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テロの時代に求められる対策と首都機能の分散

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宮坂 直史氏の写真宮坂 直史氏 防衛大学校 助教授

1963年東京生まれ。1986年慶應義塾大学法学部卒業後、日本郵船(株)に勤務。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程を経て、専修大学法学部助手、専任講師に。1999年より防衛大学校総合安全保障研究科兼国際関係学科助教授。

専門は国際政治学、安全保障政策論。国際政治学会、国際安全保障学会、国連学会、警察政策学会、国際戦略研究所(IISS)などに所属。内閣官房、外務省、防衛庁その他の政府機関・研究所で安全保障・テロ分析に関係する研究委員を多数歴任。

主な著書に『国際テロリズム論』(芦書房)、『日本はテロを防げるか』(ちくま新書)、『新版 軍縮問題入門』(共著/東信堂)、『「対テロ戦争」を読み解く』(共著/自由国民社)、『最新版 安全保障学入門』(共著/亜紀書房)、訳書に『テロリズム』(岩波新書)などがある。


<要約>

  • かつての東京(江戸)の位置は、東京湾の奥にあって地政学的に非常にいい位置にあった。それが、第2次世界大戦の時には、空襲によって意味をなさなくなってきた。その後の冷戦時代も、大国は同時に複数の都市を攻撃できる兵器を保有していたので、安全保障の観点からいうと首都の位置や一極集中はあまり関係なかったといえる。
  • 冷戦が終わって小国やテロリストが大量破壊兵器を持つ時代になったが、そうなると、それぞれは少数の兵器しかもてないので、首都の位置や首都機能の分散が安全保障上、意味を持つようになってくる。
  • 生物兵器は、密集地帯や交通機関のハブで威力を発揮する。また、1人で持ち運べるような小型核兵器が現実にあると考えておいた方が危機管理上はよいと思われる。小型の核兵器を念頭において考えると、東京から30kmくらい離れていれば一発で両方やられてしまうことはないと思われる。
  • 実際に日本でテロがおこる蓋然性は低く、ヨーロッパよりも日本の方が危険性は低いと思われるが、可能性はあるのだろうと思う。
  • 現在のテロ対策は、未然対策を含めると、シビリアンを含めたあらゆる省庁が関係しており、幅広い対策が必要。
  • 全ての機能が1ヵ所に集中しているのは脆弱であり、いくつかの省庁が別の都市にあってもおかしくないのではないか。国会等の移転は先の先まで見据える必要があることを考えると、今は蓋然性が低いとしても、大量破壊兵器を使う団体や個人がいずれ出てくることを想定した対策を、今の段階から検討しておくことが重要ではないか。

地政学的に見た首都の位置の歴史的変遷

私は安全保障の研究をしておりますので、危機管理、特に国土安全保障の観点から首都機能移転の問題を考えてみたのですが、今日という時代と将来を見据えると、東京への一極集中はあまりに脆弱性が高いのではないかと思っています。

最初に歴史的な流れを申し上げますと、地政学的に見れば、東京というのは湾の奥にあって、首都を置く場所として非常に優れていました。ペリーが来航する7年前の1846年にアメリカの東インド艦隊がやってきたのですが、それで幕府があわてふためいて、江戸湾の防衛ということに躍起になります。それで、台場(現在のお台場)などを築き始めたわけですが、当時は外国の船が三浦半島の観音崎(神奈川県横須賀市)から千葉県の富津のラインよりも江戸湾の奥に入ってきたら撃退するという想定をしていたようです。

防衛大学校は横須賀にあって東京湾が一望できるのですが、実は冬の日だと横浜や川崎あたりまで目視できます。しかし、ここからでは位置的に双眼鏡を使っても、東京までは見えません。ですから、徳川幕府がそんなことを考えていたわけでなかったにしても、なるほど江戸というのはいい位置にあったということになる。外国から身を守るということからすると、江戸湾の奥深くに政治や行政の中心地があるということは、非常に都合がよかったのではないかと思います。

その時代にとっては、地政学的に東京は非常にいい位置にあったのですが、第2次世界大戦の時には空襲で壊滅してしまう。東京湾(江戸湾)の1番奥深くにあるという位置づけがほとんど意味をなさなくなってきたわけです。加えて、第2次世界大戦の後に冷戦時代が40数年続きます。ご承知のように、冷戦時代は核抑止の時代で米ソという2大超大国の間に挟まれていて、日本はアメリカの核の傘に入っているような時代です。80年代半ばくらいにはアメリカとソ連だけでも総数6万8000発の核兵器が対峙していました。そういう時代では、首都がどこにあろうが、政治や経済が東京に一極集中していようがいまいが、安全保障の観点からいうとあまり関係ないわけで、どうでもよかったわけです。それが80年代半ばぐらいまでの冷戦時代の状況だと思います。

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テロの時代に重要性を増す首都機能の分散

ところが、冷戦が終わって90年代から21世紀になると、ご承知のとおり2大超大国が対峙するという時代ではなくなりました。大量の核兵器が「ダモクレスの剣」のように我々の頭の上からぶら下がっているわけでもなくなってきて、むしろ小国の核が問題になってきました。小国の核兵器というのは、冷戦時代のソ連の核に比べれば、全然レベルの違う話です。現在というのは、小国の核に加えて、テロリストが大量破壊兵器を実際に使いましたし、今後もその可能性が決して低くないという時代です。おそらく、こういう時代がしばらく続くのだろうと思うのですが、大国がいがみあうのではなく、小国やテロリストたちが大量破壊兵器を持つような時代においては、首都の位置や機能の分散ということが実はとても重要な意味を持ってくるのではないかと思っています。

なぜかというと、テロ集団や小国というのは、たとえ核などの大量破壊兵器を持ったとしても、大国のように万能のものは持てません。手に入れたとしても、むしろ虎の子として、ほんの少量しか持てない。それをどこかで使うとなると、同時多発テロという言葉はありますが、まず東京と大阪両方をというようには使えるはずがない。そうなると、やはり1ヵ所ということになりますが、それでどこをねらうかといえば、やはり全部が揃っている東京ということになってしまう。そのときに、東京湾という極めて狭いところに貿易の拠点が固まっていて、その後背地にすべての省庁があるという今の状況は、どう考えても脆弱です。そういう意味からも、機能を分散させるということはとても重要なことだと思うわけです。安全保障上、首都機能を分散させるということは、冷戦時代は全く意味がなかったとしても、今はとても意味がある。大きくみると、そのように時代が変わってきているといえるのではないかという気がします。

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生物兵器によるテロの危険性と一極集中の脆弱性

大量破壊兵器をテロリストが使うのではないかということを考えたとき、国際的には今2つの議論が高まっています。1つはバイオ、生物兵器です。今、最も可能性が高く、対策が難しいのがバイオ、生物兵器だと言われていて、ここ数年のテロ対策の国際会議でもバイオ関係の話題が一番多くなっています。生物兵器というのは、要するにウイルスや細菌を武器にして、感染症を引き起こすというものです。そういう武器は、まさに密集している地帯や都市において威力を発揮するものであって、特にあらゆる交通機関が一点に集中しているようなところでこそ影響が大きくなってくる。感染症というのは広めていくものですから、交通機関上のハブになっているところで使われるのが一番打撃的と言われています。そうなると、やはり今の東京の体制は、非常に脆弱だということになるのではないかと思います。

毒ガスも、散布方法によって死者の数は違ってきますが、ヘリコプターなどで上空から大量にまけば、都心の一帯が麻痺する可能性はあるし、現にオウム真理教がそれをやろうとしていたわけです。ただ、毒ガスの場合は、人々がすぐに倒れますので、いつどこで撒かれたかということがわかる。しかし、バイオ兵器の病原菌の場合は、まかれても、人々がすぐには倒れない。発症するまでに何日もありますので、一体どこで撒かれたかもわからないし、すぐには撒かれたことさえわからないわけです。海外を含めて、いろいろなシミュレーションがあるのですが、なかなか場所を特定できない。そうしているうちに、バタバタと人が病気にかかっていく状況になるのが非常に怖いわけです。

しかも、バイオや生物兵器というのは、1人でつくれるということもあります。核兵器であればまず1人ではつくれませんが、病原菌の培養は、普通のマンションの一室でもできる。極端な話、1人でつくって、1人で実行することも可能なわけです。

こうした兵器の被害に遭う可能性が高いのは大都市ですが、大都市から地方都市などに交通ルートなどが延びていれば、さらに被害が拡散してしまう恐れがあります。もし東京駅で病原菌をばら撒かれた場合、すぐには発症しませんので、知らず知らずのうちにウイルスや細菌を抱えたまま四方八方に散らばっていくということで、東京が被害を拡大する触媒になるということです。今の東京は、あらゆる交通機関のハブになっていて、新幹線にしても東京駅から東北や上越、東海道などあらゆるところに路線が延びていますから、被害を拡散しやすいという点でとても問題がある。そういう意味でも、首都機能を分散させることは非常に重要だと思います。

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小型核兵器、放射性物質の散布によるテロがもたらす被害

もう一つの問題として、大量破壊兵器の中で非常に懸念されているのは、核兵器、あるいは核兵器とは少し性格が違いますが放射性物質の散布ということです。核兵器に関しては、テロリストが核兵器をつくれるのかといったことや、どうやって核兵器を盗んでくるのかといった話もありますが、小型の核兵器の紛失が90年代からいろいろと話題になっています。旧ソ連では、1人で持てるような小型核兵器の紛失があったといわれています。具体的な数字まで出ていて、84個の確認が取れていない。公式にはアメリカもソ連も否定しているのですが、それをつくった科学者が議会でそういうことを証言しているということもあります。また、南アフリカでも、80年代に核兵器をつくっていました。このこと自体は広く知られていることで、既に全部廃棄したのですが、その中にも小型核兵器が含まれていたことが最近になって明らかになってきています。

そういうことで、1人でキャリーできるような小型核兵器は現実にあるのだと考えておいた方が危機管理上はよいだろうと思いますし、現にIAEA(国際原子力機関)などでも、国際的に管理の問題が非常に懸念されています。

それから、放射性物質の散布というのは、通常の爆弾でセシウム137やコバルト60などの放射性物質を散布するもので、ダーティボムと言っています。この装置をつくること自体は非常に簡単ですし、旧ソ連などでもたくさんつくられていました。それに、放射性物質そのものはいろいろなところで密輸されていますので、恐らく世界中に流れています。これも根拠のないことではなく、実際にヨーロッパ各国で摘発されていますし、IAEAもその事例をたくさん報告しています。

もし、こうした小型の核兵器や放射性物質などで今の都心がやられてしまった場合、どうなるか。TNT換算の大きさ(爆弾の威力)や、風向きなどいろいろな条件によって変わってきますが、政府機関が今のように霞ヶ関や市ヶ谷に集中しているとなると、たとえ全部が壊れなくても、しばらくはその一帯に入れないということになります。そういうことからすると、それぞれの機能が近すぎて、1ヵ所に固まりすぎているというのが今の一番の欠点ではないかと思います。放射線の専門家のシミュレーションでは、東京の赤坂のホテルの中で、TNT換算で1キロトン程度の持ち運びできる核兵器を爆発させた場合、風向きや風速をいろいろな形でやってみても、都心のかなりのエリアが破壊されて、しばらく入れないというような結果が出ています。

また、爆発はしなくても、ダーティボムのようなもので放射性物質をばら撒くようなことになれば、ますます一定地域は入れなくなるわけです。それから、荒唐無稽と思われるかもしれませんが、何も陸上に核兵器や放射性物質を持ち込まなくても、そのときの風向きによっては、東京湾で爆発させて放射性物質を首都圏に流すことも可能です。

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これからの時代のテロ対策のあり方

今の時代と今後重要になるのは小型の核兵器や放射性物質ですが、これらを念頭において首都機能の分散を考えると、極端にいえば東京から30キロくらい離れていれば、1発でやられてしまうことはないと思います。冷戦時代に大国が持っていたような大型の核ミサイルが飛んでくれば話は別ですが、国とは限らずに過激派などのような小集団や未組織のグループということであれば、そういう人たちが核ミサイルなどを持つのは不可能ですから、おのずと小さな核爆弾になります。そうすると爆発力は限られているので、都心で核兵器が爆発しても横浜くらいであれば、そんなに被害はないだろうということです。

ただ、冷戦時代の対策と現在のテロ対策に違いがあるかというと、必ずしもそうではないのですが、今までよりも対策が広くなってきます。というのも、冷戦時代には、突如ミサイルが飛んでくるということでしたから、対策も軍事オンリーの話で、それこそ国防省や防衛庁のような軍人が考えなければ具体的に動かないようなものでした。しかし、今のようなテロの時代の対策は、テロリストがいて、いろいろな計画をして、入国をしてというようなそれぞれのプロセスがあって、それぞれの段階で未然に防止することを含めて対策をとることになります。未然防止ということを考えると、政府のあらゆる省庁が関係してきますし、シビリアンを含めた幅広い対策をとっていくような問題になるということです。

今の日本のテロ対策は、国際的な水準を一応満たしているとは思います。ただ、もし壊滅的な被害を受けた場合、その後の復旧にどれくらい時間がかかるか、被害管理が上手くいくかどうかが本当の意味で試されたことがありませんので、及第点がつくかどうかはわかりません。それに、壊滅的なテロが起きたとしても、それで終わりということはありえません。そこから復旧しなければならないわけで、復旧の過程でも東京に全部の機能があるよりも、やはり機能を分散させておいた方がいいだろうと思います。

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日本へのテロの蓋然性と可能性

もちろん、こうしたテロには様々なシナリオが考えられるということであって、蓋然性が高いと申し上げているわけではないのですが、可能性はあるのだろうと思います。こういうことは、実際におこらないうちは荒唐無稽だということになってしまうのですが、経済と政治、行政が全て1ヵ所に集中しているというのは、国土安全保障の観点からどう考えても脆弱です。他の国の例をみると、いくつかの省庁は別の都市にあってもおかしくないのではないかという気がします。

どうしてこんなに一極集中になってしまっているかというと、結局は人々が効率性や利便性を追求した結果だと思うのですが、同時に危機意識が薄れるということでもあると思います。あまり効率や利便性に慣れきってしまうと、いずれ何とかなるだろうと思ってしまって、いざというときに人間は避難しなくなる。逃げる、避難するという行動は、人間が生きていくために太古から備わっている最も重要な機能なのですが、あまりに快適な生活につかり過ぎていると機能しなくなってしまうということです。それはパニックが起きないという意味ではいいのですが、避難する動機がなくなっていくのは非常に危険な状況だと思います。

もちろん、今の時点では、脅威がないわけではありませんが、ヨーロッパよりも日本のほうが危険性は低いと思います。確かに日本はイラクに自衛隊を派遣していて、脅迫状の中でも日本の名前が再三出ていますが、もし大きなテロをやる場合にはその国の中にプラットホームが必要で、長い時間をかけて準備をしなければなりません。何日か前に入国して行き当たりばったりでテロをやっても、たいしたことはできません。これまでも、ターゲットを選定して、どこで何をやるかをかなり長い時間をかけて準備しているのが、だいたい大規模テロにつながっています。しかし、その準備をするためのプラットホームが日本にはない。そういうことが、今の段階では、脅威を小さくしているのだと思います。

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国会等の移転では先を見据えた対策を

我々は「拡散」という言葉をよく使います。拡散というのは、大量破壊兵器をしかるべき人が管理できなくて、いろいろなところに拡散しているという意味です。これは現実的な脅威になっていて、知識や技術はもう十分に拡散してしまっているのが現状です。

「東京で誰が大量破壊兵器を使うのか」という問題もあるのですが、そういう拡散の状況があって、現実に大量破壊兵器絡みで密輸事件がたくさん発生している。これは、IAEAをはじめ国際機関の公式の報告書や統計などに載っていることですが、摘発されたものしか統計には出ませんので氷山の一角でしかありませんから、実際にはもっとたくさんあると考えたほうがいい。それから、病原体の培養に関しては、専門家ではなくても、かなりの人ができるようになっている。

そういう状況にある中では、今から誰がそれを使うかということまで考える必要はないのではないかと思います。例えば、オウム真理教のサリン事件にしても、実際におこる10年前、20年前に誰かが想像できたかというと、誰も想像もしなかったわけです。国会等の移転というのは、10年、20年、さらにはもっと先まで見据えなくてはいけませんから、大量破壊兵器を使う団体や個人がいずれ必ず出てくると想定して考える必要があります。今は蓋然性が低いとしても、これからを考えれば可能性があちこちに転がっているということを考えれば、国会等の移転というような大規模な事業では、今の段階から対策をしておくことが重要ではないでしょうか。少なくとも、政治や行政、経済の機能を分散させる必要があるのではないかと思います。

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