ホーム >> 政策・仕事 >> 国土計画 >> 国会等の移転ホームページ >> 各種情報提供サービス >> ニューズレター「新時代」 >> ニューズレター「新時代」 第65号(平成20年3月)

国会等の移転ホームページ

ニューズレター「新時代」 第65号(平成20年3月) 一緒に考えましょう、国会等の移転

道州制と首都制度

道州制下における首都問題


政策研究大学院大学教授
横道清孝

最近、道州制をめぐる議論が再び活発になっている。この「道州制」というのは、都道府県の区域を超える広域的なブロック単位に、道州という総合的な行政主体を設けようというものである。

内閣総理大臣の諮問機関である第28次地方制度調査会は、平成18年2月に「道州制のあり方に関する答申」(以下「答申」という)を出した。この答申は、道州制を国のかたちの見直しにかかわる改革として位置づけるのであれば、その導入が適当であるとし、その基本的なあり方として、以下の3点を示している。

(1)都道府県を廃止して道州を設置する。
(2)道州は広域自治体とする。
(3)全国を10程度の道州に分かつ。
 (9区分、11区分及び13区分という3つの区域例を示す)


写真提供:朝日新聞社
国会と霞ヶ関

現在、政府は「道州制ビジョン懇談会」を設置し、「道州制ビジョン」の策定に取り組んでいるが、そのビジョンにおいても、答申が示した上記の点は、そのまま踏襲されるのではないかと思われる。

仮に、このような道州制が導入されるとすると、首都のある東京圏では、東京都が廃止され、関東州(答申の区域例では、関東甲信越州(9区分)あるいは南関東州(11区分及び13区分)となっている)が設けられることになる。

そして、皇居(天皇)、国会(立法)、官邸・中央省庁(行政)及び最高裁判所(司法)といった国家の中枢施設のすべては、関東州という広大な広域自治体(狭い南関東州の場合でも、人口3,500万人、面積17,500平方キロ)の中の、千代田区という小さな基礎自治体(人口4万人、面積12平方キロ)の中に存在するということになる。

しかしながら、「首都は関東州」というのは余りに漠としており、そうかといって、「首都は千代田区」というのにも違和感がある。その原因は、上記の首都施設(及びその機能)を支える公共的インフラ(ハード及びソフトの両面を含む)の提供主体として、関東州では大き過ぎ、千代田区では小さ過ぎるということである。

したがって、道州制下においても、東京を首都とした場合には、首都にふさわしい公共的インフラの提供主体として、道州でも特別区でもない、特別の首都制度を考えなければならないということになる。

各国の首都制度

世界の主要国においても、首都については、他の地域とは異なり、通常の地方制度とは異なる特別の制度が適用されている。

まず、イギリスの首都ロンドンには、基礎自治体であるロンドン区とシティの上に、ロンドン庁(Greater London Authority : GLA)という特別の広域自治体が設けられ、ロンドン全域にわたる事務の企画・調整を行うとともに、公共交通、都市開発及び警察・消防等の事務を担っている。その所管区域の人口は728万人、面積は1,579平方キロである。


千代田区内の行政府中心街

フランスの首都パリには、パリ市が置かれている。このパリ市は、基礎自治体(市町村:コミューン)であるとともに、広域自治体(県:デパルトマン)でもあるという特別の存在であり、国(警視総監)に属する警察権を除き、一般の市及び県の事務を併せて処理している。その所管区域の人口は212万人、面積は105平方キロである。

連邦国家であるドイツの首都ベルリンは、市であるとともに、それ自体が1つの州(都市州)となっている。なお、ベルリン以外にも、ハンブルグ及びブレーメンという2つの都市州がある。その所管区域の人口は339万人、面積は892平方キロである。

同じく連邦国家である米国の首都ワシントンは、どこの州にも属さない特別区(District of Columbia : D.C.)である。一般の州及び市の事務を処理するが、その権限は連邦の議会及び政府により制約を受けている。その所管区域の人口は57万人、面積は159平方キロである。

ワシントンのように純粋な政治首都である場合でも、ワシントンD.C.の人口及び面積は、千代田区よりも相当大きい。一方で、それ以外の首都のように、経済の中心地が首都であるためその規模が大きくなる場合であっても、南関東州のような大きな人口及び面積を持つものはない。やはり、その中間にあるような特別な首都制度が必要なのである。

また、その首都制度自体のあり方については、普遍的なものはなく、国により様々であることが分かる。

多様な選択肢がある


写真提供:朝日新聞社
東京都心の街並み空間

答申においても、首都のある東京圏については、2つの方向で、特別の取扱いが考えられるとしている。

1つ目は、首都がある大都市としての特例である。そもそも、答申は、大都市と道州との間の事務配分等については、特例を設けることが適当であるとしているが、その大都市としての特性が顕著で、しかも首都機能がある東京(特別区の存する区域あるいはその一部)については、さらに、その特性に応じた特例を検討することも考えられるとした。

2つ目は、道州の区域についての特例である。すなわち、単純にブロック単位で関東州(区域例でいえば、関東甲信越州あるいは南関東州)を置くのではなく、東京都の区域(又はその中の特別区の存する区域等)のみをもって1つの州(又はそれに相当する何らかの自治体)を置くことも考えられるとした。

前者は、関東州の中に、特別区の区域全体を所管する広域自治体である大都市(「東京市」)を置くというのが1つのイメージである。

そして、特別区を東京市と独立した基礎自治体として別途存続させた場合には、イギリスのロンドン庁タイプとなり、それを東京市が吸収して内部団体化した場合には、フランスのパリ市タイプとなるであろう。

後者は、関東州とは別に、特別な州(首都州)として「東京州」を置くということである。その範囲については、東京都の区域とするか、それとも、その中の特別区の区域とするかという2つの考え方がある。

これは、ドイツのベルリン都市州タイプといえるものである。特に、先に述べたパリ市タイプの東京市を作るとともに、それを東京州とした場合には、ベルリン都市州と大変よく似たものとなるであろう。

さらに、千代田区を始めとする中心にある特別区だけを所管区域とする特別自治体を設置することも考えられる。そして、首都であることから、それを関東州の外に置くとともに、国の関与を強めるとした場合には、米国のワシントンD.C.タイプとなるであろう。

答申は、道州制の下での首都制度のあり方については、なお検討の余地を大きく残している。個人的には、今まで述べてきたものが基本型ではないかと思われるが、これら以外にも様々な形のものが考えられるであろう。

いずれにしても、道州制を導入するためには、首都制度の問題を解決しておかなければならない。今後とも議論を深めていくことが重要であろう。

オーストラリアにおける首都の建設


キャンベラ遠景

オーストラリアでは、英国からの独立(1901年)の際、各州の主権を尊重した連邦制国家形成を前提としつつ、国家としての一体性を強化するための“象徴的な事業”として首都の建設が行なわれました。そして、暫定首都とされたメルボルンから首都特別地域(Australian Capital Territory : ACT:キャンベラ)に首都移転が行われました。海外の首都機能移転の事例として現況等を紹介します。

首都建設の歴史


旧連邦議会議事堂

首都の位置は、ビクトリア州(州都メルボルン)、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州(州都シドニー)等の州間の対立に決着をつける形で、憲法(1900年)において「NSW州内のシドニーから100マイル以上離れた地点に連邦首都を設置する」と規定され、「首都所在地法」(1908年)により、ヤス・キャンベラ地域に確定しました。

1911年に同地域は連邦政府直轄の首都特別地域となり、区域内の土地は全て連邦政府所有となりました。そして、基本的都市設計が国際公募され、米国の建築家グリフィンの作品が選定(1912年)され、想定人口25,000人の首都づくりが始まりました。(当時人口:1,777人)


連邦議会議事堂

1927年に暫定の国会議事堂が完成し、キャンベラで連邦議会が開かれました。暫定議事堂は財源不足や政治的論争により首都建設が進まない中で、短期間に国会を移転することを至上命題とされたことから建てられ、約50年後に取り壊される予定でした。(当時人口:7,685人)

その後、世界恐慌や第二次世界大戦の影響で、首都建設は停滞しましたが、1957年頃から急速に進み、人口が急増しました。連邦政府はグリフィンの目指した「ガーデンシティ」のコンセプトと都市規模の拡大とを両立させる方法として、想定人口250,000人の人口密度の低い都市を、緑に囲まれた小規模なクラスター群として開発することとしました。

1988年に新議事堂が完成し、キャンベラは首都として一応の完成の段階を迎え、1989年には諸州に準ずる地位を持つ首都特別地域(ACT)政府が設立されました。

首都の状況

ACTの面積は2,356km2(東京都とほぼ同じ)で、6つの島状の居住区からなる都市地域と、その周辺の緑地・自然公園地域とに大別され、都市部は約200km2(山手線内側の面積の約3倍)です。人口は約32万人で、近年の人口増加率は約1%となっています。

議会、連邦政府機関等の首都機能の大半は、セントラル・キャンベラ地区に配置され、その他の居住区は、主として住宅地区であり、それぞれはグリーンベルト、丘陵等で空間的に隔てられ、幹線道路で結ばれています。ACTの道路網は非常に良く整備され、域内の移動手段の中心は自動車で、バスが唯一の公共交通機関です。また、自転車専用道路も整備されています。なお、ACTと域外を結ぶ交通ネットワークは空港と高速道路が中心です。

現在の首都都市整備


ACTの規模等

キャンベラの土地は全て連邦所有で、民間等に貸与されるリースホールド制度ですが、首都の顔となる指定地域は連邦首都庁が、その他の地域はACT政府が管理しています(概ね7%の地域が連邦管理、93%がACT政府管理)。リースホールド取得者は建築計画に許可を得なければならず有効な土地利用規制手段となっており、整然とした緑豊かなまちなみが形成されています。現在、人の住みやすいまちづくり、地球温暖化への対応等の観点からグリフィンのプランの再評価、回帰の動きが始っています。すなわち、グリフィンのアイディアは歩いて暮らすまちでしたが、首都建設が進んだ1970年代は車社会であったため、郊外化が進み人口密度が低く、中心部は駐車場に占拠され、まちは幹線道路等により分断されてしまっている等の議論等がおこっています。このため、既存の施設、インフラを最大限に活用した、より持続可能でコンパクトな都市形成を目指し、再開発等により元々のプランを活かしたまちづくりが進められています。例えば、(1)今後30年間は都市の開発を中心部から15km以内に抑え、中心部の活性化、環境保全を図ること、(2)15年間は中心部から7.5km以内の範囲での住宅建設を拡大し、既存の主要就業地域、施設等と近接した居住を実現すること、等が計画されています。

一方、公務員主体の行政都市は活気がない等の認識のもと、ハイテクを中心とした産業誘致等の雇用多様化への取り組み、商業施設の再配置等も進められています。

頻発するテロ、山火事等に対応する首都機能の危機管理等

米国同時多発テロ以降世界各地で頻発するテロ、2003年のキャンベラ周辺に到達した山火事等、危機管理、災害対応の観点から首都としての対応が必要となってきており、例えば、連邦議会ではBCP(業務継続計画)を5年程前から策定し、キャンベラ内に代替的施設を定める等しています。

なお、通常閣議はキャンベラの国会内で開催されますが、各州都でも時々開催されています。また、大臣は国会内の大臣室の他に、出身州都にも大臣室を持っています。

トピックス

首都機能移転三地域連絡会議(栃木・福島地域、岐阜・愛知地域、三重・畿央地域)の各地域代表は、平成19年12月27日、衆議院及び参議院を訪問し、国会等の移転に関する政党間両院協議会の現在の状況や今後の開催見込み等に関する情報収集活動を実施

<お知らせ>

紙面の都合上、本号では「オンライン講演会」の掲載を割愛させて頂きました。次回発行号において掲載する予定です。国土交通省の国会等の移転ホームページでは、講演者のインタビュー内容を順次追加して掲載していますのでご覧下さい。
ホームページアドレス http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/iten/onlinelecture/index.html

ページの先頭へ

"leftMenu1">