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国会等の移転ホームページ

Webニューズレター新時代Vol.82 〜一緒に考えましょう、国会等の移転〜

 首都機能の分散移転に伴い、移転した機関と他機関や有識者、国民等とのコミュニケーションや、業務の効率性等には大きな変化が起こると予想される。
 平成29年度調査では、首都機能の分散移転に伴う業務上の変化において、近年飛躍的に進歩している情報通信技術(ICT)等の活用により、どのように諸課題に対応しているかについて現地ヒアリング調査を行った。
 調査対象国は、これまでに首都機能の分散移転を行っている海外4箇国(韓国、マレーシア、ドイツ、スウェーデン)とした。

図表1 調査対象事例選定の視点

1.首都機能の分散移転における変化や課題とICT活用による対応策の概況


 4箇国の調査を踏まえて、首都機能の分散移転における変化や課題について、特にICTによる対応策が取られているものについて整理した。

A.政府機関全体のICT戦略

1)公共機関ICT戦略の推進

 首都機能分散移転による変化への対応に留まらず、公共機関における効率化等を目指して各国ともICTの活用推進を図っている。
 ICT活用推進にあたっては、政府やICT担当の主務官庁等によるトップダウンによる強いリーダーシップが重要との認識がある。また、業務のICT化においては、後述するペーパーレスによる決裁への移行等、業務の枠組み自体を強制力のある形で実行していく必要がある。
 テレビ会議等の活用やモバイル端末でのアプリを活用しての決裁等、ICTを用いた技術への対応、ルールに慣れ、利用状況の改善や業務効率化等の成果を上げるまでには一定の時間を見込む必要がある。そのため、ICT関連の教育システムを取り入れている国もある。


2)BCP

 首都機能分散移転による変化への対応とは異なるが、BCPの一環として、公共機関のデータセンターやネットワーク管理センターは国内複数箇所に分散配置することを基本としている。


3)ネットワーク環境の整備

  国・連邦政府の行政機関専用・共通のVPN(Virtual Private Network)によるセキュアなネットワーク環境(イントラネット)を確保し、適宜増強が行われている。
 全ての政府機関や、州・地方自治体等までを統合したネットワーク化への移行を進めている国も見られる。
 扱う情報の機密レベルに応じて、物理的な回線の切り分けが行われている。
 インターネット回線とも別回線とすることで、外部からの脅威や情報漏洩等に対するリスクを軽減している場合もある。


4)セキュリティ

 ICT化に伴う業務効率化が重視されてきたが、安全性の確保についても、外部からの脅威、内部からの情報漏洩等への対策のため、重要性を増している。
 VPNによるセキュアなネットワーク環境の確保・増強に加え、各機関・文書作成者の判断による文書や通話等のセキュリティレベルの規定とそれに応じた暗号化システム等の採用、本人認証システムの多様化、業務用モバイル端末の支給、公共機関専用のアプリ・ソフトウェアの開発・活用等により、セキュリティの向上に配慮している。
 セキュリティレベルの設定については国によって考え方が異なるものの、大臣、幹部公務員等の高位職員、あるいは軍、警察、財務関連部署等については、それ以外の職員や政府機関とは物理的に分離した、高いセキュリティ環境を確保している。文書秘匿度については、文書作成者や省庁レベルで規定されている。
 ノートPCやスマートフォン等、業務に使うモバイル端末は国から支給されており、一定のセキュリティレベルでの認証が行われている(ICチップ付きIDカード、指紋認証、虹彩認証等)。アプリ等については民生品を使わず、公共機関の専用品を国で開発することがある。ただし一部の国では、セキュリティレベルの低い情報しか扱わない機関においては、より汎用的なソフトウェア・アプリを調達する方向に切り替えている場合もある。

B.首都機能の分散移転による変化や課題におけるICT活用

1)業務上必要な遠隔地コミュニケーションへの対応


①テレビ会議システム等の活用状況

 ICTを用いた政府機関内でのテレビ会議システム等はどの国においても完備されており、活用が推奨されている。対面での打合わせも依然多く、これまでは必ずしも積極的に使われているというものではなかったようであるが、それも徐々に変わりつつある。
 テレビ会議等においてもセキュリティレベルを大臣、高位職員専用と、一般職員が用いるものとで物理的に分ける傾向にある。
 従来、政府機関内だけで活用されるシステムであったが、最近では州・自治体、民間、有識者ともセキュアな環境のテレビ会議システムで会議に参加できる仕組みが構築されつつある。

②会議の参加者による遠隔地コミュニケーションの選択

 今回調査した国においては、欧州(ドイツ、スウェーデン)ではたとえ大臣、高位職員との会議、報告であっても、また、それが省庁や機関等をまたいだとしても、基本的には対面である必要は全くなく、失礼にも当たらないとされる。EU諸国では国家間の大臣等でも一般職員の業務用とは異なるセキュリティレベルの高い環境でのテレビ会議を実施する等、ICTの活用に抵抗はないようである。ただし、会う機会が少ない相手(大臣等)の場合は、コミュニケーションを図ると言う趣旨で、機会を作って対面での打合わせを行うこともある。
 一方で、韓国のように、大臣、高位職員等との会議は、対面での説明を基本としている国もある。
 どの国でも、一般職員の通常業務(同格もしくはそれに近い相手との専門的な話、定期的な相談等)においては、遠隔地とのコミュニケーションはテレビ会議や、電子メール、Skype、電話会議等が行われている。同一省庁や、関連省庁が遠隔地に分かれている状況の効率性については、一極集中であった時代よりも落ちているという指摘があり、完全に代替できているとは言い切れないものの、同格の職員との一般業務等については、テレビ会議は最近、比較的利用が拡充されてきた様子が窺える。

③対面でのコミュニケーションが必要な局面

 出張が必要となる業務は、会議の内容に左右され、必ずしも上長が相手であることが理由とはならない。
 特に立法過程や予算関連部局においては、議会や担当部署から対面での協議調整や、会議の場において担当者近くの席での補佐業務を要請されることが多く、テレビ会議等ICTを用いての業務では代替できずに出張で対応する必要があることが多い。
 また、省庁が近接している場合も、効率性から対面での会議を選ぶことが多い。出張等が職員の負担となっていることもあり、首都機能が遠隔地での分散となる場合は、例えば政策立案機関、特に立法関連業務が多い省庁・部署等は国会の近くに立地させ、政策実行機関、独立性の高い機関を地方に移転させる等の工夫が見られる。

④国民の利便性向上

 国民の利便性向上を図るため、各国とも政府・行政のオンラインサービスはさらに進化させる方向で検討されている。特に遠隔地に移転した省庁等においては、電話対応に加えて、ウェブサイト上のFAQの充実、SNS、チャットなどの活用による照会対応等のチャネルの多様化を図ることで国民へのサービス提供を充実させる等、ICT活用を推進している。


2)出張への対応

 前述の通り、全てをICTに代替することは難しいとの認識に基づき、必要に応じて各国とも適宜出張を行っているが、効率性やコストについては課題が残る。
 ドイツのベルリンーボン間(約600km)のような遠隔地出張では、特に効率性やコストが課題となっている。一方でマレーシアのクアラルンプーループトラジャヤ間(約30km)のように比較的近い場所への出張では、殆ど負担はない。
 韓国ではソウル・世宗等全国に、国の機関の出張者用にICT環境が完備されたコワーキングスペースを設置することで、出張者の業務効率化を図っている。


3)業務効率化

 ペーパーレス化は各国とも進行中である。各国とも、正確な数字は不明としながら、紙媒体の使用は確実に減少しており、電子化が進んでいるとの認識である。
 特に総務・経理業務等においては、ペーパーレス化の強制力をもった推進が実現されており、一部の国ではモバイル決裁対応も進んでいる。
 各省庁共通の総務・経理部門等を別の機関として集約することで業務の効率化を図り、その部門を地方都市に分散配置することで地域の活性化に寄与させている国も見られる。


4)庁外業務・多様な働き方

 VPN経由でのアクセスや、認証システムの高度化により、技術的には庁外でセキュアな環境で仕事を行うことができる環境は整っている。
 一方、制度面においては、公務員におけるテレワーク等の庁外勤務については慎重であり、今回調査した4箇国では、基本的には公務員は庁内業務を中心とする方針である。
 ただし、出張等の際には移動中にセキュアな環境で庁内データにアクセスしてのモバイルワークも国によっては可能である。出張中のモバイルワークは、遠距離を移動する必要があるドイツやスウェーデンにおいては日常的に行われ、業務効率化が図られている。

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2.各国の状況

A.韓国

1)首都及び移転先の概況

  • ● 人口
    • 韓国 約5,125万人(2016年)
      • 首都   ソウル:約985万人(2016年)
      • 移転先  世宗:約23万人(2016年)
  • ● ソウルー世宗間の移動は、主に韓国高速鉄道(KTX)とBRTが使用される。ソウル駅から世宗の最寄り駅のオソン駅まではKTXで50分程度であり、オソン駅から世宗にある行政中心複合都市まではBRTにて30分程度で到着する。ソウルから車にて移動する場合は、2時間程度で到着する。

図表2 ソウル・世宗位置図
出典:Open Street Mapに加筆

2)首都機能移転の概況

  • ● 主な首都機能は以下の通り。
    • 国会:ソウル
    • 中央行政機関:一部を除いて世宗へ移転
    • 最高裁判所:ソウル
    • 大統領府:ソウル

 韓国における首都機能の移転はソウル首都圏の人口集中の解消、国家の均衡ある発展及び国家競争力の強化に資することを目的とした様々な政策の中のひとつである。
 2004年、盧武鉉大統領の選挙公約に基づき、大統領府、国会を含むほぼすべての中央行政機関を移転する内容の「新行政首都建設のための特別措置法」を制定した。
 しかし、憲法裁判所が同法の違憲決定を下したため、2005年、移転機関を省庁に限定した「新行政首都構造対策のための燕岐・公州地域行政中心複合都市建設のための特別措置法」(以下、行政中心複合都市建設特別法)を新たに制定した。
 行政中心複合都市は別名、幸福都市とも呼ばれている。
 行政中心複合都市建設の場所は、ソウルから南東約120kmに位置する世宗であり、上記の法律を基に、文化・国際交流、先端知識基盤、大学・研究、医療・福祉、都市行政、中央行政の計6つの機能が配置され、住宅地、公園なども整備する建設基本計画が2006年7月に策定されている。
 2007年、行政中心複合都市建設が着工し、2011年、「チョッマウル(「最初の村」と言う意味)」住宅団地に住民の入居が開始、2012年7月には世宗特別自治市が発足している。同年9月に中央行政機関等の移転が開示され、2017年1月に中央行政機関等の移転が終了した。移転対象行政機関は中央行政機関15部2処18庁(当時)のうち9部2処2庁である。なお、2017年5月10日の文在寅大統領の就任に伴い、現在は、18部5処17庁となっている。
 現在も段階的に開発中で、目標人口は2030年までに50万人と設定されている。


3)政府機関全体のICT戦略

 行政安全部により公共機関のICT化が推進されている。今後は公務員に対するセキュリティ関連リテラシーを向上する方針。
 公共機関のデータセンターは国内2箇所に分散配置しており、さらにもう1箇所追加配置の予定となっている。
 イントラネットとして、省庁共通のVPNを利用している。庁外からのセキュアな環境でのアクセスも可能。インターネット回線とは別回線としている。職員は執務室で外部アクセス用インターネット用、内部イントラネット用の2台/人のPCを用いており、物理的に切り離すことで安全性を高めている。
 通信環境等については、大臣や高位職員、機密度の高い内容については物理的に一般職員とは切り離された専用システムを用いている。
 公共機関専用のアプリを開発・活用している(ビジネスメッセンジャーアプリ等)。モバイル用メッセンジャーアプリでは、政府認証基盤(GPKI)による認証システムを利用している。


4)首都機能の分散移転による変化や課題におけるICT活用

 映像会議(テレビ会議)は高位職員用(専用映像会議室)と一般職員用(執務室のPC)の2系統があり、ネットワークは物理的に分断されている。
 現時点では有識者等とは対面で会議を行うことが多いが、既に民間企業等も国の映像会議システムにアクセスできるシステムを構築済みである。
 映像会議の活用等が推進されているが、予算関連業務等、対面での協議が重要と認識される業務も残っており、出張を完全になくすことは難しいとの認識である。
 大臣、高位職員相手でも映像会議は行われているが、対面で説明に行くことも多い。
 世宗庁舎勤務の職員の8割近くが週1回以上出張を行っているとの調査結果がある。出張軽減のため、業務に必要なICTインフラがセットされたコワーキングオフィスであるスマートワーク・センターや、映像会議室がソウルや世宗の庁舎を始め、各地に設置されており、今後も増加予定となっている。
 ペーパーレス化は進行中だが、紙も併用することがある。
 高位職員はタブレット端末での決裁が可能である。行政職員用のビジネスメッセンジャーアプリでも決裁可能となっているが、現状ではまだPCを用いる人が多い。
 制度的・技術的にはテレワークは可能であるが、実際には殆ど使われていない。

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B.マレーシア

1)首都及び移転先の概況

  • ● 人口
    • マレーシア 約2,830万人(2010年)
      • 首都         クアラルンプール:約167万人(2010年)
      • 移転先(行政都市)  プトラジャヤ:約7万人(2010年)
  • ● クアラルンプーループトラジャヤ間の移動は、主に車であり、直線距離で約30kmであり、約30分程度で到着する。KLセントラル駅とクアラルンプール国際空港間を結ぶKLIAエクスプレスでの移動も可能であり、KLセントラル駅からプトラジャヤ&サイバージャヤ駅間の乗車時間は約20分である。

図表3 クアラルンプール・プトラジャヤ・サイバージャヤ位置図
出典:Open Street Mapに加筆

2)首都機能移転の概況

  • ● 主な首都機能は以下の通り。
    • 国会(連邦議会):クアラルンプール
    • 首相府・省庁:プトラジャヤ
    • 最高裁判所(連邦裁判所):プトラジャヤ
    • 王宮:クアラルンプール

 1993年に首相府等の連邦政府を首都クアラルンプールの郊外のプトラジャヤへ移転することを決定。1995年には新都市建設を開始。1996年以降、プトラジャヤ、サイバージャヤ、クランバレー(クアラルンプール首都圏)等がマルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)計画に位置付けられ、マレーシア国内のIT施策を推進しつつ都市整備を図ることを推進。
 1999年に首相オフィス及び首相府の移転終了。移転前の政府のオフィスはクアラルンプールに点在していたが、2011年までに予定された省庁の全てが移転を終了した。


3)政府機関全体のICT戦略

 マレーシア行政近代化管理院(MAMPU)により公共機関のICT化が一元的かつ積極的に推進されている。公務員のICT人材育成もMAMPU主導で積極的に実施。例えば政府・行政サービスのICT化において先進的と思われるイギリス、オーストリアを訪問して研修を受け、そのノウハウを他機関に共有化している。
 公共機関のデータセンターは国内複数箇所に分散配置している。
 省庁共通のIP-VPN(イントラネット)を利用している。庁外からのセキュアなアクセス環境については、要求するセキュリティレベルのシステムを構築するコストの問題から現時点では構築しておらず、原則的には外部からのアクセスを限定的とすること等により対応している。
 各省庁のICT関連のフレームワーク、暗号化等については、各省庁に対してMAMPUが指導を行う。セキュリティについてのリスク評価も、各省で異なる考え方を採用できるが、ガイドラインはMAMPUが決定している。
 本人認証については、IDやパスワード等に加えて、公開鍵基盤(PKI)認証を必要とする場合もある。
 アプリ等の開発・調達についてもMAMPU開発のものを用いることを基本とし、新規開発時もMAMPUに相談する必要がある。


4)首都機能の分散移転による変化や課題におけるICT活用

 オペレーティングコストの削減を目的として、Eミーティングを推進しており、現在720機関のうち600機関(約80%)で達成されている。テレビ会議設備も多いが、携帯電話によるSkype等の活用や電話会議も多く用いられている。
 クアラルンプーループトラジャヤは約30kmと近接しており、出張について大きな問題はない。
 ペーパーレス化は進行中である。
 一元的な人事管理システム、会計システム、政府購買システム、資産管理システムを構築しており、このシステムを全ての行政機関で活用することで、各省庁の総務部門等の業務を軽減している。
 セキュリティ上の問題で、公務員の庁外勤務は基本的に禁止されている。緊急時に外からクラウドサーバのデータを読み取ることは可能であるが、更新等はできない仕組みとしている。

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C.ドイツ

1)首都及び移転先の概況

  • ● 人口
    • ドイツ 8,252.2万人(2016年、推計値)
      • 首都  ベルリン:357.5万人、ボン:32.2万人(2016年、推計値)
  • ● ベルリンとボンの距離は、直線で約450km、鉄道・高速道路では約600kmである。
  • ● 自動車での移動は約6時間、鉄道での移動は高速鉄道インターシティ・エクスプレス(ICE)利用の場合で4時間44分。
  • ● 飛行機での移動は、ベルリン・テーゲル空港ーケルン・ボン空港間で1時間10分。

図表4 ボン・ベルリン位置図
出典:Open Street Mapに加筆

2)首都機能移転の概況

  • ● 主な首都機能は以下の通り。
    • 連邦議会:ベルリンに完全に移転済み
    • 行政機関(連邦省庁):ベルリン、ボンの両方に設置
    • 連邦最高裁判所:カールスルーエ
図表5 ベルリン・ボンの連邦省庁の配分
出所:国土交通省国土政策局「平成28年度 首都機能の移転に関する海外事例分析調査報告書」平成29年3月
出典:ベルリン・ボン移転調査報告書


 連邦政府の省庁については、中核部分をベルリンに移転させた。ベルリン・ボン法で最低50%の職員をボンに残すことが定められたが、本省がボン・ベルリンのいずれにあるにせよ、各省庁が1箇所にあるかのように機能することを担保することが重視された。外務・経済・財務・司法等については本省をベルリンに移転させた。
 移転開始から20年が経過して、現在はメインの機能の殆どがベルリンに集中している。ベルリン・ボン移転調査報告書によると、ボンからベルリンへのシフトは進んでおり、今後も進むと見られている。ただし、ボンには国際機関の誘致等が進められており、都市の活力は維持されている。


3)政府機関全体のICT戦略

 連邦内務省により公共機関のICT化が推進されている。
 BCPの視点から、公共機関のネットワーク管理センターはベルリン・ボン2箇所に、データセンターは国内複数箇所に分散配置されている。
 省庁共通のVPNを利用しており、庁外からのセキュアな環境でのアクセスも可能となっている。移転当初からベルリンーボンを繋ぐネットワーク環境が整備されていたが、現在、連邦・州を含む公共機関のネットワーク環境を強化・統合していく計画が推進中である。
 通信環境については、大臣や高位職員、機密度の高い内容については物理的に一般職員とは切り離された専用システムを用いている。
 連邦による公共機関専用のアプリの開発・活用が行われている。
 連邦情報安全庁(内務省外局)が暗号の運用・漏洩監視を行っている。セキュリティレベルは大きくは2つで、外部に出さない秘匿性の高い情報ではIBE(IDベース暗号方式)を用いており、それ以外については、情報の秘匿度に応じたOSIのレイヤーの分離により対応している。
 秘匿度の決定は、現在は連邦政府の機密保持規定に基づき文書作成者により行われている。
 本人認証については、個人属性が登録されたICチップ付き身分証明書を用いる。パスワード等による2段階認証を用いる場合もある。


4)首都機能の分散移転による変化や課題におけるICT活用

 ベルリンーボン間が直線距離で約450kmと遠く、遠隔地出張となることから、業務効率化等を目的としたテレビ会議等の活用が推奨されているものの、テレビ会議、電話会議等で1箇所に集まっての省内会議や、連邦議会・連邦参議院委員会におけるボンからの省の代表参加等においては代替されないとの調査結果が出ており、実際に出張も適宜行われており、トラベルコストは増大傾向にある。
 大臣、高位職員相手でもテレビ会議は行われる。対面でなければ失礼にあたるといった文化は無く、内容に応じてテレビ会議か出張かが選択される。議会等への出席や予算関連の会議等においては依然職員の出張対応が必要となるが、同格の間での省内会議については徐々にテレビ会議の活用が行われつつあるとの認識もある。今後は連邦・州の統合ネットワークシステムへの移行が予定されており、将来的には連邦・州の間でもテレビ会議が活用できるようになる予定である。
 ペーパーレス化は確実に進行中。既存紙資料のデジタル化・廃棄処分も進めている。
 例えば人事管理等はペーパーレスで実施されている。また、庁外からも勤怠管理システムへのアクセスが可能となっている。
 ICTの進展により在宅勤務を含めた庁外勤務が普及している。在宅勤務は、福利厚生政策の一環として、特に子育て世代の職員には推奨されている。
 出張先への移動中等での業務も可能であるが、省内ルールで規定された、庁外で扱ってよいデータや場所等についての講習を受ける必要がある。

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D.スウェーデン


1)首都及び移転先の概況

スウェーデンでは多くの都市に政策実行機関が分散移転していることから、ここでは代表的な移転先であるカールスタード及びエステルサンドについて記載した。

  • ● 人口(2017年12月31日、スウェーデン統計局)
    • スウェーデン 1,012.8万人
      • 首都圏   ストックホルム郡(Stockholm county):230.8万人
              ストックホルム市(Stockholm):95.0万人
      • 主要移転先 カールスタード市(Karlstad):9.1万人
              エステルサンド市(Östersund):6.3万人
  • ● ストックホルムとカールスタードの距離
    • ストックホルムとカールスタードの距離は、直線で259km、高速道路では約310kmである。
    • 自動車での移動は約3時間30分、鉄道での移動は高速鉄道SJ Snabbtåg利用の場合で2時間23分。
    • 飛行機での移動は、ストックホルム・アーランダ空港ーカールスタード空港間で50分。
  • ● ストックホルムとエステルサンドの距離
    • ストックホルムとエステルサンドの距離は、直線で465km、鉄道・高速道路では約560kmである。
    • 自動車での移動は約6時間30分、鉄道での移動は高速鉄道SJ Snabbtåg利用の場合で4時間56分。
    • 飛行機での移動は、ストックホルム・アーランダ空港ーエステルサンド空港間で1時間。

図表6 スウェーデンの首都機能分散移転の履歴
※1993-2000年にも地方への移転計画があったが、実際にはストックホルム近郊への移転に留まった。

出典:国土交通省国土計画局「平成20年度海外における一極集中と首都機能分散移転に関する調査報告書」平成21年3月
RIKSREVISIONEN “Omlokalisering av myndigheter” RiR 2009:30
(https://www.riksrevisionen.se/PageFiles/1888/RiR_2009_30.pdf)
スウェーデン各機関の移転に関する政府プレスリリースより作成
Open Street Mapに加筆

2)首都機能移転の概況

  • ● 主な首都機能は以下の通り。
    • 国会:ストックホルム(中心部、ガムラスタン(ストックホルム旧市街)の北に立地)
    • 行政機関:政策立案機関である行政省(departement)はすべてストックホルム市内に所在。ストックホルム中心部、国会議事堂近接の官庁街は「ローセンバード(Rosenbad)」と呼ばれている。政策実行機関であり、行政事務を行う外庁である中央行政庁(myndighet)等については1970年代から地方への分散移転政策を実施
    • 最高裁判所、最高行政裁判所・高等行政裁判所:ストックホルム市内
    • 王宮:ストックホルム(ガムラスタン)

 首都機能移転は、1970年代(1974年、1978年)、1993〜2000年、2005〜2008年の3回実施されてきた(ただし1993〜2000年移転では結局ストックホルム近郊への移転となった)。いずれも分散移転の対象となっているのは行政機関のうち政策実行機関(中央行政庁等)だけであり、政策立案機関である行政省や、国会、司法、王宮は移転していない。
 なお、2017年より、スウェーデン全体の地域活性化を目的として、既存の機関の地方移転や新設が五月雨式に公表されて、移転が進行中である。現時点では、合計2,000人程度の移転・新設が想定されている。


3)政府機関全体のICT戦略

 伝統的に省庁の独立性が高い国であるが、国家全体でのデジタル化による業務改善を推進するなかで、公共機関全体を統括してICT政策を整理・調整する機関が必要とされたこと、公共機関のセキュリティに関する問題が頻発したことで効率性だけでなく安全面での強化が課題に挙がったこと等により、2018年9月を目途に、独立機関として公共部門デジタル化機関を新設することが公表された。
 現在、公共機関のデータセンターは省庁がそれぞれ契約しており、セキュリティレベルの高い情報を扱う省庁ではデータセンターの設置場所にも配慮している。
 EU共通のネットワークシステムと、軍と警察が管理する機密度の高いインターネット回線と切り離されたVPN(イントラネット)があり、後者は軍や秘密警察、警察等の他、省庁によらず機密度の高い内容について用いることができる。後者は庁外からのセキュアな環境でのアクセスも可能である。
 セキュリティレベルの高い情報を扱う省(政策立案機関)においては、公共機関専用のアプリを開発・活用する一方、庁等の政策実施機関においては汎用性の高い製品を使う傾向にある。
 本人認証においては、ICチップ付きIDカードに加えて、指紋認証、虹彩認証等、セキュリティレベルが高いバイオメトリクス認証も併用されている。


4)首都機能の分散移転による変化や課題におけるICT活用

 国会と省は首都に集積していることから、会議は対面で済ませることが多い。一方、庁レベルの場合、省庁専用のテレビ会議システム等の他、Skype等を用いることも多い。
 市民サービス等への対応については、問い合わせ用電話だけでなく、ウェブサイトでのFAQ、SNSやチャット等での対応等、チャネルを多くして対応している。
 また、国の特性として、省庁の独立性が高いため、地方に移転した庁が省と打合せを行う機会はあまり多くないが、必要に応じて出張も行う。また、多くの庁で、ストックホルムにサテライトオフィスを構えている。
 ペーパーレス化はかなり進んでおり、例えば名刺も作っていない職員も多い。
 省庁全体の効率化を図るため、公共機関の総務・経理部門を独立させて国家サービスセンターに集約する方向にある。国家サービスセンターは首都機能分散の一環で地方都市に立地していることから、勤怠管理や経費処理は全てペーパーレス・オンラインで処理される。モバイル決裁機能の付与等も推進中である。国家サービスセンターにはデジタルアーカイブも構築中。
 モバイルワーク等の考え方は省庁によって異なる。移転機関は、移転当初については遠隔地からの通勤等も認められていたようであるが、例えば地方に移転した消費者庁においては、現在は遠隔地からの通勤やモバイルワークのみでの就業は原則不可としている。
 ただし庁外業務は可能で、支給されたノートPCとスマートフォンを用いて出張移動中に業務を行うこともある。

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問い合わせ先

国土交通省 国土政策局 総合計画課
Tel:03-5253-8365 Fax:03-5253-1570 E-mail:itenka@mlit.go.jp