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国会等の移転で環境に配慮したモデル都市の実験を

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松田 美夜子氏の写真松田 美夜子氏 富士常葉大学 教授

1941年大分県生まれ。1963年奈良女子大学家政学部卒業。1978年に埼玉県川口市のリサイクル「川口方式」に関わる。現在までに全国500ヶ所以上の清掃工場を視察するなど、生活環境評論家、ごみ減量システム研究家として幅広く活動を行っている。2000年富士常葉大学環境防災学部助教授に就任し、2005年より現職。経済産業省認定消費生活アドバイザー、NPO法人「持続可能な社会をつくる元気ネット」顧問。

「廃棄物処理法」「容器包装リサイクル法」「家電リサイクル法」「自動車リサイクル法」「パソコンリサイクル法」の制定に関わるなど、内閣府・経済産業省・環境省・文部科学省・農林水産省の審議会委員を歴任。

著書には『循環資源材料学』(共著/山海堂),『欧州リポート・原子力廃棄物を考える旅』(日本電気協会新聞部),『地球環境新時代』(中央法規),『環境・くらし学』(研成社),『本当のリサイクルがわかる本』(KKベストセラーズ),『すてきがいっぱいエコライフ』(日報)など多数がある。


<要約>

  • ほとんどの人は、国会等の移転を人ごとと思っているのではないか。移転するときにどういうまちなら住みたいかを考えるというようなきっかけがあれば、新しいまちづくりとして捉えられるのではないか。
  • 首都機能が移転するとき、残された側、移っていく側、迎え入れる側の3方が、「自分のまちをどうしたいか」を互いに提案していけば、分散しているエネルギーをまとめることができるのではないか。
  • 首都機能が移転する都市を環境に配慮したモデル都市にして、未来の環境都市のようなまちづくりをしてみるとよいと思う。他のまちにとっても、自分の住んでいるまちをどう改善できるかをモデルケースと比べて考えることができれば、国全体がすごく良くなるのではないか。
  • 今の時代というのは、贅沢に少し飽きてきて環境などにも目を向けるようになってきている。本物を見る目を養い、質の高い本来の美しい日本をつくるのは、今がスタートの時期ではないか。
  • 10年かけて首都機能を移転するための費用は、1年間のごみ処理費とだいたい同じ。今私達が出しているごみを年間一割減らせば、首都機能の移転にかかる費用は捻出できるのであれば、「環境未来都市」のまちづくりのモデル機能を持たせた「首都機能移転」をやってみてもよいのではないか。

国会等の移転をするときに考えておくべきこと

国会等の移転という話は、具体的に司法や立法府が移るということではなく、一般的に首都が移るという話としか受け止めていない人が、まだたくさんいるだろうと思います。そして、ほとんどの人はまだ人ごととして、そんなに早い時期には移らないだろうとか、自分が生きているうちではないだろうと思っているのではないかという気がします。しかし、もし首都機能が移転するときにどういうまちなら住みたいかを考えるようなきっかけがあれば、皆がそれぞれ夢を託して、新しいまちづくりとして捉えられるのではと思います。

私なら、立法府が移転したとすると、例えば今の国会議事堂などはどう使うのだろうということを考えます。霞ヶ関にしても、行政府が国会について行くので、今の建物は古くなれば壊されてなくなってしまうかもしれません。政策として跡地をどのようにしたらよいのかを考えておかないと、不動産屋がやってきて重箱のようなビルを一面に作ってしまう可能性もあると思います。いま国が持っている土地のうちある程度まとまった面積を公園として残すというならよいですけれども、経費節減のために売り払うという話になってしまうと、東京というまちの格式だとか品性というものが残るのだろうかという不安があります。例えば、昔のお金持ちが住んでいたところで、家主がいなくなった途端に売られて、マッチ箱のような家が何棟も建てられることがよくあります。それで、昔の品のいい日本の住宅や緑が一斉になくなってしまっている。首都機能を移転するときにも、残された土地利用をきちんと考えておかないと、同じことが起こるのではないでしょうか。

首都ではなくて立法府などの首都機能を移すそもそもの考え方が、過密した東京の住みやすさと人間性を取り戻すためということであれば、やはり緑を残すということの政策的なバックグラウンドをきちんとしていただくことが必要です。市民としても、首都機能が移転してしまった後にスラム街ができてしまうようなことがないように歯止めの政策をきちんと考えていかなければいけないと思います。

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分散しているエネルギーをまとめる政策とは

私はいま容器包装リサイクル法の改正に関わっているのですが、審議会のメンバーになっている市民派は2人しかいません。あとは行政と産業界です。産業界はやはり利益をあげなければいけませんから、コスト論できます。行政側は理論武装をしていても負けてしまいます。ましてや今の国の権限は、市民と産業界の意見の調整役くらいの役割になってしまっています。だから、国の政策権限をどう担保していくのかというところをきちんと議論することが、これからは必要になってくると思っています。

国会等の移転の問題も、移すということだけでなく、残った東京の人たちに発言権を持たせて提案していくということも政策としてやっておかないといけません。長い目で見て100年後の夢を語るような部分もありますが、残された土地をどう活用するかをセットで考えないと、それから先のことを市民が本気で考えません。首都機能の移転といっても、普通の人にはなかなかわからないと思います。ですが、立法府が移った跡に防災機能を持ったモデル都市をつくるので参加してくださいというようにして、まちづくりについてみんなで考えたり、例えばまちのデザインを建築家や市民に公募したりしていけば、残される側の政策も育っていくと思います。そして、今度は移転する先の人たちにも、どういうまちをつくりたいかということを考えてもらうと、迎え入れる側の政策も育っていくのではないかと思います。

「自分のまちをどうすればよいのか」という答えを出していくには、「私のまちは今どうなっているのか」ということを考えることになる。そうすると、防災組織とか都市交通のパーク&ライドといったことの必要性に気づいて、結局は自分のまちのまちづくりの設計が広がっていくことになると思います。そういう政策の進め方は面白いのではないかと思いますし、首都機能が移転して東京に残される人たちも、どんなまちだったら残されてもよいかということがわかってきます。首都機能を持つまちになる地域では、せっかく立法府が来るのならうちのまちをどうするかということを考えていただく。移っていく側と迎え入れる側とがお互いに考えていくように投げかけをしていく。このような動きを政策担当者の方々が仕かけていくと、人々は具体的な青写真をかくようになっていけると思います。そうすれば、今は皆がよそごとになっていて、自分のまちや自分の生き方とは関係ないという形で分散しているエネルギーをまとめることができるのではないでしょうか。

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首都機能を移転する都市を環境に配慮したモデル都市に

首都機能を迎える都市のデザインを考えると、私は自動車を使わないまちが魅力的だと思います。全く自動車を使わないわけではないのですが、例えば15万人くらいが住む都市にパーク・アンド・ライド(郊外の駐車場まで自動車等を利用し、そこから都市の中へは公共交通を利用するシステム)を取り入れてプランニングをしていくとよいのではないでしょうか。

ドイツのフライブルグは、1つの典型的な例になると思います。国際線の鉄道が乗り入れている駅の上が路面電車(トラム)のステーションになっていて、各地域に行くトラムのホームが広がっています。だいたい月5000円で土・日には家族全員で乗り放題になるチケットがあり、ほとんどの人がまちの中をトラムで動き回ります。もちろん、ちょっとした移動であれば、自転車の乗り継ぎができる。行きたい所まで自転車で行って、着いたらそこに置いて、また電車に乗れるわけです。こうした返す必要のない自転車は日本でも割と始まっていて、東京の中でも黄色い自転車というのがあります。しかし、日本の場合、地方ではやはり車がないと暮らせません。国会等の移転の3つの候補地にしても、そういうところだと思います。だからこそ「新都市」での交通対策として「パーク・アンド・ライド」システムとまち中での公共交通の充実が必要です。

私の友人たちは全国のいろいろなまちにいるけれども、女性が活躍しようと思えば思うほど車が必要になるので、自転車並みに家族で車を持つようになっています。収入のことを考えると家に何台も車があって自動車税とガソリン代を考えるとよく暮らしていけるなと思うくらいですが、お金の面だけではなくエネルギーの無駄でもあるし、車というのは人と人とのつながりを阻害します。車に乗っていると、誰にも会わないし、見られないから、おしゃれをしなくなる。スーパーマーケットなどに行くと、寝巻き姿のような人を見ることがありますが、そうなると出かけるという雰囲気ではなくなってきて、家とスーパーマーケットという関係にしかなってきません。自信のない服装をしていると人に会いたくなくなってしまいますから、コミュニケーションがなくなっていって、まちづくりという点でもマイナスだと思います。しかし、公共交通を充実させてトラムやパーク・アンド・ライドを取り入れると、人とフェース・トゥ・フェースで会わなくてはいけなくなります。人がおしゃれになって、出かけることが楽しくなると思います。

ドイツ、特にフライブルグなどでは、新しく造成されている住宅地にもトラムが入ってきています。だから、通勤するにもすごく便利だし、交通費も安い。そして、健康にもよいということです。駅から15分くらい歩くのが当たり前になっています。もちろん、日本のような残業がなかったり、ライフスタイルのちがいがあり、、全部まねするわけにはいかないとは思います。しかし、日本のまちづくりの中で一番欠けているのは、道をつくっても、公共交通の充実をしないということだと思います。こういう議論をするためには、首都機能を移転するときに、環境にきちんと配慮したモデル都市をつくってみるというのは魅力的ではないでしょうか。そこで、パーク・アンド・ライドを取り入れた「未来の環境都市」のようなまちづくり実験をしてみる。そして、実験が上手くいったら、その手法を他のまちにフィードバックできるような形にするわけです。日本全体のまちづくりや整備を少し長期的に見たとき、自分の住んでいるまちをどう改善できるかをこの「未来の環境都市」のモデルケースと比べて考えることができれば、日本という国全体がすごく良くなるのではないかと思います。

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眠っているものを活用し、本物を見る目を養う

今、日本でも路面電車を復活させようという動きがあって、これから日本でも路面電車が増えてくるだろうと思います。けれども、導入のスピードなどを見ていると、やはり首都機能移転のような形で国レベルのモデルケースがあれば、路面電車を復活させようと思っている人々が行政に対してもっと積極的に発言しやすくなるという気がします。

例えば、ドイツでは、よく見ると廃線になった工業用の鉄道などを上手く利用しています。それから、ドイツの工場には鉄道が引き込まれていますから、そういう引込み線も利用できる。日本でも、例えば貨物列車用の鉄道が眠っているところがあるのではないでしょうか。使わなくなって死蔵されているにしても、あちこちにまだ残っているのではないかと思います。そういう本当は邪魔者と思われていたかもしれないものを整備していけば、それがストックとなってまちの中も生産的になるので働く場も出てくる。こうした理想のまちをつくるためということなら、少しくらいお金をかけてもよいのではないでしょうか。

これからは「本物」を作らなければいけないと思います。日本人というのは、「本物」をあまり見たことがないのだと思います。例えば、学校で使っている机ですが、日本では合板のものが多いですけれども、北欧などではあえて無垢の板のものを小さい頃から使わせます。その本物の木材を大事に使うということを通して、いろいろな知恵を身につけていくのです。人間には本来すばらしい知恵があって、首都機能移転で誕生する新しい都市の中にその知恵が結集され、社会共同体の中で素晴らしいまちができるということをぜひ見せてほしいです。国が本気になってそういう政策をしてほしいと思います。戦争が終わって60年たって、本物のまちをつくる時代になったのではないでしょうか。全てを本物にしていく中で、経済も環境も両立していけばよいと思います。都市の中に、伝統を生きてきた美しいデザインがあったり、緑があったりするようなことも含めて考えていくべきだろうと思います。政策は国民が選挙を通して選ぶことではありますが、首都機能を移転するときには、本物をつくるということを政府が決心し、それでまちづくりの実験をしてみてもよいのではないかと思います。

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環境と物を大事にする都市設計

今の時代というのは、高度成長時代のとにかく贅沢をしたいというところから少し飽きてきているのかなという気がします。毎日ステーキを食べていると少しお茶漬けも食べたくなるというようなことかもしれませんが、いわゆる環境という話でも、もう十分に贅沢したから環境の保護についても考えなくてはという流れが日本で出てきています。昔の日本人というのは非常に物を大事にして、慎み深かったわけで、贅沢をしつくしたのは最近の20〜30年だけです。その揺れた振り子を戻そうというのが今なのだろうと思います。

「もったいない」という言葉がこれまで否定されていたのに、今になってもてはやされているのも、人間全体が物を大事にという本来の姿に返ってきているからだと思います。首都機能の移転は1つの実験なのだから、物を大事にする都市設計というのを打ち出してみてもよいのではないでしょうか。

これまでの日本というのは、アメリカとの関係の中で、アメリカのスタイルを身につけてきました。ヨーロッパにはある種の窮屈さがあります。伝統があるということは、制約や厳しさもあるし、暮らしにくさもある。ヨーロッパから出てきたのがアメリカの人たちだから、個人の自由を求めていたわけです。豊かさを物量ではかる政策が行われるようになりました。

それに比べるとヨーロッパは、収入があっても税金で持っていかれてしまう割合が高くて、結構貧しかったりします。天候も暗くて寒いし、人口も少ない。それほど経済発展もできなかったので、ペットボトルなどの1回で使用ずみになるワンウェイ容器を使うだけの経済的ゆとりもありませんでした。ワンウェイ容器というのは、定価の中に容器代が含まれており高価な商品です。ヨーロッパでは、そういうものを使って自分の給料を減らすわけにはいかないから、不便でもリターナブルの瓶を使い尽くすようにしてきました。70年代、高度経済成長時代になりかけたときも、政府がワンウェイ容器抑制策をとりました。というのは、よその国からの安い輸入品が入ってくると、国内の中小企業がつぶれてしまうことを考えて輸入制限をしたわけです。中小企業が生きていけるまち、経済も循環していくまちをつくる。国民にしても、その政府は自分たちでつくるという意識があって自立しているので、国に全てを任せておけばいいという判断はしません。そういう国民がいま日本でも育ちつつあるという実感があります。その人々が日本の環境などにも目を向け始めているのではないかと思います。

教育のレベルが高く、貧富の差が少なく、皆が幸せな国ということでは日本ほどすてきな国はないでしょう。今度はその幸せの中に質を盛り込む時代になってきたのだと思います。本来の質の高い美しい日本をつくるのは、今がスタートの時期ではないでしょうか。

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ごみを減らすことでモデル都市の実験を

首都機能の移転するときの公的負担は10年で約2兆4千億円ということですが、1年間の生活系ごみの処理費が2兆6千億円ですから、だいたい同じくらいです。一割ごみを減らすと2600億円節約できます。だから、ごみを減らして無駄を省けば、首都機能を移転するモデル都市の実験ができてしまうということになります。このことからも、政府はもっと本格的な方針として、国づくりということで投資をしてみてもよいのではないかと思います。無駄になるお金ではなくて、未来都市のまちづくりとして国会等の移転の提案をするということであれば、10年で2兆4千億円というのは安いと私は思います。

私たちのごみ処理にかかる費用から考えると、ごみを半分に減らせば年間1兆3000億円が浮くわけです。清掃工場1基をつくるときにかかるのは、東京都の場合で1000億円です。横浜市は政策的にごみを分けるようにすることで、2基の清掃工場の建設を止めたのですが、それによって清掃工場の建設費1100億円を節約しました。そう考えると、今の私たちがしている無駄を削っていけば、モデル都市の実験が十分にできるくらいの費用は捻出できると思います。それに、未来の理想的なまちづくりを1カ所実現してみることによって、ごみの減量など新しいライフスタイルを実現するモデル都市ができるので、非常に魅力的ではないかと思います。これによって、日本全体でごみが減っていくという効果を考えれば、十分ペイするのではないでしょうか。そうしたモデル都市づくりに市民も参加していくことができれば、いろいろなまちづくりのプランやデザインが出てくるし、議論も始まるのではないでしょうか。とても夢が会って楽しくなります。首都機能を移転したら自分たちのまちがどう変わるのか、どう変えたいのかということを国民の皆さんにもっと考えてもらいましょう。1つの方向性が出てくるのではないかと思います。

私の専門の廃棄物では、なぜできないかという議論ではなくて、どうすれば実現できるかという前に進む方向が歓迎されて、わからないところは他の専門家をまじえていろいろな人たちを取り込むという形になってきています。今までの政策というのはいつもできない理由を言い訳にしていたわけですが、それも変わってきているわけです。この首都機能の移転の話でも、私たちのような民間の市民がもっと参加できるようにセッティングしていただければ、どんどんいい知恵が出てくるのではないでしょうか。

私は、理想的なモデル都市として首都機能を移転するまちをつくるプログラムに市民が参加できれば、それは楽しいことだと思います。みんながごみを一割減らす、具体的には1日100g(コップ半杯の水の量の重さ)減らすだけで実現できる予算ならばぜひ、環境政策を推進するためにもやってみてもよいのではないでしょうか。

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