ホーム >> 政策・仕事 >> 国土計画 >> 国会等の移転ホームページ >> ニューズレター「新時代」 第79号(平成28年4月) >> 寄稿文

国会等の移転ホームページ

Webニューズレター新時代Vol.79 〜一緒に考えましょう、国会等の移転〜

寄稿文

本記事は、平成28年1月に実施したインタビュー内容を取りまとめたものです。

現在の研究テーマに至った経緯

私が大学に入学したのは1986年になりますが、当時はちょうど旧国鉄の分割民営化が進んでいた頃でした。鉄道好きの私は、本来、交通の研究を扱っている商学部に入学すべきところだったのですが、それを知ったのは経済学部に入学した後のことでした。経済学部で「立地論」に出会い、その「立地論」の研究者となるべく大学院へ進学しました。

大学院では、都市・地域経済学のほか、経済地理学にも顔を出す一方、私の恩師である山田浩之先生の導きで、交通経済学にも手をつけるようになりました。このようにいろいろな分野に関わっているうちに、博士学位論文のテーマである「中枢管理機能立地論」の話にまとまっていきました。博士課程修了後は、今日に至るまで青山学院大学に勤務していますが、現在は地域経済学、都市経済学と交通経済学を担当しています。最近は私が鉄道好きであることが広く知れ渡ったせいか、「須田は電車が専門」という扱いを受けることも多く、昔は「中枢管理機能立地論」の研究をしていたのに、ひところは研究業績が鉄道関連ばかりという状況になっていました。

長期的な研究テーマとして掲げた「中枢管理機能立地論」の中でも、企業の支店(オフィス)立地が、私の研究テーマの中心です。博士論文の中でも、本社立地の問題よりは、むしろ支店配置の問題を主に扱っています。例えば、企業が日本全国に支店を置く場合にどういう支店配置をしているか、そしてどのような支店配置がより望ましいかという研究をしていました。

そのほかには、企業がオフィス以外の機能(製造業の場合なら工場)も持っている場合、その工場とオフィスをどのように配置すればよいのだろうかという研究もしています。

ページの先頭へ

企業の中枢管理機能の立地と地方移転

最近、本社機能を地方に移転するという事例がマスコミ等でも紹介され、脚光を浴びていますが、本社機能の果たすべき重要な役割の1つは他の企業とコミュニケーションをとることであり、それを円滑に行うためには、中枢管理機能がどうしても一定程度集積することが必要ではないかと考えています。その中枢管理機能が集積している場所が「東京」で、今の日本のあり方を考えると、やはり東京に企業の本社が集積している状況を前提としていろいろなことを考えていかないといけないと思います。

製造業の場合は、企業の中にオフィスと工場があって、その間のコミュニケーションも重要になります。コミュニケーションをより密にしようと思えば、オフィスと工場を互いに隣接させるのが一番良いわけで、そのために工場のある地方への本社機能の移転がみられるのです。このようなことから、本社機能を、工場もない、まったく縁もゆかりもない場所に移転するというケースはほとんど聞いたことがありません。本社を移転する多くの企業は、工場があらかじめその地方にあって、その工場の一角に本社機能が入るというケースが多いと思います。

従業員の住環境、福利厚生については地方の方が良好である、通勤時間が短くなる、物価も安い、住みやすいなどの理由で地方に移転をする企業もあるようですが、そのような傾向がどんどん加速していくとは思ってはいません。近年話題になったコマツやYKKなどの場合、そもそも移転する先に製造の拠点等があって企業が地域にしっかり根付いているわけです。今まで何の縁もゆかりもないところへ移転して働くということになっても従業員も不安になるでしょうし、受け入れる地域の方も不安を感じるのではないでしょうか。

一般的に考えれば、「東京」という大きなマーケットへのアクセスがそれほど重要視されない業態や、フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションをさほど必要としない業態であれば、地方への移転を考える可能性はあるでしょう。逆に言えば、他の企業や市場とのコミュニケーションをフェース・トゥ・フェースで行う必要がある企業の場合には、本社機能を地方に移転することは考えにくいと思います。

ページの先頭へ

フェース・トゥ・フェースでのコミュニケーションの必要性

現在、通信技術がこれだけ進歩している中で、フェース・トゥ・フェースでのコミュニケーションをとる必要があるのか、という疑問も湧いてくるかと思います。

フェース・トゥ・フェースでのコミュニケーションをとることの必要性については、次の3つの理由で説明されます。まず1つは、会議のあとに「飲む」など、画面越しではできないコミュニケーションが大切だという側面です。

2つ目としては、そもそも情報を得るのに、誰にその情報を聞けばいいのかわからないという時は、フェース・トゥ・フェースで話すことを通じて情報を持つ人に紹介してもらえるなどの形でつながることが多いということです。ただ、最近ではインターネット上でも検索機能が進歩してきており、この部分についてはインターネットで代替できる部分は大きくなっていると思います。

最後に、多くの人が既に知っている情報にはそんなに価値がない場合には、時間が経てば経つほど価値がなくなっていってしまうので、フェース・トゥ・フェースを通じて誰にも知られていない情報、インターネット上にはない情報を手に入れられる可能性が考えられます。

これらを踏まえると、インターネット等を含めた通信技術が普及してきたことにより、フェース・トゥ・フェースでのコミュニケーションを考えなくても十分にやっていける部門であれば、必ずしも東京に立地する必要はないでしょう。反対に、インターネット以外で情報を得るということが重要だと考える場合には、やはり東京が一番適当な場所であり、東京に拠点を置くことになると思います。

ページの先頭へ

集積するきっかけとその後の動き

企業が東京から地方に移転するということも見られる中、結局は東京にいろいろな企業が集積しています。いろいろな企業が集積していることにはメリットがありますが、集積する場所が他ならぬ東京でなければならないという必然性は、あるようで実はそれほどないと思います。

例えば、各業界について考えるならば、戦前の繊維業界が大阪に集積していたように、その業界同士が集まっていればいいわけです。それがなぜ今は東京に集積しているかというと、多分、各業界と関係の深い官公庁が東京に集まっていたからという理由しかないかもしれません。

企業が東京に集積する動機について、最初のきっかけは官公庁があるということであったとしても、そのことは今その企業が東京に立地することとは無関係です。もし政治や行政機能が東京から失われたとしても、もう既に東京にいる同業者や、あるいは取引先と会う上での利便性は残ることから、東京への集積が続くことになります。

よく知られていることですが、ニューヨークの歴史を調べると、もともとは港で栄えた町だったのですが、現在のニューヨークには港湾機能はほとんどないのがわかります。しかしながら、ニューヨークに様々な企業が集積している状況は続いています。都市が成立するきっかけがニューヨークの場合は港湾であり、東京の場合は行政機能等であったということであり、その後その機能がなくなったからといって集積がなくなるかというとそうではないのです。9.11でニューヨークは甚大な被害を受けましたが、それでニューヨークは衰退したかといったら、衰退していないわけです。東京の場合でも関東大震災や大空襲があっても、東京への集積は続きました。そのような破壊を受けてもなお、簡単には壊れないだけの集積の経済が東京にはあるのです。

ページの先頭へ

災害などのリスクへの対応

災害からのリスク分散のために、現在何もないところに中枢機能をもう一つ作るということは必要ないと思います。仮に構築したとしても、それが災害のときだけ機能して、普段は何も使わないというわけにはいかないと思います。東京に本店がある場合には、大阪支店が緊急時に本店の代替機能を果たすというくらいのことでいいのではないでしょうか。

東日本大震災で、具体的なリスクをまざまざと体験してしまい、多くの人がどうにかして災害時の対策、リスク分散をしなければならないと考えている状況であるかと思いますが、残念ながら日本のリスクは地震や津波しかないわけではありません。それ以外のリスクにさらされたときにも対応しなければなりません。起こりうるリスクを検討する作業は必要です。しかしながら全てのリスクに万全に対応しようと考えたとしても、完全に安全な場所になるのでしょうか。危機管理用に改めて何かを構築するより、その場所で何らかのリスクにさらされた時でも最低限の機能が維持できるようにすることの方がより有効ではないでしょうか。

ページの先頭へ

これからの東京について

人口減少、高齢化というのが地方だけではなく、日本全体の問題であり、東京では特に郊外部が深刻な問題を引き起こすという議論は、もはや目新しいものでもありません。少子化が進行し、今後若年層が増えてくることはないということ、すなわち「高齢化」を前提として、この先の東京をめぐる議論をせざるを得ないと思います。

今後、東京における若年層と高齢者の人口バランスが変わってくれば、当然、東京に求められる機能も変わってくることになるでしょう。渋谷より巣鴨の方が賑やかになるというような話から始まって、高齢者が増えてくれば、高齢者向けのサービスを供給する産業がもっと盛んになり、その産業が特定の場所に集積する必然性が大きいものであれば、東京に集積することも考えられると思います。

日本に東京という世界有数の大都市圏が存在しているということは、東京に住んでいる人だけではなく、日本全体にとってもメリットがあるのです。巨大な集積があるところだから存立し、享受することができる様々なサービスが東京にはありますし、あるいはビジネスや流行などにおける最先端の情報も東京で生み出され、入手できるのです。また、周辺アジア諸国との競争も視野に入れたときには、日本に東京という一大拠点があることのメリットは決して小さくないと思います。

人口規模で見ると、現在、世界の大都市のほとんどがアジア・中南米などの新興国にあります。先進諸国で、それらの都市に匹敵する人口規模を持った都市はニューヨーク・ロサンゼルス・東京ぐらいのものです。東京がそれだけの規模を維持し続けているということは、いろいろな意味で日本にとって重要だと思います。多少無理をしてでもその規模を維持しなさいというのではなく、東京が今日でも多くの人を引きつける魅力を維持していければということです。

東京に対する私のスタンスとして、世界一であれなどの過大な期待はしない一方、東京が諸悪の根源で、没落してしまえとも考えていません。これから先、人口減少・高齢化がいっそう進行する中で、東京の人口が増加するということはないとしても、ある程度の拠点として、これからも世界に何かを発信していける都市であればと思います。

ページの先頭へ

須田昌弥(すだまさや)氏 プロフィール

1968年 札幌市生まれ

1990年 一橋大学経済学部卒業

1992年 京都大学大学院経済学研究科経済政策学専攻修士課程修了

1995年 京都大学大学院経済学研究科経済政策学専攻博士後期課程修了

現在 青山学院大学経済学部 教授

著書・論文等

・『ニューヨーク―<周縁>が織りなす都市文化―』(共著、金田由紀子・佐川和茂編)、三省堂、2001年

・『地域経済学入門[新版]』(共著、山田浩之・徳岡一幸編)、有斐閣、2007年

・「日本の支店立地―製造業における業種間比較―」、『経済地理学年報』39-3、1993年

・「我が国製造業におけるオフィス立地と工場立地の一致」、『経済地理学年報』41-4、1995年

・“Office and Plant Location with Transport Costs of Information’’, Journal of Regional Science, 37-1, 1997年

・「財と情報の特性からみた企業のオフィス=工場立地パターンの分析」、『青山経済論集』53-3、2001年

・「日本の都市鉄道における『上下分離』政策に関する一考察―ホームドア整備を糸口に―」、『運輸と経済』71-11、2011年

 

問い合わせ先

国土交通省 国土政策局 総合計画課
Tel:03-5253-8365 Fax:03-5253-1570 E-mail:itenka@mlit.go.jp