集中化が極限のようになっていることからすれば結構な話だとは思います。しかし、巨額の国費を新たに使わずにやろうとすれば、鉄道による高速のコネクションがないといけないように思います。機能を移転したために、効率ががくんと下がってしまったということでは困るわけです。ですから、東京の近隣に機能を移転して、地下の高速鉄道網のようなもので各拠点と少なくとも30分ぐらいで結べるように分散させると良いように思います。これなら、国民の税金をそんなに無駄遣いせずにできるのではないかと思います。お互いの連絡のために、時間も労力も大変な無駄をするというのは、やめたほうがいいと思います。

使うお金の額は比較的少なく、分散させる場所としても高速機関でコミュートできるネットワークのような拠点に機能を分散させていく。それなら、効率を落とさないで済むでしょうし、移転した場所の繁栄の刺激策にもなるのではないでしようか。

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