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Webニューズレター新時代Vol.68 〜一緒に考えましょう、国会等の移転〜

1.低炭素社会の理想的な国土構造とは

図-1 都市の圏域構造

都市の圏域構造

都市計画の分野から低炭素社会の理想的な国土構造を考えると、最も基礎的な「都市形態」の議論に立ち戻る。なぜなら理想的な都市形態では、効率的な都市活動が行われ、それは低炭素社会にも通じるからである。

このような理想的な圏域構造は既に半世紀以上前から議論されており、石川栄耀博士(1893-1955)はその構造を図-1のように示した。日常的な生活は半径5km程度の都市圏で行われる。通勤や通学、買物などの毎日発生するニーズは、徒歩や自転車あるいはバス交通など短距離の移動でまかなう。週末のレジャーや買物は、もう少し大きな15km圏内に存在する母都市(人口10〜20万人)に出かける。一方で月に1回程度は、都市間鉄道で大都市に出かけて美術館や高級専門店などで余暇を楽しむ。

このような段階的な圏域が互いに重複することなく立地していれば、国土全体に都市が最適に配置されることになり、結果的にその中で社会生活する国民の総移動距離は最小となるはずである。

理想的な圏域構造をもとに、首都機能移転を想定した新都市の交通環境を推計するとどうなるか。図-2左図のような人口10万人の新都市が形成されると、新都市の中での日常生活での徒歩や自転車利用は50.5%となり、一人当たりの交通部門のCO2排出量は608g/人と推計される。一方で、周辺の既存都市も入れた都市圏レベル(図-2右図)で推計すると、既存都市での自動車依存が高いため、総じてCO2排出量を増加させ、都市圏1人当たりの値は1092g/人と上昇する。単純比較はできないが、乗用車利用から排出されるCO2の全国の平均値2274g/人(H17推計)と比べると、仮に理想的な新都市ができればCO2排出量は既存都市の半分以下に抑えることが可能といえる。

図-2 首都機能移転を想定した新都市の構造

首都機能移転を想定した新都市の構造

出典:山本・森本・森田・最首:都市計画学会論文集(2001)

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2.低炭素社会の国土形成にむけて

現実は都市自体も円形ではなく、国土の地形的な制約もあり、都市形成史も異なるなど、わが国の都市形態はかならずしもこのような理想的な状態にはあるとはいえない。しかし、都市形態の議論や仮想都市でのシミュレーションは、国土のあり方を考える上ではいくつかのヒントを与えてくれる。共通しているのは、生活圏の階層性によって効率的な国土形成が可能ではないかということである。例えば、「多層型国土構造への誘導」である。大都市圏が有する「高度な都市機能の分化」と、都市圏が有する「日常的な生活圏の集約」がキーポイントなる。

(1) 集約型都市のネットワーク化

集約型都市間の相互を高速の交通機関で結ぶことで、互いの機能の連携強化を行う。高規格幹線道路や高速公共交通機関(新幹線など)あるいは高速通信網など、都市間で人や物資の移動をスムーズにすることで、過度な機能集中を避けて、災害にも強い国土構造が出来上がる。

(2) 生活圏として自立できる集約型都市

日常生活圏ではできるだけ徒歩や自転車などの非動力系の交通機関を中心に、移動距離の短縮を図ることで、交通に係る環境負荷を低減させたい。そのためには過度の自動車依存によって拡大した都市を、もう一度ヒューマンスケールの都市に作りかえる必要がある。欧州を中心に持続可能な都市モデルと着目されているコンパクトシティ(注1)政策の導入が一つのキーワードとなっている。近年、青森市や富山市など多くの自治体でコンパクトシティを都市政策に掲げ、その実現に向けて努力している最中である。

(注1)コンパクトシティ
徒歩・自転車などで移動できる程度の生活圏域を中心に、都市生活に必要な機能を中・高密度で集積することで、交通環境負荷を軽減するとともにインフラ整備コストを抑えるなど、持続可能性を高めたモデル都市構造。

図-3 集約型都市構造にむけてのスマートシュリンク政策

持続可能なコンパクトシティへ

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3.低炭素型都市での居住形態

低炭素型都市のなかでは大きく分類すると2つの居住形態が共存することになる。一つは都心型居住である。図-4に見られるように、都心部のマンションで職住近接型の居住を選択し、歩いて暮らせる生活を実践することである。多様な機能が共存する都心部では活気が溢れており、街の賑わいを享受しながら豊かなライフスタイルを楽しむ。また、都心から郊外拠点に延びる次世代型路面電車(LRT)の沿線地区への居住も、同様のライフスタイルを楽しむことが出来る。車に頼らない生活を送ることで一人当たりのCO2排出量も大幅に削減可能である。

一方でもう一つの選択肢は自然回帰型居住である。スマートシュリンク政策(注2)によって郊外の緑が復活し、豊かな自然と静かな環境が実現すれば、ゆったりとした居住空間が生まれる。家庭菜園やガーデニングなどを楽しみながら、伸び伸びとした自然環境のなかで子育ても可能である。交通手段は自転車や小型EVなど環境に配慮した交通機関が中心となる。また「セグウェイ」(電動立ち乗り二輪車)のような次世代型の中速モードの利用も将来的には視野に入る。

図-4 地方中核都市の交通空間のイメージ

地方中核都市の交通空間のイメージ

重要なことは居住形態の選択肢が増えるということである。一般的にコンパクトシティが都市形態の理想としながら、現実的にはなかなか進まないのは、居住地移転のメカニズムが働いていないからである。住民に無理やり密度の高いところに住むことを強要することはできない。あくまで個人のライフスタイルに合わせた選択肢を増やすことで都市自体のQOL(生活の質)を上げることが肝要である。

(注2)スマートシュリンク政策
人口流出などのため低密度化の進む郊外市街地が、荒廃化を招くことのないよう、一定程度の都市サービス機能を維持しつつ、樹林地等の「みどり」や、耕作地・市民農園等の「農地」に、あるいは郊外住宅地などの「住まい」への土地利用転換を誘導していくなど、市街地を縮小・後退させていく都市政策。「賢い縮退」とも言う。

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4.低炭素型都市での生活スタイル

図-5 都心からの距離と一人当たりの電力消費量(平均を1とした変化量)

都心からの距離と一人当たりの電力消費量(平均を1とした変化量)

出典:今村・森本・古池・中井:土木計画学論文集(2004)

低炭素型都市での生活スタイルの確立も重要である。いくら交通利便性のよい都心部に居住しても、そこで常にマイカーを利用して郊外の大型商業施設に行くようでは、低炭素社会の実現とは程遠い。都市施設が変化したことに伴って、それに適合した生活様式に慣れる必要がある。一般的に公共交通は環境にやさしいと云われるが、それは鉄道やバス自体が車と比べて環境に優しい訳ではない。公共交通は同じ空間を多くの人で共有することで、一人当たりの移動エネルギーが節約でき、初めて環境負荷の低減につながる。大型のバスに2,3人しか乗っていなければ、当然車より非効率的である。要は空間共有が低炭素社会の基本である。家庭でのエネルギー消費も家族で同じ部屋にいることで、一人当たりの電力消費を抑えることができる。コンパクトシティでも全く同じである。都心居住を推進するばっかりに、単身世帯用マンションばかりが乱立すると、世帯数の増加によって家電製品が増え、最終的に電力消費量が増えてしまう。図-5はある中核市の一人当たりの電力消費量を調べたものである。これをみると都心に居住している人の方が、郊外居住者より電力消費が多いことが分かる。この原因の一つは郊外の方が、世帯人員が多かったからでもある。低炭素型都市での人々の生活スタイルをよく理解したうえで、都市政策をとる必要があるといえる。

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5.おわりに

低炭素型都市の実現にあたっては、時間的な管理システムが重要となる。新しい価値観によって低炭素社会へと舵をきると、そこには新たな都市活動が生まれ、それは交通需要として顕在化する。新たな交通需要はそれに適した交通施設を要求し、時代のニーズが次世代型の交通機関を登場させる。すると長い年月をかけて土地利用にも変化が現れ、都市の形は徐々に変化する。その変化の先にあるのが低炭素型都市である。

都市計画から低炭素型都市を形成するには、時間軸のなかで交通や土地利用の戦略を練る必要がある。それは交通と土地利用が相互関係を有しており、時間を介在してお互いに影響を与え合うからである。次の世代を担う新都市がこれまでの既存都市に対して、環境分野においても見本となるような先進都市になるためには、永い時間をかけた都市戦略が不可欠だと思われる。

図-6 集約型都市に向けた土地利用・交通戦略

集約型都市に向けた土地利用・交通戦略

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問い合わせ先

国土交通省 国土計画局 首都機能移転企画課
Tel:03-5253-8366 Fax:03-5253-1573 E-mail:itenka@mlit.go.jp