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Webニューズレター新時代Vol.81 〜一緒に考えましょう、国会等の移転〜

寄稿文

本記事は、平成28年10月に実施したインタビュー内容を取りまとめたものです。

首都を南に移すと国が衰退する

 韓国では現在、「行政中心複合都市」の建設という形で、ソウルの南110km余りにある世宗市への中央政府の多くの部処(省庁)の移転が進められています。これについての考えをお聞かせください。

 私はかつて日本に留学し早稲田大学で戸沼幸市先生に学んだことをきっかけに首都移転に関心を持って研究し、2010年には『遷都論』という本を出版しました。

しかし、韓国で盧武鉉大統領の時代に始まった首都機能移転に対しては、私は当初から反対であり、建築学会副会長として反対のコラムを書いたこともあります。現在まで一貫して反対の立場を維持しています。

反対する理由を申し上げますと、歴史的に韓国では首都移転は三国時代からありましたが、首都を南に移すと国が衰退するという傾向があります。百済は漢江のほとりにあった都を南の扶余に移し、結局新羅に滅ぼされました。新羅は千年の都と呼ばれる慶州に都を置いて三国を統一し、百済や高句麗のあった場所にも行政府を置いて、長く支配しました。

現在の北朝鮮との関係を考えると、緊張感をもって首都ソウルを守るという団結心が必要です。緊張感があってこそ国の発展も実現するというものです。首都を南に移し遠くに離れることは、戦う気持ちを弱めることにつながります。しかも、現代の戦争は昔と違って軍事境界線から遠くに離れれば安全になるということには全くなりません。

盧武鉉大統領の「行政首都」に対し、2004年に憲法裁判所は違憲判決を下しましたが、これはよい判決であったと思います。

また、司法は政治や行政とはある程度独立していますので、司法まで含む一括移転を行う必要はないでしょう。

 

百済の遷都過程
百済の遷都過程
(出典:キム・ヨンハ『21世紀の都市のビジョン 遷都論』2010より)

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朴正煕大統領の「白紙計画」

 盧武鉉大統領の下で始まった首都機能移転の決定プロセスについてどのようにお考えですか。

 1977年に朴正煕大統領は「白紙計画」と呼ばれる極秘の首都移転計画をつくらせました。非常に綿密な調査をして移転すべきだという結論を出した計画であり、1979年に朴大統領が暗殺されたとき、彼の机の中にはこの計画が置かれていたそうです。

白紙計画では、ソウルはあまりにも北に近く、朝鮮戦争の際にはすぐに陥落してしまったことから、軍事的な意味で移転すべきだというのが最大の理由でありました。この白紙計画でも、新首都の位置は忠清道の現在の世宗市付近が想定されていました。

朴大統領の逝去により、白紙計画は日の目を見ませんでしたが、2002年の大統領選挙で盧武鉉氏が忠清道に政府部処を移転する「新行政首都」構想を発表し、勝利しました。韓国の大統領選挙では、南東部の慶尚道と南西部の全羅道が対立し、忠清道の票を集めた候補者が勝つという傾向があります。盧武鉉氏は庶民イメージと忠清道に夢を与えたことで大統領になりました。首都機能移転には賛否両論があり、次に大統領になる李明博氏は反対でしたが、朴槿恵氏は賛成し、盧武鉉大統領に力を与えることになりました。朴槿恵氏は、将来自分が大統領になるときの支持を考慮したことに加え、父親である朴正煕大統領の白紙計画が頭にあり、首都機能移転には大義名分があると考えたのではないでしょうか。

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中途半端な世宗市の位置

 首都機能移転の移転先としての世宗市の妥当性や、世宗市の都市計画についてどのようにお考えですか。

 世宗市の位置は、将来南北統一が実現したときのことを考えると、南に偏り過ぎていると言えます。また、ソウルから110kmの距離という非常にあいまいな位置にあり、そのために独立した都市をつくることが難しくなっています。

世宗市の都市デザインの良い点を言いますと、政府庁舎の建物を曲線にデザインしてあることは、良い感覚を持っています。屋上に緑と芝生を計画してあり、環境にフレンドリーであるとして評価できます。韓国では官公庁の公用庁舎など建物はグリーンビルの認定を受けなければならないことになっており、私もその審査委員をしています。

短所としては、教育部、保健福祉部などという各役所の建物が独立しておらず繋がっていて、それぞれの個性や特徴がなくてわかりにくいという問題があります。

都市交通に関しては、BRT(バス高速輸送システム)がKTXの五松駅から世宗市の政府庁舎までを約20分で結んでいますが、朝夕の通勤時は非常に混雑しています。BRTの輸送力には限界があり、もしかするとライトレールのようなシステムが必要になるかもしれません。

BRTは最初のシステムとしては良いかもしれませんが、公務員の通勤だけでなく、住民やソウルなどから来る人の利便性を考えると、広域的な交通計画を立てるべきではないかと思います。

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分散移転による効率低下、安全保障上の課題

 行政機関が世宗市に移転したことで、業務効率の低下などの問題が指摘されているようです。また移転した機関の公務員がなかなか世宗市に定着しないという現象もあるようですね。

 首都機能の機能を実際に果たすのは公務員たちです。ところが公務員の職場は世宗市に移転しても、家族はソウルに住んでいて、ソウルに彼らの生活の基盤がある。世宗市にいてもソウルの家族のことが気になって仕事に集中できません。金帰月来や単身赴任が多く世宗市に定着しない。仕事の上でもソウルとの往復に時間を取られ、能率の低下が現れています。テレビ会議を推進していますが、セキュリティの問題もありますし、韓国の文化として人と人が直接会って話すことが大切ですから、テレビ会議には限度があります。

北との安保問題についても、緊急事態のときに大統領はソウルの青瓦台にいますので連絡がうまくいかない危険があります。国防部や在韓米軍の本部はソウルにあるので、大統領府はソウルから離れることはできません。

世界各国の事例を見ても、成功した首都機能移転は200km以上離れたところに新首都を建設しています。ソウルと世宗市は110qというあいまいな距離で、すぐソウルに行くこともできるし毎日通うことも可能であって、これでは独立性は実現できません。

政府は公務員を世宗市に定着させたいので、マンションの優先分譲の権利を与えています。世宗市に定着する気が無い公務員は、それを利用してマンションを取得し、転売して儲けているという話も聞きます。買っているのは周辺都市から世宗市に転居してくる市民や投機が目的の人たちです。

最近、「世宗市には希望がないから」と、若い事務官が大量に退職したという残念なニュースもありました。

 将来における韓国の首都機能のあり方についてどのようにお考えでしょうか。

 首都は国土の中央にあるべきであり、また国民が納得するものでなければならないと思います。将来、南北統一が実現し、軍事的な問題が解決したときに、現在の非武装中立地帯(DMZ)に、小さくてもよいから平和的な新しい首都をつくるのがよいと思います。そうであれば、北も南も納得できるでしょう。

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金英厦(キム・ヨンハ)氏 プロフィール

1945年7月9日生

檀国大学建築学科卒

早稲田大学 大学院建築学科卒/工学修士/工学博士

檀国大学建築学科教授

檀国大学教授協議会会長

檀国大学不動産・建設大学院院長

檀国大学 碩座教授/名誉教授

現・KGBC(Korea Green Building Council)

緑色建築認証審査委員(国土交通部/環境部指定)

(専攻:住居環境計画、団地計画及び都市設計)

著書・論文等

・金英厦著、『遷都論』、檀国大学出版部 2010年8月

・金英厦著、『住居団地計画と都市景観』、技文堂、2005年9月(2006年文化観光部選定 優秀学術図書)

・金英厦著、『都市建築』、図書出版大家、2004年5月

受賞

・大韓建築学会 学術賞(2002年)

・韓国科総 科学技術優秀論文賞(第2006-201号)

学会

・大韓建築学会 副会長

・韓国地域社会 発展学会 会長

委員会

・Seoul市 都市計画委員会委員

・国土・交通部 中央建築委員会委員

・大法院(法院・検察庁) 建築委員会委員

 

問い合わせ先

国土交通省 国土政策局 総合計画課
Tel:03-5253-8365 Fax:03-5253-1570 E-mail:itenka@mlit.go.jp