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首都機能のバックアップとセキュリティ

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小出 治氏の写真小出 治氏 東京大学 教授

1949年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院情報工学専攻修了。工学博士。1978年東京大学工学部都市工学科助手、同大学助教授、同大学先端科学技術研究センター助教授、MIT客員研究員を経て、1990年より東京大学工学部都市工学科教授に。

主な著書(共著)に『大地震に遭った子どもたち』(日本放送出版協会)、『犯罪のない街づくり』(東洋経済新報社)、『デザインは犯罪を防ぐ』(都市防犯研究センター)など。



バックアップ機能の必要性

国会等の移転の候補地が3つに絞られたとき、地震の発生源としての危険性の議論がありましたが、これは今ではそれほど重要でないということになってきているような気がします。むしろ、首都機能全体を移転することではなく、副次的なバックアップ機能を持つものをどのようにつくるかということが重要になってきているのだろうと思います。

震災のとき、地方都市の機能であれば国内的な対応ができるのですが、国の中枢ということを考えると機能停止するということはあり得ません。対世界的な意味でいうと、いざというときに国の中枢の対応ができなければ意味がありません。バックアップと同じようなことかもしれませんが、対世界ということでいえば、首都−東京の復興と同時に、ある程度に日常的な首都機能を継続的に発信していかなければいけないという役割を、どこかが担わなければならないのだろうと思います。それは、単なるオペレーションという意味ではなく、経済的な意味合いを含めてのスペア的な機能を日本の国土のどこかで持っておく必要があるということです。

従来想定されてきた首都直下型地震というような話でいうと、規模がそれほど大きくなければ、例えば立川市にある広域防災基地などで防災機能上のダイレクトな対応ができると考えられていました。オペレーションということではそう考えればいいのですが、経済的な意味合いにおける対世界的なグローバル戦略の中で東京をどうするかということでは、政府だけでなく民間を含めていざとなれば東京の一部を引っ越すくらいのオペレーションができる機能が全体的に必要になってくる可能性があると思います。

そのとき、ハードウェアが最初から全て必要かといえば、そうでもありません。現在、非常にテレコミュニケーションの技術が発達しているので、場所や人を集約できるところがあれば、それなりに機能できるのではないかと思います。災害が起きたとき、災害復興ということでは立川広域防災基地などでオペレーションをするとしても、経済機能あるいは対外機能でレベルが多少下がっても止めるわけにいかない部分を、首都機能を移転する新しい都市で動かしていくということはあり得ると思います。

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バックアップが機能するためには

バックアップということを考えるのであれば、非常時にだけ機能するというものではなく、日常的に動いている部分が常にあるということが必要になります。私が考えるのは、2ヶ所で機能がデュアルに動いているということで、いざというときに機能が働く程度のパワーがなければいけないということです。必ずしもすべて同じものを持つ必要はないのですが、ある程度コアになる部分があって多少のスペアというような機能があれば、いざというときにそこへ引っ越すということができると思います。しかし、もともとの機能がないと引っ越すわけにはいきません。

何を機能と思うかということにもよりますが、結局スタッフワーキングの機能は、日常的に動いていないといざというときも働かないのではないかと思います。災害が起こったとき、政治家が行って、テレビを見て指示を出すということはできるけれど、スタッフがそれをどうするかということです。要するに、日常とのつなぎをどうするかということは、たぶんできないと思います。それは机がないことや資料がないということとも関係してくると思うのですが、そういうことのできる仕事場がどこかにないと、おそらくバックアップとしてうまく機能しない気がします。

行政がどのようにして日常的にあり得るのかはよくわかりませんが、機能をある程度維持するためには、それぞれの省庁で半分くらいあるいは3分の1ぐらいのスタッフがいる必要があるように思います。また、例えば政策立案型行政組織と政策実践型行政組織というような分離の仕方もあるかもしれません。機能的に1番よいのは、1つのセクションで3分の1くらいが移動して、スモールスケールの政府のようなものができるということです。そうすれば、機能的にはデュアルに近くなると思います。それは省庁別に行くのがいいのか、担当部署別に行くのがいいのかはわかりませんが、日常的に機能するということでいえばある程度の人数がいたほうがよいような気がします。

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リスクヘッジとしてのバックアップ

首都機能が離れた場所でデュアルに機能するためには、常にコミュニケーションをとらなければならないので、通信を含めてのコミュニケーションが非常に重要だろうと思います。ただ、今は物を運ばない限り、通信のテレコミュニケーション機能が非常に高くなってきています。ですから、会議や情報のやりとりなどは、そういった技術を使ってほぼ完全にできるようになってきています。ただ、どうしても情報だけでは解決できない部分がありますので、人や物といったものをどのようにするかということは考える必要はあると思います。

防災や危機管理という観点から、デュアルに首都機能を分けて配置するという例がなされないのは、やはり不便だからでしょう。通信の技術がどこまで普及するかによっても多少変わるかもしれませんが、現状では不便さというのはぬぐい切れないのではないかという気がします。コストの問題もありますが、日本の場合は地震があって機能が集中しているわけですから、バックアップのための空間だけでも作っておく必要はあると思います。これは、3分の1の人はいるけれども、もう3分の1の人が来ても働けるだけの空間は作っておくという意味あいに近くなるかもしれません。非常にもったいない話だとは思いますが、そこだけで機能できるようにしておくことは重要だと思います。

こうしたことは、民間企業にも同じことが言えるのですが、本社機能というものが停止したらどのくらい影響するかということとも関係してきます。霞が関が1カ月休業すると、どのくらい影響があるかということですが、それは霞ヶ関のビルだけの問題ではなくて、人との関係もあるわけです。役人は東京だけでなく、埼玉や神奈川などにも多く住んでいます。何かが起こったとき、霞ヶ関まで通えないということはあり得るわけです。そうすると機能しなくなる。そういうことに対するリスクヘッジとして、どこかにバックアップ機能を持っておくことは非常に重要なことではないでしょうか。

会社では、特に営業などで自分の机を持たないワーキングスタイルというものが出てきています。役所も、それに近づいていく可能性がなきにしもあらずだと思います。データベースなどいろいろなものが完備されなければなりませんが、場所を選ばずに仕事ができる可能性のあるセクションがあるのではないでしょうか。そういう意味では、受け皿の持ち方としては、こういったフリーアクセス的なワークスタイルということもないことはないと思います。

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地震に対する安全とテロに対する安全

安全に対しての考えでいうと、地震に対する安全と、テロのような危機に対する安全とは、一致する部分もありますが、違う部分もあります。

地震のときには、パソコンが落ちてきて人が亡くなったというようなことはあり得るかもしれませんが、建物はそれなりの基礎の上に耐震設計で建てられるはずなので、建物的、機能的なものが壊れるとは思えないわけです。結局、地震関係上で一番大きな問題となるのは、機能のコネクションのジョイントの部分で、コミュニケーションラインがどうなるかというようなことだと思います。首都機能の中枢部分が残ったとしても、そこだけが孤立してしまって、機能としては十全に果たせないという状況が起きるかもしれません。人が来られないというようなことも考えられます。ですから、いざというときにそこで何をするかということを考えることが重要になってくるわけです。

しかし、テロの場合はどうかというと、今の日本は平和なのでいいのですが、いろいろ不安な状況が起こるかもしれないわけです。現在は「開かれた国会」「開かれた役所」ということで、国会や首相官邸などがオープンスペースになっています。首相官邸などを作るときも外から丸見えということがあって、非常に気になります。霞が関や永田町では、安全性やセキュリティに配慮したスペースデザインがないような状況です。最近は少しよくなってきましたが、例えば大臣室というのは、誰でも勝手に上がり込んでいけるような状況だったわけです。しかし、逆に言うと大臣がお客さんの来訪を歓迎するという風潮もあるわけです。

役所にしても、「開かれた役所」とか、いろいろな交渉で来る人をセキュリティで止めるのは仕事の能率上あまりよろしくないというようなこともあって、きちんとしたセキュリティができなくなっていました。そうすると、霞が関を見ても、普通の人なのか、役人なのかわからないということになるわけです。不特定多数の中で見えなくなってしまう。そして、不特定多数を絞る手立てがないまま、中枢にすぐに直結してしまっているのが現状です。あるところまでは、役所に用のある人、もしくは役人というように限ることができれば、それなりにIDが取れるわけです。これは「開かれた国会」ということと矛盾する部分ですが、これからはそういうことについての対策も考えておく必要があると思います。

やはり、災害のときもテロのときも、デュアルバックアップ、あるいは分散配置が一番効果的ではないかと思います。そういう意味で、いざというときに使うということではなく、常に生きているセンターを持っておくことが重要だと思います。

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セキュリティをベースにしたスペースデザイン

普通の商業ビルでもそうですが、今では霞ヶ関や永田町でもセキュリティをやるようになってきました。建物へ入った途端にボディガードのおじさんに止められて、下手をするとボディチェックまでされるということになってきている。アポイントがとってあるにもかかわらず、すぐに行けないということで、お互いに非常にストレスがたまる状況になっています。

当然、悪いことをする人に対してはいいのですが、99%は普通の人です。それが日常であるにもかかわらず、1%くらいのリスクのために非常にプレッシャーを感じるということになっているわけです。やらざるを得ないことではあるのですが、もう少しうまい方法でやらないと、日常的にストレスを感じたり、機能障害を起こしたりしてしまいます。

今は情報技術などを利用していくということになりますが、情報機器や人だけに頼るのではなく、建築、あるいはゾーニングのようなものも考えていく必要があるのではないかと思います。

セキュリティというものをどこまで考えるかにもよるのですが、日本はあまりデザイン的に安全性ということを考えてきませんでした。私自身は、スペースデザインやビルディングデザインというものと安全性には非常に大きな関係があると考えています。それはほかのものでも代替できますが、そういうもので都市のベーシックな部分をつくっていくことは非常に重要だと思っています。

ただ、そのときには交通や環境というようなほかの要求もいろいろあるわけです。その中でどういう解決策がベストかということはよくわからないのですが、少なくとも空間の安全性に対するヒエラルキーというものはある程度あるわけで、そういうものを踏まえて都市をつくっていくことが非常に重要になってくると思います。特にテロのような話になってくると、アメリカなどでは今テロに対する建物のディフェンスをどう考えるかということをかなりやっているわけです。

日本では「開かれた国会」ということで、普通の人が国会に近いところまで自由に出入りできるオープンなデザインにするということになってくると、安全性とはかなり矛盾する可能性があります。ただ、安全性というものをもう少し柔らかく、人にわからないようにつくっていくようなスペースデザインもあり得るわけです。

そういう意味で、いろいろな要求がある中でセキュリティをどこまで考えるかは別として、安全性や秘密保護を含めてのスペースの警護から考えても、デザイン上のヒエラルキーを都市のベーシックのところに埋め込んでおかなければ、新しい都市にはならないのではないかという気がします。

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時代の要請に配慮したセキュリティのあり方

セキュリティというものを考えるとき、それをどう表現するかという手段のところで、ずいぶん選択肢があるような気がします。1つの機能を実現しようとするとき、人を配置するとか、機械を設置するとか、デザイン的に考えるというようなやり方があって、どれが一番いいのかは分かりません。それは合意をしていかなければならないところだと思いますが、安全に対する考え方としては、今まで配慮するということがなかったわけです。都市、あるいは国の中枢というところで考えるのでれば、この「配慮する」ということが非常に重要ではないかと思います。

具体的にどう実現するかというところであまり議論してしまうといろいろな矛盾が出てくるのですが、これからは基本的にセキュリティを考えるということをある程度言っていかなければならないのではないでしょうか。それが、今まではなかったのだと思います。

時代の流れを見ても、例えば戦国時代であれば、江戸の町や城下町のつくり方というのは、橋を架けなかったり、道をジグザグのかぎ型にしたりして、セキュリティの要請に応じて都市をつくっているわけです。それが平和になってくると、通行に便利なように橋を架けたり、道を直線にしたりということになってくる。今の時代においても、ある程度そういうことを考えていく必要があるのではないかと思います。

セキュリティを考えるときには、建物の配置やゾーニングというようなところが非常に大きく関係してきます。こういったことは、あとではなかなか直せない部分がありますから、最初に考えるべきことだと思います。

国会のロケーションをどうするか、周辺部をどうするか、基幹ステーションからのアクセスをどうするか、周辺からの可視性をどうするかというようなことは、現在ほとんど考えられていないと思います。

考えることがどれだけ解決になるかについては未知なところがありますが、安全性やセキュリティについて、少なくともどういう立地、あるいはどういう機能が必要かということを検討しておいても別に損ではないと思います。ガチガチのお城のようにするとか、一般の住区から100キロぐらい離れたところに建てるとか、そういうことも一つの考え方かもしれませんが、今の状況からすると、それが絶対のベストとは言えないわけです。

今の時代では、お城のように奥まった立地が受け入れられるとは思えませんし、国民が国会に行きたいといったときに拒否することもできないと思います。そうすると、だれでも国会に入れるということを踏まえた上での安全性、セキュリティを考えていく必要があります。

こういった問題は、当然ながら100%解決するわけではありません。そういう意味で、ソリューションというのはいろいろあるのだと思います。ただ、発想しない限りは出てこない。あとで無理やり作ろうとすると、非常に無駄なことが出てきてストレスが生れたりするわけです。ですから、なるべく最初から考えて、そのときに一番いい方法を見つけていくということが重要ではないかと思います。

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