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子供や地方から考える本来の日本の姿

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アグネス チャン氏の写真アグネス チャン氏 歌手・エッセイスト・教育学博士

香港生れ。1972年「ひなげしの花」で日本デビュー。一躍アグネス・ブームをおこす。

上智大学国際学部を経て、カナダのトロント大学(社会児童心理学)を卒業。1984年に国際青年年記念平和論文で特別賞を受賞。1985年北京チャリティーコンサートの後、エチオピアの飢餓地帯を取材。その後、芸能活動のみでなく、ボランティア活動、文化活動にも積極的に参加する。1989年米国スタンフォード大学博士課程に留学。1994年教育学博士号(ph.D)を所得。1998年日本ユニセフ協会大使に就任。2000年に歌手活動を本格的に再開した。現在は芸能活動ばかりでなく、目白大学や共栄大学で客員教授を務めるほか、エッセイスト、コメンテーターとしても幅広く活躍している。

著書には『みんな未来に生きるひと』(旬報社)、『みんな地球に生きるひと』(岩波書店)、「パーフェクト・カップル」(幻冬舎)、『この道は丘へと続く』(共同通信社)、『私が愛する日本』(かもがわ出版)など多数。



「王様」のいる国

首都機能を移転するということについては、正直にいうと、今まであまり真剣に考えたことがありませんでした。多分、一般の多くの人たちも同じではないでしょうか。ある意味では、それが問題の大きな核になっていると思います。

例えば、アメリカやカナダのような大きい国では、ニューヨークとワシントン、トロントとオタワというように経済の中心と首都が分かれています。中国も同様で、上海と北京に分かれています。しかし、中国では首都が上海に近くなければならないとはだれも考えません。

日本はどうして東京にこだわっているのかと考えてみたら、イギリスやタイと同じなのかなと思いました。やはり、「王様」のいる国というのは違うんですね。王様のそばにいたいという気持ちが強いのかもしれないと思います。トップに立つ人間、象徴的な人間と同じ場所にいたほうが、みんな夜ゆっくり眠れるというような国民の気持ちがあるのかも知れませんね。

どうしてみんな首都機能移転の問題に関心がないのかというと、日本は「王様」(天皇)のいる国ということで、感情的にも一緒にいたいということがとても大きいように思うのです。自分ではわからないとしても、総理と天皇が一緒にいたほうがみんな安心する。そういうところで、いろいろな所から人が集まってできたような国とはちょっと違うし、革命があった国とも違うのかなと思います。例えば、中国には王様がいませんから、首都が分かれても何とも思いません。アメリカもそうです。大統領は4年間でどんどんかわっていきます。「働けるのであればどこでもいいじゃない」という感覚があるように思うのです。アメリカでは、みんな首都が中心だとは思っていません。ワシントンは田舎だと思っています。ですから、遊びに行きたいと思うのも、まったく別のところになっています。もちろん、ワシントンに愛着はあるのだけれど、そこは歴史をつくっているところで、経済をつくっているところは別という感覚があるように思います。

もちろん、「王様」と一緒にいるということには、よい点も悪い点もあると思います。よいところも確かにあるし、いろいろと分散した方が地方にとってはありがたいということもある。かといって、東京は簡単に「しょんぼり」するような都市ではないですから、首都機能を移転してもあまり影響はないと思います。首都機能を移転するという問題は、本当に国民の議論を重ねて、決めていけばいいのではないでしょうか。

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「本来の日本の姿」を思い出すきっかけ

首都機能移転の問題で環境や子どものことを考えてみると、例えば東京から車が減ったりすることによって、環境が少しよくなるかもしれません。しかし、首都機能を移転した先の環境が悪くなるということもあります。首都機能を移転してどのくらい東京のトラックが減るかといえば、ほんのちょっとかなという気もします。別のところで増えていくということもあると思います。ですから、環境への影響というのは、考えにくい部分があるかもしれません。

ただ、文化的な面、あるいは政治家の精神的な面で考えれば、すべてが東京に集中してしまうと、政治がお金や経済の奴隷になってしまうと思います。山が見えて川も清らかな地方に行けば、政治家たちが「これが本来の日本の姿だったんだ」ということを思い出すチャンスが増えるのではないでしょうか。

私は仕事で旅をすることがとても多いのですが、東京を離れた途端にストレスが減るような気がします。人間の表情も変わってきます。日本にはまだたくさんいいところが残っていて、本当に愛すべきものがたくさんあるのです。東京の価値観だけにこだわってしまっては行き詰まってしまうこともある。本来、一番大事なものは何なのかということは、田舎に行って、田んぼの仕事や孫の世話に一生をささげているおばあちゃんの笑顔を見たらわかるような気がします。

ずっと東京にいると、独特の雰囲気があって、庶民の気持ちがわかりにくくなってしまいます。しかも、政治家や官僚はずっと同じ環境の中で生活していて、永田町という渦巻きの中から抜けられない。精神的、心理的な価値観に多少の変化が起きたら、環境に対する気持ちも変わってくるように思います。そして、地方に住む人間の気持ち、田んぼを抱えて一生懸命働いているお年寄りの気持ち、都心に出なければ夢も何も見られない若者の気持ちもわかるようになるのではないでしょうか。もちろん、議員さんたちにも地元があるからわかるのでしょうが、今の決まり切った永田町の雰囲気から少し抜けだせるということが、首都機能移転の利点の一つになるのではないかと思います。

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子どもが足りないということ

日本の子供の問題でいま一番大きいのは、少子化。子どもが足りないということだと思います。今の子供はある意味でかわいそうです。親の期待を全部背負ってしまっているんですね。みんながオリンピック選手のような感じで、金メダルを取らなければならないという状況になっています。親が期待をかけているつもりはなくても、子供はすごいプレッシャーを感じてしまうのです。地方でも少子化は深刻です。ですから、本当に子供の環境を整えるためには、仲間を増やすということが必要だと思います。

でも、都市圏にいると、そのことが見えません。役人にもなかなかそのことが見えていません。どうしてみんな不安なのでしょうか。保育園を増やせば不安でなくなるかといえば、そんな簡単なことなら女性はもっと子どもを産んでいると思います。これは、女性が怠けているから産まないということではないのです。無意識の中に不安が積み重ねられて、もう金縛りのような状態になっているのです。人を愛することに対しても、男性を信じることに対しても、国や将来や自分の能力に対しても、すっかり自信をなくしてしまっているのではないでしょうか。そういうアンバランスな心理状態に追い込まれているということがあると思います。東京や都市圏で見ているだけでは、「仕事と子育ての両立ができないから、みんな不安なんだ」と思うでしょう。でも、それだけではないのです。

子育ての環境がそろっていても、どうして産まないのだろうというような地域もあります。そこをよく考えてみれば、一番の核となる問題が見えてくるのかなと思います。それが見えれば、ゆくゆくは子供たちのためになるのではないでしょうか。

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首都機能移転を試す価値とは

今、世界的にも、都市と地方の格差が大きな問題になっています。日本も同じで、人口のだいたい4分の1が東京圏に集中しています。東京に行かなければ出世もできないし、何もできないというような感覚が現実的にあると思います。親にしても、子供が少しでも勉強ができれば、貯金をはたいてでも東京の大学に入れようとします。そして、親が事業をしていたり、跡取りだということでなければ、そのまま東京に残ってしまいます。

それが首都機能を移転することで改善できるどうかはわかりませんが、地方にもう少しチャンスが生まれてくれば、地方にとどまることもできますし、若者の夢ももう少し広がってくるのではないかと思います。

今は、すべてが東京中心になっています。メディアもそうですし、官僚や政治家もそうです。文化人やオピニオンリーダーもみんな東京にいますから、本当の「日本」が見えていないのです。かといって、外国にばかり向いていても、解決できない問題がたくさん出てきています。特に、いつも例に出されるアメリカというのは、それこそ行き詰まっています。

それならば、とりあえず日本という国の引き出しをすべて引き出してみるためのいいチャンスになるのであれば、首都機能を分散しても構わないと思います。もちろん、私もそれだけで人口のばらつきが改善されるとは思いません。首都機能が移転して東京から人が減るといってもそんなに変わらない気がします。経済もそれほど変わらないでしょう。しかし、雰囲気は変わると思います。最も変わるのは、要するに人間の心理の面だと私は思います。

長い目で見れば、首都機能移転を試す価値はあると思います。お金がかかるということもありますが、日本の心理的な部分、精神的な部分を立て直すために、首都機能を東京の外に出してみるということは、利点もあると思います。

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あきらめずにもっと議論を

今は東京に住んでいることに優越感のようなものがありますが、それは首都機能が移転しても変わらない気がします。「周りはすべてが田舎で、自分が一番」という東京の人の意識は変わらないし、周りからの見方も変わらないのではないでしょうか。

ニューヨークでもそうですし、トロントでもそうです。上海に住んでいる人にとっても北京は田舎ですから、中国でも一緒です。そういう優越感は歴史の中でつくられてきているものだと思います。トロントやニューヨークはせいぜい100年、200年の都市なので、本当は長い歴史もないのですが、それでもみんな「自分が一番」と思うようです。上海にしても、文革の中であんなに「しょんぼり」になっても、今に見てろということで最も発展した街になっています。東京もきっとそうではないかと思います。

それなら、思い切って沖縄にまで首都機能を移転させてしまったらどうでしょうか。気持ちは、すっきりすると思います。気候はいいし、ビールはおいしいし、政治家の先生たちもみんな前向きになるのではないでしょうか。ただ、ちょっと遠いですし、台風になったら帰ってこられなくなりますから、現実的でないかもしれません。

私たちも仕事で移動するとき、陸路ですんなり行けないととても心配になります。いろいろ考えてみてようやくわかったのですが、東京からすんなり通えないとどうして心配なのかというと、やはり東京に「王様」、天皇がいるからだと思います。少なくとも、中国で上海の近くにいなければならないとは、だれも考えません。

今の若い人たちの天皇に対する気持ちは、昔のような気持ちと違うけれど、それでも遠く離れていてはいけないという感覚があるのではないでしょうか。私もいろいろな国のことを一生懸命考えてみて、初めて気づきました。

それなら、あまり遠くに行かないで、千葉や埼玉あたりにすればみんなに抵抗がないのではと思います。千葉の山のほうには土地がまだいっぱいありますし、おそらく国民もある意味で「東京」という感覚があるのではないでしょうか。天皇が近いことも大きいと思います。本当に移転したいということで考えるのであれば、東京から徐々に広がりつつ、気づいてみれば新しい建物が建っていましたというほうが現実的ではないでしょうか。

もちろん、今の日本には、首都機能移転の前に国が取り組まなければならない急務もあると思います。そう思っている人も多いと思います。かといって、首都機能の移転は1日で決められる問題ではないですから、あきらめずにもっと議論を活発化させていくということが大切なのではないでしょうか。

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